新しい家族として毛玉が仲間入りした。その毛玉だが、スキルの影響か魔力を吸収して他の人に移せることが発覚した。

 そのおかげかマリアに魔力ポーションを買わなくても済むようになったのだ。

 いつのまにかマリアの膝の上には毛玉が乗っているのが当たり前になっていた。

 僕のマネして頭に乗せようとしていたが、やはりコボルトだから重くて諦めたらしい。

 モススはフェンリルなのに、なんでこんなに軽いのだろう。

 やはりフェンリルは他の魔物とは違う何かがあるのだろうか。

「森に行くけどリックも来るか?」

「行きます!」

 あれからオーブナーに事情を話すと、いくつかルールができた。

 その一つが一人では森に行くなということだ。

 この間受けた採取依頼に必要な薬草は、魔の森の反対側にある違う森で手に入る薬草だった。

 僕は知らないうちに反対側の魔の森に行っていたということだ。

 そんな僕はオーブナーと一緒に魔の森に向かう。

 昨日はモススも一緒に居たから一人じゃないと言ったら怒られてしまった。

 僕が一人で森に行くのが危ないのかと聞いたら、帰って来れなくなりそうって言っていた。

 そんなに僕は頼りないのだろうか。

 あの時も料理に使うハーブを偶然取りに行かなければ、今頃帰って来れなかっただろと言われてしまえば頷くしかない。

 だって本当に道がわからなかった。

 だからオーブナーと一緒に森に来て、ついでに採取をしている。

「これで飯の準備もできたから帰るぞ」

 気づいた頃にはオーブナーは肩に大きな鳥を担いでいた。ただの宿屋の店主だと思っていたが、オーブナーは実力のある人物らしい。

 冒険者ギルドのスタッフが頭を下げるぐらいだから、よほど強いのだろう。

「そういえばレンタルしていた武器屋は見つかったのか?」

「あー、えーっと……」

「はぁー。本当に道を覚えるのが苦手なんだな」

 あれから短杖を返すために武器屋を探したが、いまだに見つからない。レンタル武器は基本的に、勝手に返っていく仕組みになっているらしい。

 だけどこの短杖はその仕組みができていなかった。だから未だに腰につけて使わせてもらっている。

 今度会った時には買い取れるように、この間売却した素材や採取依頼のお金は残している。

 僕達が宿屋に帰ると、マリアは膝の上に毛玉を乗せて編み物をしていた。

 昔から体が弱いマリアは服が買えない僕のために、服を作ってくれた。最近は服も買えるほどお金も増えてきたが、一日中ベッドにいるのも暇だからまた始めたらしい。

「また糸を買ってきたよ」

「ありがとう!」

 そんなマリアにたくさん糸を買ってきた。どれがいいのかわからなかったが、たくさんあれば問題ないだろう。

「これはマリアが作ったのか?」

 オーブナーはマリアが作った布を見て興味深そうに見ている。

「よくお兄ちゃんが手を汚すので、洗った時に拭けるように渡しているんです」

 それだけ聞くとだらしない兄のようだ。実際にモススの脚を拭いたりにも使えるため便利だ。

「ほぉ、ハンカチーフの存在を知っているとはな」

「ハンカチーフ?」

 初めて聞いた言葉に僕達は首を傾げていた。毛玉までどこか傾いているような気がする。

「ああ、貴族達がパーティーとかにポケットに似たようなやつを入れていることが多いんだ。ひょっとしたらマリアが作ったハンカチーフもお金になったりするぞ」

「これが売れるんですか!?」

 マリアは驚いた顔をしていた。いつも余った糸で作っていた物が売れると言われたら、僕でも驚くだろう。しかも、貴族相手となれば金額も高くなるかもしれない。

「ただ、使っている糸が安いのは問題だな」

 オーブナーは少し考えると良いことを思いついたのか、再び森に行く準備を始めた。

「森にいるスパイダー系の魔物であれば良い糸が手に入ると思うぞ。俺が取ってきてやる」

 そう言ってオーブナーは嬉しそうに出かけて行った。

「最近オーブナーさん楽しそうだね」

「初めて見た時は少し怖かったけど、いつもニコニコしているもんね」

 初めて見た時は眉間にしわを寄せた顔をよくしていた。今も怒る時はその表情になるが、基本的には笑っていることが増えた。

 きっと良いことがあったのだろう。

 そんなオーブナーのことを僕達も年の離れた兄のように慕っている。この間年齢を聞いたら思ったよりも若かった。

「今日は僕達がご飯の準備をしようか」

「きっと遅くなるだろうしね」

 オーブナーが戻ってくるまでは、代わりに僕達が料理の準備をすることにした。食べるのはきっと僕達しかいないし、勝手に準備しても問題ないだろう。