ようやく、駅前にある商店街の本屋、『オシリス』に辿り着く。
スポーツ雑誌のコーナーまで行って、
立ち読みしている数名の人達の間を、
「すみません……」
と呟くように言いながら、かき分ける。
「(えーと……?あっ、あそこだ……)」
目当ての月刊プレイ剣魔デラックスが見つかった。
人気の雑誌なので、もう最後の一冊のようだ。
「(今月号のは、袋とじまで付いてるのかー……)」
と表紙の見出しを見て思いながら、
ボクはその月刊プレイ剣魔デラックスに手を伸ばした。
と、横から同じようにきれいな手が伸びてきた。
「あっ……」
その人と同時に口に出す。
女の子の声だ。
「ご購入なさるのでしたら、あなたが持っていってくださって構いませんわよ」
と女の子が言った。
「えっ……?
すみません。ありがとうございます」
ボクも買いたいので、遠慮はしない。
でもボクは、
「(『構いませんわよ』
だって?
まるで、どこかのお嬢様みたいな口調だな……?)」
と思って、声の主のほうを振り返った。
一瞬の静止。
絶の妹、本能倫だった。
キラキラとエフェクトが見えそうな、超が付くほど美しい顔と、
気の強そうな目と眉、
流れるような黒髪のロングヘアがその証拠だ。
バッチリと目が合う。
ボクがそのまま固まっていると、
倫はボクを真っ直ぐ見据えながら、
「ワタクシは、こちらの立ち読みなさっているご紳士から
お譲りいただきますから、ご遠慮なさらず」
と言って、別の月刊プレイ剣魔デラックスを立ち読みしていた男性から
バッとその本を取り上げ、
スタスタとレジのほうへ歩いて行ってしまった。
その後ろ姿を見送ってから、
ハッと我に返ったボクも、
慌ててその後を追うようにレジへと向かう。
会計を済ませて本屋を出たところで、ようやく倫に追いついた。
「ちょ、ちょっと待って!
部活は!?」
思わずボクは倫に尋ねていた。
絶が剣魔部の部室まで行ったので、
てっきり妹の倫もウチの剣魔部に入部するものだと思っていたからだ。
その声を聞いた倫が振り返った。
「あら?ワタクシをご存知なんですの?
ですが……、あの学校のレベルですと、
ワタクシにはちょっと合わないようでしたから……。
顧問の先生方はともかく、部員の皆さんがあれではね……」
倫はそう言いながら、首をかしげるような仕草をする。
「どういう……?」
「どういうことだコラァッ!?」
ボクが尋ねかけたところに、すぐ後ろから大きな怒鳴り声が被せられた。
ボクは反射的にビクン!とした後、恐る恐る後ろを振り返る。
先ほど倫から月刊プレイ剣魔デラックスを奪い取られた男性だった。
顔を真っ赤にして、ワナワナと両肩を震わせ、
怒りをあらわにしている。
「有名人だろうが関係ねーぞテメェッ!
調子こきやがってッ!」
そう言いながら、男性はおもむろに腕を振り下ろすようにして、
ビュッ!と聖剣を抜いた。
念のため言っておくと、
普段は自分の内に収納しておける聖剣を自分の表に出すこと、
つまり剣として具現化することを『聖剣を抜く』と表現するのだ。
体の脇から刀を引き抜くようにだったり、
肩越しに引き上げるようにだったり、
彼のように腕を振り下ろすようにだったり、
はたまた口から吐き出すようにだったり、
ポケットから取り出すようにだったりと、
抜きやすい動きは人によって千差万別だ。
ここにも、その人の個性が出るわけである。
なお、まだ聖剣を使えるようになる聖通を
迎えていない皆さんのために言っておくが、
モンスターもいないのに無闇に聖剣を抜くと、
周りの人や物を傷つけてしまって危険なので、
絶対にマネしてはいけない。
法律でも禁止されているぞ。
「ちょ、ちょっと!?
ぼ、暴力はやめましょう!?」
ボクは口ではそう言っているが、内心では
「(そりゃ怒るって!)」
と、完全に男性の味方に立っていた。
そのせいか、スッと脇に寄って、
男性と倫の間からさりげなく移動していた。
体は正直なのである。
と、倫が、
「ハイ」
と言いながら、おもむろに男性の聖剣に向かって右手のひらをかざした。
するとどうだろう。
ボッキン!
