======== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
大文字伝子・・・主人公。翻訳家。EITOアンバサダー。
大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。
愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。階級は警部補。
愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。巡査部長。
久保田(渡辺)あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。久保田警部補と結婚した。
久保田誠警部補・・・愛宕の元相棒。警視庁刑事。
橘なぎさ一佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。
金森和子空曹長・・・空自からのEITO出向。
増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。
大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。
田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。
馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。
副島はるか・・・伝子の小学校の書道部の先輩。EITO準隊員。
日向さやか(ひなたさやか)一佐・・・伝子の替え玉もつとめる。空自からのEITO出向。
安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。
斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者の1人。
新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署勤務。EITOに出向。
結城たまき警部・・・警視庁捜査一課の刑事。EITOに出向。
江南(えなみ)美由紀警部補・・・元警察犬チーム班長
飯星満里奈・・・元陸自看護官。プロレス技が得意。
稲森花純一曹・・・海自からの出向。投げ縄を得意とする。
早乙女愛・・・元白バイ隊隊長。EITO参加後も、普段は白バイに乗っている。
青山たかし・・・久保田警部補の後任で愛宕の上司だったが、警察を退職後に、EITOに就職。
草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。
河野事務官・・・EITOの警視庁担当事務官。
遠藤研一事務官・・・EITOのソタイ担当事務官。
菅沼巡査部長・・・EITOのマトリ担当の巡査部長。
上島警部・・・EITOの警備局担当。警備局直属。
鳩山二曹・・・EITOの海自と海上保安庁担当。
沖三曹・・・EITOの空自担当。
加護准尉・・・EITOの在日米軍の担当。
川辺通信事務官・・・EITOの外務省担当。
枝山事務官・・・EITOプロファイリング担当。
筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。伝子と一時付き合っていた。警視庁副総監直属の警部。EITOに出向。
久保田嘉三管理官・・・警視庁管理官。久保田警部補の叔父。
橋爪警部補・・・島之内署、高速エリア署を経て、丸髷署に。生活安全課所属。愛宕の相棒。
南部(江角)総子・・・伝子の従妹。EITO大阪支部。
=======================================
==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==
午前10時。EITOベースワン。記者会見場。
「だから、三軒茶屋駅近くの脱線事故は関係ありません。レールの老朽化って、発表があった通りです。乗客の中に『シンキチ』さんがいても、今回使い魔が起した事件とは関係ありません。そもそも、時間帯が違うでしょ。食い下がる記者は、『スパイ』と見なして調査しますよ。」理事官は、憤然として立ち去った。
同じ頃。テレビで高遠と伝子は会見を観ていた。
「聞いた話だけどさ。記者やってる人達って、『お受験』の為の勉強ばっかりやってたから、融通効かないんだって。」「それで、アホなのか、記者は。」「だね。」
