雫は、いわゆる清楚系女子だ。そのせいかナンパなんて日常茶飯事。母の病院へ向かう途中もナンパにあった。しかし、今回はたちが悪い。中々、諦めない。その根性を他の所に使って欲しいものだ。そんな事を考えていると、男性が助けてくれた。顔も中の中で、平凡を絵に描いたような人だった。何故か胸が高鳴る。しかも、普通なら見て見ぬふりをするようなナンパも助けるという行動に移す所など、中身は悪くなさそうだ。ぼけっとしていたら、後ろからナンパ男が殴りかかって来た。拳は見事に、助けてくれた男にヒット。しかし、助けてくれた男は豹変した。どうやら、元ヤンと呼ばれる者だったらしい。元ヤンってなんだ?まぁそれは置いといて、警察と救急車が来たことで無事、事は収まった。助けてくれた男は、櫂人というらしい。ケガをさせずナンパ男を退治したものだからすごいと思う。櫂人も一応殴られたので、母の病院で検査入院することになった。母は、脳に癌があるので頭を殴られた櫂人も同じ部屋になった。道すがら、例の話をしてみた。
雫 「櫂人さん。母が死ぬまで、恋人になって下さい。」
櫂人「訳があるんだよね?」
雫 「母の最後の願いが、私の彼氏と会う事なんです。どうしてもその願いを叶えたい。1ヶ月間付き合ってて今日助けてくれたという事にしてくれませんか?」
櫂人「いいよ。じゃあ、入院中にでも報告しよう。」
雫 「脳外科の病室は、一部屋なのでいつでも言えると思います。」
櫂人「善は急げだね。今日、早速報告しようか。」
雫 「はい。ありがとうございます。」
雫の頬には、涙がつたっていた。その姿は、息を飲む程美しかった。病院に着いたら、慌ただしく医者や看護師が動き回った。CTを撮ったら影があったらしく、このままだと意識障害になりかねないらしい。恋人ということでその日は、櫂人の近くにいた。櫂人は、慌ただしく動く医者や看護師の願いは虚しく、意識不明に陥った。脳の腫れが収まるのが1,2週間らしいそれまでに目覚めなければ、もう一生目覚める事は無い。母の余命は1ヶ月。会う事は出来たが、本当にこれで願いは叶ったのだろうか?私の彼氏と話すことぐらいさせてあげたい。それに純粋に櫂人の事が心配でしょうがない。それは、嘘で恋人をやっている人に抱く感情とは別に。好きな人に抱くような感情。そう自覚した。一目惚れだったのかも知れない。とにかく今は、櫂人が目覚める事は祈るしかない。