という音と共に、男性の聖剣があっという間に根元から折れてしまった。
折れた聖剣の刃の部分は、
道にガラン!と音を立てて落下した直後にフワッと消え去る。
「(いきなり中断……!?)」
ボクは、唖然として口をポカーンと開けてしまう。
男性の聖剣に女性が魔力を注ぎ込むことを
『挿入』と表現し、
十分な魔力を挿入することによって聖剣に魔力を帯びさせた状態にすることを
『合体』と表現することは、よく知られている。
合体することで、火水風土などの魔法の属性を聖剣に付与できることをはじめ、
色々とメリットがあるのだ。
しかし、合体が完了した後もどんどん魔力を挿入し続けると、
聖剣の魔力容量をオーバーして聖剣が折れてしまう、
『中断』と呼ばれる現象が起こることも、よく知られている。
「(でも今のは、どう見ても倫が挿入を始めた途端に男性の聖剣が折れていた……!
倫の魔力がそれだけとんでもないということだ……!
これが、小学生の部とはいえ全国女子シングルス1位になった、
倫の実力ということか……!?)」
ボクは軽く恐怖していた。
中断された男性のほうは、
「あ……?あ……?」
と呻くように言うだけで、目が点になっている。
まだ何が起きたかよく分かっていないというか、
脳が分かるのを拒否している感じだ。
それはそうだろう。
男性にとって、中断させられるというのは、
それだけ屈辱的なことなのだ。
商店街の道端で。
大声を出したせいで周りの注目を集めた状況で。
しかも自分よりずっと若い中学生にやられたのだ。
心中お察しする。
男性の中には、中断というものを恥じるあまり、
『折れない丈夫な聖剣になるように』
との願いを込めて、
自分の聖剣を平手や拳で叩いたり、
革のベルトや木の棒で叩いたり、
あろうことかハンマーで叩いたりする人もいるらしい。
そうすることで、丈夫な聖剣になると思っているらしいのだが、
効果のほどは不明である。
「これで少しは大人しくおなりなさいな」
男性の聖剣を折った倫のほうは、涼しい顔をして髪をかき上げる。
なお、まだ魔法が使えるようになる初恵を
迎えていない皆さんのために言っておくが、
モンスターもいないのに無闇に魔力を使ったり、
ましてや挿入したり合体したりするのも、
周りの人や物を傷つけてしまって危険なので、
これも絶対にマネしてはいけない。
法律でも禁止されているぞ。
「な……、なんて……、ひ……、ひどい……」
男性は、ようやく涙をポロポロと流し始めた。
ボクは、すっかり男性がかわいそうになってきている。
倫はというと、くるりと向きを変えてスタスタと歩き出した。
「やり過ぎだよ!」
ボクは、その背中に向かって口に出さずには、いられなかった。
「……やり過ぎ?」
倫がピタリと立ち止まった。
声のトーンが低かったので、逆にボクのほうがギクリとする。
「聞き捨てなりませんわね」
倫がまたくるりと向きを変えて、ボクのほうを見た。
その両目は、まるでボクをにらみつけているかのようだ。
「力のある者が、それを行使して何がいけないんですの?」
倫が言った。
「逆にお伺いしますが、
こちらのお方のほうがお先に、
あろうことか暴力で解決しようとなさったんですのよ!?
それを持てる力で未然に防いだワタクシが、
なぜ非難されなければならないのか、
あなたに説明できまして!?」
強い口調で言いながらツカツカと歩いて来て、
ボクに詰め寄る。
「(せ、正論だ……。だけど……)」
ボクはそう思いつつ、
「こ、この人だって本を買うつもりだったかもしれないじゃないか!?
先に持っていた彼の本を、力で奪い取ったのは君のほうだよ!」
と何とか反論した。
「!?」
倫が虚を突かれたような表情になる。
「……そうなんですの?」
倫が言いながら、泣き崩れている男性のほうを見た。
「そうだよ……。
袋とじの中身が気になったから……、
買うつもりは少しあった……。
でも……、
もういいよ……。
もう……」
男性は泣きながら言う。
「それはそれは……、悪いことをいたしました……」
倫が静かに言った。
「……ですが、そうなると今度は、
あなたが本を持っているのが、おかしいということになりますね?」
倫がぐるりとボクのほうへ首を向けて言う。
「えっ……!?ボク……!?」
ボクは驚いて口に出した。
「だって、そうでございましょう?
