「は~い。
 来月の始めには新人戦が~、
 終わりには市の中総体があるわよ~」

 その日の剣魔(けんま)部の夕練が終わったところで、
下井先生が部員全員を集めて言った。

「新人戦は~、2日間かけて行われま~す。
 出場できるのは1、2年生だけ~。
 1人につきシングルスとミックスダブルスに
 それぞれエントリーできて~、
 団体戦は無いわ~。
 1日目がシングルス~。
 2日目がミックスダブルスの日程ね~」

 下井先生が1、2年生を順番に見つめていきながら言う。

「中総体のほうは~、全部で4日間~。
 最初の2日間は~、こちらも新人戦と同じよ~。
 1日目がシングルス~。
 2日目がミックスダブルス~。
 これも1人につきそれぞれエントリーできるわ~。
 全員出場できるわよ~」

 下井先生が、今度は3年生のほうも見渡(みわた)しながら言った。

「次の2日間は~、団体戦ね~。
 剣士(けんし)シングルス2試合~、
 魔法(まほう)シングルス2試合~、
 ミックスダブルス3試合の~、
 計7試合ずつ行われま~す」

 下井先生が、両手の指を折りながら言い、

「団体戦のオーダーでは~、
 シングルスとダブルスに同時に出ることは出来ませ~ん。
 つまり~、レギュラーは10人になる計算ね~。
 それから~、補欠に入れられるのは5人まで~。
 だから~、全部で15人がメンバーで~す」

 下井先生が、再び両手の指を折りながら言うと、
両手をパン!と(たた)く。

「そこで~、明日からの夕練では~、
 部内対抗(たいこう)戦として~、
 こちらで決めた色々な組み合わせで~、
 試合をどんどんプレイしてもらいま~す。
 いいわね~、(みんな)~?
 (だれ)が相手でも(だれ)がペアでも文句は言わないこと~」

 下井先生が再び全員を見渡(みわた)した。

「その結果を見て~、
 こちらでダブルスのペアとか団体戦のメンバーとかを決めるわ~。
 今のレギュラーと補欠のメンバーも~、
 負けてばかりだと入れ()えるわよ~?」

 下井先生がウィンクする。

「それと~、これは大会じゃないんだけど~。
 新人戦の翌週は~、今年も練習試合をやることが決定しました~。
 そこは~、中総体の出場オーダーで~、
 本番を想定してプレイしてもらうからね~?」

 下井先生が、再び両手をパン!と(たた)いた。

「本番の試合のほうは、全部トーナメント制だからな!?
 特に3年生!
 中総体は最後の試合だ!
 負けたらそこで引退だぞ!?
 分かってんな!?」

 美安先生が、ムチをパン!と地面に(たた)きつける。

「すみません先生方?
 1つよろしくて?」

 (りん)が、おもむろに挙手した。

「お?何かしら~?」

 下井先生が、(りん)のほうを向いて言う。

「ワタクシが普通(ふつう)挿入(インサート)すると、
 (みな)さんすぐに中断してしまう件については……?」

 (りん)が、下井先生に(たず)ねた。

「!」

 ボクと絶以外の男子部員が、一斉(いっせい)にビクン!と反応した。

「そうそう~、問題はそこよね~。
 なので~、中断しなかった夢路(ゆめみち)クン以外と組む時は~、
 手加減をお願いできる~?
 それでもダメかもしれないから~、
 念のため(りん)ちゃんのダブルスは~、
 翌日が部活お休みの土曜日にまとめてやりたいの~。
 それでもいいかしら~?」

 下井先生が両手のひらを合わせて、
『お願い』と言った感じのポーズを取りながら提案すると、
それを聞いた男子部員達も、一斉(いっせい)にホッとしたような様子を見せる。

「土曜日にまとめてやるのは一向に構いませんけど……、
 あれでも一応は手加減してたんですのよ……?」

 (りん)が首をかしげて見せる。

 再び男子部員達が、一斉(いっせい)にビクン!と反応した。






○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~






 部活終了(しゅうりょう)後。



 ボクは、(たてる)と少しだけ居残りして、
聖剣(せいけん)素振(すぶ)りをしたり、
(たてる)のスイングフォームをスマホで撮影(さつえい)してチェックしたりしている。

 と、
下井先生と何やら話していた絶、(りん)がこちらへやって来た。

「ちょっとごめん……。
 ムロくんてS?
 それともM?」

 絶がボクに質問してくる。

「ん……?
 ああ……。
 ボクはMだよ」
とボクは答えた。

 なぜか、(たてる)がひどく(おどろ)いたような顔をして、
ボクと絶を交互(こうご)に見てくる。

「じゃあワタクシは、Sで良さそうですわね」

 (りん)がうなずきながら言うと、(たてる)はさらに目をむいた。

「ボクはどうしよう……」

 絶が(なや)んでいるので、ボクは

「Lでいいんじゃないかな?
 ねえ、(たてる)
 (たてる)って、Lで注文してたんじゃない?」
(たてる)()り返りながら言った。

 絶と(たてる)は、身長がほぼ同じなのだ。

 (おどろ)いたような顔をしていた(たてる)は、

「えっ……?
 ああ……。
 ユニフォームのサイズの話か……」
と胸をなでおろしたような感じだ。

「(何の話だと思ったのだろう……?)」

 ボクは思った。

「うん。
 名前入りだと、届くまでに3週間ぐらいかかるらしいから、
 今から注文するんだって」

 絶が答える。

「自分、Lでちょうど良かったんで、Lで大丈夫(だいじょうぶ)かと思うスよ」

 (たてる)が、うなずきながら言う。

「ありがとー!」

 絶は元気にお礼を言うと、
(りん)と共に下井先生のところへと(もど)って行った。



 ちなみにウチの部では、毎年ユニフォームのデザインを変えている。

 今年のは、黒地を背景に、
大地の割れ目から()き出ている(ほのお)かマグマのような(がら)が、
サーモンピンクのカラーで(えが)かれているデザインだ。

 男女共に同じ、ユニセックスタイプのユニフォームである。

 選んだのは、脇名先輩(わきなせんぱい)と聞いている。

 と言っても、剣魔(けんま)の試合では、
その上からさらにプロテクターを装着してしまうので、
ユニフォームのデザインがはっきり見える機会は少ない。

 どちらかというと、そのプロテクターのほうが、
各校の伝統的な固定のカラーやデザインで、
名刺(めいし)代わりになっている感じである。

 正甲中(せいこうちゅう)の大会用のプロテクターは、
全体が明るめのイエローで、
右肩(みぎかた)と右太ももの辺りに『正』の文字が、
左肩(ひだりかた)と左太ももの辺りに『(こう)』の文字が、
それぞれ黒字で(えが)かれているデザインだ。

 ボク達自身がそう呼ぶことは滅多(めった)に無いのだが、
正甲中(せいこうちゅう)甲虫(こうちゅう)()けて、
『イエロービートルズ』という2つ名が、
一部では定着しているらしい。