再び4人がアースの4(すみ)のスタンバイエリアにそれぞれ入ると、
ピー!と審判(しんぱん)のホイッスルが鳴らされる。

 と、パン!パン!と(りん)が上空に火球の魔法(まほう)を連射した。

 遅降弾(ラググレネードボンバー)だ。

「!」

 ボク、絶、脇名先輩(わきなせんぱい)はその行方を追って、バッ!と空を見上げた。

「(この感じは、たぶんアースの中央付近か!?)」

 ダダダ……!と正面に向き直ったボクと(りん)、絶と脇名先輩(わきなせんぱい)は走り始める。

 ブワワッ!

 メラメラッ!

 お(たが)い、合体(ジョイント)完了(かんりょう)だ。

 すぐさまボクは、(りん)遅降弾(ラググレネードボンバー)を利用すべく、
アースの真ん中を目指して走り始める。

 と、脇名先輩(わきなせんぱい)がそれを読んで、ドピュッ!ドピュッ!と水球を連射した。

「おっと!」

 ボクは、それを片手側転でバッ!と回避(かいひ)する。

 その回避(かいひ)した先を(ねら)って、
絶が聖剣(せいけん)をビュッ!と()き出した。

 ドビュッ!

「うっ!?」

 ビュッ!バシン!

 ボクは、すごいスピードで射聖(ショット)された水球に、ギリギリで聖剣(せいけん)を合わせた。

 チラリとボクは自分の聖剣(せいけん)を確認する。

 メラメラ。

「(火属性はまだ残ってる……!)」

 と、パン!パン!パン!パン!と(りん)が、
射聖(ショット)で早々に魔力(まりょく)を使い切った絶に向けて両手で火球の魔法(まほう)を連射した。

「くっ……!」

 絶はチラリと上空を確認すると、
ビュッ!バシン!と当たりそうな1発だけを(たた)き落としつつ、
残りをスイスイと回避(かいひ)する。

 ダダダッ!とボクが、そこに走り寄った。

「させない!」

 脇名先輩(わきなせんぱい)が再びドピュッ!ドピュッ!と水球の魔法(まほう)をボクに連射する。

「うわっ!」
と言いながらも、ボクはズザッ!ズザッ!と左右に移動してそれを回避(かいひ)した。

 ボッ!ボッ!

 そこに、(りん)遅降弾(ラググレネードボンバー)が落下して来る。

 だが、今回は残念ながら、かなり手前の位置だ。

 と、それをブラインドに(りん)が、パボン!と加速する火球を発射する。

「!」

 ビュッ!バシン!

 絶が、それに聖剣(せいけん)を縦に()って合わせ、ギリギリで弾道(だんどう)()らした。

「(今だ!)」

 ボクは、動きの一瞬(いっしゅん)止まった絶に飛び()かるように聖剣(せいけん)()り下ろす。

「おっと!」

 絶は聖剣(せいけん)()り下ろした体勢のまま、
フッ!とボクから見て右に回避(かいひ)した。

 そこに、バンッ!とボクの聖剣(せいけん)から右方向に射聖(ショット)が行われ、
ボッ!と絶の右脇腹(みぎわきばら)に命中する。

「うわっ!?」

 絶は、(おどろ)いたのと命中した勢いで、そのままドサッ!と(たお)れた。



 通常、聖剣(せいけん)というものは、
先っちょから真っ直ぐにしか合体(ジョイント)した魔力(まりょく)射聖(ショット)というものができない。

 しかし、ボクの聖剣(せいけん)は出っ張った部分が無いためか、
なんと半球状の部分からならどの方向にでも好きに射聖(ショット)ができるのである。

 このことに気づいたのは、
以前のペアであった出来田さんが剣魔部(けんまぶ)を辞めてしまう直前だったので、
未だに大会では日の目を見ていないボクの必殺技の1つだ。



 ピー!と審判(しんぱん)のホイッスルが鳴り、

2(ツー)-1(ワン)!」
とスコアがコールされる。

「やっぱりすごいですわよ!
 ムロさんの聖剣(せいけん)!」

「ありがとう!(りん)もナイスショット!」

 (りん)とボクは言いながら、パァン!とハイタッチを交わした。



 再び4人がアースの4(すみ)のスタンバイエリアにそれぞれ入ると、
ピー!と審判(しんぱん)のホイッスルが鳴らされる。

 と、
今度は脇名先輩(わきなせんぱい)が最初に動いた。

 ドビュルビュルーッ!とレベル5の巨大(きょだい)水球の魔法(まほう)を発射したのだ。

 水球は、脇名先輩(わきなせんぱい)の目の前にバリアのように()かぶ。

「くぅ……!」

 ボクはひとまず、合体(ジョイント)するために(りん)のほうへと走り出す。

 (りん)はパン!と、火球の魔法(まほう)を発射して絶のほうを牽制(けんせい)しつつ、
さらにパン!と上空に遅降弾(ラググレネードボンバー)を発射した。

「!」

 絶はスイスイと飛んで来た火球の魔法(まほう)回避(かいひ)しつつ、
上空をチラリと確認する。

 ボクと脇名先輩(わきなせんぱい)も上空を見た。

「(この感じは、脇名先輩(わきなせんぱい)の位置か……!?)」

「!」

 脇名先輩(わきなせんぱい)遅降弾(ラググレネードボンバー)(ねら)われていると気づいたらしく、
水球の後ろにそのまま居座らず、
水球ごと絶のほうへと移動し始めた。

