放課後。
「星七!」
靴を履き替えて玄関を出ると、隣のクラスの星舞が、駆け寄って来た。
星舞とは、高二の夏に付き合い始めた。告白は星舞からだった。
告白されるのも、付き合うのも初めてだったけれど、それは星舞も同じだったらしい。それもそのはず、付き合いたての頃は、お互い目すら合わせられないほどぎこちなかった。
でも、告白された当時、私は星舞を好きではなかった。小学校も中学校も違う、高校で同じ学校にはなったものの、同じクラスになったこともない、接点がほとんどない人だったから。
関わりがあったのは委員会くらいだ。去年、星舞と私は同じ環境委員だった。
「入学式で一目惚れしちゃって。そしたら去年の6月頃、たまたま散歩中に星七を見かけてさ」
告白の時、星舞は私を好きになったきっかけを話してくれた。
「話しかけようか迷ったけど、やめたんだ。星七、泣いてたから」
ああ、見られていた。一年前……。心あたりがあった。おそらくあの時だろう。私が、何年かぶりに泣いてしまったあの日。生まれて初めて孤独を感じたあの日。
彼は続ける。
「その瞬間、俺さ、星七を守ってあげたいって思った」
───好きでもない人に告白された。それなのに、「お願いします」と言ったのは、真っ直ぐな気持ちを伝えてくれた君に守ってもらいたいって思えたから。でも、これは私の中だけの秘密だ。
二人の記念日は、私が恋を知った日だった。
私たちは隣に並んで歩き出した。でも、校門を出たあたりで知らない学校の男子が星七を呼び止めた。
「ちょっと待ってて。すぐ戻るね」と言い、他校の男子の後ろに着いて行った。





でも、忘れてはいけない。私には余命があることを。
余命のことを星舞にはまだ言えていない。星舞が悲しむ顔を見たくなかった。
星舞に言い出せないまま、四ヶ月の月日が経ったある日、私はいきなり学校の廊下で倒れこんでしまった。急に心臓を刃物で刺されたような衝撃だった。床に両手と両膝を着く体制が、一番マシな体制だった。
お願い。誰か来て。助けて。苦しい。
でも、星舞だけには来てほしくなかった。
今ここで星舞にこの状況を見られたら、バレてしまう。病気だと知られてしまう。傷つけてしまう。
そんなのは嫌だ。傷つけたくない。
──ねえ、なんで君がここにいるの?目を開けると、そこには星舞が立っていた。
「星七ちゃん!?どこか痛いの!?」
「来ないで!!!」
気付いたら叫んでいた。
そんな私の訴えにも構わず、星舞は私を保健室に連れて行った。