「美波! 美波ー!」
 ダッシュで家に帰って、美波の部屋のドアをたたくと、ムスッとした顔の美波が出て来た。
「なんなの、お兄ちゃん!? 今から寝ようと思ってたのに。新手のイヤガラセはじめたわけ?」
「教えろーっ!」
 こっちは緊急事態なんだよ!
「いきなりなに? てゆーか、そのカッコ。まただまって天体観測行って来たんでしょ。どーして、いつもそうやって勝手なことばっか――」
「いいから教えてくれ! 幸村ってヤツの家どこだ?」
 美波が、は!? と口を大きく開ける。
「なんでお兄ちゃんがユッキーのこと知ってんのよ?」
「たのむから教えろ! お前、あいつと友だちなんだろ? ワケはあとから話すから。教えてくれたら、うちの洗い物当番変わってやっから! たのむっ、このとおりだ!」
 両手を合わせて拝み倒すオレを見て、美波もオレの必死さに気づいたらしい。
「いったいどしたのお兄ちゃん? まるで人が変わったみたい」
「今夜だけキャラ変してもかまわねぇ! 一生のお願い!」
 美波は困ったように頭をかきながら、
「……しょうがないなぁ。絶対にユッキーに迷惑かけないって約束してよね」

 あれほど好きだったはずの夜空が、今夜は妙にもどかしく思える。
 朝なんて来ないでほしいって何度も願ってたはずなのに、今は一刻も早く夜が明けてほしい。
 オレがあいつにしてやれることなんて、何ひとつないかもしれないけど。
 かえってさらに傷つけるだけかもしれないけど。
 あのとき、公園で伝えきれなかったオレの気持ちを、きちんとあいつに伝えるんだ。