「前はテレビの記者もそうだったらしいよ。電波オークションでテレビはマシになったけど、新聞記者や雑誌記者に流れた人も多いらしい。」「どこで仕入れた?」「利根川さんに聞いた。」「なら、確かだね。」
「これ。」と、伝子は高遠に紙片を渡した。どうやら使い魔のメールの文面らしい。
《ヤクザまで動員するとは、恐れ入った。手の内は分かったよ。今回はノーヒントだ。防げるものなら防いでみろ。》
「それもあって、理事官はいきり立っていたのさ。」「ふうん。ヒントなしじゃ事件起きてから後始末するしかないね。」「うん。」
その時、総子から伝子のスマホに電話がかかって来た。
「もしもし、ねえちゃん。」伝子はスピーカーをオンにした。
「総子か。夕べは、闘いの後の移動でくたびれただろう?」「平気、平気。副島大先輩は新幹線の中で寝てはったけどな。盛況やで、『三十三間堂の通し矢』は有名やからな。新成人の男女は午前中で、副島先輩や田坂さん、安藤さんは有段者やさかい、午後からやねん。」「三人の案内役は頼むぞ、総子。」「うん。まかしとき。」
総子、副島、田坂、安藤は、毎年恒例の京都の三十三間堂の通し矢に参加する為、午後2時には伝子のマンションを出て、新幹線で移動したのだった。総子は見学のみだったが。
「総子の奴、気を遣って、使い魔や、です・パイロットのことは話さなかった。」
「3人には、少しでもハネを延ばして欲しいね。」と、高遠は伝子に応えた。
正午。伝子達が昼食を採っていると、ニュースで立て続けに起こった事故や事件のことを放送していた。
1つ目。第4高速で玉突き事故。
2つ目。渋谷のデパートの化粧品売り場で暴徒が発砲。
3つ目。御徒町のレストランで新年会中に食中毒。
4つ目。目白で火事(焼身自殺)。
5つ目。元ラグビー選手が麻薬所持で逮捕。
テレビには、『犯罪心理学の権威』とかいう、ガーシー虎雄とかいうタレントが、まことしやかに語っていた。
「全て、です・パイロットの仕業です。」言い切るガーシーにMCが尋ねた。
「使い魔の仕業ということですか?」「そうです。同じ時間帯で起こっているでしょ。」
「偶然では、ないでしょうか?関連性がなさそうですが。脱線事故は。」「いいえ。無能なEITOを奴らはあざ笑っているんです。」
MCはまずいと思ったのか、スタッフに合図を送り、コマーシャルを映らせた。
「この人、狙われるな。ちょっと、行ってくる。」伝子は、マンションを飛び出し、バイクでテレビ局に向かった。
高遠は、PCを起動し、EITOに連絡をした。
第一高速。テレビ2に到着した時に、ガーシー虎雄がクルマに乗り込むのを見た伝子は、そのまま尾行した。
途中、伝子のバイクを追い越したクルマが、ガーシーのクルマの前に出て、急ブレーキをかけて止めた。
伝子はDDバッジを押した。DDバッジとは、着用しているだけで、ある程度のエリアをEITOが把握し、押すと、ピンポイントで座標を割り出し、緊急事態と判断して、オスプレイが出動する仕組みのバッジである。
伝子はバイクを降りて、ガーシーと、揉めている男の所へ行った。
「どうかされましたか?」と、声をかけると、あおり運転の男が銃を向けた。伝子はガーシーのクルマの後部ドアを開けて、ドアを盾にして、ブーメランを男の後方に投げた。ブーメランは、男の後頭部に直撃し、男は頽れた。
伝子が男の様子を見ている内に、後ろからナイフを首に当てられた。
「罠だったのか。」と、伝子が言うと、「その通り。」とガーシーは言った。
早乙女が白バイで到着した時、伝子のバイクだけが現場に残っていた。
午後1時半。EITOベースゼロ。
「誘拐?大文字君が、か。」理事官は驚いて言った。
「現場の様子からすると、そうとしか思えません。反対側の車線で、目撃した者もいます。今、ドライブレコーダーを解析しています。」
早乙女の報告を受けた理事官は、「渡。エマージェンシーガールに緊急招集だ。」と言った。
「はい。でも、副島準隊員と、田坂隊員と安藤隊員は今、京都です。」と、渡は言った。
「では、渡辺警視も呼んでくれ。」と、理事官は言い、継いで支持を出そうとしたら、草薙は既に高遠を呼び出していた。
「テレビ2で、ガーシーがEITO批判をした後、ガーシーが危ない、って飛び出しちゃったんです。」と、高遠は言った。
「伝子さんのブーツには、大文字システムのガラケー発信器が入っています。」と、高遠は付け加えて言った。
「どうして、知っているんだね?」と理事官が尋ねると、「僕が入れたからです。こういう時の為に。」と、高遠は応えた。
