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◯夜 村外の野営地

松明に照らされる傷付いた人々 看病する兵士や軽傷の村人が右往左往している

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その合間を縫うように進む黒い影、ヴェラ

ヴェラは誰にも気付かれずに進む

ヴェラ「✕✕✕✕✕✕✕……!」

人の言葉では無い何かを呟きテントへと向かう

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◯場面転換 野営地中央のテントの中

ヤクートが驚きながら言う

ヤクート「で、では、その魔人族の娘を受け入れたのですか!? この村で!?」

村長が申し訳なさそうに頷く

村長「はい……せめて人足の足しにと思って……まったく、申開きの次第もなく……」

アニス「こんなヤツに謝んなくていいっつーの!」

アニスが豪快に告げる

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アニス「行き倒れた女の子を助けただけだっての! まぁ? カッコいいし美人だし超優しいし超力持ちだから色々助かったけど? それが何かぁあ!?」

アニスがむかつく顔でヤクートに迫る カイトは冷静に補足

カイト「いやね、アニス? かなり悪いのこっちだからね? 魔人族の人を匿うって村そのものが取り潰されたりとかするって言うし……」

アニス「え? そ、そうなの?」

アニスが素直に驚く ヤクートは静かに頭を抱える

ヤクート「やばいな……うんやばい……見なかった事にしたい……」

和一がヤクートの肩を叩きながら現実を突きつける

和一「残念これが現実ですよ?」

ヤクート「わーってらいチクショウ!」

ヤクートやけくそになる

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カイトとアニスを置いて、ヤクートが村長に続ける

ヤクート「ええっと、あ、そうそう。では何故彼女は領都へ? 話を聞く限り、人足を担える程度には打ち解けていたのでしょ?」

村長は言い淀みながら答える

村長「……彼女を村に匿ってから二年して、“魔人族の残党”の噂を街で聞いたという者が居まして……」

村長は噂を持ち帰った男をフラッシュバックする

村長「どうやら、魔人族の残党を捕まえたら税が免除されるらしく……丁度その頃、領都では税を上げるという御触れもあったらしくて……それで、彼女を……」

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割って入るアニス

アニス「ほらな! 罪だろ!? まごうことなき罪だろ!? チンコロだチンコロ!」

制止するヤクート

ヤクート「何処で覚えたその言葉! うら若い女子が使うんじゃありません!」

和一がカイトに話し掛ける

和一「お姉さんめちゃくちゃ必死だね。チンコロ言ってるし」

カイト「流石にチンコロはやめさせますすみませんすみません!!」

カイトが平謝りする

※チンコロ=密告

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和一は手を振ってそれを止めさせる

和一「いやいや、それは良いよ。いや良くはないけど、それよりさ」

和一がカイトの隣に立つ テントの中はかなり騒がしくなる

和一「君らはどうしてその彼女を庇ったの? 敵なんでしょ?」

何気ない問い掛けに、カイトは和一を振り仰ぎながら答える

カイト「……それは当たり前です。困った人がいたら助けるものですから」

見上げるカイトの目は決然としている

和一は嬉しそうに目を細める

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カイトは続ける

カイト「死んだ両親との約束なので……まぁ、アニスはその、ちょっとこう、ネジが、ですね?」

和一「うんうん。あーね」

痛いところに思い至って狼狽えるカイト 生暖かい視線を向ける和一 

二人の視線の先には何故かヤクートと取っ組み合いを始めたアニス

アニス「このヒゲか!? このヒゲが悪さをしてるのかコンチクショーめ!?」

ヤクート「もう何言ってるか分かんないんだよキミは! あとヒゲを引っ張るなイテテテでて!」

謎すぎる乱闘に村長が困惑しながら右往左往

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和一はそんな慌ただしい場に呼び掛ける

和一「ねぇ、隊長さん」

ヤクート「な、なんだねカズイチ殿! あ、やばやばやば、取れる取れるッ!!」

あわやアニスにヒゲをもぎ取られそうなヤクートに、和一は堂々と告げる

和一「これからそのレクシアさんを助けに行こうと思うんだけど、領都ってどっちです?」

ヤクート「あ!? はいぃい!?」

ブチ 髭が取れる

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ヤクート「ぎゃああああ! 吾輩の自慢のおヒゲがああああああ!」

