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◯領都クローム 地下牢

和一の覚醒と同時刻

松明で照らされた廊下をツカツカと進む影(ラナイ・A=クローム)

レクシア「……」

何かを感じ取り、石壁に凭れるレクシアが目を開ける

突き当りの大扉まで進み、扉の重さをものともせず盛大に押し開ける

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廊下から松明の光が差し込む レクシアは微かに目を背ける

ラナイ「あらあら? 酷いですわねぇ。“魔王の勇者”たるものがなんたる有り様です?」

開け放った扉から騎士甲冑を身に纏う銀髪の女性が供回りを引き連れ現れる

レクシアは眉をひそめて誰何する

レクシア「誰?」

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ラナイはわざとらしいお辞儀をする

ラナイ「これはこれは、お初にお目にかかります。ワタクシ、ここ領都クロームを預かるクローム家が長子にして領都防衛責任者、ラナイ・A=クロームと申します。以後お見知りおきを」

ラナイが余裕に満ちた笑みをレクシアへ向ける

レクシアは小首を傾げて質問する

レクシア「……領都のお偉いさんが、何か用?」

ラナイ「むむ? 以外にお元気ですわね。それにご挨拶ですわ」

ラナイがレクシアの牢へ近付く

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ずいと牢に顔を近付けるラナイ

ラナイ「貴女にとっての吉報をお持ちしたと言うのに」

レクシア「……」

言葉に反応し、レクシアがゆっくり顔を上げた

ラナイが不敵に笑う

ラナイ「お喜びくださいな。貴女の処刑が正式に決定しましたよ、暴君レクシア」

レクシアは小さく笑いながら言う

レクシア「それは、いいね」

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ラナイは不満そうに頬を膨らませる

ラナイ「なんですかそれは! もっと怯えたり震えたりするものだと思いましたのに! ラナイぷんぷんですわ!」

ひとしきり不満を口にした後、ラナイはレクシアへと向き直る

ラナイ「でもまぁ、手ずから貴女を誅する事が出来るので溜飲は幾らか下がりはしますが」

レクシアが首を傾げる

レクシア「それは、つまり?」

ラナイが再び胸を張る

ラナイ「お喜びなさいませ! 貴女の処刑はこのワタクシ手ずから執り行います! 形式は結論ありきの決闘裁判! 貴女がた魔人族に殺された同胞の敵、領民の敵を討たせて頂く!」

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声高らかに告げるラナイと対照的に、レクシアが深く溜め息をつく

レクシア「……はぁあ」

ラナイ「うん? なんですかその溜め息は?」

レクシア「いや、純粋に愚かだな、と」

レクシアの謂いにラナイが小さく怒りを浮かべる レクシアは続ける

ラナイ「なんだと?」

レクシア「オレは罪人として裁かれに来たんだ。その過程であの村を救えるのは僥倖だと思って、敢えてお前達に捕まった。けれど」

レクシアが鎖を響かせ立ち上がる

怯え、警戒するラナイの供回りとじっとレクシアを睨むラナイ

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レクシアが牢屋越しにラナイを見下ろし告げる

レクシア「決闘であるならその限りじゃない。裁きではなく、闘いの場で雌雄を決すというのなら、そこで遅れを取るのをオレは許さない」

ラナイが嫌悪を隠さずに言う

ラナイ「何が言いたい?」

レクシア「せいぜい、後の少ない残り時間を有意義に使え、ということだよ」

ラナイ「……!」

レクシアの冷めた目付きにラナイが歯を剥く

ラナイが目の前の鉄柵を掴んで言う

ラナイ「残念だがそうはなりませんし、貴女こそ後悔の時間など無い! 処刑の時間は今日! 今夜! 我が愛すべき領都クロームの大闘技場にて執り行われます! せいぜい遺書でも認めておきなさいな!」

怒声と敵意を向けるラナイ

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それでもレクシアは冷たく目を細め、淡々と告げる

レクシア「負けることは無いぜ? だってオレ、勇者だから」 


◯場面転換 領都 夜 満員の闘技場

熱狂の観客達が歓声を上げる 足踏みと怒号で空気が揺れる

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観客達は口々に叫ぶ

観客達「殺せ! 倒せ! 死刑! 死刑!」

闘技場の真ん中で手枷と鎖を付けたまま、レクシアはぐるりと辺りを見回す

レクシア「随分と集まったものだ。何が楽しいのやら」

ラナイ「それは勿論、正義が勝つ瞬間を目撃しに来ているのですわ!」

レクシアの真正面に立つ、全身武装のラナイが言う

ラナイは装備している黄金の槍をレクシアに差し向けて続ける

ラナイ「魔人族に親しい者を殺された人々は多いですからねぇ。恨み骨髄、というやつですよ」

レクシアが喋るラナイを一瞥する

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レクシアはラナイの全身から魔力が漲っているのを確認する

レクシア(さっきより魔力が充実している。しかもイヤな感じの魔力だ……あの装備、相当魔人を殺してる)

