.6 禁術


「消去って、何を言って……」
「『魔導公女』様はあたしたち九つの魔導書を生み出し、命と心を与えてくださった。唯一無二の女神であり主であり母なのよ! なのに、他の者がマスターになるなんて──あり得ない」

 ラハムが叫ぶ。

 尋常じゃない雰囲気だ。
 まるで、何かに取りつかれているような──。

「うーん……昔から思いこみが激しい子だったからね、ラハムって」

 ティアがつぶやいた。

「消去する!」

 叫んでラハムが右手を振りかぶる。

「【攻撃強化】【貫通弾】」

 放り投げた石が、矢のような速度で──いや、矢をはるかに超えた速度で迫ってきた。

 俺は【身体強化】で反応速度をアップさせているから、かろうじて弾道を追える。
 けど、普通の人間なら反応さえできないだろうな……。

 俺はサイドステップで石弾を避けた。

【自動魔法結界】で防ぐ手もあるけど、相手の攻撃力がどれくらいなのかは不明だし、今の【自動魔法結界】は本来よりも効果範囲を広げた分、防御力が落ちている。
 まともに受けるのは危険かもしれない、という判断だ。

「──速い。【魔力無限成長】【全属性魔法習得】【自動魔法結界】の三種の固有魔法を使いこなせているようね」

 つぶやくラハム。

「だけど『魔導公女』様に比べれば、まだまだよ」
「そりゃ、伝説の大賢者と比べられても……」
「いいえ、ラハムさん。アルス様の成長速度は並ではありませんの」

 キシャルが抗弁した。

「初めて出会ったときから、恐ろしい速さで魔法能力が磨かれています。いずれは『魔導公女』様を超えることだって──」
「ふざけないで! どう見ても平凡な魔法使いじゃない。『魔導公女』様を超えるなんて、あり得ない! 絶対にあり得ない! あり得ない!」

 あり得ない、を連呼するラハム。

「なんなら、あたしが証明してあげる。そっちの二人を使ってね」

 と、視線をエレナとミリーナに向けた。

「えっ? えっ?」
「あ、あたしたち……?」

 事の成り行きを呆然と見ていたらしい姉妹冒険者が、戸惑いの声を上げる。

「【強制想念連結(ヴェルリンク)】」

 ラハムが告げる。
 異常なほど冷ややかな声で。

「っ……!?」
「こ、これは……!?」

 エレナとミリーナの体がビクンと痙攣した。

 同時に、二人の瞳がスッと光彩を失う。
 虚ろな瞳だった。

「【強制想念連結】──対象を一時的に想念連結者(リンカー)にする禁術よ」

 想念連結者。
 それは魔導書を従え、その力を行使する者。

 つまりは、俺と同じ力……ということか?

「しかも、二人の意思はあたしが制御できる。どういうことか分かる?」

 ラハムがニヤリと笑う。

「あたしの力を最大限に引き出せる、ということよ。『魔導公女』様がマスターだったときに近いレベルまで、ね!」
.7 魔導書VS魔導書1


「まず落ち着くんだ、ラハム」

 俺は声のトーンを落として彼女をなだめた。

 ラハムは明らかに様子がおかしい。
 ティアは『昔から思いこみが激しかった』なんて言ってたけど、今の彼女はそんなレベルじゃない。

 以前のマスターである『魔導公女』を強く慕っているのだとしても、俺をいきなり殺そうとするのは、さすがに変だ。

「あたしは落ち着いてるよ」

 ラハムが冷たい目で俺を見た。

「あたしの中の何かが語りかけてくるの。九つの魔導書のマスターは『魔導公女』様ただ一人。他のマスターなど認めない。必ず消去せよ、と」
「お、おい……」
「ラハム、やっぱりあなた変だよ! まるで何かに操られてるみたいな──」
「あたしはあたしの意思でその男を殺す」

 ティアの声にもラハムは動じない。

「エレナ、ミリーナ。君たちとリンクした今、あたしは最大限の力を使える。いくよ」
「了解」

 姉妹冒険者がうなずいた。
 虚ろな表情のままで。

「『第八の魔導書(ラハム)』の固有魔法【攻撃超絶強化】を発動──」

 ボウッ!

