《page 1》

◯燃え盛る村を背景に、破壊された牧草小屋とその一帯

へたりこむアニス

それを見下ろす和一

アニス「アンタ、は……」

和一「……」

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ズタボロの状態で倒れ、顔だけ上げて様子を伺うヤクートが呟く すぐそばには気絶したカイト

ヤクート「あれは、なんだ? 今、ドラゴンを殴り飛ばした……? あんな少年が?」

ヤクートの呟きが聞こえないまま和一は虚ろな目付きで辺りを見回す

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和一「……ここは」

和一の独り言に機械音声が答える

ナビゲーター『現在地 不明。詳細 不明。当該地域の座標は地球上に存在しません』

ドラゴン「ギィアアアアアアアアア!」

怒りに駆られたドラゴンが和一へ突進してくる

焦るアニスが立ち上がろうとする 

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しかしアニスは足に力が入らず立ち上がれない

アニス(く! 立てない!)

直ぐ様、アニスは和一へ逃げるよう促す

アニス「チクショウ! アンタ! アンタだけでも逃げ……」

アニスの言葉を遮るように和一が右手を掲げる ドラゴンは真っ直ぐ突進

黄色い雷光がバチバチと弾け、電磁バリアを作る ドラゴンはバリアに突っ込み、和一の掲げる右手に触れることすらなくドラゴンの突進が押し留められる

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目の前で弾ける火花 我武者羅に突進を続けるドラゴンを押し止めるバリアにアニスは驚嘆の声を漏らす

アニス「す、すごい……」

和一「ダメだ、質量がデカすぎる」

アニス「へ?」

アニスと対照的に、平坦に言いきる和一は直ぐ様となりのアニスをひっ掴むと雷光を残して跳躍

次の瞬間、バリアを砕いたドラゴンが勢いのまま牧草小屋を粉砕する

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ドラゴンの背後、ヤクートのそばに着地する和一 呆気に取られるアニスとヤクート

我を取り戻したアニスが文句を言う

アニス「……ハッ! テメなにいっぱしのレディを子猫ちゃんみたいに掴みやがるかコラァア! 服が! 伸びるだろ! 一張羅なのに!」

ヤクート「も、文句言う場面なのかなここ……あ、いや、しかしこの御仁は一体……」


和一はヤクートの誰何に答えず、代わりにドラゴンが咆哮する

ドラゴン「ギアアアアアアアア!」

巻き起こる突風に洗われる四人

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ヤクートが苦々しくドラゴンの行方を睨む

ヤクート「奴め、飛び上がりおった! これではブレスの良い的だ!」

ドラゴンが上空に滞空したまま大口を真下に向ける 赤く光る口内

和一は掴んでいたアニスを解放し、ヤクート預ける

和一「彼女を頼みます」

アニス「うわてめこりゃセクハラだチクショウ!」

ヤクート「いやそれより! キミ、言葉が……!」

和一は無言のまま更地となった周囲を見渡す

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辺りに転がる軍服姿の死体や村人の焼死体を、和一は何も言わずに見つめる

