それからは、ずっとぐずついた天候の日が続いて、オレの心もずっとモヤモヤしていた。
 天体観測には行けねーし、当然あいつにも会えない。
 美波の友だちが話してたことも気になるし……。
 まったく授業にも身が入んねー。まぁ、これはいつものことだけど。
「軟体動物に分類されるのは、イカ・タコ・アサリなど。節足動物と異なり、足に節がなくて筋肉でできているのがポイントだ」
 軟体……? あ、今理科やってんのか。イカにタコにアサリかぁ。あー、腹減ったなー。昼休みまだかよ。
「よくまちがえやすいんだが、イソギンチャクは軟体動物ではなく、無せきつい動物の仲間だ。このイソギンチャクをすみかにしているのがクマノミ。ほら、アニメ映画にもなったろ。人魚の尾ひれみたいに鮮やかな色をした小さな熱帯魚だ」
 
 人魚!?
 
 コンペイがスライドにクマノミの画像を映した。
 明るいオレンジ色と白のしま模様をした魚が数匹並んでいる。
「このクマノミには、おもしろい習性があってな。体の大きなオスが、メスに変化するんだ」
 なに???
「こここコンペ……いや先生、ホントか? それ!」
「おぉ、なんだ汐谷。めずらしく天体以外の話題に食いついたな」
 ニヤニヤ笑ってんじゃねーよ! こっちは今真剣なんだから!
「その話、ホントかって聞いてんだよっ!」
 必死なオレとは逆に、コンペイは、うっすい頭にのんきに手をやりながら、
「ワシはウソなど教えん。クマノミをはじめ、性転換をおこなう魚類は実にたくさんいる。オスからメスに、メスからオスになることだってある。性別を変えるなんて聞くと、みんな驚くかもしれないが、自然界では決してめずらしいことではないんだ」
 と話した。

――正確には、泳げない人魚なの。
――静かで、ひんやりとしていて、深い海の底みたいなこの時間帯が、私にとっていちばん落ち着くから。
――ふつうの女の子になりたい。
――きらわれたり、笑われたりしたらつらいもの。

 そういうことかよ。
 バカ……。