 姉妹の手が紫色の輝きを放った。
 いや、正確には──いつの間にか二人の手に握られていた石が光を発しているのだ。

「吹き飛べ、【爆裂破導弾(ばくれつはどうだん)】」

 ラハムの声とともに、姉妹が同時に石を投げる。
 単なる小石は紫色の輝きをまとい、螺旋状に打ち出された。

 まずい──。

 本能が警告する。

 この攻撃は、まずい。
 単なる石が、まるで上級魔法の【メテオブレイク】や【バリスタ】クラス、あるいはそれ以上の威力かもしれない。

 そう感じさせるだけの迫力があった。

「! キシャル、俺たちと隊商の人たち全員を【自動魔法結界】で守れ! 全魔力で、だ!」
「了解、ですの!」

 俺の前面に緑色の光があふれる。

 光の幕が、紫色の石弾二つを受け止めた。

 轟音と、激しい振動。

「くっ……!」

 すさまじいまでの衝撃波が吹き荒れる。
 爆発とともに地面が揺れる。

「へえ、今のをしのいだの? さすがはキシャルね」

 ラハムが笑っていた。

「だけど──次は耐えられるかな?」
「くっ……!」

 俺の前面に展開されている緑色の輝き──【自動魔法結界】は激しく明滅していた。

 たぶん、今の攻撃を防いだだけで大量の魔力を削られたのだ。
 防御力もかなり落ちただろう。

 次は──防げない。

「なら、攻撃に転じるしかないか」

 俺は覚悟を決めた。

「いいよ。あたしは君を消去する。君はあたしを消去する。互いに命のやり取りね」
「違う」

 ラハムの挑発に、俺は首を左右に振った。

「俺は、君を助ける」

 やっぱり俺には、彼女が元からこんな女の子だとは思えない。

 何かに操られている──そんな気がしてならない。
 だから、

「必ず君を元に戻して、ティアたちと笑って再会させてみせる──」
.8 魔導書VS魔導書2


「【貫通散弾】!」

 今度は石ではなく砂利を投げてきた。
 無数の砂粒が、小石が、強大な威力の矢となって浴びせられる。

「【ホーミングボム】!」

 俺は自動追尾魔法でこれらを迎撃した。

 爆光が、視界を覆う。

 と、その向こうからエレナとミリーナが突っこんできた。
 魔法使いのはずの彼女たちが、武闘家さながらに拳や蹴りを見舞ってくる。

「くっ……!」

 俺は【身体強化】を全開にして避けた。

 ぐごおぉっ!

 姉妹冒険者の拳と蹴りが、地面に叩きこまれる。
 小さなクレーターができていた。

「嘘だろ……」

 信じられない威力だ。
 さっきの拳や蹴りも、ラハムの【攻撃超絶強化】で威力が爆発的に上がってるのか──。
 まともに受ければ、一発で体を粉々にされるだろう。

 かといって、ただ操られているだけの二人に攻撃魔法を撃ちこむわけにもいかない。

「どうすればいい──」

 俺は必死で頭を巡らせた。

 彼女たちを傷つけずに無力化する方法を。
 そして、その向こうにいるラハムの戦意を解く方法を。

「なるほど、【身体強化】をそのレベルで使えるのね」

 ラハムが微笑んだ。

「ちょっと厄介かな。でも、しょせん君は魔導書の力をすべて使いこなせていない。借り物の状態ね」
「借り物……」
「真の所有者である『魔導公女』様には遠く及ばない。そんな君が魔導書を扱うことが許せない。きっと『魔導公女』様も嘆いている」

 ……確かに、それはそうだろう。

 俺が魔導書の力を身に着けてから、まだ二か月も経っていない。

 ティアたちの固有魔法は、俺に強大な力を与えてくれた。
 それでも、伝説の大賢者にはまだまだ届かない。

「次はまた遠距離から撃ち抜くか、それとも近距離で仕留めるか──どちらにしても、君は逃げるだけで精一杯。あたしが一方的に攻撃し続け、君が疲労したところで仕留める」

 ラハムの笑みが深くなる。

「見ていてください、『魔導公女』様。あなたの魔導書を扱う不届き者を、今このあたしが始末してごらんにいれます──」
「やだ……こんなの、やだよ」

 魔導書からティアの声が響いた。

「ラハムは、そんな子じゃない。お願いだから目を覚まして」
「そうですの。いつもは『魔導公女』様や他の魔導書や、それ以外の人たちにも優しかったですの。他人を傷つけることを楽しむような、非道な性格じゃありませんの」