ガラケー発信器は、激しい振動が加わると作動する仕組みになっている。
「草薙。追尾しろ。オスプレイは状況に応じて出動する。」
あおり運転のドライバーの車中。
伝子は、後部座席に手枷足枷をされ、転がっている。
「あんたが、何者かは、向こうに着いたら、じっくり聞くよ。」男は笑った。
伝子は思った。(学のお節介のお陰で命拾いしそうだ。こいつらは何者だ?ガーシーは有名人の筈だが・・・そうか、どこかで入れ替わった、そっくりさんか。)
午後3時。ある、解体前のパーキングビル。
「何だ、殺風景だな。ソファーぐらい置いとけよ。」と、クルマを降りるなり、伝子は文句を言った。
「五月蠅いな。」と言いながら、一脚しかないテーブルの前にガーシーは座った。
「なんで俺たちを尾行した?サツのイヌか?」「みたいなもんかな、ワンワン!!」と伝子は言った。
ガーシーは、メールを書き、送信した。USBのWi-Fiのようだ。
伝子は背後から、そっと覗き込んだ。「こら!」ガーシーは伝子を突き飛ばした。
午後3時10分。テレビAを通じて、使い魔のメールが届いた。
《お前らの仲間らしい女を捕まえた。エマージェンシーガールズにチャンスをやる。探し出して、やってこい。行動隊長と人質交換だ。》
午後3時30分。
エマージェンシーガールズがやってきた。「早いな。行動隊長は前に出ろ。」
日向が、一歩前に出た。「私だ。人質を解放して貰おうか。」
「その前にふん縛れ。」とガーシーは言った。
部下が中間地点まで来ていた、日向にロープをかけた。
「じゃあ、人質を解放して貰おうか。」「やーだよ。人質は二人だ。若い行動隊長と、そこのトシマ女だ。」
「今、トシマって言ったか?ガーシー。」「ああ。言ったよ。ト、シ、マ。」
「トシマだとおおおおおおおおおおお!!」
伝子はあっという間にロープを解いた。驚いた、部下達が、エマージェンシーガールズに襲いかかった。
エマージェンシーガールズは2手に分かれた。他のエマージェンシーガールズは、ガーシーの部下と対決したが、なぎさ、あつこ、みちるは違った。
伝子は、ガーシーを素手で殴り始めた。なぎさ、あつこ、みちるは10秒待って伝子を止めた。「おねえさま。タイムアップです。」「おねえさま。ここまでです。」「おねえさま。殺さないで下さい。」
3人がかりで伝子をガーシーから引き離した。日向は、あかりがシューターでロープを解いていた。
あつこが、軽く平手打ちをすると、ガーシーは目覚めた。
「何なんだよ、てめえはよう。」
「ある時は、狐面の女、ある時はワンダーウーマン、ある時はエマージェンシーガール。果たして、その実態は、大文字伝子だ!!」
見栄を切り、どや顔する伝子に、ガーシーが言った。「大文字伝子・・・聞いた事無い。」「え?知らなかったのか?」
なぎさがガーシーに尋ねた。「あんたが、使い魔だったのね。部下が10人しかいないってことは『弾切れ』ね。本物のガーシーはどこ?」
「多分、日本海だな。」飯星は、ガーシーに延髄切りを放った。
午後7時。伝子のマンション。
高遠がメモを読む。「伝言が2つ。一つ目は、理事官。『あんまり無茶をしないでくれ』、二つ目は、飯星さんから。『ストレス溜めると良くないので、池上先生に検査して貰って下さい。』」
「若い子達には、ちょっとショックだったかもね、おねえさまの『発作』のこと。」と、なぎさが言った。
「止められるのは、一佐達だけだものね。副部長が『地雷』ってよく言っているよ。」と、高遠が笑った。
「はいはい。私がワルウございました。ごめんなさい。」2人の会話に割り込んだ。
「今日は、帰ります。どの道、当直だし。」なぎさは静かに帰って行った。
「学ぅ。私、悪い子?」「ううん、伝子はいつもいい子だよ。」
「伝子はいつもいいこだよ・・・まるで、新婚夫婦みたい。」といつの間にか入って来た伝子の母である綾子が言った。
「だまれ、くそババア!!」
伝子は台所に行き、塩を手にした。
そこへ、藤井が顔を出した。「あら。鯛焼きに塩は要らないわよ。」と藤井が言い、伝子の後方から、高遠が片手で拝みながら、頭を下げた。
伝子のスマホが鳴動し、高遠が出ると総子だった。「ああ。総子ちゃん。ナイスタイミング。」「ナイスタイミング?何のこと学兄ちゃん。副島さん達、新幹線乗ったからな。伝子姉ちゃんに言うといてえ。」「了解。任しといて。」
振り返ると、リビングに藤井が鯛焼きを並べていた。高遠は、急いでお茶の準備をし、夕食はどうしようか?と考えていた。