ワタクシは、彼がこの本をご購入なされないと思っていたから、
あなたにその本をお譲りしたんですのよ?
彼がご購入なさると知っていましたら、
ワタクシはあなたにお譲りせずに、その本をそのまま購入していましたわよ」
倫がまたボクに詰め寄る。
「そんな!?」
ボクは思わず、本を胸に抱えたまま倫に背を向けた。
「ワタクシのほうが、先にあの場所にいたんですのよ?
何ならお店の方にお願いして、
ご一緒に防犯カメラの映像でも確認いたしましょうか?」
倫が背を向けたボクの顔を、横から覗き込むようにして言う。
「(やられた!
手を伸ばしたのが同時だったというだけで、
順番待ちの理論でいけば、全くその通りだ!
先にあの場所にいたというのであれば、
買う権利は本来、彼女のほうにある!)」
ボクは本を持った両手でそのまま頭を抱えるようにして、うずくまった。
「何とか言ったらどうなんですの?」
倫は体を前かがみにして、ボクの耳元でささやくように言う。
「(反論することができない……。
もう倫に本を譲ってしまうしかないか……)」
とボクが思い、あきらめかけたその時、
「ですが……、一度お譲りした手前、
おいそれと奪い取るのも気が引けるのは事実ですわね」
そう言いながら、倫がボクの耳元から離れた。
「えっ!?」
もうあきらめかけていたので、ボクは逆にびっくりして振り返ってしまう。
ところが、
「勝負と参りましょう」
振り返ったボクに、倫がニコリとして言った。
「えっ……?しょ、勝負って……?
ま、まさか……?」
ボクはそう言うと、ゴックンとツバを飲み込んだ。
「そう、その通りですわ。
あなたの聖剣をワタクシが挿入して……。
そうですわね……」
倫はニコニコしたまま、
「あっ。
先ほどの彼より一秒でも長く中断しなかったら、あなたの勝ちでいいですわよ?」
パン!と両手を叩き、まだ泣いている男性のほうを見ながら言った。
ボクは開いた口が塞がらない。
「(やっぱり!)」
スポーツ雑誌のコーナーまで行って、
立ち読みしている数名の人達の間を、
「すみません……」
と呟くように言いながら、かき分ける。
「(えーと……?あっ、あそこだ……)」
目当ての月刊プレイ剣魔デラックスが見つかった。
人気の雑誌なので、もう最後の一冊のようだ。
「(今月号のは、袋とじまで付いてるのかー……)」
と表紙の見出しを見て思いながら、
ボクはその月刊プレイ剣魔デラックスに手を伸ばした。
と、横から同じようにきれいな手が伸びてきた。
「あっ……」
その人と同時に口に出す。
女の子の声だ。
「ご購入なさるのでしたら、あなたが持っていってくださって構いませんわよ」
と女の子が言った。
「えっ……?
すみません。ありがとうございます」
ボクも買いたいので、遠慮はしない。
でもボクは、
「(『構いませんわよ』
だって?
まるで、どこかのお嬢様みたいな口調だな……?)」
と思って、声の主のほうを振り返った。
一瞬の静止。
絶の妹、本能倫だった。
キラキラとエフェクトが見えそうな、超が付くほど美しい顔と、
気の強そうな目と眉、
流れるような黒髪のロングヘアがその証拠だ。
バッチリと目が合う。
ボクがそのまま固まっていると、
倫はボクを真っ直ぐ見据えながら、
「ワタクシは、こちらの立ち読みなさっているご紳士から
お譲りいただきますから、ご遠慮なさらず」
と言って、別の月刊プレイ剣魔デラックスを立ち読みしていた男性から
バッとその本を取り上げ、
スタスタとレジのほうへ歩いて行ってしまった。
その後ろ姿を見送ってから、
ハッと我に返ったボクも、
慌ててその後を追うようにレジへと向かう。
会計を済ませて本屋を出たところで、ようやく倫に追いついた。
「ちょ、ちょっと待って!
部活は!?」
思わずボクは倫に尋ねていた。
絶が剣魔部の部室まで行ったので、
てっきり妹の倫もウチの剣魔部に入部するものだと思っていたからだ。
その声を聞いた倫が振り返った。
「あら?ワタクシをご存知なんですの?