 キシャルも必死で言い募る。
 と、

「んー……たまに怖いときがあったから、案外これが地なのかも……」

 ……頼む、この雰囲気に水を差さないでくれ、エア。

「──ふん、泣き落としなんて効かない。あたしは、君を消去する」

 ラハムが告げる。
 その左右にエレナとミリーナが戻り、身構える。

 そろそろ決着をつける気か。
 なら、俺は──、

「俺が魔導書を扱うことが許せない、と言ったな」

 ラハムを見据える。

「言ったけど?」
「俺が『魔導公女』並に魔導書を操ってみせたら、どうだ? それなら君は、俺のことを認めてくれるか」
「何を……言っているの?」

 ラハムが戸惑ったような顔をする。

「ティアとキシャル、エアの力を借りて──いや、使いこなして、君を無力化する」
.9 魔導書VS魔導書3



「ひ、ひいい……さっきからなんなんだ、あんたたちは……!」

 隊商たちがおびえた様子でうめく。
 腰が抜けているらしく、全員立ち上がれない様子だ。

「俺が彼女を抑えます。下手に動くと危険なので、その場にとどまってください」

 彼らに言い含めた。
 と、

「君があたしを無力化する? 大きく出たね」

 ラハムが俺をにらんだ。

「見たところ、君と魔導書との想念同調値(リンカースコア)はせいぜい50程度。あたしが強制的にリンクした二人の数値は80近くよ」
「同調値……?」

 初めて聞く言葉だった。

「その値が高ければ高いほど、魔導書の固有魔法の威力を強く引き出すことができる──つまり、同じ大賢者の魔導書でも君が引き出せる力は、あたしたちには遠く及ばない」
「……なるほど」

 まあ、俺は初心者だからな。

「なら、今の数値で君を無力化できるようにやってみるさ」
「無理ね」

 言うなり、ラハムの全身から魔力のオーラが立ちのぼった。
 同時に、エレナとミリーナが石つぶてを放つ。
 さっき同様に、手数で勝負か。

 俺は【身体強化】を全開。
 ジグザグに走って無数のフェイントを入れつつ、距離を詰めていく。

「くっ……!?」

 ラハムがうめいた。
 姉妹冒険者の投石の動きが、目に見えて鈍る。

 ──思った通りだ。

 確かに魔導書の魔法能力を引き出す力は、相手の方が上である。
 だけど、ラハムは強制的に姉妹を操っている。
 つまり、彼女から姉妹に命令を送る分だけ、行動のタイムロスがあるはずだ。

 そこを利用して、叩く──。
 俺はさらに加速し、

「【影の炎】!」

 攻撃呪文を放つ。

「この魔力波長は──魔族固有魔法!? ちいっ」

 ラハムが後退した。
 彼女と姉妹冒険者の距離が離れる。

「仕上げだ」

 俺は最大限に加速した。
 爆炎にまぎれて、彼女たちの背後に回りこむ。

「し、しまっ……」

 反応しきれないラハム。

「ティア、キシャル!」

 俺は二つの魔導書を使い魔モードに戻す。

「りょーかい!」
「ですの!」

 俺の指示に従い、二人がラハムに抱き着き、押し倒した。

「【マジックバインド】!」

 俺は魔力の網を生み出し、まずエレナとミリーナを、次にラハムをそれぞれ拘束した。

「くっ……!」

 もがくラハムだが、魔力の網は単純な筋力ではほどけない。
 彼女自身の攻撃能力は低いし、エレナやミリーナも拘束済み。

「無力化完了、ってことでいいか? ラハム」
「うううう……」

 俺の言葉に、ラハムは悔しげな表情を浮かべた。
.10 紋様



「離せ! 離してぇっ!」

 ラハムがもがいている。

「離したら、また襲ってくるだろ? まずは落ち着いてからだ」
「くっ……殺せ!」

 ラハムが叫んだ。

 ……これじゃ、俺が完全に悪役じゃないか。

「ラハム、おでこに変なのついてる」

 エアが馬車からひょこっと顔を出した。
 ティアとキシャルは魔導書に変化しているが、彼女だけは使い魔モードのままだ。
 サンドワーム出現時からラハムの襲撃まで、ずっと面倒くさそうに馬車内で待機してたからな。