レクシアは茶化すように言う

レクシア「良いおべべじゃない。パパの御下がりでも貰った?」

ラナイはくるりと槍を翻して応える

ラナイ「貴女が殺したワタクシの婚約者のものですが……それは今は関係無きこと」

ラナイは懐から一枚の紙片を取り出し宣言する

ラナイ「聞け! 我が愛すべき領都クロームの民たちよ! 先程、帝国審問協会より正式に発行された略式裁判の結果を伝える!」

ラナイの言葉に観客が声を潜める

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ラナイは続ける

ラナイ「被告、魔人族の娘レクシア! 多くの帝国臣民、そして同胞である魔人族さえ数多手を掛けたその罪は計り知れない! よってここに、帝国審問協会より認められた代理執行者として、被告に死刑を言い渡す! 処刑の方法は決闘による処断! これは速やかに行われるものとする!」

ラナイの宣言に観衆が叫ぶ

ラナイは紙片を懐に仕舞いながら目の前のレクシアに言う

ラナイ「ああ、異議申し立ては受け付けてませんので悪しからず。遺言があれば、短めでお願いしますね?」

敵意を込め、不敵に笑うラナイ

レクシアは片目を眇めて言う

レクシア「じゃあ一言だけ」

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レクシアは手枷の鎖を鳴らして、ゆっくりと手を上げる

レクシア「──さっさと来い」

レクシアは右掌でラナイを煽る

ラナイはすぐに笑みを消し、凄絶な表情で兜の面を下ろす

ラナイ「──では、お望み通り殺して差し上げる!」

ラナイは金色の大盾を前面に、黄金の槍を構えて身体の溜めを作る

次の瞬間には地面を抉り、ラナイはレクシアへ突撃する

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レクシア「!」

レクシアが身を翻す

すかさずラナイは転身し、レクシア目掛けて突進を続ける

レクシアは手枷を使って槍の切っ先を受け流す

レクシアが距離を取るためのバックステップを刻むと同時に、三度ラナイが突撃する

ラナイ「まだまだァ!」

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レクシアはラナイの攻撃をいなしつつ考える

レクシア(魔力による推進、存外に速いな。あの甲冑が彼女の力を補正してるのは勿論だが、問題は盾と槍か)

レクシアの思考を縫うように放たれるラナイの連撃

レクシアは手枷を盾に受け止めるが、数撃を喰らい頬や露出した脇腹に血が滲む

割れんばかりの歓声

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レクシアは頬の血を拭いながら思考を深める

レクシア(魔人特攻と言うべきか、やはり喰らうべきではないな。かすり傷でも毒を食らったように痛む。その上こちらの死角や防御の隙間を掻い潜る技量……中々に遣る)

ラナイは自慢気に語る

ラナイ「どうですか? 良く効くでしょう? この槍と大盾こそは代々クローム家に伝わる至宝、その名も魔人殺しの槍に魔人砕きの大盾!」

ラナイは武器を高々掲げ続ける

ラナイ「例えどんな存在であれ、魔人ならば触れただけで命を侵す、勇者セラフィの時代より受け継がれた伝説の武具! 貴女に勝てる道理などありません!」

ラナイは槍の穂先をレクシアに向ける レクシアの頬と脇腹は毒に侵されたように黒ずんでいる

ラナイ「さぁ! 跪きなさい! 許しを乞いなさい! 泣き喚きなさい!! それが貴女に許された、最後の贖罪だ!」

ラナイの謂いにレクシアが眉をひそめる

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◯レクシアのフラッシュバック

燃え落ちる村を高台から見下ろす二つの影

お互いにボロボロの小さい手を握り合う

◯フラッシュバック終了

レクシアは深く目を閉じ、ぽつりと呟く

レクシア「……それも良いかもね」

そして決然と両目を開いて言う

レクシア「だが、闘いの場で負けるわけにはいかない」

ラナイを睨みつけるレクシアが告げる

レクシア「御託を並べる前に、さっさとオレを殺してみせろよ」

それを受け止めるラナイ

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ラナイ「では望み通りに……!」

ラナイが身体を沈めて溜めを作る

溜めを解き放ち、蛇のように蛇行する形でフェイントを掛けながらレクシアへ接近する

レクシアは動かない ラナイは思考する

ラナイ(カウンター狙いか? だがそれより早く、この槍は命に届く!)