ですが……、あの学校のレベルですと、
ワタクシにはちょっと合わないようでしたから……。
顧問の先生方はともかく、部員の皆さんがあれではね……」
倫はそう言いながら、首をかしげるような仕草をする。
「どういう……?」
「どういうことだコラァッ!?」
ボクが尋ねかけたところに、すぐ後ろから大きな怒鳴り声が被せられた。
ボクは反射的にビクン!とした後、恐る恐る後ろを振り返る。
先ほど倫から月刊プレイ剣魔デラックスを奪い取られた男性だった。
顔を真っ赤にして、ワナワナと両肩を震わせ、
怒りをあらわにしている。
「有名人だろうが関係ねーぞテメェッ!
調子こきやがってッ!」
そう言いながら、男性はおもむろに腕を振り下ろすようにして、
ビュッ!と聖剣を抜いた。
念のため言っておくと、
普段は自分の内に収納しておける聖剣を自分の表に出すこと、
つまり剣として具現化することを『聖剣を抜く』と表現するのだ。
体の脇から刀を引き抜くようにだったり、
肩越しに引き上げるようにだったり、
彼のように腕を振り下ろすようにだったり、
はたまた口から吐き出すようにだったり、
ポケットから取り出すようにだったりと、
抜きやすい動きは人によって千差万別だ。
ここにも、その人の個性が出るわけである。
なお、まだ聖剣を使えるようになる聖通を
迎えていない皆さんのために言っておくが、
モンスターもいないのに無闇に聖剣を抜くと、
周りの人や物を傷つけてしまって危険なので、
絶対にマネしてはいけない。
法律でも禁止されているぞ。
「ちょ、ちょっと!?
ぼ、暴力はやめましょう!?」
ボクは口ではそう言っているが、内心では
「(そりゃ怒るって!)」
と、完全に男性の味方に立っていた。
そのせいか、スッと脇に寄って、
男性と倫の間からさりげなく移動していた。
体は正直なのである。
と、倫が、
「ハイ」
と言いながら、おもむろに男性の聖剣に向かって右手のひらをかざした。
するとどうだろう。
ボッキン!
という音と共に、男性の聖剣があっという間に根元から折れてしまった。
折れた聖剣の刃の部分は、
道にガラン!と音を立てて落下した直後にフワッと消え去る。
「(いきなり中断……!?)」
ボクは、唖然として口をポカーンと開けてしまう。
男性の聖剣に女性が魔力を注ぎ込むことを
『挿入』と表現し、
十分な魔力を挿入することによって聖剣に魔力を帯びさせた状態にすることを
『合体』と表現することは、よく知られている。
合体することで、火水風土などの魔法の属性を聖剣に付与できることをはじめ、
色々とメリットがあるのだ。
しかし、合体が完了した後もどんどん魔力を挿入し続けると、
聖剣の魔力容量をオーバーして聖剣が折れてしまう、
『中断』と呼ばれる現象が起こることも、よく知られている。
「(でも今のは、どう見ても倫が挿入を始めた途端に男性の聖剣が折れていた……!
倫の魔力がそれだけとんでもないということだ……!
これが、小学生の部とはいえ全国女子シングルス1位になった、
倫の実力ということか……!?)」
ボクは軽く恐怖していた。
中断された男性のほうは、
「あ……?あ……?」
と呻くように言うだけで、目が点になっている。
まだ何が起きたかよく分かっていないというか、
脳が分かるのを拒否している感じだ。
それはそうだろう。
男性にとって、中断させられるというのは、
それだけ屈辱的なことなのだ。
商店街の道端で。
大声を出したせいで周りの注目を集めた状況で。
しかも自分よりずっと若い中学生にやられたのだ。
心中お察しする。
男性の中には、中断というものを恥じるあまり、
『折れない丈夫な聖剣になるように』
との願いを込めて、
自分の聖剣を平手や拳で叩いたり、
革のベルトや木の棒で叩いたり、
あろうことかハンマーで叩いたりする人もいるらしい。
そうすることで、丈夫な聖剣になると思っているらしいのだが、
効果のほどは不明である。
「これで少しは大人しくおなりなさいな」
男性の聖剣を折った倫のほうは、涼しい顔をして髪をかき上げる。
なお、まだ魔法が使えるようになる初恵を
迎えていない皆さんのために言っておくが、
モンスターもいないのに無闇に魔力を使ったり、
ましてや挿入したり合体したりするのも、
周りの人や物を傷つけてしまって危険なので、
これも絶対にマネしてはいけない。
法律でも禁止されているぞ。
「な……、なんて……、ひ……、ひどい……」
男性は、ようやく涙をポロポロと流し始めた。
ボクは、すっかり男性がかわいそうになってきている。
倫はというと、くるりと向きを変えてスタスタと歩き出した。
「やり過ぎだよ!」
ボクは、その背中に向かって口に出さずには、いられなかった。
「……やり過ぎ?」
倫がピタリと立ち止まった。
声のトーンが低かったので、逆にボクのほうがギクリとする。
「聞き捨てなりませんわね」
倫がまたくるりと向きを変えて、ボクのほうを見た。
その両目は、まるでボクをにらみつけているかのようだ。
「力のある者が、それを行使して何がいけないんですの?」
倫が言った。
「逆にお伺いしますが、
こちらのお方のほうがお先に、
あろうことか暴力で解決しようとなさったんですのよ!?