 まあ、待機というか……正確には、ゴロゴロしてるんだけなんだけど。

 そのエアが、珍しく真剣な顔だ。

「おでこに変なの?」

 俺はラハムに視線を向けなおした。

「うーん……?」

 目を凝らす。

「……! これは……!?」

 よく見ると、うっすらとラハムの額に淡く光る紋様が浮かんでいた。

「よくこんなのに気づいたな、エア」
「えっへん」

 エアが胸を張った。

「あたし、有能」
「ああ、有能だ」

 ついでにもうちょっとやる気があると、なお嬉しい。

「この紋様はなんなんだ、ラハム?」

 どことなく稲妻に似たデザインだった。

「……紋様? なんのこと?」

 ラハムが眉を寄せた。

「えっ、ちょっとよく見せて」

 ティアが顔を近づけた。

「この紋様は、まさか──」

 青ざめた顔でつぶやく。

「知ってるのか、ティア」
「かつて最強と謳われた古の賢者の一人──」

 ティアが厳かに告げた。

「そして『魔導公女』様が大戦で激しく争った相手──『雷帝錫杖(らいていしゃくじょう)』の紋様に、よく似てる」
「古の、賢者……?」
「賢者たちは大戦でほとんどが死滅したの。現代まで生き残っている者はほとんどいないはずだよ」

 と、ティア。

 ……その大戦っていうのはずっと大昔のはずなんだけど、今も生き残ってるやつがいるのか?
 古の賢者ともなれば、何百何千年と生きられるものなんだろうか……。

「あ……ぐぅっ……!?」

 突然、ラハムの体がびくんと仰け反った。

「どうした、ラハム!?」
「あたしは、マスターの魔導書を使う者を……消す……ころ、す……ぐううううっ……」

 もがき苦しんでいる。
 その額に浮かぶ紋様が、輝きを増していた。

「もしかして──」

 俺はハッと気づく。

「ラハムはその紋様に操られている……?」

 だとすれば、今までの攻撃はラハムの本意ではなかったのかもしれない。

 そして、彼女を元に戻す手段があるかもしれない。
.11 少女たちは、いつかの再会を誓う1


「んー……紋様の魔力がラハムに干渉してるみたい。逆らうと、魔力を大幅に削り取っちゃう系……」

 ぽつりとつぶやいたのは、エアだ。

 さっき紋様に気付いたのもそうだが、魔力の感知能力が本当に高いな。

「ラハムを助ける方法は?」
「……わかんない。あたしの知識には、ない」

 ふるふると首を振るエア。

「『魔導公女』様なら分かるかも……現代の魔法レベルでは無理っぽい」
「古の賢者レベルじゃないと無理、ってことか」

 俺はうなった。

 どうすればいい──。
 焦る。

 何せラハムはどんどん衰弱しているのだ。
 このままじゃ、彼女は……!

「そうだ、休眠状態にしたらどうだ?」

 彼女たち『魔導書』にはいくつかの形態がある。
 固有魔法の起動形態である『魔導書モード』や、人の姿を取る『使い魔モード』、そしてイヤリングやペンダントといった装身具に変身する『休眠モード』。
 ティアは別だが、キシャルとエアは初めて会ったときは、まだ人型を取ることができず、休眠モードでティアの装身具になっていた。

