早速、(りん)が前方へジグザグにステップしながら距離(きょり)()めつつ、
パン!パン!と火球の魔法(まほう)を2連射する。

 脇名先輩(わきなせんぱい)は、

「ハッ!」
と片手側転で飛んで来た火球を()け、すぐさま水球の魔法(まほう)をドピュッ!と発射した。

 (りん)のほうは飛び()み前転の要領で、
バッ!とくぐるように飛んで来た水球を()け、さらに距離(きょり)()める。



 どちらも基本動作ではやらない動きだが、これまた有効なテクニックである。

 ちなみに、アースは土属性の魔法(まほう)も使えるように土と砂が混じった地面だが、
剣魔(けんま)では頭にもヘルメット状のプロテクターを(かぶ)るので、
顔や(かみ)の毛が(よご)れる心配はあまり無い。



 と、再び(りん)がパボン!と火属性魔法(まほう)を発射する。

 ボッ!

「キャッ!?」

 脇名先輩(わきなせんぱい)のプロテクターを付けた左の太ももに、
すごいスピードでヒットした。

 ピー!と審判(しんぱん)のホイッスルが鳴り、

1(ワン)-0(ゼロ)!」
とスコアがコールされる。



 このように、魔法(まほう)使いの場合は魔法(まほう)による攻撃(こうげき)が、
剣士(けんし)の場合は聖剣(せいけん)による攻撃(こうげき)が、
相手の体のどこかにヒットすると1ポイントとなる。

 ちなみにウチの部では、アースが隣接(りんせつ)していて分かりにくいということで、
アースごとに微妙(びみょう)に音の高さの(ちが)うホイッスルを使用するようにしている。

 だが、自分が試合をしていると
『今の攻撃(こうげき)にホイッスルが鳴った』
というのは意外と判別できるもので、
同じ音のホイッスルが使われていたとしても、
そんなに混乱が起きることは無い。



 ボクと絶は、(りん)のプレイに、

「ナイスショットー!」
と声を上げ、

「いいぞ!いいぞ!本能!
 行け!行け!本能!
 もう1本!」
とパンパンと手拍子(てびょうし)でリズムを取りながら応援(おうえん)する。



 (りん)は火属性が得意だそうだが、脇名先輩(わきなせんぱい)は水属性が得意なので、
(たが)い相性は悪い。

 打ち消し合ってしまう関係だからである。

 だが、今の(りん)攻撃(こうげき)は、
先に左手で発射した火球の魔法(まほう)に、
後ろからビンタする感じで右手を近づけて
もう1つの爆発(ばくはつ)魔法(まほう)を重ねるように()つことで、
先に発射した火球を加速させてぶつけたのだ。

 プロ選手の剣魔(けんま)の試合でもたまに見られるテクニックの1つだが、
爆発(ばくはつ)の位置をうまくコントロールしないと
(ねら)った方向に真っ直ぐ飛ばないので、
かなりの練習を必要とするはずである。

 いわゆる高等テクニックというやつだ。

 この攻撃(こうげき)方法は、水属性ではちょっとマネできない。



 (りん)脇名先輩(わきなせんぱい)が先ほどとは逆の対角にあるスタンバイエリアに入ると、
ピー!と再び審判(しんぱん)のホイッスルが鳴らされた。

 (りん)がまたジグザグに走り出す。

 と、
ドビュルビュルーッ!と今度は脇名先輩(わきなせんぱい)のほうが先手を取った。

「!」

 (りん)が、ズザーッ!と()ん張って立ち止まる。

「あっ!?」

 ボクと絶も、思わず口に出した。

 レベル4か5ぐらいはありそうな、大きな水球の魔法(まほう)が発射されたのだ。

 その水球をバリアのように自分の前にキープしつつ、
そのまま脇名先輩(わきなせんぱい)(りん)のほうへと小走りに進んで行く。

「(どうやって対処するんだろう!?)」

 ボクはゴックンとツバを飲み()む。

「……」

 だがなんと、(りん)は棒立ちだ。

「!」

 脇名先輩(わきなせんぱい)は、そのまま水球を(りん)へとぶつける。

 ザッパーン!