意を決しレクシアの懐へ飛び込むラナイ

鮮血を散らして黄金の槍がレクシアの腹を貫く

レクシア「ごふっ」

レクシアが血を吐く

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ラナイの兜に血がつく ラナイは確信に奥歯を噛んで言う

ラナイ「終わりだ……! 地獄へ落ちろ!」

言い終えた瞬間、ラナイの拍動が一際大きくなる

ラナイ「ッ!!」

ラナイが地面に崩れ落ち動かなくなる

ラナイ「あ……が……!」

兜の奥で目を見開き、呼吸も絶え絶えのラナイ

闘技場の歓声は徐々に鳴りを潜め、戸惑いの囁やきが場を占める

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ラナイが辛うじて顔だけ上げてレクシアを睨む

ラナイ「な、にを、し、っあああああぁ!」

叫び身悶えるラナイを見下ろしてレクシアは言う

レクシア「反転の魔法だ。お前達人間が、オレ達魔人に対して構築した特攻をそっくりお前に返しただけ」

口内の血を吐き捨ててレクシアが言う

レクシア「魔族にとっての毒物を確かめ、中和し、人間用のそれに再構築する。中々楽しい作業だったぞ? 只の人間なら発狂しているだろう代物だからな。おかげで程よく、無様な痴態が見れた」

レクシアは腹部の槍に手を掛け、引き抜く しかし傷はみるみる塞がる レクシアは続ける

レクシア「ああ、ついでに傷も返しておいた。流石に貫かれるとヤバそうだったからな、無傷とはいかないが大半はそっちに流れた筈だ」

ラナイの鎧の隙間から血が溢れる 悲鳴が木霊する闘技場

《page 20》

レクシアが槍を地面に投げ捨てラナイへ告げる

レクシア「さて、もう死ぬだろうがまだやるか?」

ラナイは辛うじて上半身を起こしレクシアへ叫ぶ

ラナイ「馬鹿な……! 馬鹿な! 触媒も無しに、魔法など……! いや、そもそも! その、手枷は、魔法封じの枷だ! いかな触媒があろうと、うぅ! 魔力を霧散させるから……魔法、は、使えない、筈……! どう、して!」

ラナイの詰問にレクシアは不思議そうに答える

レクシア「可笑しな事を聞くな? 霧散するより多くの魔力を込めればいいだけだろ? 触媒無しの魔法は……まぁセンスだ」

レクシアの答えにラナイは信じられないと言った目を向ける

ラナイ(馬鹿な! 大型の魔物さえ数時間で衰弱させる特注の魔法封じだぞ!? それをもう、一週間は付けている筈なのに!)

ラナイ「化け、物め……!」

ラナイの侮蔑にレクシアは小さく笑う

レクシア「ははは、良く言われる」

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レクシアが徐ろに右足を振りかぶる

レクシア「だが呼ぶならきちんと──」


溜めた右足をラナイへ放ち、ラナイの身体は一瞬で闘技場の壁に衝撃と共にめり込む

レクシアは続ける

レクシア「──勇者(バケモノ)と呼べよ」

レクシアの行動で闘技場は静寂に包まれる 集まった観客達に現れる恐れや困惑

レクシアはそのまま踵を返して闘技場を去ろうとする

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レクシア(──オレはまだ死ねないんだね、レジーナ)

俯きながら砂地を歩き始めるレクシア

次の瞬間、石壁を砕く轟音が闘技場を包む

レクシア「!!」

レクシアが振り返る 同時にレクシアの視線の先に落ちる人影

立ち上る土煙 レクシアが目を凝らす

レクシア「……なんだ?」

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土煙からただならぬ強大な気配をレクシアは感じる

レクシア「ッ!!」

レクシアが全力で身構える 土煙からは和一の声

和一「いてて……バリアが無かったら死んでたな」

土煙からは少年の声 レクシアは身構えたまま問い掛ける

レクシア「おい」

和一「うん?」

一陣の風が土煙を払う

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上体を起こした和一とレクシアの目が合う レクシアは自分の警戒を悟られないように誰何する

