「あたしたち、みなみんと幸村くんとは、小学校のころからクラスがいっしょだったんです。幸村くんは穏やかでやさしい子で、クラスの女子みんなから人気があって。とくにみなみんはユッキーって呼ぶほど仲良くて」
 もうひとりの子が、それに続ける。
「みんなでよくいっしょに遊んだりもしてたんですけど、中学に入ってから、急に幸村くん元気がなくなっていったんです」
「どうして?」
「自分が自分じゃなくなっていくみたいでこわい、って」
「え?」
 どういうことだ?
「急に背が伸びたり、声が太くなっていくのがつらい。男子の制服着て毎日登校するのがしんどい。クラスにいると息が詰まる、って悩むようになって――」
 息が詰まる……? なんか前にも似たようなこと聞いたことあるな。
 そうだ。 
 はじめてあいつに会ったときに。
「泳げないから海では暮らしていけない。だけど、陸にいるのも息苦しい」
 まさか……。
「あたしたちも、みなみんも、幸村くんとはずっと友だちだよ、困ったことがあったら支えていくからって伝えたんですけど、やっぱりまだ学校行くのはこわいって返信があって」
「たまに交代で幸村くんの様子を見に行ったりとかもしてるんですけど、幸村くん、お母さんと二人暮らしで、お母さん医療関係の仕事してるから、夜勤の日が多くて家でひとりぼっちになることもめずらしくないって話してて。なかなか相談できる人がいないみたいなんです」
 クラスの子たちは、ふたりともどうしていいか分からないといった様子だ。
 そいつのこと、心配な気持ちでいっぱいなんだろうな。
「ちょっとお兄ちゃん! なんであたしの教室にいんのよ」
 背後からしんみりした雰囲気をぶち壊すようなデカい声がした。
「オメーが体操着忘れんのがいけねーんだろーが! このうっかりみなみん! あ、友だちのみんな、いろいろ教えてくれてありがとな」
 オレは美波に体操着の袋を放り投げると、さっさと自分の教室に戻った。

 それにしても。
 ユッキー――幸村ってヤツが人魚と同一人物?
 だけど、そうだとしたら、なんで自分のこと「人魚」だなんて名のってるんだ?