「さあ、あなたの聖剣をお抜きになって?
ちなみに、まだ聖通してないんでしたら、
あなたの負けってことでよろしいですわよね?」
倫が右手を構えながら言う。
「い……、嫌だ!」
ボクは叫ぶように言った。
「えっ……?それは……?
負けを認めてお逃げになるということですの?」
倫は拍子抜けという感じで肩をすくめながら言う。
「ち、違うよ!
見られるのが嫌なの!」
ボクは何とか言った。
そう。
商店街の本屋の前でずっと騒いでいるボク達の周りには、
すっかり人だかりが出来上がっていたのだ。
「(ボクの聖剣を見られるのも恥ずかしいし、
それを中断されるところなんて!
ましてや後輩の女の子に中断されるところなんて見られたら、
恥ずかしすぎて死んでしまう!)」
ボクは、とんでもなく必死だった。
「あら?確かに。
これは気がつきませんでしたわ。
お店の方にもご迷惑ですわね」
倫が周りを見回して言う。
「ど、どこか!
こ、この本屋の裏のほうとかでもいいから!」
ボクはそう言いながら倫の手を取り、
狭い路地裏に逃げるように入り込んで行く。
「皆さまは着いて来ないでくださいませ。
彼のプライバシーをご尊重なさってください。
結果が気になる方は、後ほどご報告いたしますわ」
倫が集まっている人達のほうへ言いながら、
ボクに続いて路地裏へ入って来る。
「それにしても……、ちょっと強引なところもあるんですわね。
これなら少しは楽しめそうですわ」
路地裏の奥まで入ると、倫がニコリとして言った。
「(『少しは楽しめそう』か……)」
ボクは心の中で、ため息をつく。
「(聖剣を折って楽しいなんて、
きっとろくでもない性格なんだろう……。
見た目や口調なんてアテにならないな……)」
ボクは心底そう思っていた。
学校の授業や、あるいは剣魔の部活でも、
男女がペアになって挿入や合体をやったりはする。
だがその時に、わざわざ男子の聖剣を中断してやろうとする女子なんて、
見たことなんかないのだ。
最初なんか、皆おっかなびっくりで、
「まだ大丈夫?」
「もう少しいける?」
「危なかったら言ってね?」
などと、男子に聞きながら慎重に挿入をする。
上手に合体できたら、それ以上無理に挿入しようなんて、するわけもない。
嫌われているボクとイヤイヤでペアにされた女子でさえ、そうなのだから、
倫の異常性が分かるというものだ。
だが、ボクの心の中には、もう一つの別な気持ちも浮かんでいた。
「(ボクの聖剣って、どのくらいの魔力で折れるんだろうか?)」
という好奇心である。
正直な話、物理的に無理なレベルで扱うか、
無理矢理挿入されない限り、
聖剣が折れることなんて滅多に無いのである。
ボクは、他人の聖剣なら何度も折ったことがあるが、
自分の聖剣を折られたことは一度も無かった。
「(ましてや、ボクの聖剣は半球状……)」
ボクは心の中で首をかしげた。
「(折れる姿が想像できない……。
もしも中断で折れるとしたら、
真ん中から真っ二つに割れるとか、
あるいは爆発するような感じとかだろうか……?)」
と、だんだんと好奇心のほうが勝ってきていた。
「コホン……、それでは……。
さあ。
聖剣をお抜きになって?」
ふいに倫が言ったので、考え込んでいたボクは、
「……あっ、うん」
と言いながら、刀を抜くようにビュッ!と聖剣を抜いた。
一瞬の静止。
「……」
倫が無言で、抜かれたボクの聖剣をまじまじと見つめる。
「(あっ……!)」
ボクは気がついた。
「これが……、あなたの聖剣なんですの……?」
倫が、ボクの半球状の聖剣を見つめたまま言う。
「(しまった……!)」
ボクは棒立ちになった。
「(心の準備が、全くできていない……!)」
ボクは激しく後悔する。
「(もし今……、ボクの聖剣の悪口を言われたら……、
ボクは一瞬で頭に血が上ってしまう……!)」
男性同士だと、相手の聖剣が少しぐらいヘンテコだったとしても、
何も言わないことが多い。
それこそ社会人の男性なんかになると、
接待剣魔する時など
『いやあ!ご立派な聖剣ですねえ!』
とか、
『切れ味が良さそうな聖剣だ!』
とか、他人の聖剣を見ると決まり文句のように褒めるほどだ。
小学生以下の聖通していない男の子だって、
『あの人の聖剣、変だね』
なんて滅多に言わないのである。
(ボクの聖剣は、
『少しぐらいヘンテコ』
の範囲を悠々と超えているので、言われてしまうが……)
そういう、相手の聖剣を悪く言わない空気というか、
暗黙のルールが有るわけだ。
でも女性、特に若い女の子には、それが無い。
それが無いので、朝に助けた先輩の女の子のように、
すごい罵詈雑言が時として発せられる。
つまり、男子の予想を超えたすごい悪口が言われるのだ。
何なら、聖剣どころか、
人間性を否定してくるレベルのやつが来る。
『世の中には、
女性に悪口を言われたり罵られたりすることを嬉しがる男性もいる』
というのは知っているが、
ボクはまだその域には達していない。
「(今の状況は……!
