「そうなの……!?」
 人魚が息をのむ音が聞こえた。
 そうだよな。はじめて知ったときはオレもショックだったよ。
 たった一匹で、無事に戻って来れる保証もないまま、この広大な宇宙に放り出されるなんて。
「それでな、もし……ロケットに乗せられた犬がどこかの星に不時着して、ひとりぼっちでいるんなら、オレ、犬になってそいつに会いに行きたかったんだ。もう、ひとりじゃねーよって、友だちになって、いっしょに宇宙を回るのがオレの夢。さすがに犬になるのはあきらめたけど、宇宙飛行士になって、宇宙に飛ばされた犬たちに会いに行くことは、今でもずっとかなえたいと思ってるんだよ」
 へへっ、とほほえんだオレの横で、なぜか人魚はメソメソとしていた。
 もしかして、こいつ犬好きなのかな?
「ごめん、笑ったりして」
 手で顔をぬぐいながら人魚はオレにあやまってきた。
 そんな気ぃ遣わなくたっていいのに。
「ほら。うつむいてちゃ、せっかくの星が見えないぞ」
 ポンポン、と人魚の背中をたたくと人魚はようやく顔を上げた。
 涙でうるんだ目が、星みたいに光ってる。
「なぁ、お前の願いってなんだ?」
「私の?」
「そう。人魚なら、どんなことを流れ星にお願いする?」
 人魚はしばらく考えたあと、かすかな声でつぶやいた。
「私……私は、ふつうの女の子になりたい」
「えぇ? でも、今だってふつうの女の子だろ?」
 人魚は首を横に振る。
「昼間の私を見たら、きっと変だって思うわ。人とちがうってことがバレちゃうから」
「人とちがうって、ウロコがあるとかか?」
「うん……明るいところで私を見たら、気持ち悪いって感じると思う」
 人魚の声がふるえてる。
 長いドレスのすそを両手でつかんだまま、ふたたびさめざめと泣いているようだった。
 今まで見た目でひどい目に遭ったことがあるのか?
 そういえば『人魚姫』も悲しい話だったっけ。
 魔女のばあさんにでもいじめられたんだろうか。
「でもオレ、お前といっしょにいるの楽しいけどな」
「えっ?」
 そのとき、暗闇にスウッと一筋の光がこぼれた。
「あっ、ほら! 今星が流れた」
 オレは急いで夜空を指さした。
 続けて、ひとつ。もうひとつと、小さいけれど、まばゆい星たちが真っ黒い空の上を泳いでいく。
「キレイ……」
 はっきりとは見えないけど、ようやく人魚の顔にほほえみが浮かんだみたいだ。
「な? 顔上げるといいことが起きるだろ?」
「うん。ありがとう、樹生」
 うれしそうな人魚の声が、鈴のように耳元で響いた。

 結局その日は、それだけしか星は見えなかったけど、オレたちふたりはとても満足していた。
「ホントにいいのか? 送って行かなくて」
 女の子ひとりで夜道帰るのあぶなくね?
 けれども、人魚は
「大丈夫だから」
 と、言って聞かなかった。
「いざとなったら魔法で撃退するから平気」
 おぉ、攻撃魔法使えるのか。怒らせないようにしなくっちゃな。
「あのね、樹生」
 帰り際、人魚はオレのほうをくるっとふり向いて、
「また、いっしょに星見られるかな?」
 と、たずねてきた。
「あぁ。晴れた日なら、オレだいたいここに来てるから」
 すると、人魚はホッとしたように、
「よかった。じゃあ樹生、またね」
 と、オレにひらひらと手を振った。
「じゃあなーっ、風邪ひくなよー!」
 手を振り返したあと、ハッと気がついた。
 もしかして、さっきのって、デートの誘い???