「申し訳なかった、このとおりだ! そしてノヴァ殿こそ、この国を救ってくれた英雄だ! 本当にありがとう!」
ぽかんとした顔っていうのは、こうするんですよ。
俺は今、きっとそんなお手本のような顔をしているに違いない。
自分でも、あんぐりと口が開いたまま、ふさがっていないのがわかる。
目の前で頭を深々と下げ、謝罪と感謝の言葉を述べているのは、誰あろう、この国の王様なのだ。
隣に立つサイラスも、勇者パーティーの三人も、苦笑いと申し訳なさを軽くかきまぜたようなあいまいな表情で、所在なげにしている。
「いや、えっと? 謝るのは確かこっちで……あれ? 何がどうなってるんです?」
俺が村へ連れ戻されたことを聞きつけ、場合によっては王様への直談判も辞さないと、鼻息荒くやってきたリタやカティ、ランドたちも、俺と同じぽかん顔で立ち尽くしている。
カティから聞いた話では、どうあっても俺を連れてくるように、場合によっては生死も問わないとの強めの通達があったはずだ。それがどうして、装甲馬車からいかめしい顔つきで下りてきた王様が、開口一番に謝罪と感謝の言葉を述べて、深々と頭を下げているのか。
「サイラス? どういうことなの?」
俺から目をそらして知らん顔をしていたサイラスに、名指しで状況の説明を求める。
王様は頭を下げたままだし、取り巻きの大臣さんも、王直属騎士団の皆さんも、うつむいてもじもじしているだけなのだ。
この場で発言権があるとすれば、勇者パーティーの誰かしかいない。
「僕も驚いてるんだよ。その……ゴレムちゃんだったか? その子が破壊の魔導ゴーレムなんだろう?」
「だった、だよ。今は自由気ままなラルオ村の看板娘の一人、ゴレムちゃんだから」
はあ、と大きなため息がそこかしこから聞こえる。
「ノヴァくん、私たちがどれだけ心配したと思ってんの。その子が、国も世界も滅ぼす勢いで復活するっていうから、みんなで大急ぎでここまで来たんだけど」
「やっぱりノヴァっち、想像の斜め上をいくわけわかんなさだよね! ゴーレムだからゴレムちゃんとか、その子がかわいそうだと思わないの!?」
「それな!」
いや、それなって。ゴレムちゃんまでディディに乗っからないでよ。
「ああ、まあ、なんだろう。さっきサイラスたちにはひととおり話したとおりでさ。復活したときは確かに破壊のゴーレムなんとか型だったんだけどね。今は大丈夫なんだ」
「そういうこと! 一応はこの人がマスターなのは変わらないから、ぎりぎりで守るつもりではいるけど、基本的には自由人なんで!」
おお、やはりノヴァ殿がマスターに。
ゴレムちゃんがあえて明るい調子で切り返したのに、場がざわつく。
「ノヴァ……その、マスターになったことで、何か身体に異変や負担、代償なんかはなかったのか? 僕たちは、それも心配していたんだ」
「へ? うそ? え、ゴレムちゃん……そういうのってあるんだっけ?」
「いや、そんなに大したことはないよ? 最初に魔力もらったからマスター認定されてるのと、一応は命令権があるのと、あとはまあしんぞ……なんでもない」
「ねえ。心臓って言おうとした? むしろほとんど言ってたよね? 心臓がなに? ねえってば!」
「カイセキフノウ、カイセキフノウ」
「いや、もうめちゃくちゃ流暢にしゃべってんでしょうが! ちょっと!」
急に片言になって、くるくると回転しながら、ゴレムちゃんが上空へエスケープする。
「はあ……まあ、こんな感じだよ。危険はなさそうでしょ? マスターとかって仰々しく言う割には、完全にからかわれてはいそうだけど」
「ノヴァくんらしすぎて……おなかいたい。しんぞ……大事にしてね?」
クレアがけらけらと笑い、ディディもそれにつられて腹を抱えている。
急に古巣に戻ってきたみたいで、なんだか嬉しくなった。
「それから、こっちの子が……これも信じられないが、シャイニングドラゴンの幼体、なんだよな?」
「そう。もう少ししたらご両親も帰ってくるんじゃないかな」
「まったく。皆さん、ノヴァがお騒がせしてすみません……」
「いやいやいやいや、全然! ぜんぜん大丈夫です! 勇者様も、陛下も、お願いですから顔をあげてください!」
