演技と聞いて何を思い浮かべるだろうか。

大勢の人が観客の前で芝居をする光景を思い浮かべることだろう。

だが、私にとっての演技は違う。
本心を隠して見せかけの態度をとること。
つまり、私にとって演じることはミュージカルなどの舞台の上ではなく日常という名の舞台で演じる。
私にとって「演じる」ということは何よりも大切なことである。

       ◇

私は他の人から見たら、笑顔が印象に残る、明るい性格だと思う。
その証拠に卒業アルバムの寄せ書きでは
「いつも笑顔で元気をもらった」
初希(はつき)は正義感が強い‼︎」
とかそういう綺麗な言葉が並べられていた。

でも私はそんなに純粋ないい奴ではない。
もっと汚れていて悪い奴だ。
アニメでいう悪役だろう。

みんな偽物の、演じている私に騙されているんだ。

演じていることがバレなかった安心感が半分。
気づいて欲しかったという悲しい気持ちが半分。
みんな気づかないなんてみんなは私の何をみていたんだろう。
どういう感情で私に接していたのだろう。
色々な気持ちが私の中で渦巻き、少しずつ混ざっていく。

そんな微妙な気持ちで私は学校を卒業していった。

私は卒業式を終え、家に戻ってからよく分からない苦しさに襲われた。
学校や知り合いから離れる悲しみからか演技に気づいて欲しかったからかは分からない。
私は自分の感情がよく分からなくなっていた。
今、楽しいとか、悲しいとかは分かる。
だけど「なぜ」楽しいのか、「どうして」悲しいのかと問われるとよく分からなくなってしまう。

       ◇

学校では私はいつも笑っている。

面白くない行動でも、たいしたことないことでもいつも私は笑っている。
私がこの意見がよくても周りの人の過半数が違う意見を選んだら自然と合わせる。
知り合いが私が知らないアイドルについて話してきた時も、「知らない」なんて言えなくて。
「聞いたことある、そのアイドル」と言って相手との話を広げる。
友達だと思って欲しくて。
苦手な人に話しかけられても嫌なことをされても笑顔で対応する。
笑顔は私を守る鎧へと変わる。
全ては平穏な生活を送り続けるために。
たとえ、苦しくても気持ちを偽り続ける。
偽物の自分。


こんな自分が嫌だった。
変わろうとした。
日常という舞台の上で芝居をすることが辛かった。
友達に合わせて、友達の色に染まっていく自分が嫌いだった。
何色にでも染まってしまう自分が惨めだった。
自分だけの色を持ちたい。
堂々と「自分の意見」を言いたかった。
自分の「本当の気持ち」を言ってみたかった。
これが私の本当の気持ちなのだろうか。
本当の気持ちを信じていいのだろうか。
本当の気持ちを、自分が素直に思ったことを言葉にしてしまっていいのだろうか。
そんなんで、平穏な生活が送れるのだろうか。
どうしても、自分の気持ちを素直に受け入れることができない。

怖い
友達が離れていってしまったら
築いてきたものが全部崩れてしまったら
私は心が折れ、きっともう2度と立ち上がれないだろう。

こんな偽物の私は広く浅い交友関係を築いた。
男女関係なくとてつもない広さの関係。
交友関係を築いた理由は多くの情報が欲しいから。
多くの情報があれば生活の中で利用できる。
わたしの中で、「笑顔」と「情報」は武器だ。
それと、本当の友達、親友が欲しかったから。
私は「ずっと、友達だよ」なんて綺麗事を言う。
友達とすら思ってもいない人に向かって。
でも、繋がりを持たないと不安だった。
1人ぼっちになってしまうと思い怖かった。
ただそれだけの理由。

だけど、後者の理由は「本当の自分」から出たものだと思う。
私の交友関係は必要最低限の浅さ。
深い関係の友達なんていない。
自ら近寄るしか話す機会がない。
だから、休み時間は1人だった。
でも、この時間は私にとって好都合であった。
交友関係が浅く切れそうな人に話しかけて少し友情というものを深める大事な時間。
話しかける時は笑顔で日常的な会話をする。
そうすると相手も笑顔で返してくれると学んだから。

できるだけ好印象のまま生活していきたい。
誰もが思うことだろうと自分なりに肯定した。
「正解」が分からない私は自分なりに肯定しないと自分の気持ちが、心が壊れてしまいそうだったから。

毎日こんな生活を送っていた。
そんな中で、私は気付いた。
本当の私と偽物の私は紙一重だと。
全てが私なのだと。
表で笑顔を振り撒く自分と裏で色々考えてしまう自分、全部ひっくるめて初希(はつき)という存在なのだと。

いつも演じていたとしてもいつか役に立つことだと信じて。
演じることすらも楽しさに変えてしまえるように。
友達に合わせてたくさんの色に染まることも私の能力だと感じて。
いつかは自分の色ができ、定着すると信じ続ける。
私の心が壊れて、希望が崩れ落ちたとしても全て拾い集める。
大事な人生の欠片だから。
一つ一つの行動に意味があるから。
無意味なことなどないから。
夢に向かって全力で走っていけるように。
人生を生き抜く。綺麗事だと思われてしまうかもしれないけれど。
最期に「私の人生楽しくて充実していた」と思い出して『本当の笑顔』になるように。
私ですら日々少しずつ変わっている。
だから、自分は変われないと諦める必要はない。
少しずつ気持ちを受け入れる。
その「心」を「音」として声に乗せる。「意」味のある言葉を相手に贈る。
自分の行動が言ったことが「正解」か「不正解」かなんて誰にも分からない。
だから、私は「正解」に向けて日々努力していく必要がある。
明日という希望に向かって。
この小説を読んだ人が『初』めての『希』望を抱けるように。
1日1日に希望と自信を持って私が「正解」だと言えるように。
あなたにとって演じることが幸せに繋がりますように。
あなたが生きるということを知って大切な時間を過ごせますように。
そして、あなたが『本当の自分』を見つけ出し、『正解』に向けて走り出すことができますように。