確実にボクの聖剣の悪口が来る流れだ……!)」
ボクは確信していた。
「(ボクは確実に……!
怒鳴り散らしてしまう……!)」
ボクはその現実から目を背けたい一心で、目をギュッ!とつぶった。
「かわいいですわね……」
倫が言った。
「……は?」
ボクは目をつぶったままだったが、思わず口に出した。
「すっごくかわいい……」
倫がまた言うので、
ボクは恐る恐る目を開けた。
倫はウットリしたような目をして、ボクの聖剣を見つめている。
今さらながらよく見ると、
倫の学生カバンにジャラジャラと付けられている、
ストラップ、キーホルダー、ぬいぐるみ。
全部が全部、丸い物だ。
ボールや、丸いキャラクターや、丸い毛玉のような物体、
丸い民芸品みたいな物まである。
「(あー、なるほど……。丸い物が好きなんだあ……)」
とボクは納得しかけたが、
「(いやいや……!
聖剣に向かって『かわいい』って感想は、
褒めてるとは限らないでしょ……!)」
とすぐさま思い直した。
「……あっ。勘違いしないでくださいませ。
良い意味でですよ?」
と倫がハッと我に返ったように言う。
「(褒めてた!)」
ボクは心の中で、拳を高々と突き上げた。
「(女子に聖剣を褒められたのなんて生まれて初めてだ……!
たとえ……、
たとえ『かわいい』という聖剣にあるまじき褒め言葉だったとしても、
嬉しいいい!)」
ボクはそう思って、無駄にテンションが上がってしまう。
「あっ……。
でも勝負は勝負でございますからね?
すぐに中断したら負けですから」
倫が思い出したように言った。
「(そうだ……!勝負なんだった……!)」
ボクも思い出した。
「はい、スタート」
倫がおもむろに右手のひらをボクの聖剣に向ける。
「(ちょ……!心の準備まだ出来てないってえええ!)」
ボクは心の中で叫びながら、また目をギュッ!とつぶった。
「(……)」
「(……)」
「(……?)」
5秒経っても10経っても、何の音もしなかった。
「(まさか……、砂みたいに崩れたとか……?)」
ボクは、また恐る恐る目を開ける。
「すごいんですわね……。あなたの聖剣……」
倫は既に、右手を向けるのをやめていた。
ボクの聖剣は、折れても崩れてもいなかった。
メラメラと燃えて、強い熱を放ち始めていた。
火の属性が合体されたのだ。
「(……勝ったのか?)」
ボクは思った。
「こんなにすごいの初めてですわ……」
倫がまた、ウットリしたような目でボクの聖剣を見つめている。
「えと……、じゃあ……、ボクの勝ちってことで……、
いいよね……?」
ボクはそう言いながら、聖剣をシュンッ!となえた。
「あ……」
倫が、どこか残念そうな声を出す。
『なえる』というのは、ボクが住む地方の方言なので、
伝わらなかったら申し訳ない。
『たたんだり、小さくしたりして、片づける』
ぐらいの意味である。
傘なんかも、なえると言う。
『たたんで片づける』とか、
『小さくしてしまう』とか言うべきなのは分かっているが、
文字数が少ないせいか、つい使ってしまうのだ。
許して欲しい。
「ごめん……。
けど、ボクそろそろ帰りたいから……。
キミももう出なよ?」
ボクは、倫を路地裏から出るように促した。
「(よく考えたら、女子を路地裏に連れ込むというのも、
状況としてはあまりよろしくない……)」
今さらながら、そう思えてきたからだ。
ちなみに、まだ聖通してないんでしたら、
あなたの負けってことでよろしいですわよね?」
倫が右手を構えながら言う。
「い……、嫌だ!」
ボクは叫ぶように言った。
「えっ……?それは……?
