「……………………」
サラナは黙り込んだ。
「その後、屋敷に来て私が母を殺している現場を目撃した国王は、私を第一秘書に勝手に任命しました。”あの時“。“あの時”であれば、国王を殺せたのかもしれませんね…………………………」
サラナは、自分でも何を言っているのかよくわかっていない様子だった。
「………………そうか。サラナは王政の人間だったのか。」
「…………驚いたりはしないのですか?」
サラナが、少し拍子抜けをした。
「あぁ。別に。
サラナが王政の人間だとすると、今までの不明点の辻褄が合う。
何故俺がカルロスト連邦国に来ると判っていたのか。
何故サラナが、事前に俺の名を知っていたのか。
何故サラナは、会ってすぐの俺に、国家転覆の協力を求めたのか。
何故あの時、ギニルはグリリアに刃を向けたのか。
簡単な話。
どうせ俺の母さんも、王政に消されたのだろう? 『俺の魔法の力が、統治の上で邪魔だったから』。尤も、浮遊魔法なんて厄介な魔法を発現させた少年を、自分達の権威を第一に考えているお貴族様が、無視をする筈もない。だが、浮遊魔法を使いこなせていないとはいえ、俺を行き成り殺しに襲うのはリスクが大き過ぎる。なら先ず俺の身内を狙う。
だが俺は生き、数年の時を経て、連邦国へ帰って来た。サルラス帝国と繋がっているこの国の事だ。俺が連邦国へ向かっている事くらい、既に周知していただろう。
だからサラナを向かわせた。
俺が来るであろう、無に帰した我が故郷に。」
「……………………そこまで判っていたとは。」
サラナは、諦めの表情を見せた。
「図星だったか。」
「ええ。その通りです。私は王城で国王から。『エルダ・フレーラを王城へ連れてくる』様、命を受けていました。方法は特に指定されなかったので、私は、この国の撲滅をエルダ様に提案しました。
私の過去を言えば。幼子の母を何の躊躇もなく奪うこの国の理念を言えば、貴方はついてくると、私は勝手に思いました。
ですが私は、『協力する』と言って下さったエルダ様の顔を見て、思い出しました。
私は不自由なんだと。
私は、この“偽善に包まれた界隈”から解放されたいのだと。」
サラナは、体をエルダの方へ向けて、真剣な面持ちで言った。
「エルダ様。改めてお願いします。この国を、困窮に陥っているビルクダリオ達を。救済へと導いてはくれませんでしょうか。王に加担し、エルダ様の命を狙おうとした私に言えた事ではありませんが、どうか。あの時の雪辱を。この国の腐った常理を変えて…………………………
どうか。
どうか。
私を…………助けて下さい。」
サラナは、深々と頭を下げた。
「国王には誤算が一つある。それはな、敵に回した奴の強さだ。
大丈夫。その国家反逆に加担してやる。
その代わり………………」
エルダは、体をサラナの方に向けて言った。
「解放されたいんだったら、サラナ。お前が国王に反逆しろ。俺が国王を痛ぶったとて、サラナ自身が解放される訳じゃない。
一度で良い。
主君に歯向かってみろ。
何かあれば俺が守ってやる。」
「はい、勿論。覚悟の上です。」
「…………とかカッコつけたけど、守れなかったら面目ねぇな。」
そのエルダの言葉に、少し肩の荷が降りた様に、サラナは口角を緩めた。
「まぁお互いに頑張ろうぜ。」
「はい。よろしくお願いします。エルダ様。」
そう言ってサラナは、頭を下げた。
「…………あのさ、サラナ。」
「はい。」
「その、『エルダ様ー』っての止めてくれ。これから国を変える仲間だ。敬語も無し! 名前は呼び捨て!」
「ですが………………」
「オッケー?!」
「……………………はぃ……………………うん。」
「良し。じゃぁこれから暫く、宜しく!」
「……よ、よろしく………………。」
そう言って二人は、ぎこちないグータッチを交わした。
――――――――――――――――――
「ジャーナ・カルロスト…………!!」
エルダはそう言いながら、ジャーナを睨んだ。
サラナは、呆然と立ち尽くした。
足を折られた兵達は、安堵の表情を浮かべた。
ジャーナ・カルロスト。
この国を地獄にした張本人。
厄介な事に、基本三属性魔法(炎.水.雷)全てを使える。
その力で国を統治していると言っても過言では無いらしい。
何より、その三属性魔法を組み合わせて使用されると厄介だそう。
水と雷だと一定範囲に放電させたり、炎と水で小規模な水蒸気爆発を起こさせたり。
雷で体を麻痺させている間に攻撃を加えたり。
一見厄介そうな相手である。
だが……………………
「ほほぅ。まさか餌の方から寄ってくるとは。何とも奇怪。でもまぁ、手間が一つ省けて、こちらとしては好都合じゃな。」
「そっちこそ。自分から死ににくるとは、良い度胸じゃねぇか。」
「ふん。誰が餌になんか殺されるか。」
ジャーナは、二階からの階段を降り終え、腕に雷を纏わせた。
「ゴミは掃除せなの。」
「ふっ、勝手に言っとけ。」
二人は、強く睨み合った。
場に静寂が流れた。
まるで、嵐の前の静けさの様に。