部屋に戻っても俺は何も話せずにその場で黙っていた。
「おい、何か話せよ?」
「すみません……迷惑かけてしまって」
「あはは、誰も迷惑だと思ってないぞ」
俺はてっきり怒られるもんだと思っていた。さっきはものすごい顔で俺を掴みかかってきたからな。
俺の精神面の弱さにマルクスはずっと前から心配していた。だからわざわざ俺の故郷による道を選んだらしい。
「お前を捨てた家族を見てきたぞ」
「えっ?」
「今親父は腰を痛めて仕事を引退しているようだ。母親も疲れ切っていたぞ」
「……」
「ここからは俺の提案なんだがな……。一回家に行ってこい」
何を言っているのかわからなかった。俺を捨てた家族に会いに行く理由がないのだ。
「それだとうまく伝わらないですよ?」
「そうか?」
「マルクスさんは一度ケントの実力を治療で親に見せつけにいけってことだと思うよ。正直オラは行かなくもいいけど、これで気が晴れるならやってもいいかな……ってことですよね?」
言葉足らずのマルクスのためラルフが補足していた。
まとめると一緒にケントの家に行き、父親を治療し自分の実力を見せに行けということなんだろう。
「ふっ」
やはり不器用で脳筋なんだと思うとなぜか笑いが出てきてた。
全てやることは強引だがマルクスなりの優しさなんだろう。ただ、全く伝わらないし人にとってはお節介だ。それでも俺のことを考えて動いてくれてることに心が熱くなった。
「ははは、少し元気になったか。念のためにラルフも連れてってやるからお前を捨てた家族を認めさせて来いよ」
「ははは、ラルフもよろしくね?」
「おう!」
ラルフとともに宿屋から出て自身が幼い時に住んでいた家に向かうことにした。
♢
重い足取りで記憶の中にある家を探した。俺は事前にマルクスから外套を渡されて着ている。
「そろそろ着くよ」
治療の技術をつけるために旅に出ているという設定でマルクスとラルフは事前に俺の父親と母親に会っていた。
治療が可能か相談した後に治せるなら訪れるという話をして宿屋に戻って来た。
気づいたら俺住んでいた家の前に立っていた。あの当時と見た目は変わらないがどこか冷たさを感じた。
俺がこの家から離れたからそう感じるのだろうか。もう一生来ないと思っていたのに……。
――トントン!
「あっ、さっきのお兄ちゃん!」
中から小さい女の子が扉を開けた。
「ラン……」
扉を開けた女の子はいつのまにか大きくなっていた。長女で俺のより二つ下の妹だ。
離れた時が三歳だったが今は九歳になった頃だろう。
「ああ、先程の――」
「こちらが先生です」
ランに呼ばれて来たのは母だった。以前よりは顔もこけておりどこか疲れた顔をしていた。
今まで溜めていたものが吐き出されそうになった。それでも今正体をバレるわけにはいかない。
「はじめまして。旦那さんの治療に伺いました」
「……。あっ、あの人は動けないので今も寝ています。こちらです」
母はどこか一瞬ビクッと体を動かしていた。どこか心の奥底で気づいて欲しいと思っていたがそんな気持ちは捨てた方が良さそうだ。
――トントン!
母が扉を開けると中から男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい! 勝手に開けるなと行っておるだろうが! アバズレ女が」
父は無精髭を生やし動かなくなったのかお腹がぽっこりと出て、あの頃のカッコいい父の姿すでにいなくなっていた。
「あなたの腰を治療してくれる人が訪ねてきたわ」
「おお、ほんとか! ぜひやってくれ」
父親はすぐに頭を下げた。ローブを着た人が俺だとは知らずに……。
「少し失礼します。ラルフどうだ?」
ラルフの透視の目を使い腰の部分を中心に確認した。
「骨とかは特に問題無いと思うよ」
「わかった」
父親への最初で最後の治療が始まった。
「おい、何か話せよ?」
「すみません……迷惑かけてしまって」
「あはは、誰も迷惑だと思ってないぞ」
俺はてっきり怒られるもんだと思っていた。さっきはものすごい顔で俺を掴みかかってきたからな。
俺の精神面の弱さにマルクスはずっと前から心配していた。だからわざわざ俺の故郷による道を選んだらしい。
「お前を捨てた家族を見てきたぞ」
「えっ?」
「今親父は腰を痛めて仕事を引退しているようだ。母親も疲れ切っていたぞ」
「……」
「ここからは俺の提案なんだがな……。一回家に行ってこい」
何を言っているのかわからなかった。俺を捨てた家族に会いに行く理由がないのだ。
「それだとうまく伝わらないですよ?」
「そうか?」
「マルクスさんは一度ケントの実力を治療で親に見せつけにいけってことだと思うよ。正直オラは行かなくもいいけど、これで気が晴れるならやってもいいかな……ってことですよね?」
言葉足らずのマルクスのためラルフが補足していた。
まとめると一緒にケントの家に行き、父親を治療し自分の実力を見せに行けということなんだろう。
「ふっ」
やはり不器用で脳筋なんだと思うとなぜか笑いが出てきてた。
全てやることは強引だがマルクスなりの優しさなんだろう。ただ、全く伝わらないし人にとってはお節介だ。それでも俺のことを考えて動いてくれてることに心が熱くなった。
「ははは、少し元気になったか。念のためにラルフも連れてってやるからお前を捨てた家族を認めさせて来いよ」
「ははは、ラルフもよろしくね?」
「おう!」
ラルフとともに宿屋から出て自身が幼い時に住んでいた家に向かうことにした。
♢
重い足取りで記憶の中にある家を探した。俺は事前にマルクスから外套を渡されて着ている。
「そろそろ着くよ」
治療の技術をつけるために旅に出ているという設定でマルクスとラルフは事前に俺の父親と母親に会っていた。
治療が可能か相談した後に治せるなら訪れるという話をして宿屋に戻って来た。
気づいたら俺住んでいた家の前に立っていた。あの当時と見た目は変わらないがどこか冷たさを感じた。
俺がこの家から離れたからそう感じるのだろうか。もう一生来ないと思っていたのに……。
――トントン!
「あっ、さっきのお兄ちゃん!」
中から小さい女の子が扉を開けた。
「ラン……」
扉を開けた女の子はいつのまにか大きくなっていた。長女で俺のより二つ下の妹だ。
離れた時が三歳だったが今は九歳になった頃だろう。
「ああ、先程の――」
「こちらが先生です」
ランに呼ばれて来たのは母だった。以前よりは顔もこけておりどこか疲れた顔をしていた。
今まで溜めていたものが吐き出されそうになった。それでも今正体をバレるわけにはいかない。
「はじめまして。旦那さんの治療に伺いました」
「……。あっ、あの人は動けないので今も寝ています。こちらです」
母はどこか一瞬ビクッと体を動かしていた。どこか心の奥底で気づいて欲しいと思っていたがそんな気持ちは捨てた方が良さそうだ。
――トントン!
母が扉を開けると中から男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい! 勝手に開けるなと行っておるだろうが! アバズレ女が」
父は無精髭を生やし動かなくなったのかお腹がぽっこりと出て、あの頃のカッコいい父の姿すでにいなくなっていた。
「あなたの腰を治療してくれる人が訪ねてきたわ」
「おお、ほんとか! ぜひやってくれ」
父親はすぐに頭を下げた。ローブを着た人が俺だとは知らずに……。
「少し失礼します。ラルフどうだ?」
ラルフの透視の目を使い腰の部分を中心に確認した。
「骨とかは特に問題無いと思うよ」
「わかった」
父親への最初で最後の治療が始まった。