「何もない村ですが、ゆっくりしていってください! おいノヴァ、なんだよこれお前! なんとかしろ!」
王様に続いて、サイラスまで深々と頭を下げるものだから、リタやランドたち、村の皆は恐縮しきりだ。
「ピイちゃんとゴレムちゃんのことは意外とすんなり誤解が解けて良かったけど、俺のその……あれは大丈夫だったの? ほら、あの後さ、大変だったんじゃない?」
「結局、ノヴァって何をやらかして追い出されてきたの?」
「リタさんでしたか、ノヴァから聞いていないのですか? このノヴァは、勇者としての称号を授与した式典の後に開催された宴で、もらったばかりの勲章を投げ捨て、陛下にはちみつ酒を樽ごとかぶせて、王家の旗を燃やして逃げ出したのです」
サイラスが苦笑いで説明すると、リタがふらりと倒れそうになる。
「え……さすがにちょっと、不敬が過ぎてかばいきれない感じじゃない?」
お願い、その感想、もっとも過ぎてつらくなってきちゃうから、ちょっとだけ待って。あとにして。
「その一連の出来事が……まさかあんなことになろうとは、思わなかったのだ」
ようやく顔をあげてくれた王様から、王様暗殺未遂の一連の出来事を説明される。
あのあとすぐに、桶屋クエストのツリーが完了になったのは、そういうことだったのか。
「なんか……ノヴァって本当、ディディさんたちの話じゃないけど、わけわかんないけどすごいんだね」
あきれたようにリタが言えば、「ふふ、あなたも振り回されてるみたいね?」と、まだ笑っていたクレアとディディが嬉しそうにする。
「ラルオ村の皆様、改めて、お騒がせして申し訳ありませんでした。無事にゴレムちゃんのことを確かめられて、ノヴァへの誤解を解く機会も設けられて、ほっとした気持ちです」
「うん、勇者様はさすがだ。まっすぐで気持ちがいいな! そういうわけだぞ、ノヴァ。王様と勇者様に頭まで下げさせて、まさか許さないなんてことはないよな?」
「わざわざお越しいただくなんて、本来ならとんでもないことですよ!」
「ノヴァ、器が試されてるよ?」
ランド、カティ、リタから順番に詰め寄られて、俺はぐっと後ずさる。
「そもそも俺の方が申し訳ないことをしたって思ってたんだから、許すも許さないもないよ。陛下、どうか顔をあげてください。その節は、きちんとした説明もできずに、大変失礼いたしました」
「おお、許してくれるか……ありがたい」
お互いに改めて頭を下げあった俺と王様に、どこからともなく拍手と歓声がわきおこる。これで王都の出禁も解けて、色々な意味で一区切りがついた。
「さて、さっそくだが、おぬしへの勲章の授与をやり直したいのだがどうだ? ずいぶんと日が経ってしまったが、英雄の一人として、改めて王都へ迎え入れたいのだ」
おお、と歓声が大きくなる。
「ぜひ戻ってきてくれ。またいっしょに色々な冒険をしよう」
サイラスが、きらっきらの笑顔で握手を求めてくれる。
「ノヴァくんがいた方が、おもしろくなることが多いしね」
ばちんとウインクしてみせたクレアは、俺個人がどうこうというより、桶屋クエストでどたばたするのを楽しみにしているようだ。
「うんうん、いいんじゃない?」「……いつでも歓迎する」
ディディがにっかりと笑い、バスクも珍しく口元を緩めてくれた。
「よかったね、ノヴァ!」
「実は冗談半分で聞いてたんだが、本当の本当に勇者様のパーティーにいたんだな」
「少し残念な気もしますけど、ノヴァさんの意思を尊重します」
リタ、ランド、カティも、それぞれに笑顔を見せてくれる。
これからいっしょに村でやっていける。そう思ってくれていたからこそ、三人の笑顔は少しだけぎこちない。
それでも、祝福してくれたり、ランドのように軽口を言ってくれたのがうれしかった。
俺は本当に、昔も今もいい仲間に恵まれているんだな。いまさら実感がわいてきて、胸が熱くなる。
自分自身で、何が起こるかコントロールしきれない特殊スキルを頼りにやってきたけど、それを理解しようとしてくれたサイラスたちがいたからこそ、今の俺があるのだと思う。
「みんな、ありがとう」