「強制的に休眠モードにはできない。ラハム自身がそう願わないと」

 ティアが言った。

「ラハム、このままじゃ君は死ぬかもしれない。その前に休眠モードになるんだ」
「誰が……君の言うことなんて……!」

 険しい表情で俺をにらむラハム。

「あたしのマスターは……『魔導公女』様……だけ……あたしにとって、母にも等しいお方……」

 意識が混濁しているのか、彼女の言葉はうわごとのようだった。

「ラハムさん、お願いします」

 キシャルが進み出た。

「君たちは、こんな男に従って……『魔導公女』様を、裏切るの……!」
「違いますの。私たちはアルス様とともに、みんなを探すためにがんばっていますの」

 キシャルが首を振る。
「『魔導公女』様は、もういない。だけど、みんなはきっとどこかで生きている。だから──」

 つぶらな瞳に涙を浮かべ、

「お願いします、ラハムさん。今は、眠って。『魔導公女』様だけでなく、あなたまで失いたくない……ですの」
「あたしは──」

 ラハムの瞳が揺らぐ。
 仲間の涙には、さすがに逡巡しているのだろうか。

「私も、お願い。友だちが苦しんでいるのは見たくないよ」

 ティアも涙ぐんでいた。

「んー……ラハムはちょっと休んだ方がいい」

 エアがラハムに抱きついた。

「ぎゅー」
「……あたた……かい……」

 呆然とした表情でつぶやくラハム。

「この温かさ……懐かしい……」
「ねんね、ねんねー」

 エアが赤ん坊をあやすように歌う。

 ──短い沈黙が流れる。

「私は……その男を、いずれ消去する」

 ラハムが俺をにらんだ。

「そのために、今は眠る……」

 言うなり、彼女の全身が光の粒子となって弾けた。
.12 少女たちは、いつかの再会を誓う2



 ──からん。

 地面に小さな指輪が落ちる。

「これは……」
「ラハムの休眠モードだね」

 ティアは指輪を拾った。

「とりあえず預かっていてくれ」

 俺はティアに言った。

 ラハムは今のところ、エレナ、ミリーナ姉妹の使い魔である。
 その処遇について、彼女たちと相談しなきゃいけないな。

「これでラハムは大丈夫なのか?」
「休眠モードは本人の意識もないからね。たぶんさっきの現象は、『紋様を刻んだ者の意思に反する』ことで発動するタイプだと思うの。意識がない状態なら、意思に反するも何もないから。おそらく大丈夫──」

 と、ティア。

「んー……ラハムの魔力波長が安定してきた。大丈夫」

 エアが補足説明する。

「そうか、よかった……」

 とはいえ、まだ何も解決していないとも言える。
 結局、ラハムの呪縛は解けていないんだ。

「彼女を元に戻す方法を考えないとな」
「アルス……」

 ティアが俺を見つめた。

「『雷帝錫杖』はかつての大戦で『魔導公女』様に殺された。だけど、その研究成果は大陸のどこかに残っているはずだよ。それを調べれば、あるいは──」
「といっても、『雷帝錫杖』が遺した研究となれば、それなりの施設やダンジョンなどに厳重に保管されているはずですの。手に入れるのは、容易ではないと思いますの」

 キシャルが言った。

「んー……大変そう……ふあ」

 エアがあくびをしている。

 古の賢者の研究成果、か。

 確かに入手するのは大変そうだ。
『魔導公女』の残りの魔導書探しに加えて、また一つ大変そうなミッションが加わったともいえる。
 だけど──。

 俺は三人を見つめ、

「ティア、キシャル、エア、協力してくれるか。『雷帝錫杖』の──古の賢者の呪縛は簡単には解けないと思う。でも、みんながいれば何とかなりそうな気がする。俺もがんばるから」
「もちろんだよ、アルス。一緒にがんばる!」
「ですの!」
「んー……そろそろ眠くなってきた……」

 元気よくうなずくティアとキシャルに対し、エアはやっぱりマイペースだ。

「……でも、がんばる」

 ぽつりとつぶやくエア。
 やっぱり仲間を大事に想う気持ちは、彼女も一緒なんだな。

「じゃあ、みんな。よろしく頼む」

 俺は三人に微笑んだ。

「いつか、元に戻ったラハムに再会できるように──」

 ティアが、キシャルが、エアがうなずく。

 これは俺の──俺たちの願いであり、誓いだ。

 ラハム、必ず呪縛を解いてやるからな。