 (りん)は、何とか(たお)れないように前かがみになって()ん張りはしたものの、
その姿勢のままズズズ……と()し流されて、全身水浸(みずびた)しになった。

 ピー!と審判(しんぱん)のホイッスルが鳴り、

1-1(ワンオール)!」
とスコアがコールされる。



 相手の大技に()えて何もせず、
一方的に魔力(まりょく)消耗(しょうもう)させて、自分は魔力(まりょく)を温存する。

 剣魔(けんま)では、どんな大技を受けても1ポイントずつしか失点しないので、
こういった選択(せんたく)もまた戦略の1つとなるわけだ。



「いいぞ!いいぞ!脇名(わきな)
 行け!行け!脇名(わきな)
 もう1本!」

 ボクと絶が、パンパンと手拍子(てびょうし)でリズムを取りながら応援(おうえん)する。

 だが、(りん)()えて何もしなかったので、
脇名先輩(わきなせんぱい)は次の戦略を練っているのか、

「うーん……」
とうなりながら難しい表情だ。



 アースの最初にいた対角のスタンバイエリアに再び2人が入ると、
ピー!と審判(しんぱん)のホイッスルが鳴らされる。

 と、開始直後に(りん)がパン!パン!と上空へ向けて火球の魔法(まほう)を2連射した。

「(!
  あれはまさか……!?)」

 ボクは火球の行方を見上げつつ思う。

 脇名先輩(わきなせんぱい)一瞬(いっしゅん)上空へと顔を向けたが、
すぐに前に走り出し、ドピュッ!ドピュッ!と水球の魔法(まほう)(りん)に2連射した。

 (りん)はズザッ!ズザッ!と
ジグザグに動いて水球を()ける。



 ()けたあとにワンテンポ置いて、
パン!パン!と(りん)脇名先輩(わきなせんぱい)に目がけて火球の魔法(まほう)を2連射した。

 脇名先輩(わきなせんぱい)のほうも、ドピュッ!ドピュッ!と水球を2連射して、
なんと(りん)の火球にぶつける。

 ジュッ!ジュッ!と火球と水球が相殺された。

 脇名先輩(わきなせんぱい)は、そのまま(りん)への最短ルートへ1歩()み出す。

 そこへ、ボッ!ボッ!と火球が落下してきた。

「キャア!?」

 脇名先輩(わきなせんぱい)のプロテクターを付けた右肩(みぎかた)の辺りに1発が命中する。

 最初に(りん)が上空へ発射した火球が、このタイミングで落下してきたのだ。

「(院能エインの得意技、遅降弾(ラググレネードボンバー)……!
  まさか実戦に取り入れるなんて……!)」

 ボクは思わずパンパン!と大きめの拍手(はくしゅ)を送り、

「ナイスショットー!」
と絶と共に声を上げた。



 相手の動きばかりか、屋外なので風まで読まないといけないはずなのに、
タイミングも位置もドンピシャである。

 しかも同時に前方からも攻撃(こうげき)していた。

 前方と上方からの同時攻撃(こうげき)では、()けるのも防ぐのも難しいだろう。



 ピー!と審判(しんぱん)のホイッスルが鳴り、

2(ツー)-1(ワン)!」
とスコアがコールされた。

「いいぞ!いいぞ!本能!
 行け!行け!本能!
 もう1本!」

 ボクと絶が、パンパンと手拍子(てびょうし)でリズムを取りながら応援(おうえん)する。



 (りん)脇名先輩(わきなせんぱい)がアースの対角にあるスタンバイエリアに入ると、
ピー!と再び審判(しんぱん)のホイッスルが鳴らされた。

 パン!とすぐさま(りん)が上空に火球の魔法(まほう)を発射する。

「また!?」

 脇名先輩(わきなせんぱい)が思わずと言った感じで口に出し、立ち止まった。

 脇名先輩(わきなせんぱい)は、すぐさま上空を確認しつつ、
風上になる(りん)から見て左手側に動こうとする。

 パボン!
とそこに(りん)が加速する火球を発射した。

 ボッ!

「キャア!?」

 脇名先輩(わきなせんぱい)()み出した、右足のクツの先っちょあたりに命中する。

「(ものすごいコントロールだ……!)」

 ボクは内心かなり(おどろ)いた。

 ピー!と審判(しんぱん)のホイッスルが鳴り、

「ゲームセット!ウォンバイ本能!3(スリー)-1(ワン)!」
とコールされる。

 (りん)の勝利だ。



 剣魔(けんま)の試合では、3ポイント先取で1ゲーム取得となる。

 そして、中学生の多くの大会では、
魔法(まほう)シングルスでは1ゲーム、
剣士(けんし)シングルスとダブルスでは2ゲーム先取で勝利だ。

 また、剣士(けんし)シングルスとダブルスでは、1-1でゲーム数が並ぶと、
タイブレークをするルールを採用している大会が多い。

 タイブレークになった場合は、4ポイントを先取したほうが勝利だ。

 なおタイブレークでは、3-3でポイントが並ぶと、
テニスや卓球(たっきゅう)と同じくデュースとなって、
2ポイント差をつけるまでゲームが続くことになる。



「右足、大丈夫ですの?」

 再びアースの中央の『*』マークの上で脇名先輩(わきなせんぱい)握手(あくしゅ)をしながら、
(りん)脇名先輩(わきなせんぱい)の右足を見つめて心配そうに(たず)ねる。

「クツの先っちょだったから、へーきへーき。
 いやー、しっかしさすがに強いわねー……」

 脇名先輩(わきなせんぱい)は、とても(くや)しそうだ。

「チュー……。
 先輩(せんぱい)もまだまだ()びしろございましてよ」

 握手(あくしゅ)を終えた(りん)が、魔力(まりょく)ポーションをストローで吸うと言った。

「ゴックン。
 本当?
 アドバイスあったらちょうだいよ」

 脇名先輩(わきなせんぱい)魔力(まりょく)ポーションを1口飲むと(たず)ねる。

「あのレベル5の水球の後、
 ワタクシ側のアースがかなりグチョグチョに()れましたでしょう?
 あれをもっと利用すればいいんですの」

 (りん)が、()れた自分側のアースを()り返って指差した。

「あー……。
 それねー。分かってはいるんだけどねー」

 脇名先輩(わきなせんぱい)は、コクコクうなずきながら(しぶ)い表情をする。



 アースは水はけが良いとは言え、()れれば少しばかり(すべ)りやすくなるのだ。



「動きにくくなるのはもちろんですが、ワタクシだって女ですもの。
 (どろ)だらけになるのは(いや)ですからね。ホホホ……」

 (りん)が笑いながら、アースの審判(しんぱん)と交代する。

「そうだね。フフフ……」

 脇名先輩(わきなせんぱい)も笑いながら、アースから出て行く。



 次は、ボクと絶による剣士(けんし)シングルスだ。

 2人でアースに入ると、中央の『*』マークの辺りで握手(あくしゅ)を交わす。

「いい試合をしよう」

 絶が言うと、

「ハハハ……。お手(やわ)らかに……」

 ボクも言う。

「ムロさん。お兄様。
 2人共、頑張(がんば)ってくださいませ」

 審判(しんぱん)(りん)も言った。