ボクと(りん)、絶と脇名先輩(わきなせんぱい)が、
それぞれアースの4(すみ)にあるスタンバイエリアに立つ。



 ミックスダブルスの場合は、
必ず剣士(けんし)魔法(まほう)使いが(たが)(ちが)いになるように立つルールだ。



 ピー!と審判(しんぱん)がホイッスルを鳴らした。

 試合スタートである。

 ボクはダダダ……!と(りん)の前方へ(なな)めに、
(りん)もボクの前方へ(なな)めに走り出した。

 同じく絶は脇名先輩(わきなせんぱい)の前方へ(なな)めに、
脇名先輩(わきなせんぱい)は絶の前方へ(なな)めに走っている。

 ペアと合体(ジョイント)するためだ。



 剣魔(けんま)ではルール上、ホイッスルの前にあらかじめ合体(ジョイント)するのは反則である。

 そのため、ホイッスルが鳴ると同時にペアのところへ走り、
合体(ジョイント)してもらってから攻撃(こうげき)に移るのがオーソドックスなやり方だ。

 そしてミックスダブルスでは、当然のことながら、
射程が短い剣士(けんし)が前に立ち、
射程が長い魔法(まほう)使いが後ろに立つのが普通(ふつう)である。

 この剣士(けんし)が前、魔法(まほう)使いが後ろというフォーメーションを、『正常位置』。

 あるいは『フロントスタイル』と呼ぶ。

 逆に魔法(まほう)使いが前、剣士(けんし)が後ろというフォーメーションは、『後背位置』。

 あるいは『バックスタイル』と呼ぶ。

 剣士(けんし)魔法(まほう)使いが横並びになるフォーメーションは、『双頭(そうとう)位置』。

 あるいは『ダブルヘッダー』と呼ぶ。

 これ以外にも、
剣士(けんし)が前気味だが魔法(まほう)使いと(なな)めの位置になるフォーメーションを、
松葉杖(まつばづえ)をついてケンケンしている様子になぞらえて『松葉位置』と呼んだり、
逆に魔法(まほう)使いが前気味で剣士(けんし)(なな)めの位置になるフォーメーションは、
『逆松葉』と呼んだりする。



 と、パン!と(りん)が絶へと走る脇名先輩(わきなせんぱい)へ火球の魔法(まほう)を発射した。

「ハッ!」

 脇名先輩(わきなせんぱい)は、それを片手側転で回避(かいひ)し、
すぐさまドピュッ!と(りん)へ水球の魔法(まほう)を発射する。

 (りん)もそれをゴロッ!と横転するようにして回避(かいひ)した。

 お(たが)いに合体(ジョイント)に向かうのを牽制(けんせい)した形だ。

 だが、どちらもきれいに回避(かいひ)したので、ほとんど影響(えいきょう)は見られない。

「絶くん!行くよ!」

 脇名先輩(わきなせんぱい)(さけ)びながら、バッ!と絶と交錯(こうさく)する。

 ブワワッ!と絶の聖剣(せいけん)が水を帯びた。

「ムロさん!ワタクシ達も行きますわよ!」

 (りん)もボクに(さけ)ぶと、ボクの聖剣(せいけん)に右手をかざしながら
走るボクとバッ!と交錯(こうさく)する。

 メラメラッ!とボクの聖剣(せいけん)が大きな(ほのお)を帯びた。

「!」

 絶と脇名先輩(わきなせんぱい)が、(おどろ)いたようにボクの聖剣(せいけん)を見る。

「あらま~……!」

 アースの外から見ていた下井先生も、(おどろ)いたように口に出した。

 パン!パン!と、(りん)がすかさず火球の魔法(まほう)脇名先輩(わきなせんぱい)のほうに連射した。

 ビュッ!バシン!

 ビュッ!バシン!

 それを絶が(さえぎ)るように移動して、水を帯びた聖剣(せいけん)(たた)き落とす。

 脇名先輩(わきなせんぱい)は後方へ下がり、絶と正常位置になると、
ドピュッ!とボクに向けて水球の魔法(まほう)を発射した。

 ビュッ!バシン!

 ボクも絶に負けじと聖剣(せいけん)で水球を(たた)き落とす。

 ボクは(りん)と松葉位置の状態から、
ダダダ……!と絶に目がけて走り出した。

 絶もボク目がけて走って来る。

 パン!パン!

 ドピュッ!ドピュッ!

 そこへ(りん)脇名先輩(わきなせんぱい)援護(えんご)射撃(しゃげき)してくる。

 ビュッ!バシン!ビュッ!バシン!

 ビュッ!バシン!ビュッ!バシン!