負けを認めてお逃げになるということですの?」
倫は拍子抜けという感じで肩をすくめながら言う。
「ち、違うよ!
見られるのが嫌なの!」
ボクは何とか言った。
そう。
商店街の本屋の前でずっと騒いでいるボク達の周りには、
すっかり人だかりが出来上がっていたのだ。
「(ボクの聖剣を見られるのも恥ずかしいし、
それを中断されるところなんて!
ましてや後輩の女の子に中断されるところなんて見られたら、
恥ずかしすぎて死んでしまう!)」
ボクは、とんでもなく必死だった。
「あら?確かに。
これは気がつきませんでしたわ。
お店の方にもご迷惑ですわね」
倫が周りを見回して言う。
「ど、どこか!
こ、この本屋の裏のほうとかでもいいから!」
ボクはそう言いながら倫の手を取り、
狭い路地裏に逃げるように入り込んで行く。
「皆さまは着いて来ないでくださいませ。
彼のプライバシーをご尊重なさってください。
結果が気になる方は、後ほどご報告いたしますわ」
倫が集まっている人達のほうへ言いながら、
ボクに続いて路地裏へ入って来る。
「それにしても……、ちょっと強引なところもあるんですわね。
これなら少しは楽しめそうですわ」
路地裏の奥まで入ると、倫がニコリとして言った。
「(『少しは楽しめそう』か……)」
ボクは心の中で、ため息をつく。
「(聖剣を折って楽しいなんて、
きっとろくでもない性格なんだろう……。
見た目や口調なんてアテにならないな……)」
ボクは心底そう思っていた。
学校の授業や、あるいは剣魔の部活でも、
男女がペアになって挿入や合体をやったりはする。
だがその時に、わざわざ男子の聖剣を中断してやろうとする女子なんて、
見たことなんかないのだ。
最初なんか、皆おっかなびっくりで、
「まだ大丈夫?」
「もう少しいける?」
「危なかったら言ってね?」
などと、男子に聞きながら慎重に挿入をする。
上手に合体できたら、それ以上無理に挿入しようなんて、するわけもない。
嫌われているボクとイヤイヤでペアにされた女子でさえ、そうなのだから、
倫の異常性が分かるというものだ。
だが、ボクの心の中には、もう一つの別な気持ちも浮かんでいた。
「(ボクの聖剣って、どのくらいの魔力で折れるんだろうか?)」
という好奇心である。
正直な話、物理的に無理なレベルで扱うか、
無理矢理挿入されない限り、
聖剣が折れることなんて滅多に無いのである。
ボクは、他人の聖剣なら何度も折ったことがあるが、
自分の聖剣を折られたことは一度も無かった。
「(ましてや、ボクの聖剣は半球状……)」
ボクは心の中で首をかしげた。
「(折れる姿が想像できない……。
もしも中断で折れるとしたら、
真ん中から真っ二つに割れるとか、
あるいは爆発するような感じとかだろうか……?)」
と、だんだんと好奇心のほうが勝ってきていた。
「コホン……、それでは……。
さあ。
聖剣をお抜きになって?」
ふいに倫が言ったので、考え込んでいたボクは、
「……あっ、うん」
と言いながら、刀を抜くようにビュッ!と聖剣を抜いた。
一瞬の静止。
「……」
倫が無言で、抜かれたボクの聖剣をまじまじと見つめる。
「(あっ……!)」
ボクは気がついた。
「これが……、あなたの聖剣なんですの……?」
倫が、ボクの半球状の聖剣を見つめたまま言う。
「(しまった……!)」
ボクは棒立ちになった。
「(心の準備が、全くできていない……!)」
ボクは激しく後悔する。
「(もし今……、ボクの聖剣の悪口を言われたら……、
ボクは一瞬で頭に血が上ってしまう……!)」
男性同士だと、相手の聖剣が少しぐらいヘンテコだったとしても、
何も言わないことが多い。
それこそ社会人の男性なんかになると、
接待剣魔する時など
『いやあ!ご立派な聖剣ですねえ!』
とか、
『切れ味が良さそうな聖剣だ!』
とか、他人の聖剣を見ると決まり文句のように褒めるほどだ。
小学生以下の聖通していない男の子だって、
『あの人の聖剣、変だね』
なんて滅多に言わないのである。
(ボクの聖剣は、
『少しぐらいヘンテコ』
の範囲を悠々と超えているので、言われてしまうが……)
そういう、相手の聖剣を悪く言わない空気というか、
暗黙のルールが有るわけだ。
でも女性、特に若い女の子には、それが無い。
それが無いので、朝に助けた先輩の女の子のように、
すごい罵詈雑言が時として発せられる。
つまり、男子の予想を超えたすごい悪口が言われるのだ。
何なら、聖剣どころか、
人間性を否定してくるレベルのやつが来る。
『世の中には、
女性に悪口を言われたり罵られたりすることを嬉しがる男性もいる』
というのは知っているが、
ボクはまだその域には達していない。
「(今の状況は……!
