大きく伸ばした手はバイオレンスベアーの首についている首輪を掴んだ。

「消えろー!」

 その瞬間に異次元医療鞄を発動させた。あっさりと消える首輪とは反対にバイオレンスベアーは徐々に体が小さくなった。

 何かに驚いているのか周りをキョロキョロと警戒している。

「もう大丈夫だよ」

 優しく頭を撫でながら回復魔法を掛けると熊は頬ずりした。普通に考えたら恐怖に感じるだろうが、一年動物達と接していたからかこちらから攻撃しない限りは襲ってこないのだ。

――ドスン!

 大きな音とともにマルスクは息を吐いた。

「はぁー、やっと終わったか」

 その場で倒れるようにマルクスは地面に座った。ずっと動いていたのだろう。体からは汗が溢れ出ていた。

 水治療法で水を出すとそのままマルクスにかけた。

「あー、生き返る」

 実際に魔物と戦うところを見ると体力が必要なのがわかった。毎日命懸けで追いかけられるのはこういう日のためなんだろう。

 しばらくするとマルクスは体を起こした。

「それにしても何があったんだ?」

 異次元医療鞄から首輪を取り出し、マルクスに手渡した。

「ラルフが言うには強制進化の首輪って名前らしいです」

「強制進化の首輪?」

 マルクスも聞いた覚えがないらしい。どこから見ても赤い宝石が入った首輪にしか見えいのだ。

 そんな中あの男?が駆けつけた。

「ケントキュン! 大丈夫かしら?」

 現れたのは冒険者ギルドのギルドマスターであるマリリンだ。俺を目がけて大胸筋プレスをしてきた。

「うげっ……」

 この雄っぱいが女性であればどんなに良かったのか。

「マリリンはこの首輪知っていますか?」

「なんでその首輪が存在してるんだ!」

 俺はマリリンの首輪を見せると驚きの表情をしていた。どうやらマリリンはこの首輪のことを知っているようだ。

「ああ、知ってるも何も俺が現役の時に問題になったものだ」

 マリリンはいつのまにか素のマリオに戻っていた。俺としては首輪よりそっちの方が驚きだ。

「そもそも強制進化の首輪は王都で管理しているはずよ」

「なぜ王都で管理してる物がここにあるんだ?」

「私に言っても知らないわよ。そもそも危険だから外に持ち出しも出来ないし、一般の人には知られていないはず」

 元々危険な物として認定されている強制進化の首輪は王都で管理されている。

 過去に強制進化の首輪を使った事件が起きた。当時は町一つ破壊され冒険者だったマリリンはそこに駆り出されていた。

 その時の被害人数は三百人以上は超えるほどの大きな事件となった。

 首輪の存在は一部の冒険者やギルドマスター、王都に住む王の周りの家臣達しか伝えられない。それ故に知ってる人は限られていた。

 そんな中ラルフのスキルには強制進化の首輪の詳細が追加されていた。

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《強制進化の首輪》
レア度 ★★★★★
種類 魔道具
説明 動物や魔物に使うことでランクを上の存在へ上げることができる。動物なら魔物、魔物なら上位ランクに進化する。また寿命を引き換えにすることでランクは格段に上げることができる。

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「その首輪って寿命を使うことで、強くなるんですね。さっきの熊はバイオレンスベアーになるのにたくさんの寿命を消費していたんだね」

「だからあいつ途中で苦しんでいたんだな」

 マルクスはバイオレンスベアーが突然暴走した時のことを思い出していた。

 普段なら魔物の注意を向けることができるマルクスのスキルも効かないのは苦しみから逃げるためだ。

「ラルフキュンも優秀ね」

 マリリンの言葉にラルフの毛は逆立っていた。

 それにしてもここ最近スキルの使い方がわかったラルフの能力の高さに驚きだ。

 今まで強制進化の首輪をつけたら強くなることは知られていたが、寿命を消費していたまでマリリンは知らない。

「とりあえずそれは預かってもいいかしら?」

「どうぞ」

 マリリンに向けて首輪を持った手を伸ばした。するとそのまま手を掴み自身に向けて引っ張り大胸筋プレスをした。いわゆる熱い抱擁だ。

「ぐふっ……」

「もうこれで逃さないわよ。じゃあ、みんな帰るわよ」

 俺をそのまま肩に担ぎ上げトライン街の方へ走って行った。そのスピードは絶叫アトラクションに乗っている感覚だった。

「マルクスさん大丈夫ですか?」

「ああ、ケントがいれば誰も被害にあうことはないからな」

 俺は仲間に生贄として捨てられた。