それからしばらくの間は、オレにとってトホホな日々の連続だった。
 まあ、自業自得っちゃ自業自得なんだけど。

「聞いたか? 汐谷の話」
「おー、星バカだろ? 全然知らん人んちの木に登って寄声あげてたんだってな」
「そーそー! 流星のかけらが頭にぶつかったんだと」
「打ちどころが悪かったんだろうな、気の毒に」
 こないだの件は、なんでかヘンな形で学年のあいだでウワサになってた。
 別にアホになってやったわけじゃねーよ。こっちはあくまでも真剣だったんだから! なんて言い返す毎日。
 めんどくせーから心の中だけでだけど。
「汐谷よ。お前くらいの年ごろだと、いろいろとままならんこともあると思うが、迷惑系ナントカの仲間入りだけはやめとけよ」
「そんなんじゃねーよ!」
 ろう下では、通りすがりにコンペイにまでイヤミ言われる始末。
 地球はイジワルなヤツばっかりだな。
 あーぁ、しばらくオレも学校行くのやめるか。
 でも、そんなことしたら母さんにたたき出されるだけだろうし……。
「お兄ちゃん、ちょっと」
 教室のドアを半分開けて、オレを呼んでいるのは美波。
 あいつ、何しに来たんだ? もうすぐ朝のホームルームが始まる時間なのに。
「なんだ? とうとう兄妹の縁を切りに来たとか言うんじゃねーだろうな」
 美波は不機嫌な顔つきながらも、首を横に振って、
「お兄ちゃんに会いたいって子がいるの」
「オレに?」
 美波は小さくうなずいて、となりにいる子に声をかけた。
「あっ」
 あらわれたのは、どんぐりみたいに丸い目をした、色の白い、セミロングの女の子。
 ひざくらいまである真新しいグレーのスカートの前で、少し恥ずかしそうに両手を組んでいる。
 ブレザーの袖口からチラッとのぞいているのは、真珠のブレスレット。
「おはよう……」
 その子はオレを見上げると、ふんわりとやさしいほほえみを浮かべた。
 心の中にキラッと流れ星がきらめいた気分だ。
 オレも思わず笑顔になって返した。
「おはよ」

 なぁ、人魚。
 オレ、今まで朝なんて大キライだったけど、今日の朝は特別だよ。
 満天の星空と同じくらいに。