マルクスは依頼に向かい、俺とラルフは自宅に戻った。

「オラのスキルはどうやって使うんだ?」

 ラルフは尻尾をバタバタし目を輝かせている。

「正確には俺も使い方わからないよ」

 俺の発言にラルフの尻尾は下がっていた。

「ただ、放射線技師(・・・・・)については知っているよ」

 一度放射線技師について説明することにした。

 細かいことを言っても理解出来ないと思い、単純に体の中身を見ることができる魔道具を使う人と説明した。

 実際魔道具じゃなくて機械だが、魔道具の方が理解は得られやすいだろう。

「なら俺もその魔道具を手に入れれば使えるスキルなんだな?」

「知識も必要だから何とも言えないかな」

 スキルの中身を知っても知識がなければ使えないのが現状だ。しかも、発動条件が異なる可能性がある。

「いつかはマルクスさんの病気を判別できたらいいな」

 思ったよりもラルフは悲観的にはならなかった。元々外れスキルのため諦めていたのだろう。

 ただ、そんなラルフを見て念のために背骨の解剖学の話を含めつつ、脊柱管狭窄と腰部椎間板ヘルニアの話をした。

「ということは椎骨と関節円板が交互に重なって背骨になってるってこと? それで腰部椎間板ヘルニアは、腰椎の椎間板が後ろに出て神経に当たると痛みが出るってことで合ってるってことか?」

「おー! ラルフって思ったよりも覚えがいいね」

 地面に絵をかきながら話を広げることでラルフの吸収は早かった。

「へへへ! 俺勉強したことが無かったけど楽しいんだな」

 スキルに希望が出てきたからなのかやる気に満ちている。

 すると突然俺に近づきあたふたとしていた。喜んでいたのに急に時が止まったように固まった。

「おい、ラルフどうしたんだ?」

「ケント大丈夫なのか? お前体が透けているぞ!?」

「俺は何も変わらないよ?」

 解剖学を意識し俺に当てはめてみると次第に体は透けて見えるらしい。
 
 ラルフの目を見ると普段は青い瞳をしていたのが黄色く変色していた。

 俺の中でラルフのスキルが発動しているのではないかと頭によぎった。

「俺の脊柱はどうだ?」

「んー、隙間は小さいけど椎間板も出てきてないよ。あっ、何か出てきた……」

 一体何が出てきているのだろうか。

「おいおい、何か出てきたって怖いこと言うなよ」
 
「ああ、ごめん。なんかステータスボートみたいなやつが出てきて、さっき教えてもらったような構造とかの説明が書いてあるよ?」

「それって鑑定が発動しているってことか?」

「鑑定ってなんだ?」

「いや、俺もいまいちわかんないよ?」

 前世の知識で鑑定と言ったが、ラルフも知識がなかったため鑑定が何かわからなかった。そもそも鑑定というスキルがあるのかも奴隷だった俺も知らない。

「あっ、治ったよ!」

 どうやら目を閉じると視界はいつも通りに戻っていた。
 

 前世の知識だと鑑定とかって何か発動するきっかけがあるはずだ。

「また目を閉じてもう一度意識してから目を開けてみると変わるのかな?」

 一度切り替える方法を見つければと思い試すとあっていた。

「おー、またケントが透けて見えるようになった」

「たぶんそれがスキル【放射線技師】だと思うよ?」

 職業被曝をしなくて済むなら体に負荷もなく体に害がないのは結構良いスキルなんだろう。

「ついにスキルが使えたんだな……。ケントやったぞ! やったー!」

 ラルフは勢いよく抱きつき喜んでいた。もはやその喜びは狼のボスと変わらなかった。

 一方ボスは外で日向ぼっこしている。

 ちなみにマルクスが依頼から帰ってきた後、腰を確認すると腰部椎間板ヘルニアでもなく、脊柱管狭窄症でもなかったためケントは安心した。

 理学療法士は、病気の診断はできず医師の指示のもと治療をするのが決まりとなっている。

 そのためマルクスが良くなっていても、どこか医療ミスをしているのではないかと不安感があった。