 だがその動きは、ややゆっくりだ。

「(あの水球、そんなに素早く動かせないのか!)」

 そう見るや否や、ボクは(りん)のほうへ走るのをやめ、
ザッ!と絶のほうへと方向転換(てんかん)して走り出す。

「(絶が水球の後ろに(かく)れる前に間に合えば、
  ポイントが取れるかも!)」

 そうボクは思ったのだ。



 ちなみにミックスダブルスで、
このように合体(ジョイント)されなかった剣士(けんし)のことを
『放置された』と表現したり、
合体(ジョイント)しないでプレイすることを
『放置プレイ』と表現したりする。



 パボン!

 パボン!

 (りん)もボクと同じ考えらしく、絶への攻撃(こうげき)拍車(はくしゃ)をかけた。

「くっ……!」

 ビュッ!バシン!ビュッ!バシン!

 だが絶も、何とか(りん)の加速する火球を聖剣(せいけん)(たた)き落とす。

 そこにボクがダダダッ!と走り込んだ。

 絶が水球に(かく)れる前に間に合ったのである。

 しかも脇名先輩(わきなせんぱい)は自分の水球のせいで、
こちらへの射線がほぼ無い状態だ。

「(チャンス……!)」

 と、
ビュッ!と絶がボクの()み出そうとした足先を()るように、
しゃがみながら聖剣(せいけん)()った。

 だが、ボクが()み出そうとした最後の一歩はフェイントだ。

 先ほどのシングルスの、1ポイント目のプレイの再現である。

 ボクは再び、ダンッ!と両足でジャンプするように絶に飛びかかった。

 そこへ絶は、ギュルン!と先ほど聖剣(せいけん)()った勢いでそのまま体を回転させ、
ビュッ!と続けざまに聖剣(せいけん)()る。

 ガキィン!ボッキン!

「えっ!?」

 ボクと絶は、同時に口に出した。

 絶の聖剣(せいけん)の先っちょから3分の1あたり、
ボクの聖剣(せいけん)とぶつかった所から先が、折れ飛んでしまったのである。

 折れた先っちょの部分は、ヒュルヒュルヒュル……と風を切る音を(ひび)かせた後、
ザクッ!とボクと(りん)が居た側のベースライン付近に()()さり、
その直後にフワッと(けむり)のように消え去った。



 ピ……、ピー!と審判(しんぱん)の女子が(あわ)ててホイッスルを鳴らし、

「え、えーと……、この場合って……」
とキョロキョロする。

「ウォークオーバ~……。つまり~、棄権(きけん)よ~」

 下井先生が、アースの中にいるボク達に向けて声を()けた。

「ですわね……」

 (りん)もうなずく。



 剣魔(けんま)の試合中に剣士(けんし)聖剣(せいけん)が大きく折れた場合、
具体的には持ち手の部分を除いた長さの4分の1以上が折れた場合、
ルール上は競技続行不可能とされ、
聖剣(せいけん)が折れた側の選手は棄権(きけん)(あつか)いとなる。

 つまりこの場合、絶と脇名先輩(わきなせんぱい)棄権(きけん)となり、ボクと(りん)の勝利だ。



「ご、ごめん……!」

 ボクはハアハア息を切らせながら、すぐさま絶に謝る。

「いや……、大丈夫(だいじょうぶ)……。
 先っちょだけだから……。
 このぐらいなら……、そのまま夕方の部活もやれるよ……」

 絶もハアハア言いながら、左手と首を()ると、
シュン!と聖剣(せいけん)をなえて、

「でも、すごいよ!
 ボク、剣魔(けんま)中に聖剣(せいけん)が折れたのなんて初めてだもん!
 きっと、すっごく(かた)いんだね!
 ムロくんの聖剣(せいけん)!」
とボクの聖剣(せいけん)()でるように(さわ)ってきた。

「そ、そんなことないよ……」

 ボクは照れて頭をかき、

「(でも言われてみれば、プロ選手の剣魔(けんま)の試合なんか観てても、
  聖剣(せいけん)が折れてるところなんてほとんど見ないような……?)」
と思いながら、グリグリと(さわ)られている自分の半球状の聖剣(せいけん)を見つめた。