―完―
============== 主な登場人物 ================
大文字伝子・・・主人公。翻訳家。EITOアンバサダー。
大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。
愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。階級は警部補。
愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。巡査部長。
久保田(渡辺)あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。久保田警部補と結婚した。
久保田誠警部補・・・愛宕の元相棒。警視庁刑事。
橘なぎさ一佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。
金森和子空曹長・・・空自からのEITO出向。
増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。
大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。
田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。
馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。
副島はるか・・・伝子の小学校の書道部の先輩。EITO準隊員。
日向さやか(ひなたさやか)一佐・・・伝子の替え玉もつとめる。空自からのEITO出向。
安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。
斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者の1人。
新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署勤務。EITOに出向。
結城たまき警部・・・警視庁捜査一課の刑事。EITOに出向。
江南(えなみ)美由紀警部補・・・元警察犬チーム班長
飯星満里奈・・・元陸自看護官。プロレス技が得意。
稲森花純一曹・・・海自からの出向。投げ縄を得意とする。
早乙女愛・・・元白バイ隊隊長。EITO参加後も、普段は白バイに乗っている。
青山たかし・・・久保田警部補の後任で愛宕の上司だったが、警察を退職後に、EITOに就職。
草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。
河野事務官・・・EITOの警視庁担当事務官。
遠藤研一事務官・・・EITOのソタイ担当事務官。
菅沼巡査部長・・・EITOのマトリ担当の巡査部長。
上島警部・・・EITOの警備局担当。警備局直属。
鳩山二曹・・・EITOの海自と海上保安庁担当。
沖三曹・・・EITOの空自担当。
加護准尉・・・EITOの在日米軍の担当。
川辺通信事務官・・・EITOの外務省担当。
枝山事務官・・・EITOプロファイリング担当。
筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。伝子と一時付き合っていた。警視庁副総監直属の警部。EITOに出向。
久保田嘉三管理官・・・警視庁管理官。久保田警部補の叔父。
橋爪警部補・・・島之内署、高速エリア署を経て、丸髷署に。生活安全課所属。愛宕の相棒。
南部(江角)総子・・・伝子の従妹。EITO大阪支部。
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==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==
午前10時。EITOベースワン。記者会見場。
「だから、三軒茶屋駅近くの脱線事故は関係ありません。レールの老朽化って、発表があった通りです。乗客の中に『シンキチ』さんがいても、今回使い魔が起した事件とは関係ありません。そもそも、時間帯が違うでしょ。食い下がる記者は、『スパイ』と見なして調査しますよ。」理事官は、憤然として立ち去った。
同じ頃。テレビで高遠と伝子は会見を観ていた。
「聞いた話だけどさ。記者やってる人達って、『お受験』の為の勉強ばっかりやってたから、融通効かないんだって。」「それで、アホなのか、記者は。」「だね。」
