「樹生は、星を見るのが好きなんだね」
「うん。夜空見てるのホントあきねー。見ろよ、あそこにおひつじ座が見える」
「どこ?」
 オレは人魚に双眼鏡を手渡して、
「ここから東の空のほう。その近くにあるのがうお座。お前の仲間だな。もっと上のほうにあるのがベガスス座。真ん中のほうにあるのがアンドロメダ。その下にはペルセウス。アンドロメダは王女さまで、ペルセウスはアンドロメダを救った英雄なんだ」
「そうなんだ。名前だけは聞いたことがあるけど、そんなエピソードがあったなんて」
「星座はいろんな神話と結びついてるからな。調べてみるとキリがないくらい。そういった細かいエピソードも興味深いけど、ただこうやって星座が並んでるの見るだけでも、オレにとってはおもしろいんだ」
「どうして?」
「だって魚も、動物も、人も同じ空の上にいるんだぞ。この地上じゃありえないじゃん。すべての生き物が同じ場所に住んでるなんて。星座を考えた人っておもしろいよな。ありとあらゆる生き物がこの空の上で暮らしていくことを夢見てたのかな」
「そう……だね。もしかして、この宇宙なら、どんな生き物でも、自由に暮らしていけるのかも」
 そう言うと、人魚はぎゅっとひざを抱えた。
「寒い? もう一杯いるか?」  
 オレは空になったカップに紅茶をつぎ足そうとしたけど、
「大丈夫。少し考えごとしてただけ」
 と、どこかさみしそうにほほえんだ。
 人魚でも、なんか悩んでることがあるのかな……。
「あっ!」
「どうしたの?」
「さっき、あっちのほうでキラッと星が流れたんだ。流星群のうちのひとつかもしれない。ちくしょー、願かけのタイミング逃がしちまった」
 次はいつ流れてくれんだよー。
「流れ星にどんな願いごとするの?」
 願いごと? そりゃあ、もちろん。
「宇宙飛行士になれますようにって」
 すると、人魚はクスクスッと小さな笑い声をたてた。
「壮大な夢だね」
「そうか? これでもだいぶ妥協したほうなんだけどな」
「妥協?」
「ああ。小学生のころはさ、オレ、犬になりたかったんだ。犬になって宇宙に旅立つ。ずっとそう願ってたんだ」
「犬!? なにそれ、おもしろい」
 そうだろうな。クラスのヤツらにもよく笑われたもんだよ。
 だけどな――。

「人魚、宇宙犬って知ってるか?」
「宇宙犬?」
 人魚は首をかしげてる。
「あのな。もう六十年以上前の話なんだけど、人間が宇宙に出る前、実験のためにいろんな動物が宇宙に送られたんだ。そのうち、特に多かったのが犬でさ。無事に戻ってきた犬もいたんだけど、なかには宇宙に打ち上げられたあとすぐ亡くなったり、生きて帰って来られなかった犬もいたんだ」