それを持てる力で未然に防いだワタクシが、
なぜ非難されなければならないのか、
あなたに説明できまして!?」
強い口調で言いながらツカツカと歩いて来て、
ボクに詰め寄る。
「(せ、正論だ……。だけど……)」
ボクはそう思いつつ、
「こ、この人だって本を買うつもりだったかもしれないじゃないか!?
先に持っていた彼の本を、力で奪い取ったのは君のほうだよ!」
と何とか反論した。
「!?」
倫が虚を突かれたような表情になる。
「……そうなんですの?」
倫が言いながら、泣き崩れている男性のほうを見た。
「そうだよ……。
袋とじの中身が気になったから……、
買うつもりは少しあった……。
でも……、
もういいよ……。
もう……」
男性は泣きながら言う。
「それはそれは……、悪いことをいたしました……」
倫が静かに言った。
「……ですが、そうなると今度は、
あなたが本を持っているのが、おかしいということになりますね?」
倫がぐるりとボクのほうへ首を向けて言う。
「えっ……!?ボク……!?」
ボクは驚いて口に出した。
「だって、そうでございましょう?
ワタクシは、彼がこの本をご購入なされないと思っていたから、
あなたにその本をお譲りしたんですのよ?
彼がご購入なさると知っていましたら、
ワタクシはあなたにお譲りせずに、その本をそのまま購入していましたわよ」
倫がまたボクに詰め寄る。
「そんな!?」
ボクは思わず、本を胸に抱えたまま倫に背を向けた。
「ワタクシのほうが、先にあの場所にいたんですのよ?
何ならお店の方にお願いして、
ご一緒に防犯カメラの映像でも確認いたしましょうか?」
倫が背を向けたボクの顔を、横から覗き込むようにして言う。
「(やられた!
手を伸ばしたのが同時だったというだけで、
順番待ちの理論でいけば、全くその通りだ!
先にあの場所にいたというのであれば、
買う権利は本来、彼女のほうにある!)」
ボクは本を持った両手でそのまま頭を抱えるようにして、うずくまった。
「何とか言ったらどうなんですの?」
倫は体を前かがみにして、ボクの耳元でささやくように言う。
「(反論することができない……。
もう倫に本を譲ってしまうしかないか……)」
とボクが思い、あきらめかけたその時、
「ですが……、一度お譲りした手前、
おいそれと奪い取るのも気が引けるのは事実ですわね」
そう言いながら、倫がボクの耳元から離れた。
「えっ!?」
もうあきらめかけていたので、ボクは逆にびっくりして振り返ってしまう。
ところが、
「勝負と参りましょう」
振り返ったボクに、倫がニコリとして言った。
「えっ……?しょ、勝負って……?
ま、まさか……?」
ボクはそう言うと、ゴックンとツバを飲み込んだ。
「そう、その通りですわ。
あなたの聖剣をワタクシが挿入して……。
そうですわね……」
倫はニコニコしたまま、
「あっ。
先ほどの彼より一秒でも長く中断しなかったら、あなたの勝ちでいいですわよ?」
パン!と両手を叩き、まだ泣いている男性のほうを見ながら言った。
ボクは開いた口が塞がらない。
「(やっぱり!)」