エルダに浮かんだある疑問。
それは、燃え盛る村を見ていた時に発生した、謎の大量の水について。
エルダは、ある仮説を立てていた。
それは、「クレリアが水魔法所有者である」というものだ。
魔法の発現というのは、強い衝撃や怒りと言った気の動転がきっかけとなることが多い。
エルダも、幼い頃に発動した時は、何かを不快に感じて泣き叫んだ時だし、二回目の使用も、自分と母を愚弄された怒りだし。
クレリアの場合、燃え盛る村を見た衝撃が、魔法の発現に繋がったと考えれば、辻褄が合う。
それに、もしクレリアが水魔法を行使出来るようになれば、村が水不足になる事もないし、もし氷魔法まで使えれば、食料の保存にも困らない。
エルダは早速、クレリアの元へと駆けた。
「なぁ、クレリア。」
そう言ってエルダは、クレリアに肩に手を乗っける。
「クレリアってさ。水魔法とか使えたりする?」
それを聞いたクレリアは、はて? と首を傾げて。
「いや、使えないと思うんだが………………」
そう答えた。
「前に前の村に行った時、突然現れた大量の水があっただろ? あれが、クレリアの水魔法だったんじゃないかと俺は踏んでいるんだが………………」
「いや、私も試したことが無いので、魔法所持の正否は分からない。もしかしたら、私も魔法師だったりするのか…………?」
クレリアは、自分が魔法師である仮説に、口角を上げた。
「まぁ、もしそうであれば、村の発展にも大いに役立つだろうし。試してみるか? クレリアが魔法所持者か否か。」
エルダが、クレリアに聞いた。
「あぁ、村の発展に助力出来るなら、村長としても本望であるし、色々便利だろうしな。」
クレリアは、豪く率先的であった。
先ず、魔法というのは連想が大事である。
浮遊魔法であれば、どの物体をどのように動かすか、つまり、念力のイメージ。
水魔法であれば、どの位置に、どれくらいの量の、どのくらいの温度の、どのような形の水を出すかと言ったもののイメージ。
早速、クレリアにそれらを伝え、発動練習に入った。
クレリアが閉眼し、集中する。
「(場所は目の前の地面付近…………量は少なめ…………温度はぬるい……………………)」
クレリアが様々な情報を連想しながら。イメージを膨らませていった。
その瞬間…………!
「…………ん?」
クレリアの目の前に、本当に小さな雨粒のような水が顕現した。
「まさか…………?!」
エルダは、魔法の発現に半日がかかり大分と苦労したのにも関わらず、クレリアは、自身の持つ水魔法を僅か数分で行使できてしまったのだ。
これには、エルダも静かに驚愕した。
「クレリア。お前、水魔法師だ。」
エルダが静かにそう告げると、クレリアは湧き上がる期待を隠せずに、口角がニヤッと上がった。
オーザックの死亡、村の焼失と、今まで嫌なニュースしか舞い込んでこなかったので、クレリアは久しぶりに喜んだ。
その日からエルダとクレリアは、魔法の特訓を始めた。
後ろでは、ゼルフを含む村民が、せっせせっせと復興を目指して働いている中、邪魔にならない端の方で訓練は行った。
訓練内容は、只々魔法を発動するのみ。
浮遊魔法のように、自分の頭に知識を詰め込んだりする必要が全くない魔法なので、ひたすら魔法を発動し続ければ、魔法が体に馴染み、発動が自然な形になる。
初めの方は、兎に角水を発生させることを目標とし、ある程度慣れてからは、温度を意図的に変えてみたり、量を増やしてみたりと、水を変化させる事を目標とする。
最終的には、自身の周りに、水の球を幾つも浮かしたり出来る様に、水魔法の多重発動を目標にする。
それに次いで、ある程度水魔法が行使できるようになった頃から、氷魔法を試してみる。
氷魔法は、水魔法から派生した、一部の水魔法使いしか使用出来なくて、その人数は、大陸でも数十人しかいないと言われている魔法。使えたら、何かと便利なのだ。
未だ氷魔法は使えないので、今は兎に角、水魔法の訓練に専念した。
訓練中のクレリアは、終始、満面の笑みを浮かべていた。