「前はテレビの記者もそうだったらしいよ。電波オークションでテレビはマシになったけど、新聞記者や雑誌記者に流れた人も多いらしい。」「どこで仕入れた?」「利根川さんに聞いた。」「なら、確かだね。」
「これ。」と、伝子は高遠に紙片を渡した。どうやら使い魔のメールの文面らしい。
《ヤクザまで動員するとは、恐れ入った。手の内は分かったよ。今回はノーヒントだ。防げるものなら防いでみろ。》
「それもあって、理事官はいきり立っていたのさ。」「ふうん。ヒントなしじゃ事件起きてから後始末するしかないね。」「うん。」
その時、総子から伝子のスマホに電話がかかって来た。
「もしもし、ねえちゃん。」伝子はスピーカーをオンにした。
「総子か。夕べは、闘いの後の移動でくたびれただろう?」「平気、平気。副島大先輩は新幹線の中で寝てはったけどな。盛況やで、『三十三間堂の通し矢』は有名やからな。新成人の男女は午前中で、副島先輩や田坂さん、安藤さんは有段者やさかい、午後からやねん。」「三人の案内役は頼むぞ、総子。」「うん。まかしとき。」
総子、副島、田坂、安藤は、毎年恒例の京都の三十三間堂の通し矢に参加する為、午後2時には伝子のマンションを出て、新幹線で移動したのだった。総子は見学のみだったが。
「総子の奴、気を遣って、使い魔や、です・パイロットのことは話さなかった。」
「3人には、少しでもハネを延ばして欲しいね。」と、高遠は伝子に応えた。
正午。伝子達が昼食を採っていると、ニュースで立て続けに起こった事故や事件のことを放送していた。
1つ目。第4高速で玉突き事故。
2つ目。渋谷のデパートの化粧品売り場で暴徒が発砲。
3つ目。御徒町のレストランで新年会中に食中毒。
4つ目。目白で火事(焼身自殺)。
5つ目。元ラグビー選手が麻薬所持で逮捕。
テレビには、『犯罪心理学の権威』とかいう、ガーシー虎雄とかいうタレントが、まことしやかに語っていた。
「全て、です・パイロットの仕業です。」言い切るガーシーにMCが尋ねた。
「使い魔の仕業ということですか?」「そうです。同じ時間帯で起こっているでしょ。」
「偶然では、ないでしょうか?関連性がなさそうですが。脱線事故は。」「いいえ。無能なEITOを奴らはあざ笑っているんです。」
MCはまずいと思ったのか、スタッフに合図を送り、コマーシャルを映らせた。
「この人、狙われるな。ちょっと、行ってくる。」伝子は、マンションを飛び出し、バイクでテレビ局に向かった。
高遠は、PCを起動し、EITOに連絡をした。
第一高速。テレビ2に到着した時に、ガーシー虎雄がクルマに乗り込むのを見た伝子は、そのまま尾行した。
途中、伝子のバイクを追い越したクルマが、ガーシーのクルマの前に出て、急ブレーキをかけて止めた。
伝子はDDバッジを押した。DDバッジとは、着用しているだけで、ある程度のエリアをEITOが把握し、押すと、ピンポイントで座標を割り出し、緊急事態と判断して、オスプレイが出動する仕組みのバッジである。
伝子はバイクを降りて、ガーシーと、揉めている男の所へ行った。
「どうかされましたか?」と、声をかけると、あおり運転の男が銃を向けた。伝子はガーシーのクルマの後部ドアを開けて、ドアを盾にして、ブーメランを男の後方に投げた。ブーメランは、男の後頭部に直撃し、男は頽れた。
伝子が男の様子を見ている内に、後ろからナイフを首に当てられた。
「罠だったのか。」と、伝子が言うと、「その通り。」とガーシーは言った。
早乙女が白バイで到着した時、伝子のバイクだけが現場に残っていた。
午後1時半。EITOベースゼロ。
「誘拐?大文字君が、か。」理事官は驚いて言った。
「現場の様子からすると、そうとしか思えません。反対側の車線で、目撃した者もいます。今、ドライブレコーダーを解析しています。」
早乙女の報告を受けた理事官は、「渡。エマージェンシーガールに緊急招集だ。」と言った。
「はい。でも、副島準隊員と、田坂隊員と安藤隊員は今、京都です。」と、渡は言った。
「では、渡辺警視も呼んでくれ。」と、理事官は言い、継いで支持を出そうとしたら、草薙は既に高遠を呼び出していた。
「テレビ2で、ガーシーがEITO批判をした後、ガーシーが危ない、って飛び出しちゃったんです。」と、高遠は言った。
「伝子さんのブーツには、大文字システムのガラケー発信器が入っています。」と、高遠は付け加えて言った。
「どうして、知っているんだね?」と理事官が尋ねると、「僕が入れたからです。こういう時の為に。」と、高遠は応えた。