ぐるりと皆を見回して、決心を固めた俺は、そっと手を差し出した。
ぽかんとした顔っていうのは、こうするんですよ。
俺は今、きっとそんなお手本のような顔をしているに違いない。
自分でも、あんぐりと口が開いたまま、ふさがっていないのがわかる。
目の前で頭を深々と下げ、謝罪と感謝の言葉を述べているのは、誰あろう、この国の王様なのだ。
隣に立つサイラスも、勇者パーティーの三人も、苦笑いと申し訳なさを軽くかきまぜたようなあいまいな表情で、所在なげにしている。
「いや、えっと? 謝るのは確かこっちで……あれ? 何がどうなってるんです?」
俺が村へ連れ戻されたことを聞きつけ、場合によっては王様への直談判も辞さないと、鼻息荒くやってきたリタやカティ、ランドたちも、俺と同じぽかん顔で立ち尽くしている。
カティから聞いた話では、どうあっても俺を連れてくるように、場合によっては生死も問わないとの強めの通達があったはずだ。それがどうして、装甲馬車からいかめしい顔つきで下りてきた王様が、開口一番に謝罪と感謝の言葉を述べて、深々と頭を下げているのか。
「サイラス? どういうことなの?」
俺から目をそらして知らん顔をしていたサイラスに、名指しで状況の説明を求める。
王様は頭を下げたままだし、取り巻きの大臣さんも、王直属騎士団の皆さんも、うつむいてもじもじしているだけなのだ。
この場で発言権があるとすれば、勇者パーティーの誰かしかいない。
「僕も驚いてるんだよ。その……ゴレムちゃんだったか? その子が破壊の魔導ゴーレムなんだろう?」
「だった、だよ。今は自由気ままなラルオ村の看板娘の一人、ゴレムちゃんだから」
はあ、と大きなため息がそこかしこから聞こえる。
「ノヴァくん、私たちがどれだけ心配したと思ってんの。その子が、国も世界も滅ぼす勢いで復活するっていうから、みんなで大急ぎでここまで来たんだけど」
「やっぱりノヴァっち、想像の斜め上をいくわけわかんなさだよね! ゴーレムだからゴレムちゃんとか、その子がかわいそうだと思わないの!?」
「それな!」
いや、それなって。ゴレムちゃんまでディディに乗っからないでよ。
「ああ、まあ、なんだろう。さっきサイラスたちにはひととおり話したとおりでさ。復活したときは確かに破壊のゴーレムなんとか型だったんだけどね。今は大丈夫なんだ」
「そういうこと! 一応はこの人がマスターなのは変わらないから、ぎりぎりで守るつもりではいるけど、基本的には自由人なんで!」
おお、やはりノヴァ殿がマスターに。
ゴレムちゃんがあえて明るい調子で切り返したのに、場がざわつく。
「ノヴァ……その、マスターになったことで、何か身体に異変や負担、代償なんかはなかったのか? 僕たちは、それも心配していたんだ」
「へ? うそ? え、ゴレムちゃん……そういうのってあるんだっけ?」
「いや、そんなに大したことはないよ? 最初に魔力もらったからマスター認定されてるのと、一応は命令権があるのと、あとはまあしんぞ……なんでもない」
「ねえ。心臓って言おうとした? むしろほとんど言ってたよね? 心臓がなに? ねえってば!」
「カイセキフノウ、カイセキフノウ」
「いや、もうめちゃくちゃ流暢にしゃべってんでしょうが! ちょっと!」
急に片言になって、くるくると回転しながら、ゴレムちゃんが上空へエスケープする。
「はあ……まあ、こんな感じだよ。危険はなさそうでしょ? マスターとかって仰々しく言う割には、完全にからかわれてはいそうだけど」
「ノヴァくんらしすぎて……おなかいたい。しんぞ……大事にしてね?」
クレアがけらけらと笑い、ディディもそれにつられて腹を抱えている。
急に古巣に戻ってきたみたいで、なんだか嬉しくなった。
「それから、こっちの子が……これも信じられないが、シャイニングドラゴンの幼体、なんだよな?」
「そう。もう少ししたらご両親も帰ってくるんじゃないかな」
「まったく。皆さん、ノヴァがお騒がせしてすみません……」
「いやいやいやいや、全然! ぜんぜん大丈夫です! 勇者様も、陛下も、お願いですから顔をあげてください!」