ヤクートの絶叫がテント中に響く 

同時にアニスは謎の勝どき

アニス「よっしゃああああ! 取ったどおおおおお!」

アニスがもぎ取ったヒゲを勝ち誇っている

和一はその様子を尻目にもんどり打つヤクートに歩み寄って右手をくるりと振るった

取られたヒゲがバチリと帯電する

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するりとアニスの手を抜ける口髭

アニス「ああん!?」

口髭は和一の右手に合わせて宙を舞いヤクートの口元へと戻る

和一「適当な方向を教えてくれればいいんで。静電気でくっついてるだけとはいえ自慢のおヒゲを直したんだし、お願いしますよ?」

和一は気の抜けた笑みでヤクートの千切れたヒゲを整える

ヤクートは仰天しながら和一を見つめる

ヤクート「ほ、本気で言っているのかキミは!? それは領都を、ひいてはパノティアを敵に回すんだぞ!?」

和一「うん、分かってますよ。でもほら、ぼくって勇者だから」

和一は笑いながら答える

和一「多分、この世で一番強いので」

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唐突に機械音声が和一の中で鳴り響く

ナビゲーター『警告──』

和一「!」

同時に和一がテントの異変に気付く

ヴェラ「✕✕✕✕✕──!」

ヴェラがテントの幕を破って現れる

アニス「うお!?」

カイト「うああ!」

蛇のようにうねりながら暴れ、大机を初めテント内の家具を破壊する

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飛び散る破片から村長がカイトを庇う

ヴェラは一瞬動きを止め、赤く光る両目でアニスを捉える

ヴェラ「✕✕、✕✕✕✕✕!」

影がアニスへ襲い掛かる

アニス「え?」

ヤクート「伏せろ馬鹿者!」

反応できなかったアニスをヤクートが庇う

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次の瞬間、雷光が走り和一が影を蹴り飛ばす


ヴェラ「!!」

ヴェラが天幕を突き破り吹き飛ぶ

どよめく野営地

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一瞬で空の上を蹴飛ばされた為に、ヴェラは狼狽える

ヴェラ「✕✕✕✕!」

和一「“何が起きた”、だって?」

雷光と共に和一が空中のヴェラへ肉薄する

ヴェラ「✕!」

ヴェラの赤い両目が驚愕で歪むと同時に、和一がヴェラの顔面にあたる部分鷲掴む

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そのまま急降下 鬱蒼とした森の深部へ衝撃と共に落着する

和一「いや驚いたよね。まさか攻撃のギリギリまで気づかないなんて」

和一が地面に伸されたヴェラを前に和一が感嘆する

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和一「野営地全体を把握してた筈なのにアンタの反応は感知できなかった。この世界のステルス技術なのかな?」

ヴェラ「✕✕✕、✕✕✕✕……」

ヴェラの赤い両目が憎々しそうに歪む

和一「“お前はだれだ”、か。それはこっちが聞きたいけど、取り敢えずこう認識してくれ」

和一が顔をヴェラにずいと近付ける

和一「ぼくは御嶽和一。ここじゃない何処かの世界を救った、ただの普通の勇者だよ」

ヴェラ「!!」

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意を決すようにヴェラが影である自身の懐から何かを取り出す

にわかに光るそれはアニスが持っていた本だと和一は気付く

和一「それは……」

ヴェラが影に覆われた右手を振る

突如として巻き起こる突風 森や地面を容易く抉る

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大きく吹き飛ばされた和一が空中で姿勢を整え、機械音声に問う

和一「観測できたかい、ナビ」

ナビゲーター『完了 エネルギーの変位を検知 当該発光物が触媒となった可能性』

和一「なるほど」

和一が瞬時に目配せ 飛び散った木々や石が野営地を襲うのを確認する

走る雷光

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次々と降り注ぐ瓦礫を落ち切る前に、和一は紙一重ほどの差で悉く破壊する

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駆け抜けながら和一は思案する

和一(これがいわゆる“魔法”というものか。エネルギーの流量は膨大だが未知の物質は無し……おそらく触媒を通して世界そのものに働きかける感じかな?)