レクシア「何者だ、お前は?」

和一「……何者、ねぇ」

和一はレクシアを一瞥して、立ち上がり正対する

バチバチと火花を散らして和一は言う

和一「勇者だけど、貴女は?」

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和一の答えに、自身の魔力を漲らせるレクシアが言う

レクシア「勇者、だが?」

告げて、レクシアは盛大に笑みを浮かべる

次の瞬間、手枷を力任せに砕きレクシアが和一に殴りかかる

衝撃で巻き起こる土煙

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バチリと火花が散り、和一が土煙の外へ着地する

和一「いきなりは酷くない?」

レクシアが土煙の中から告げる

レクシア「そうでもしなければ勝てない相手だろ、お前は。故に──“砂よ”」

レクシアが地面に手を置いて一言告げる

闘技場の砂がふつふつと震え、唐突に大波のように立ち上がる

がばりと和一へ襲い掛かる

和一「!」

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怒涛となる砂が闘技場の外壁まで押し破る

◯場面転換 賑わう夜の領都 目抜き通り

そのまま街中へ流れ込む いきなりの出来事に唖然とする街の人々

レクシアが砂の大波に乗りながら街中を疾駆する 見上げる視線の先には屋根上を走りながら逃げる和一

和一が大声で問う

和一「どうして闘うんです! 貴女がレクシアさんでしょ? 助けに来ました!」

レクシアが答える

レクシア「その必要は無いし、そもそもお前には呪いが掛かってる。対象二人を同時に呪う最上位呪詛魔法──オレかお前が死なないと両方死ぬ呪いだ。だから闘う必要は無いが、どちらかは死なないとな」

和一「ああ、そういう」

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和一の合点がいったところでレクシアが砂の力を借りて跳躍

和一の真上に躍り出て、手に持った鎖を振り回す

和一(さっきの手枷の……)

和一が思考すると同時に、鞭のように飛来する鎖の連撃

バックステップで躱す和一

抉り飛ぶ民家の屋根 和一は感嘆する

和一「うわ、すご!」

レクシアが応える

レクシア「余裕ぶるな! シィ!」

レクシアが鎖を操作して蛇のように和一を追尾させる

《page 29》

顔面に迫る鎖を和一は紙一重で避ける

和一「うぉ!」

すかさずレクシアが魔法の詠唱

レクシア「──“飛礫よ”」

レクシアの周囲を、先程抉った屋根の破片が漂う

淡い光を放つそれにレクシアが命令する

レクシア「──“行け”!」

散弾のように発射される破片達 和一を囲うよう飛来する

レクシア(当たった!)

レクシアが確信する 

応えるように和一が呟く

和一「甘い……!」

《page 30》

黄色い雷が走り、和一の身体は高速でレクシアの眼前に移動する

レクシアが瞠目する

レクシア「なっ……!」

和一が振りかぶった右足をレクシアに振り抜く

衝撃 轟音と共に吹き飛ぶレクシア

蹴り飛ばされたレクシアの衝撃で地面と近くの店先が崩れる 巻き込まれた住民はいない

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ぱらぱらと塵が降り音を立てる 和一が屋根から降りて言う

和一「さっきの砂津波のおかげで人の避難はスムーズだったみたいだね。君は狙って砂を動かしてたのかな?」

レクシア「……言うなよ、恥ずかしいだろ」

レクシアが言いながら立ち上がる 

地面に降りた和一と相対する 両手には鈍く光る鉄剣

レクシアの足元にはこの世界の言葉で「アイアンズ武器商店」と書かれた看板が転がる

《page 32》

レクシアが身体の稼働を確認するように肩を回す

レクシア「無辜の民草を傷付けるほど、下衆でも非道でもない。そんなのは、勇者のやることじゃない」

和一「──ああ、確かに」

和一が微笑んで返す

レクシアは和一を見つめて言う

レクシア「分かったなら、改めて名乗ろうか」

レクシアは右手の剣を小さく振り抜く

見えない剣撃 ばつりと、和一の身体を袈裟に切り裂く

《page 33》

そのまま和一の背後の建物をも切り裂く

和一「ッ!!」

ナビゲーター『肉体の損傷を確認 攻撃手段 不明』

和一が瞠目し、機械音声が警告を発する 身体から血を流しながら後ずさる 後ろでは建物が崩れる音

レクシアが両手の剣を構えて告げる

レクシア「──オレはレクシア、人間の勇者を殺すモノ、“魔王の勇者”と呼ばれた女……故に聞こう。果たしてお前は何者だ?」

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黄色い雷が周囲に散る 問われた和一が体勢を立て直しながら応える

和一「──ぼくの名前は御嶽和一……遥か彼方の世界を救った、“現代勇者”……その一人だよ」