ガラケー発信器は、激しい振動が加わると作動する仕組みになっている。
「草薙。追尾しろ。オスプレイは状況に応じて出動する。」
あおり運転のドライバーの車中。
伝子は、後部座席に手枷足枷をされ、転がっている。
「あんたが、何者かは、向こうに着いたら、じっくり聞くよ。」男は笑った。
伝子は思った。(学のお節介のお陰で命拾いしそうだ。こいつらは何者だ?ガーシーは有名人の筈だが・・・そうか、どこかで入れ替わった、そっくりさんか。)
午後3時。ある、解体前のパーキングビル。
「何だ、殺風景だな。ソファーぐらい置いとけよ。」と、クルマを降りるなり、伝子は文句を言った。
「五月蠅いな。」と言いながら、一脚しかないテーブルの前にガーシーは座った。
「なんで俺たちを尾行した?サツのイヌか?」「みたいなもんかな、ワンワン!!」と伝子は言った。
ガーシーは、メールを書き、送信した。USBのWi-Fiのようだ。
伝子は背後から、そっと覗き込んだ。「こら!」ガーシーは伝子を突き飛ばした。
午後3時10分。テレビAを通じて、使い魔のメールが届いた。
《お前らの仲間らしい女を捕まえた。エマージェンシーガールズにチャンスをやる。探し出して、やってこい。行動隊長と人質交換だ。》
午後3時30分。
エマージェンシーガールズがやってきた。「早いな。行動隊長は前に出ろ。」
日向が、一歩前に出た。「私だ。人質を解放して貰おうか。」
「その前にふん縛れ。」とガーシーは言った。
部下が中間地点まで来ていた、日向にロープをかけた。
「じゃあ、人質を解放して貰おうか。」「やーだよ。人質は二人だ。若い行動隊長と、そこのトシマ女だ。」
「今、トシマって言ったか?ガーシー。」「ああ。言ったよ。ト、シ、マ。」
「トシマだとおおおおおおおおおおお!!」
伝子はあっという間にロープを解いた。驚いた、部下達が、エマージェンシーガールズに襲いかかった。
エマージェンシーガールズは2手に分かれた。他のエマージェンシーガールズは、ガーシーの部下と対決したが、なぎさ、あつこ、みちるは違った。
伝子は、ガーシーを素手で殴り始めた。なぎさ、あつこ、みちるは10秒待って伝子を止めた。「おねえさま。タイムアップです。」「おねえさま。ここまでです。」「おねえさま。殺さないで下さい。」
3人がかりで伝子をガーシーから引き離した。日向は、あかりがシューターでロープを解いていた。
あつこが、軽く平手打ちをすると、ガーシーは目覚めた。
「何なんだよ、てめえはよう。」
「ある時は、狐面の女、ある時はワンダーウーマン、ある時はエマージェンシーガール。果たして、その実態は、大文字伝子だ!!」
見栄を切り、どや顔する伝子に、ガーシーが言った。「大文字伝子・・・聞いた事無い。」「え?知らなかったのか?」
なぎさがガーシーに尋ねた。「あんたが、使い魔だったのね。部下が10人しかいないってことは『弾切れ』ね。本物のガーシーはどこ?」
「多分、日本海だな。」飯星は、ガーシーに延髄切りを放った。
午後7時。伝子のマンション。
高遠がメモを読む。「伝言が2つ。一つ目は、理事官。『あんまり無茶をしないでくれ』、二つ目は、飯星さんから。『ストレス溜めると良くないので、池上先生に検査して貰って下さい。』」
「若い子達には、ちょっとショックだったかもね、おねえさまの『発作』のこと。」と、なぎさが言った。
「止められるのは、一佐達だけだものね。副部長が『地雷』ってよく言っているよ。」と、高遠が笑った。
「はいはい。私がワルウございました。ごめんなさい。」2人の会話に割り込んだ。
「今日は、帰ります。どの道、当直だし。」なぎさは静かに帰って行った。
「学ぅ。私、悪い子?」「ううん、伝子はいつもいい子だよ。」
「伝子はいつもいいこだよ・・・まるで、新婚夫婦みたい。」といつの間にか入って来た伝子の母である綾子が言った。
「だまれ、くそババア!!」
伝子は台所に行き、塩を手にした。
そこへ、藤井が顔を出した。「あら。鯛焼きに塩は要らないわよ。」と藤井が言い、伝子の後方から、高遠が片手で拝みながら、頭を下げた。
伝子のスマホが鳴動し、高遠が出ると総子だった。「ああ。総子ちゃん。ナイスタイミング。」「ナイスタイミング?何のこと学兄ちゃん。副島さん達、新幹線乗ったからな。伝子姉ちゃんに言うといてえ。」「了解。任しといて。」
振り返ると、リビングに藤井が鯛焼きを並べていた。高遠は、急いでお茶の準備をし、夕食はどうしようか?と考えていた。
―完―