「え?」
 目をパチクリとさせている人魚に、オレは話し続ける。
「お前、いい友だちたくさんいるじゃん。美波も、他の子たちも、みんなお前のこと心配してる。この先、大変なことや、つらいこともいろいろあるかもしれないけど、きっとみんながお前の力になってくれるから。美波はオレの何倍もしっかりしてるし。たまにムカつくこともあるけどな」
 静かにオレの話に耳を傾けている人魚。
「だけど、もし、それでもやっぱりお前がつらくなったり、ひとりぼっちだなって感じたときは――」
 バキッ! という音とともに不意に視界が揺れた。
 うぉっと!
「樹生!」
 やっべー、足場にしてた枝の一本が折れた。
 なんとか態勢を持ち直して、人魚のほうを向く。
 いいか、よく聞け。
「そのときは、そのときは……オレがこの星から連れ出してやるから!」
「この星から!?」
「あぁ! 何年、何十年かかるか分かんねーけどよ、オレ絶対に宇宙飛行士になってみせるから。もしも、地球つまんねーなって感じたら、いっしょに旅に出よう。宇宙は地球なんかよりよっぽど広いんだ。きっといろんな星があるよ。宝石みたいに輝く星、モフモフした宇宙人がいっぱい住んでる星。キレイな尾ひれを持つ人魚の住む星。お前が気に入る星が、きっとたくさん見つかるはずだ」
「樹生……」
 人魚の白いほおが、ふわっとピンク色に染まっていく。
 その表情にホッコリしたのもつかの間。
 つかんでいた片方の枝がメリメリッ、と音を立てた。
「いけねっ、そろそろタイムリミットだ。じゃあな人魚! そうだ、もし今度会うときは、あんな演歌歌手みたいな長いドレスじゃなくて、もっと中学生らしいかわいいカッコしてこいよ! オレ、待ってるから!」
 やっとのことで下に降りると、折れまくった枝が地面に転がっていた。
「これで用は済みましたんで。あ、弁償とかの話はここに電話してください」
 オレは、あぜんとしている人魚のお母さんに、うちの家の電話番号を教えると、そそくさと家をあとにした。

……外出禁止一か月ぐらいじゃ許してもらえねーかもなぁ。
 今すぐ宇宙に脱出する方法ってねーのかな。