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◯夕日の村 焼け落ちた広場

ヤクートが怪訝に言う

ヤクート「魔人、だと? しかもレクシア……まさか、暴君レクシアか!」

アニス「……うん、そう」

アニスは口を真一文字に結んで首肯する

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◯場面転換 領都の地下牢

アニスが言葉だけで続ける 薄暗い檻の中で手足を鎖で繋がれ壁際に座り込むレクシア

アニス「今も、領都の地下で捕らわれてるはずだ……私たちの所為で」

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地下牢に繋がる廊下から看守が器を持って現れる

看守「ほら、飯の時間だぞ人外め」

レクシア「……」

レクシアは微かに瞼をあげて牢前の看守を見遣る

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器を投げ入れながら看守が続ける

看守「まったく、なんで俺らの飯をお前に振る舞わないといけないのか……テメェなんぞにはもったいないっての」

レクシア「…………」

レクシアは何も言わず、犬のように器の食料にありつく

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看守がレクシアの有り様を見下ろして言う

看守「ハン、まったく無様だよほんと……こうはなりたくないな」

捨て台詞と共に看守が立ち去る

レクシアは食料をあらかた食べ尽くしたあと元の壁際に戻る

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レクシアは暗い虚空を見つめて呟く

レクシア「こうはなりたくない……? 分かってないなぁ……」

レクシアは苦々しく微笑む

レクシア「オレは今は……こうなれて本当に幸せなんだから……」

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レクシアは鎖を鳴らしながら身を横たえる 

身体を掻き抱きながらか細く言う

レクシア「運命よ……早くオレを殺してくれ……」

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◯場面転換 夕暮れの村の広場

アニスが苦々しげに言う

アニス「彼女は……きっとまだ死にたがってる……でも私は、まだ恩返しもできてない……!」

アニスが硬く拳を握る 和一が視線だけでその様子を確認する

和一「……」

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ヤクートが困惑しながら、横合いから問い掛ける

ヤクート「い、いやしかし、君達の間で何が在ったかは分からないが、相手はあの暴君だろ? それは流石に……」

和一が疑問を口にする

和一「その“暴君”ってのは何なんです? 称号か何か?」

和一の質問にヤクートが答える

「あ、ああ。キミは異邦人だから分からないか……しかしどう説明したら良いか……」

アニスが痺れを切らして叫ぶ

アニス「ンなもん分かりきってんでしょーが! この村と私達の恩人だっての! あったま悪いんじゃないのこのオッサンは!」

怒鳴り返すヤクート

ヤクート「だぁれがオッサンだ! 私はまだ23だわ言いたい放題言いやがりガールめ! 今キミに話はしとらんわちょっと待っとれ!」

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アニスは尚食って掛かる

アニス「ん何をぅこのちょび髭小綺麗マッチョマンが! 大体あんたが面倒くさいこと言いに村へ来たもんだからムギュ」

カイト「はいはーい(汗) 姉さんちょっと黙ろうねー(汗)」

話の邪魔なのでカイトがアニスを拘束する 羽交い締めにしても暴れて暴言を吐き続けるアニス

ヤクートは気にせず話を戻す

ヤクート「キミ……失礼、名前は?」

和一「御嶽和一と言います。よろしくお願いします」

ヤクートの誰何に会釈で答える和一 ヤクートは頷いて答える

ヤクート「そうか。ではカズイチ殿、我々の人間世界における脅威について説明する」



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◯場面転換 夜 村の外に設けられた野営地

傷付いた村民と兵士達が比較的無事な人々に看病されている

それを近場の森から遠巻きに眺める影

ヴェラ「………」

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◯場面転換 野営地中央のテントの中

テントの中でヤクートが告げる

ヤクート「現状、我々が把握している人間世界の全図だ」

テント中央に鎮座する大机に巨大な一枚の地図が広げられている ヤクートが説明を続ける

ヤクート「三つの大陸と四つの海洋、一つの亜大陸とそれ以外は未開の地や巨大なダンジョンの影響圏内……というのが把握されている地形だ」

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ヤクートが地図上の端を指差す

ヤクート「我々はここ、ゴンドワナ大陸に接続するパノティア亜大陸。そこに根を下ろすパノティア帝国の辺境に居る。未開領域を切り開く開拓村だな」

ヤクートは指した指をスライドさせ、亜大陸中央に多少近付いた位置の都市を指し示す

ヤクート「そしてここが件の領都クローム。クローム大公の治める都市で、多くの人間や亜人種達等が暮らす、辺境では一番発展している都市だ。経済は勿論、こと軍事面に置いて何より重要な役割を担っている」