確実にボクの聖剣の悪口が来る流れだ……!)」
ボクは確信していた。
「(ボクは確実に……!
怒鳴り散らしてしまう……!)」
ボクはその現実から目を背けたい一心で、目をギュッ!とつぶった。
「かわいいですわね……」
倫が言った。
「……は?」
ボクは目をつぶったままだったが、思わず口に出した。
「すっごくかわいい……」
倫がまた言うので、
ボクは恐る恐る目を開けた。
倫はウットリしたような目をして、ボクの聖剣を見つめている。
今さらながらよく見ると、
倫の学生カバンにジャラジャラと付けられている、
ストラップ、キーホルダー、ぬいぐるみ。
全部が全部、丸い物だ。
ボールや、丸いキャラクターや、丸い毛玉のような物体、
丸い民芸品みたいな物まである。
「(あー、なるほど……。丸い物が好きなんだあ……)」
とボクは納得しかけたが、
「(いやいや……!
聖剣に向かって『かわいい』って感想は、
褒めてるとは限らないでしょ……!)」
とすぐさま思い直した。
「……あっ。勘違いしないでくださいませ。
良い意味でですよ?」
と倫がハッと我に返ったように言う。
「(褒めてた!)」
ボクは心の中で、拳を高々と突き上げた。
「(女子に聖剣を褒められたのなんて生まれて初めてだ……!
たとえ……、
たとえ『かわいい』という聖剣にあるまじき褒め言葉だったとしても、
嬉しいいい!)」
ボクはそう思って、無駄にテンションが上がってしまう。
「あっ……。
でも勝負は勝負でございますからね?
すぐに中断したら負けですから」
倫が思い出したように言った。
「(そうだ……!勝負なんだった……!)」
ボクも思い出した。
「はい、スタート」
倫がおもむろに右手のひらをボクの聖剣に向ける。
「(ちょ……!心の準備まだ出来てないってえええ!)」
ボクは心の中で叫びながら、また目をギュッ!とつぶった。
「(……)」
「(……)」
「(……?)」
5秒経っても10経っても、何の音もしなかった。
「(まさか……、砂みたいに崩れたとか……?)」
ボクは、また恐る恐る目を開ける。
「すごいんですわね……。あなたの聖剣……」
倫は既に、右手を向けるのをやめていた。
ボクの聖剣は、折れても崩れてもいなかった。
メラメラと燃えて、強い熱を放ち始めていた。
火の属性が合体されたのだ。
「(……勝ったのか?)」
ボクは思った。
「こんなにすごいの初めてですわ……」
倫がまた、ウットリしたような目でボクの聖剣を見つめている。
「えと……、じゃあ……、ボクの勝ちってことで……、
いいよね……?」
ボクはそう言いながら、聖剣をシュンッ!となえた。
「あ……」
倫が、どこか残念そうな声を出す。
『なえる』というのは、ボクが住む地方の方言なので、
伝わらなかったら申し訳ない。
『たたんだり、小さくしたりして、片づける』
ぐらいの意味である。
傘なんかも、なえると言う。
『たたんで片づける』とか、
『小さくしてしまう』とか言うべきなのは分かっているが、
文字数が少ないせいか、つい使ってしまうのだ。
許して欲しい。
「ごめん……。
けど、ボクそろそろ帰りたいから……。
キミももう出なよ?」
ボクは、倫を路地裏から出るように促した。
「(よく考えたら、女子を路地裏に連れ込むというのも、
状況としてはあまりよろしくない……)」
今さらながら、そう思えてきたからだ。