 ボクと絶は、ほぼ同時に聖剣(せいけん)()って、それを(たた)き落とす。

 と、
シュー……と絶の聖剣(せいけん)の水が消えてしまった。

 合体(ジョイント)していた脇名先輩(わきなせんぱい)魔力(まりょく)が使い切られたのである。

「くっ……」

 絶は険しい表情だ。

「(チャンス……!)」

 ボクは絶の上半身に向けて、ビュッ!と聖剣(せいけん)()き出す。

「!」

 絶はそれに反応して、バッ!と聖剣(せいけん)の腹を構えたガードの姿勢を取った。

 ボクの聖剣(せいけん)から、合体(ジョイント)した魔力(まりょく)()ち出す射聖(ショット)が行われると思ったのだ。

 だが、ボクのこの()きはフェイントだった。

 すかさずボクは、右腕(みぎうで)全体をひねるようにして、
聖剣(せいけん)を絶の下半身のほうへカクンと(かたむ)け、
バンッ!と射聖(ショット)する。

 ボッ!

「熱っ!」

 絶がたまらず(さけ)んで飛び()ね、
ボクの射聖(ショット)が命中した右太ももをプロテクターの上からパンパンと手ではたく。

 防具に当たったとはいえ、
威力(いりょく)の高い火属性の射聖(ショット)を受けたので当然の反応だ。



 実は、射聖(ショット)で発射される魔力(まりょく)というものは、
挿入(インサート)で込められて合体(ジョイント)した魔力(まりょく)に対して、
魔法(まほう)のレベルで言えば1、2段階ほど上の威力(いりょく)()ね上がるのである。



 ピー!と審判(しんぱん)がホイッスルを鳴らし、

1(ワン)-0(ゼロ)!」
とスコアがコールされる。

「やりましたわね!ナイスショットですわ!」

「うん!ありがとう!」

 (りん)とボクは言いながら、パァン!とハイタッチを交わす。

「(ボクの聖剣(せいけん)は短くて軽いから、
  動かすだけならかなり素早く(あつか)える……!
  でも、まさか全国レベルの選手にも通用するなんて……!)」

 ボクは内心、かなり興奮していた。



 4人がアースの先ほどとは左右を入れ()えたスタンバイエリアに
それぞれ入ると、
ピー!と再び審判(しんぱん)のホイッスルが鳴らされた。

 ダダダ……!とボクと(りん)、絶と脇名先輩(わきなせんぱい)は走り寄る。

 ブワワッ!

 メラメラッ!

 お(たが)い、合体(ジョイント)完了(かんりょう)だ。

 パン!パン!とすかさず(りん)が火球の魔法(まほう)を絶に連射する。

 と、絶はそれを(たた)き落とさず、スイスイと回避(かいひ)した。

 合体(ジョイント)した魔力(まりょく)を温存しようというわけである。

「!」

 それを見ると(りん)は、ザザッ!と走る方向を切り返した。

「……!」

 その動きを見た脇名先輩(わきなせんぱい)は、走る速度を上げた。

 (りん)は、絶が回避(かいひ)できないよう、
絶と脇名先輩(わきなせんぱい)が一直線に並ぶ位置に移動しようとしており、
脇名先輩(わきなせんぱい)のほうは、そうさせまいと逃げているのだ。

 一方、ボクと絶のほうは、
間もなく絶の聖剣(せいけん)の間合いに入るという位置まで走り寄っている。

 と、

「ムロさん!」
(りん)(さけ)ぶと同時に、パボン!と音がした。

「!」

 ボクは(りん)の意図を察して、すかさずその場にバッ!としゃがみ()む。

 ビュッ!バシン!

 絶がボクの背後からすごいスピードで飛んで来た火球を、
難なく(たた)き落とした。

 (りん)がボクの体と絶の体が重なったタイミングで、
つまりボクをブラインドにして加速する火球を発射したのだ。

 だが、絶はそれを読んでいたのか、
聖剣(せいけん)で防がれてしまったわけである。

「(さすが、全国2位……!)」

 ボクは思いながら、立ち上がりつつ聖剣(せいけん)をビュッ!と絶に向かって()き出す。

 フッ!

 絶が一瞬(いっしゅん)でボクの聖剣(せいけん)の突()き出された位置から右に移動すると、
ビュッ!と聖剣(せいけん)()り下ろした。

 ドビュッ!

 ビシャッ!

「うぐっ!?」

 ザッ!

 ボクは、すごいスピードで飛んで来た水球を右脚(みぎあし)に食らって、
たまらずヒザをアースについた。

 ピー!と審判(しんぱん)がホイッスルを鳴らし、

1-1(ワンオール)!」
とスコアがコールされる。

「ナイスショットー!」

「ありがとうございます!」

 脇名先輩(わきなせんぱい)と絶が言いながら、パァン!とハイタッチを交わした。

「ドンマイですわ!」

「ごめん!」

 (りん)とボクも言葉を交わす。

「(まるで絶が消えたかのようだった……!
  (おそ)ろしいフットワークだ……!)」

 ボクは、内心で舌を巻いていた。