夕食を食べ終わって自分の部屋に(もど)ったボクは、
ベッドに寝転(ねころ)んでスマホをいじり始める。

 インランのグループ招待が来ていた。

 絶、(りん)とのグループだ。

 スマホを買い(あた)えられたのは聖通(せいつう)後なので、
家族以外のグループなんて初めてである。

 早速そのグループに参加してみた。

「あっ……、でも最初ってなんて発言すればいいんだろう……?
 うーんと……?
 『招待ありがとうよろしく』
 とかで大丈夫(だいじょうぶ)かな……?
 いや……、もっと絵文字とかスタンプとか入れたほうがいいんだろうか……?
 いや……、でも……」

 慣れないボクはブツブツと独り言を言いながら、かなり(なや)む。



 『招待ありがとう!よろしく!』



 とりあえずボクは発言した。

 慣れないボクなりの精一杯(せいいっぱい)の、
『仲良くしたい』という気持ちと、
『変な(やつ)だと思われたくない』という気持ちのせめぎ合いの末、
何とかひねり出されたのが、
この『!』マークを付けるという選択肢(せんたくし)である。

 笑ってくれて構わない。



「あっ、そうだ。
 月刊プレイ剣魔(けんま)デラックス……」

 ボクは買ってきた月刊プレイ剣魔(けんま)デラックスをカバンから取り出して、
パラパラとめくった。

「うーん……、国内選手にも頑張(がんば)って欲しいけど……、
 やっぱり外国選手がカッコイイし強いんだよなー……」

 ボクは、4月に外国で開催(かいさい)された剣魔(けんま)の世界大会の結果のページと、
大会で活躍(かつやく)したプロ剣士(けんし)のスイングフォームの連続写真が掲載(けいさい)されたページを、
順に(なが)める。

 プロ剣士(けんし)のスイングフォームを見たり、その解説を読んだりしていると、
自分もマネをすれば同じようなすごい技が()り出せそうに思えてくるのだ。

「あっ!そうか!
 これが共通の話題じゃないか!」

 ボクは再びスマホを手に取る。



『こちらこそよろしくー!』

『よろしくおねがいしますわ』



 返信が来ていた。

「おお……。えヘヘ……。
 えーと……、
 『好きな選手とか(あこが)れの選手とかっていたりする?』
 と……」

 ボクは普通(ふつう)に返信が来たことが(うれ)しくて、
ニコニコしながらメッセージを入力する。



 『好きな選手とか(あこが)れの選手とかっていたりする?』

『だんぜん四股利(しこり)選手ですわ』

『フォームがキレイでしてよ』

『ボクはコンチとかジョボビッチとかかなー』

『コンチ選手は安定してますが
 ジョボビッチ選手は(つか)れてくると
 手だけでこするように()るフォームになりがちですわね
 決勝でコンチ選手と当たると負けることが多いですわよ』

『さすがー(くわ)しいなー』



「ふむふむ……。
 (りん)は、魔法(まほう)使いよりも剣士(けんし)のほうが好きなんだな。
 絶は、外国の剣士(けんし)の中でもトップランカーの選手が好きなんだ」

 ボクは独り言を言いながらうなずいた。

「あと、(りん)は入力がやたら速いな……。
 パソコンでログインしてるのかな?」

 そう続けながら、ボクは次のメッセージを入力する。



 『ボクもコンチ好きだよ一緒(いっしょ)だね』

 『やっぱり好きな選手のフォームとかってマネしたりする?』



「あっ……。
 『マネなんかしないよ』
 って言われたらどうしよう……」

 発言しておきながら、ボクは後悔(こうかい)した。

 だがもう既読(きどく)が付いている。

 後悔(こうかい)先に立たずというやつだ。



『するするー』

『もちろんしますわよ』

(りん)なんかコンチの()り首()りのマネして
 なぜか足首を痛めたことがあるしー(笑)』

『あれは危なかったですわ』

『大会直前でしたし』

『ムロさんもマネする時は気をつけてくださいませ』

(りん)はしゃべりかたも撲滅(ぼくめつ)ブレードのキャラのマネだからねー』

『神アニメですわ』

『エモくて泣けるんですのよ』



撲滅(ぼくめつ)ブレード好きなのか……!」

 ボクは、また共通の話題が出来て(うれ)しくなる。



 『院能エインだよね?
  ボクも撲滅(ぼくめつ)ブレード毎週ネットリで観てるよ!』

 『女魔法剣士(まほうけんし)って現実じゃ見たことないけどカッコイイよね!』

『金太のライバルなのに
 撲滅(ぼくめつ)隊とエーズが戦う時は加勢して合体(ジョイント)してくれるのが
 熱い展開なんですの!』

 『わかる!』

『いんのうえいん
 ほんのうりん
 ほら!何だか名前も似てますでしょう?
 だから推しなんですの!』

 『なるほど!確かに似てるね!』



「(女の子とアニメの話ができるの(うれ)しいな……)」

 ボクが思っていると、
コンコンと部屋のドアがノックされた。

夢路(ゆめみち)ー?
 (たてる)が入らないみたいだから、もうお風呂(ふろ)に入っちゃってくれるー?」

 母さんの声だ。

「はーい……」

 ボクは返事をしてから、

「あっ!そうだ!」
とベッドから飛び起きる。

 ガチャリ!と勢いよく部屋のドアを開けると、

「ごめん、母さん!」
と歩いて行こうとしていた母さんの背中に声をかけ、

「ボク……、その……、
 明日から部活の朝練に行くから!
 それで……、
 お弁当早めに作って欲しいんだけど!」
(さけ)ぶように言った。

「あら?そうなの?
 じゃあー……、
 今から作って冷凍(れいとう)しておくから、
 それを朝からレンチンでもいいかしら?」

 母さんが()り返って言ったので、

「うん、それでいいよ!
 あっ……!
 なんなら冷凍(れいとう)までしといてくれたら、
 朝からレンチンするのは自分でやって持って行くから……!」
とボクは答える。

「そう?
 じゃあ、そうしておくわね。
 ウフフフ………。
 あ……、お風呂(ふろ)のほう早く入っちゃってね?」

 なぜか母さんは少し(うれ)しそうに言って、
そのまま台所のほうへと歩いて行った。

「(?)」

 ボクは首をかしげながら、
風呂(ふろ)上りに着る下着類を取りに部屋の中へと(もど)りつつ、
再びスマホを少しいじる。



 『お風呂(ふろ)に入るからまたね』

『ボクらもトレーニングするから反応しなくなるかもー』



「あっ。
 忘れないうちにアラームもセットしておかないとだ……」

 ボクはスマホのアラームを設定する画面で、
いつも平日に起きる時間のアラームをずらして、
5時半から5分刻みで5個ぐらいセットする。

 こうしないと起きられないタイプなのだ。

 スヌーズだけだと、自分でも知らない間に切ってしまって
また()てしまうので、ダメなのである。



「さて、お風呂(ふろ)風呂(ふろ)……」

 ボクは下着類を手に部屋を出た。