和一「……彼らは、貴方達の仲間だったり、家族だったりします?」

ヤクート「!」

和一の言葉に逡巡するヤクート

ヤクート「……我が部隊は軍属ゆえ、死に装束が軍服になるのは覚悟の上だ……村人たちも、ここが辺境開拓地である以上多少の覚悟はあるだろう……だが」

アニス「…………ッ」

言葉尻に歯噛みするヤクート アニスも何も言わずに奥歯を噛み締める

和一は二人の心根にある悔しさを認め、ドラゴンを見遣る

和一「悔しい、ですよね……よく分かる」

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黄色い火花が和一の周りで弾け、俄かに和一の髪が逆立つ 

和一「だからせめて──仇は取ろう」

和一が微かに身を屈め、跳躍 土煙を巻き上げるほどの衝撃に、アニスとヤクートが驚愕する

ヤクート「!!」

アニス「うおわ!?」

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一瞬でドラゴンと同じ高度に辿り着く和一


ドラゴン「ギィ!?」

驚愕したドラゴンが火炎を噴き出す大口を和一に向ける

《page 11》

和一の脳内で機械音声が告げる

ナビゲーター『生体電位 掌握』

和一「閉じろ」

和一は差し向ける左手を握り込む 同時にドラゴンの口が閉じる

ドラゴン「!?」

ドラゴンの火炎が口内で爆発する


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ドラゴン「ギ、ィア……!」

自身の火炎に焼かれ、ドラゴンの顔面が焼け爛れる しかし怯まず、再び大口を開けドラゴンは和一を噛み砕こうとする

ドラゴン「ギアアアアアアアア!」

和一「……」

噛みつかれる直前に走る雷光

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手応えの無さに驚愕するドラゴン

ドラゴン「ギ!?」

既に和一はドラゴンの頭上に移動している 右手でドラゴンの頭に触れながら呟く

和一「ぼくの知ってる“どらごん”と違って、随分と遅いな」

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直後に巨大な雷がドラゴンを貫く

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黒こげとなったドラゴンの身体がぼろぼろと崩れる

それを見上げるヤクートとアニスは驚愕に目を見開く

ヤクート「そんな、まさか……! 竜種が、ドラゴンが、朝飯に街ひとつ滅ぼすような人間の天敵が……!」

アニス「は、はは……マジかよ」

驚嘆する二人の前に、何事もないように和一は着地する

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和一「さてと……」

和一が歩いて二人に近付く

和一「言語収集は眠ってる間に完了できたけど、状況は何も分からない。だから教えてくれません?」

二人の前まで歩み寄ると、和一は片膝を折って二人と目線を合わせる

和一「ここでは、ぼくは何者に成るんです?」

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和一の問いかけに、アニスとヤクートが互いを見遣る その上で、二人揃って和一に告げる

アニス・ヤクート「「……勇者」」

ハモリながらの答えに和一は一瞬呆気に取られ、そして微笑む

和一「──はい、了解しました」

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和一「じゃあ期待に応えて、まずは人命救助といきますか」

和一は立ち上がり、黄色い火花の光跡を残しながら未だ炎が上る村へ向かう

アニスは一拍間をおいて憤慨しながら和一を追う

アニス「……あ! 待てテメェ! わたしの舎弟のくせに勝手に置いていくなコンニャロー!!」

ヤクート「うわぁ……やばいな……」

ヤクートが呆れながらアニスを見送る

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けれどある事実に気づいて、ヤクートは慌てて起き上がる

ヤクート「いや待ち給え! あのドラゴンが『降臨魔法』の影響で現れたのならまだ終わりじゃない! 本隊がいる!」

ヤクートが追いかけようと身を起こす すぐ傍らで気絶したままのカイトに気付き、抱きかかえながらアニスを追う

カイト「ううん……セクハラドラゴン……」

ヤクート「全然違うわ!」

カイト「罰金でボロ儲け……老後は安泰……」

ヤクート「逞しいなぁ色々と! 何なんだこの姉弟は!? てかまず避難し給えよ君らあああああ!」

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◯場面転換 燃え盛る村の中央広場

和一が広場の真ん中に降り立つ

周囲は炎で囲まれ、大小様々な民家や大きい集会所が燃え落ちようとしている 

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辺りは阿鼻叫喚に包まれている 和一の隣を村人の幾人かが駆け抜けていく

村人E「こっちだ! 早く水をもってこい!」

村人F「斧でも農具でも何でもいい! 男手は火が広がる前に建物を壊せ!」

村の子供「えぇーん……おかあさぁん」

村人C「だ、誰か手を貸してちょうだい! 私の子供が瓦礫の中に!」

和一「……」

和一は周囲を神妙に見渡す 村人は和一に構わず消火と救出を急いでいる

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◯和一のフラッシュバック

燃え盛る都市、逃げ惑う人々

◯フラッシュバック終了 再び燃え盛る村の中心

和一は自身に備わる機械音声に呼び掛ける

和一「ナビ?」

ナビゲーター『上昇気流の基準値到達を確認 可能です』

機械音声が響くと同時に、和一が右手で空を指差す
バチリと指先から走る雷
 
村の上空で黒い雲が急速に渦巻いていく

《page 23》

直後にどしゃ降りの大雨が村を包む

滝のような水量が、広場を含む村全体から火の手を掻き消していく

雨の降り始めから間を置いて村のあちこちから歓声が上がる

村人F「なんだこの雨!?」

村人E「知るか! だが助かった! はやく瓦礫どかせ!」

和一の行動に誰も気付かず、村人たちは次の行動に移る

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和一も特段関わらず、瓦礫に挟まれ動けない子供のもとへ歩いていく