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和一が問う

和一「役割?」

ヤクート「そう」

和一の問い掛けにヤクートの表情が険しくなる

ヤクート「人類世界の脅威である“三王”の一角を監視する役割だ」

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和一がヤクートの言葉を反芻する

和一「“三王”……」

ヤクート「そうだ。常勝不敗を嘯く“戦王”ケノー、幾千もの竜種を従える“竜王”アークティカ、そして謎に包まれた真の脅威“真王”ウル……この場合、領都は“戦王”ケノーを見張っている」

《page 14》

和一「では、この地図の黒い部分が“三王”の領域というわけですか?」

和一も加わり地図に広く分布した黒い領域を指す

ヤクートが首肯しながら補足する

ヤクート「ああ。海に大きくせり出したパノティア亜大陸の北西にある大陸がウルの領域、そこから遥か南の海洋がアークティカの領域だ。パノティアから海峡を隔て南東にはアヴァロニア大陸を中心としたローレンシア聖教連合がある」

ふむ、と和一がヤクートの説明に納得する そこで不自然に広がっている東の地域に目を遣る

《page 15》

和一が聞く

和一「この東に広がる地域はなんですか? 国一つ分はありそうなのに誰も手を付けてないみたいですけど?」

ヤクートが渋面をつくり手を額にやる

ヤクート「……そこが問題なんだなぁ」

和一があからさまに首を傾げる

ヤクートは険しい表情を崩さず告げる

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ヤクート「先程教えた“三王”だが……実はもう一人、王が居たんだ──“狂王”と呼ばれた、魔人族の王だ。狂王の治めていた地域が、ここパノティアの東になる」

和一はその物言いに引っ掛かる

和一「治めて“いた”? 死んだんですか? 狂王は」

ヤクートは嘆息しながら首を小さく振る

ヤクート「ただ死んだのでは無い、打ち倒されたのだ……他ならぬ同族、魔人族の娘にな」

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和一はその言葉で察し、息を呑む

和一「……!」

ヤクートが続ける

ヤクート「名を、レクシア。“狂王”を討ち果たせし“暴君”……そして当人は自らをこう嘯いている──“魔王の勇者”、とな」

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和一がヤクートの言葉を繰り返す

和一「魔王の、勇者……」

◯和一のフラッシュバック

和一の脳裏に過る絶望の記憶 ズタボロに殺される仲間たち、血塗れの自分、自分へ手を伸ばすクシナと力なく微笑むヤマト

◯フラッシュバック終了

和一が凄絶な表情を浮かべ、自身の胸の辺りを強く掴む

和一「…………ッ」

ヤクートが怪訝な表情を浮かべる

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ヤクート「? どうかしたかね?」

和一「いや、なにも……」

和一が深呼吸を一つ落として質問する

和一「──では、何故彼女は捕まったんです? この国の軍が総力を挙げて戦ったですか?」

和一の問にヤクートが窮する

ヤクート「いやぁ……それがだなぁ……」

言い淀むヤクートを遮りアニス登場

アニス「話はまるっと聞かせてもらったァ!」

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ヤクートが爆発する

ヤクート「あああああもう! せっかく大人達が話し込んでるんだから突撃してくるんじゃないよまったくゥ! いま大事な話をしてるでしょうがッ!」

和一が補足

和一「一応おれ、まだ17なんですが大人にカウントして良いんです?」

ヤクート「え! あ? それは、ちょっ……と微妙かなぁ……お酒は18から飲めるけどそれもそれで大人かと言われれば微妙……」

ヤクートが困窮する すかさずアニスの口撃

アニス「どうやら私の論破が完了したようだなヘッポコ隊長〜〜? 大人は1人しかいませ〜〜んwww だから大人だけの会議じゃなくなりました〜〜残念でした〜〜(笑)」

ヤクート「ぐ!? こ、この生意気村娘めぇ……」

ヤクートが悔しさに拳を握るのと同時に別の人影がテントに入ってくる

村長「あの、そろそろ入っても良いだろうか?」

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入口の幕を開け、カイトに支えられた村長が現れる ボロボロになった服の間から包帯が覗いている

