「ラヌルフ公爵令嬢は如何お考えでしょうか?」
宰相が私に話を振ってきました。
きっとお父様達を説得して欲しいのでしょう。
そして私に「これからも王太子殿下を支えていきます」とでも言わせ、丸く収めたいのでしょう。無言の圧力を感じますわ。周囲の大臣達も同じ考えなのでしょうか?懇願せんばかりの視線を感じます。
甘いですわよ?宰相様。それに皆様方。
何故、私が耐えねばなりませんの?
私一人が生贄になれば物事が全て丸く収まるとでも?
御冗談を!
寝言は寝てから仰って下さいまし!
「レーモン王太子殿下の心が別の女性にあるのは既に皆様も御存知の筈ですわ。仮に私が正妃として殿下の元の嫁いだとしましょう。その場合、果たして私の子供は誕生するのでしょうか?」
誰かがゴクリと喉を鳴らしました。
緊張の漂う沈黙に重い空気を纏った重圧感ある雰囲気の中、宰相が漸く口を開きました。
「それは一体どのような意味で仰られているのでしょうかな?」
「言葉通りの意味ですわ。私が殿下に白い結婚を言い渡された場合、あるいは子を流された場合、私の血が王家に入らない可能性が現段階でとても高い、と申し上げているのです」
「「「「!!??」」」」
私の返答で周囲が大きくざわめきました。
宰相が信じられないモノを見ていますわ(確かに信じられないのは理解しますが)。そこまで驚くことでしょうか?
「静粛に!!」
宰相がざわめきを制したことで、程なく元の静寂が戻ってきました。流石、宰相を務めるだけのことはあります。他の大臣の中には恐ろしい未来を想像して遠い目をしていらっしゃる方もいましたわ。お気持ちは分かります。
「つまり、ラヌルフ公爵令嬢は王太子殿下が信用ならない人物だと仰るのですな?」
「現段階で私達から信用を得られない人物に成り下がったのは殿下の方ではありませんか。信用に足りない相手と婚姻をしたところで得るものは何もないかと……。それとも宰相は信用ならない国と同盟を結ぶことができるとお思いですか?」
「!?い、いやそれは……」
宰相が押し黙ります。
自国の王太子だと思うからいけないのです。
これが他国との関係なら全く違った意見になるでしょう。
まったく。想像力の欠如かしら?それともただ状況が見えていないだけかしら?殿下の気の迷いだと考えているとか?
若さ故の過ち。
それは王族には通用しない言い訳です。何故なら王族に生まれた時点で婚姻が政略的な面を持っているのは当然です。殿下の行いは、それを放棄したも同然。それは即ち、王族失格の烙印を国民に押されても致し方のないことですわ。
それに――
「そんなに愛しているなら結婚なさったらよろしいのに……」
ポツリと私の口から洩れた言葉。
ザワリ。
一斉に大臣達が私を凝視します。
あら? 私、今なにか言いましたかしら?
皆様の顔が更に青ざめていくんですけど……。変な事言いました?思っていた事が、つい口から漏れてしまったのかしら?あらいやだ。怖いですわね。
「殿下は『真実の愛に目覚めた』と学園で言い回っておいでと小耳に挟んでおります。私や公爵家を『愛し合う者達を引き裂く悪人』と罵っている事も存じておりますわ。私は次のラヌルフ公爵を産み落とす義務がございます。それ故に、正妃として私は二人以上の子供をもうけるように、と散々王妃殿下に言われてきましたわ。ですが、今のままでは私が子をなす事は不可能に近いのです。それともここにいらっしゃる方々はラヌルフ公爵家の直系血筋が途絶えても構わないとお考えなのでしょうか?それとも跡取りと目されています私以外、他所から養子を娶ればいいとでも思っていらっしゃるのでしょうか?」
我が公爵家が王太子との婚約に消極的だった一番の理由。
それが今の私の発言により露見してしまいました。まぁ、隠していませんから知っている方は知ってますけれど……。