その側で子供を救出しようとしていた村人の女性は驚いた表情のまま和一を見つめる

村人C「あんた……何者?」

和一「少し離れて」

和一が壊れた民家の梁に触れる 

パチパチと火花が弾け、黄色い電気が民家の瓦礫全体を覆う

次の瞬間、瓦礫がふわりと浮かび上がる

《page 25》

村人C「……はぁ?」

村人が驚愕とも感嘆ともつかない声を上げる 和一は頼まれてもないのに解説を始める

和一「言ってしまえばローレンツ力さ。建材に金属が有って良かったよ」

宙に浮いた瓦礫を留め置いて、和一は丁寧に子供を引っ張り出す

泣き面の子供をあやしながら、和一は顔の汚れを払いながら言う

和一「こうしてまた、人助けが出来るなんて考えもしなかった」

《page 26》

泣き止んだ子供を下ろし、和一は子供に向かって言う

和一「怪我はない?」

村の子供「うぅ、ぐす……足いたい」

和一「ああ、だから生きてる。生きてるうちはなんでも出来る」

和一は子供の目線に合わせて言う

和一「だから今度は、強くなろう。泣かなくても済むように、泣かせなくとも済むように、ね」

《page 27》

和一が言い終わるより早く、子供は村の女性に抱き締められる 女性は泣いている

和一は優しく微笑む

和一「安心してよ。今はぼくが守るから」

次の瞬間、和一は浮かせた瓦礫を自身の背後に盾として展開し、降り注ぐ弓矢や火球魔法から身を守る

瓦礫の盾から立ち上る噴煙 足音を立てながら迫る襲撃者の影

《page 28》

瓦礫をどかし、子をかばう女性を背後に置いて、和一は襲撃者を目視する

民家の残骸や戸惑う村人を押し退け、紫色の靄をまとった大小様々な鎧が和一の元に集結する

各々が剣や弓矢、淡く光を放つ杖で武装して、兜の隙間から赤い眼光が覗く

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和一は思案気に顎へ手をやる

和一「エネルギー量は高いのに質量はそれほど感じないな……魂のみで動くとか、そういうのか?」

和一の考察を無視して再び襲い来る弓矢と火球魔法 

村人C「あ、あぶな……!」

危機を知らせる声より早く、雷が走る

《page 30》

和一は火花を撒き散らしながら一瞬で突撃し、弓矢と火球魔法を掻き消して鎧の集団を薙ぎ払う

和一「高エネルギー体そのものが鎧を動かしているのか。良いね、どんどんいこう」

《page 31》


殴り、蹴り、貫いて雨の中鎧の集団を和一は蹂躙する

◯場面転換 雨が上がり夕日に照らされる村の広場

顔の泥汚れを払いもせず、ヤクートが感嘆の声を上げて見上げる

ヤクート「なんと……」

《page 32》

ヤクートの目の前にうず高く積まれた、ひしゃげ煤けた鎧の残骸達 ヤクートは驚愕のまま独りごちる

ヤクート「ナイトメアがこうもあっさりと……一体でも現れればそこらの村は壊滅する魔物だぞ……」

ヤクートの驚愕を尻目に、和一が気安く話しかける

和一「あ、隊長さん。村人の避難と怪我人の収容は済みましたよ」

《page 33》

ヤクートは気の無い返事を返す

ヤクート「あ、ああ……かたじけない」

ヤクートの感謝に和一は肩を竦めて言う

和一「ほとんど隊長さんの陣頭指揮のおかげでしょ? こいつらを叩きのめせたのだって、村の外で頑張ってた隊員たちのおかげですし」

ヤクート「う、うぅむ……」

ヤクートは和一の言葉に眉を潜ませる 和一は言葉を続ける

和一「でも、全員助けるのは出来なかった……申し訳ない」

和一の沈んだ声にヤクートは首を振って答える

ヤクート「そんな事は無い。キミがいなければ我々は皆殺しにされていた……キミには大きな借りが出来た」

《page 34》

背後からアニスの声

アニス「じゃあその借り返してもらおうかああああああ!」

絶叫と共にヤクートと和一の間に割って入るアニス 片手には首根っこを掴んで連れてきたカイト カイトは目を回している

ヤクートは流石に憤慨した

ヤクート「おいキミ! 流石に度が過ぎるぞ! これは彼の功績であって……」

アニス「頼む! お願いだ、力を貸してくれ!」

アニスはヤクートと和一を交互に見遣りながら懇願する

《page 35》

アニスは頭を下げて続ける

アニス「領都に捕まった恩人を助けたいんだ!」

◯場面転換 暗い地下牢

暗く湿った地下牢に繋がれるレクシア アニスが叫ぶ

アニス「彼女を……魔人のレクシアを!」