「何もない村ですが、ゆっくりしていってください! おいノヴァ、なんだよこれお前! なんとかしろ!」
王様に続いて、サイラスまで深々と頭を下げるものだから、リタやランドたち、村の皆は恐縮しきりだ。
「ピイちゃんとゴレムちゃんのことは意外とすんなり誤解が解けて良かったけど、俺のその……あれは大丈夫だったの? ほら、あの後さ、大変だったんじゃない?」
「結局、ノヴァって何をやらかして追い出されてきたの?」
「リタさんでしたか、ノヴァから聞いていないのですか? このノヴァは、勇者としての称号を授与した式典の後に開催された宴で、もらったばかりの勲章を投げ捨て、陛下にはちみつ酒を樽ごとかぶせて、王家の旗を燃やして逃げ出したのです」
サイラスが苦笑いで説明すると、リタがふらりと倒れそうになる。
「え……さすがにちょっと、不敬が過ぎてかばいきれない感じじゃない?」
お願い、その感想、もっとも過ぎてつらくなってきちゃうから、ちょっとだけ待って。あとにして。
「その一連の出来事が……まさかあんなことになろうとは、思わなかったのだ」
ようやく顔をあげてくれた王様から、王様暗殺未遂の一連の出来事を説明される。
あのあとすぐに、桶屋クエストのツリーが完了になったのは、そういうことだったのか。
「なんか……ノヴァって本当、ディディさんたちの話じゃないけど、わけわかんないけどすごいんだね」
あきれたようにリタが言えば、「ふふ、あなたも振り回されてるみたいね?」と、まだ笑っていたクレアとディディが嬉しそうにする。
「ラルオ村の皆様、改めて、お騒がせして申し訳ありませんでした。無事にゴレムちゃんのことを確かめられて、ノヴァへの誤解を解く機会も設けられて、ほっとした気持ちです」
「うん、勇者様はさすがだ。まっすぐで気持ちがいいな! そういうわけだぞ、ノヴァ。王様と勇者様に頭まで下げさせて、まさか許さないなんてことはないよな?」
「わざわざお越しいただくなんて、本来ならとんでもないことですよ!」
「ノヴァ、器が試されてるよ?」
ランド、カティ、リタから順番に詰め寄られて、俺はぐっと後ずさる。
「そもそも俺の方が申し訳ないことをしたって思ってたんだから、許すも許さないもないよ。陛下、どうか顔をあげてください。その節は、きちんとした説明もできずに、大変失礼いたしました」
「おお、許してくれるか……ありがたい」
お互いに改めて頭を下げあった俺と王様に、どこからともなく拍手と歓声がわきおこる。これで王都の出禁も解けて、色々な意味で一区切りがついた。
「さて、さっそくだが、おぬしへの勲章の授与をやり直したいのだがどうだ? ずいぶんと日が経ってしまったが、英雄の一人として、改めて王都へ迎え入れたいのだ」
おお、と歓声が大きくなる。
「ぜひ戻ってきてくれ。またいっしょに色々な冒険をしよう」
サイラスが、きらっきらの笑顔で握手を求めてくれる。
「ノヴァくんがいた方が、おもしろくなることが多いしね」
ばちんとウインクしてみせたクレアは、俺個人がどうこうというより、桶屋クエストでどたばたするのを楽しみにしているようだ。
「うんうん、いいんじゃない?」「……いつでも歓迎する」
ディディがにっかりと笑い、バスクも珍しく口元を緩めてくれた。
「よかったね、ノヴァ!」
「実は冗談半分で聞いてたんだが、本当の本当に勇者様のパーティーにいたんだな」
「少し残念な気もしますけど、ノヴァさんの意思を尊重します」
リタ、ランド、カティも、それぞれに笑顔を見せてくれる。
これからいっしょに村でやっていける。そう思ってくれていたからこそ、三人の笑顔は少しだけぎこちない。
それでも、祝福してくれたり、ランドのように軽口を言ってくれたのがうれしかった。
俺は本当に、昔も今もいい仲間に恵まれているんだな。いまさら実感がわいてきて、胸が熱くなる。
自分自身で、何が起こるかコントロールしきれない特殊スキルを頼りにやってきたけど、それを理解しようとしてくれたサイラスたちがいたからこそ、今の俺があるのだと思う。
「みんな、ありがとう」
ぐるりと皆を見回して、決心を固めた俺は、そっと手を差し出した。