村長「お見苦しい姿で申し訳ない……まずは直接、村をお救いくださった事を感謝申し上げたく……」

ヨロヨロと頭を下げる村長をヤクートが慌てて遮る

ヤクート「いやいや、待ってくれ村長殿! 私も助けられたクチなんだ、頭を上げてくれ!」

愉快に笑うアニス

アニス「そうだぞ村長〜〜もっと感謝しろよな〜〜カイトもよくやった! よく村長をシメたぞ!」

ヤクート「シメたの!?」

カイト「シメてないよ!」

和一「シメてないのかぁ……」

ヤクート「何故残念がるカズイチどの……?」

賑やかになるテント

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閑話休題

テントの椅子に座らされる村長 居心地が悪そうにソワソワとしている

村長「……」

村長の前に仁王立ちのアニスが言う

アニス「さ、話せ村長! お前の罪を数えろ!」

カイト「つ、罪なんてそんな殺生なこと言っちゃ駄目だよアニス! せいぜいほら、汚職とかさぁ」

ヤクート「キミのも結構、辛辣なアレだよ? んん、まあともかく……」

騒がしくなりそうな空気を咳払いで収めて、ヤクートは話を促す

ヤクート「帝国直属の審問官では無いゆえ正式なものではないが、貴方の言うべき事は聞こう。話してくれないか?」

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村長「……ッ」

ヤクートの謂いに村長が逡巡し、俯きながら口を開く

村長「──辺境の開拓村は、日々の生活だけで過酷を極めます……」

◯回想 村の日々の過酷な生活

村長「炊事、洗濯、森の開墾、狩り、育児。畑の世話が終わったら税の計算、村の寄り合いに諍いの仲裁とてんてこ舞いで……幼子を駆り出さないと間に合わないほどには、この村も限界だったのです……」


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森の中、傷だらけで倒れ伏すレクシアを不意に見付ける狩人

村長「ある時、村の狩人が偶然彼女を見付けました。血や泥で大いに汚れた、獣の様な体格」

慌てた様子の狩人がその場を走り去る その様子を髪の隙間からちらりと確認する瀕死のレクシア

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逃げ帰ってきた狩人が村長初め、村の人々にレクシアの存在を伝える

村長「長髪の間から覗く二本の黒い角の話を聞いたときは、間違いなく魔人族だと思いました。“狂王”領からの生き残りか、“戦王”の斥候か……何れにしろ、領都へ報告をと思った矢先」

レクシアが息も絶え絶えに村へ辿り着く

村長「──彼女が村に現れたのです。まさしく死に体といった様子で」

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◯回想交代 レクシアの夢

レクシア「ハァ……ハァ……ハァ……」

ボロボロの身体を引き摺りながら、這うように村へと近付くレクシア

レクシア(痛い……苦しい……寂しい……)

レクシア(なんで……なんで生きてるんだっけ……)

脳裏に過る凄惨な戦いの記憶

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記憶の中で駆け抜ける戦場 自分と同じ二本角の魔人族を斬り殺し続けるレクシア

その最後に過る幼い魔人族の姿

レクシアは力尽き、右手を村へ伸ばしたまま動かなくなる

レクシア「……レ、ジ……ナ」

アニス「え? 誰だって?」

レクシアの倒れた頭の上から声がする

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レクシア「……ぅ、あ?」

レクシアがどうにか首をよじり声の主を見遣る

アニス「村の入り口で寝てんじゃないよまったく! クソ邪魔だぜ!」

レクシアを覗き込みながらアニスが仁王立ちで文句を言う

アニスの姿がかつての友の姿と重なる

レクシア「……!」

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レクシアが息を呑む

レクシア「君、は?」

アニス「私はアニスだ邪魔者め! 邪魔者ついでに助けてあげようか!?」

アニスが元気いっぱいに返答する その背後から、大慌ての村の大人達とカイトが駆け寄ってくる

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◯回想終了 領都の地下牢

レクシアが冷たい石の床で微かな寝息を立てる

レクシア「……ありがとう」

レクシアの小さな囁やき