和一「クシナみたいだ……けど!」

敢えて砕かなかった丸太を一本宙へ蹴り上げ、和一は直ぐ様自分の蹴り上げた丸太に追い付く

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和一は右手を引き絞り、丸太の先端で目付けをする

視線の先には森の中を疾走して逃げるヴェラ

和一「クシナのはこんなものじゃあなかったッ!」

掛け声と共に拳で丸太を打ち出す

弾丸のような加速で打ち出された丸太が逃げるヴェラの足元に命中する

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バランスを崩しながらも夜の森を疾走するヴェラ

ヴェラ「✕✕!」

何事か悪態をつくヴェラを再び蹴り飛ばす和一

衝撃と轟音が夜の森に響く

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土煙が晴れた後には、木々が薙ぎ払われ、森の中を走る直線の荒れ地が現れる

ズタボロとなったヴェラが大岩にもたれ掛かる

ヴェラ「✕……✕、✕……!」

和一「もう終わりだよ。申し訳ないけど」

和一はそんなヴェラに歩み寄って傍らに落ちていた本を拾う

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和一「これは持ち主に返してもらう。アンタはどうか成仏してくれ」

和一はそう言い残し踵を返す

数歩ヴェラから離れると、唐突に本から声がする

ヴェラ『持ち主、だと……!』

怒気を孕んだ異質な声に和一が目を開く

和一は本を掲げまじまじと見遣る 本の表紙には『初級魔法入門』と知らない文字で書いてある

和一「こっちの紙の本は喋るのか……?」

ヴェラ『私が話しているだけだ! よくも邪魔をしてくれたな!』

本越しに我鳴るヴェラが告げる

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和一が振り返る 岩にもたれ掛かるヴェラの両目が妖しく光る

ヴェラ『覚悟しろ! オマエには最上級の呪いを掛けた! せいぜいあの気狂いに遊んでもらえ!』

和一「気狂い?」

和一が聞き返す瞬間、掲げた本から萎びた巨大な腕が現れる

和一「は?」

腕は和一の襟首を掴む

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次の瞬間、腕は本を抜け出し和一を掴んだまま高速で何処かへ飛んでいく

和一「!!」

後に残されたヴェラが本越しに笑う

ヴェラ『ケケ、ケ、ケ……ざまぁみろ、殺し合え……“勇者同士”、地獄の果てまで……!』

大岩にもたれ掛かっていたヴェラの本体が這いながら喋る本へ近付く

ヴェラ『その間に……済ませなければ……整えなければ……相応しき場を、生贄を……』

這いながらヴェラの両目が見開かれる

ヴェラ『狂王様……!』


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◯場面転換 夜の森上空

高速で夜空を飛ぶ萎びた腕が和一を離さず運ぶ

もがく和一

和一「こ、の!」

右手に雷を収束させて腕へと放つ 雷光が迸る

萎びた腕はびくともしないで速度を増す

風圧に圧される和一

和一「ぐぅ!」

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和一は思考を巡らせる

和一(速度が増したって事は、ぼくの力が吸収された? だったらそのままぼくを取り殺せば良いのにしないって事は、ぼくの殺害が目的ではない? あの影は誰かと遊んでもらえとか言ってたが……)

和一の脳内に機械音声の警告

ナビゲーター『警告 障害に注意 衝突まで三秒』

和一が言われて進行方向を見遣る

和一「あん!?」

すぐ目の前には大きな見張り塔

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◯場面転換 領都クローム内

和一「やば……!」

咄嗟に和一はバリアを張る

一人と一つは見張り塔の中腹を抉る

勢いはそのまま、和一と腕は密集して建てられた家屋の屋根を吹き飛ばしながら進む

一際大きな建物の壁をぶち破った所でようやく腕は和一を離す

砂地の地面を和一と腕は別々に転がって止まる

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◯場面転換 領都闘技場

巻き起こる土煙 慌てて逃げ出す観客達

和一が軽く頭を振って起き上がる

和一「いてて……バリアが無かったら死んでたな」

その背後から声

レクシア「……おい」

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和一「うん?」

和一が振り返る 一陣の風が土煙を払う

両手に枷を付けたレクシアが和一を見下ろし質す

レクシア「何者だ、お前は?」

和一「……何者、ねぇ」

和一はレクシアを一瞥して、立ち上がり正対する

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バチバチと火花を散らして和一は言う

和一「勇者だけれど、貴女は?」

俄に魔力を迸らせレクシアが応える

レクシア「勇者、だが?」