頬に冷や汗がつーっと流れる中、エルダは、王宮の目の前にいた。

「入りましょうか。」

 冷徹な声でリカルが言い、エルダを先導した。

 王城の門の前に来着くと、完全武装の門兵が二人立っていた。

「リカル様、その男は?」

 門兵の一人が、リカルに聞いた。

「あぁ、王が言っていた、エルダ・フレーラ様です。」
「し、失礼しました! どうぞお通り下さい!」

 エルダの名前を聞いた瞬間、門兵は慌てふためき、直様道を開けた。
 その対応にエルダは困惑したが、先々進むリカルに置いていかれないよう、追いかけた。


 さっきまで戦争騒ぎだったので王城の中には人が一切居らず、その静寂の中で、エルダとリカルの足音が、廊下中に響いていた。
 落ち着かない。
 壁は真っ白で、床には赤いカーペット。
 天井は、落ちたら最悪骨折するくらいの高さで、廊下の広さは、車が二台横並びで並走しても余裕ある程の広さだった。
 こんな広い廊下を、たった二人が、何も喋らずに歩いていた。


 暫く進むと、他の扉よりも少し豪華な扉があった。
 その扉から少し離れてエルダは待った。

 リカルがノックをした。

「アステラ王。リカルです。エルダ様を連れて参りました。」

 リカルがそう言うと、部屋の中から、

「あぁ、入ってくれ。」

 と、少し若い声が聞こえてきた。
 それを聞いたリカルは、両扉の左側を開けて、エルダの入室を待った。
 それをエルダが察したのは、リカルが扉を開けてから数秒後。
 少しリカルに申し訳なさを感じる中、リカルに会釈し、中へ入った。


 その部屋は、広すぎず、狭すぎず、グルダスの家の居間を少し大きくしたくらいの大きさだ。
 そこに、少し低めの長机とその両端には、高そうなソファ。
 そしてその奥には高そうな机が置いてあり、その椅子に誰かが座っていた。
 そしてその隣には、左腕の無い男が立っていた。

「(左腕がない男…………まさか?!)」

 エルダがそう思った瞬間、その男がエルダの方に歩み寄り、エルダを抱擁した。

「エルダ…………よく生きていた…………!!」

 男はそう言いながら、涙を流した。
 誰なのかが一切分からず、エルダは困惑した。

「おい、困惑してるだろう、離してやれ。」

 椅子に座っていた男が、そう言った。

「あぁ、そうだな。すまん、兄上。」

 そう言って、エルダから手を離した。


「紹介が遅れてすまない。」

 椅子に座っていた男がそう言いながら、椅子を立った。

「私はこの国、アルゾナ王国国王、アステラ・アルゾナだ。そしてさっき君を抱き締めていたこいつが、マグダ・フレーラ。」
「……マグダ・フレーラ…………?」

 その名前を聞いて、エルダは困惑した。

「そう、マグダ・フレーラ。君、エルダ・フレーラの父親だよ。」

 アステラのその言葉に、エルダは困惑した。
 父親、マグダは、エルダが幼い頃に起こしたあの惨事で死んだと伝えられていた。
 だが今、アステラの隣で、左腕を失った彼が、涙を流して立っていた。

「そして、マグダの兄が、私だ。要するに私は、エルダの叔父と言うことになるね。」

 アステラが言った。
 エルダは混乱していた。
 王城に呼ばれて、父親が生きていて、国王が叔父。
 理解はできても、納得が出来ない。
 わからない。

「まぁ、突然そう言われても困るだろう。まぁ、ゆっくり理解していけば良いさ。」

 アステラは、そう言いながら椅子の腰をかけた。

「聞きたいことが有れば、何でも聞いてくれて構わない。そうしないと、わからないことがだらけだろうが。」

 そう言ってアステラ王は、エルダに向かって優しい笑みを浮かべた。


 幼い頃。エルダの暴走によって、父親(マグダ)は死んだと伝えられた。
 だが、生きていた。

「死んだって聞いていました…………が…………」

 困惑するエルダが、何とか気持ちを落ち着かせて、アステラに聞いた。

「まぁ、詳しいことは明日。お茶会でも開いて話そうではないか。エルダ、今日はゆっくり休め。リカル! 客室の中でも最上の部屋をエルダに貸してやれ!」
「はい、承知しました。」

 そう言ってリカルは、客室へと案内しようとした。
 そしてそのまま、エルダの意見も無しに、客室へと連れていかれた。





「まさかマグダ。生きていたなんて…………」

 アステラが、少し涙ぐみながら、マグダに言った。

「あぁ、報告する機会が無くてな。すまんな、兄上。」
「いやまぁ、良いんだ。生きてくれてさえいれば。」

 二人とも感慨深くなり、自然と笑みが溢れた。

「……でも、一体誰がマグダを独房にぶち込んだんだ?」

 アステラが聞いた。

「…………それに関しては、また明日話す。」
「…………そうか。わかった。」

 そう言って二人は、暫くその部屋で、静寂を纏った。