======== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
大文字伝子・・・主人公。翻訳家。EITOアンバサダー。
大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。
愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。巡査部長。
物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。モールで喫茶店を経営している。
久保田(渡辺)あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。警部から昇格。
橘なぎさ二佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。
久保田嘉三管理官・・・久保田警部補の叔父。EITO前司令官。
斉藤理事官・・・EITO理事官。
金森和子一曹・・・空自からのEITO出向。
増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。
辰巳一郎・・・物部が経営する、喫茶店アテロゴの従業員。
天童晃(ひかる)・・・かつて、公民館で伝子と対決した剣士の一人。
矢田浩一郎・・・天童に同じ。
松本悦司・・・天童に同じ。
江角総子・・・伝子の従妹。大阪で探偵をやっている。時々、東京にも出没する。
南部寅次郎・・・南部興信所所長。江角総子と事実婚(同棲)をしている。
中津警部補・・・警視庁刑事。
青山警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。愛宕の相棒。
中山ひかる・・・愛宕のお隣の高校生。推理が得意。
青木新一・・・Linenを使いこなす高校生。
中津健二・・・中津警部補(中津刑事)の弟。興信所を経営している。
大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。
田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。
馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
右門一尉・・・空自からのEITO出向。
夏目房之助・・・市場リサーチの会社を経営。
柴田管理官・・・警視庁管理官。
ジョー・タウ・・・かつて1対1で伝子が倒した、敵側の用心棒。
ジャック・タウ・・・かつて1対1で伝子が倒した、敵側の用心棒。
利根川道明・・・元テレビ局コメンテーター。
依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。宅配便ドライバーをしている。
福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。
南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師
山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。
服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。
松下宗一郎・・・福本の元劇団仲間。
本田幸之助・・・福本の元劇団仲間。
豊田哲夫・・・福本の劇団仲間。
福本(鈴木)祥子・・・福本の妻。福本の劇団の看板女優。
小田慶子・・・やすらぎほのかホテル東京副支配人。依田と交際している。
南原蘭・・・南原の妹。美容室に勤めている。
草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
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午前9時。大阪。南部興信所近くのマンション。
「ダーリン。もう一回。」「もう堪忍してくれ。幾つ歳離れてると思うてんねん。」「ほんの、半世紀やん。」「体もたんがな。精力強いのは分かっているけどな、若いし。」
「部下を手込めにした責任取ってや。せやないと、裁判やで。本庄先生に弁護頼もう。」
「結婚するって言うてるやないか、お前がハタチになったら。」「今は18歳で成人やで。」「でも、タバコと酒はハタチからやで。」「もうええわ。はよ着替えて歯磨いて。」
総子は日常的な痴話喧嘩を終えると、先に着替えて朝食の準備にかかった。
南部興信所所長の南部寅次郎は、大文字伝子の従妹の江角総子と同棲、いや、事実婚をしていた。興信所の近くなので、所員は皆二人の関係を知っていたが、素知らぬ顔で二人と対応していた。
午前10時。南部興信所。所長室。
「所長。本庄先生です。」と言って、総子が本庄弁護士と入って来る。
「所長。浮気調査をお願いしたいの。浮気相手は東京の人らしいんだけど。」
「そんなら、彼女を行かせましょう。まだ駆け出しやが、東京ならある程度土地勘もあるし。」「じゃ、お願いね。」と本庄は資料を置いて行った。
「総子。これ、経費。新幹線で行きや。夜行はアカンで。急ぎやからな。」「はい。所長。」
午後2時。新幹線車中。
「こんなんと浮気するかなあ。取り敢えず、写真やな。」と呟いていると、隣の席の男性が声をかけてきた。
「お仕事ですか?」「ええ。ちょっと。ボヤキ聞こえました?すんません。ウチ、口から生まれて来たさかい、取りあえず思ったこと言葉にしてしまうんですわ。」「面白い。東京に行かれるんですよね。お時間あったら、よろしければ連絡して下さい。」
「あのー。ナンパですか?ウチ高く付きますよ。あ。違う違う、誤解せんといて。風俗はやってません。」男性は苦笑しながら、名刺を渡した。
「『市場リサーチ』の仕事をしてはるんですか、夏目さん。」「若い方の意見は、非常に参考になりますので。お仕事終えられてから大阪に戻る前にお時間がありましたら。」と男性は言った。
それから、約2時間。総子の独壇場だった。東京駅に着くと、総子は山手線に乗り換え、目白駅で降りた。駅に着くと、中津興信所の所長、中津健二が迎えに来ていた。
「いつもすんません。」と総子は中津に頭を下げた。
「ふうちゃん。この女がターゲット。」と一枚の写真を中津は総子に見せた。「依頼人によると、毎週金曜日に男に会いに行く。会うホテルは分からない。でも、泊まるホテルは目白ホテル。決まっている。」
「目白って言うと、高級住宅ばかりやと思っていたけど、そうでも無いんですね。」「まあね。」「じゃ、張り込みに行くよ。」
中津は発車した。ここでも、総子のおしゃべりは続いた。
午後5時。伝子のマンション。
「交通安全教室、今回も好評でしたよ、伝子さん。伝子。」と高遠が言うと、「ごめんな、学。みんなを巻き込みたくないからな。」と伝子は夫である高遠に神妙に謝った。
「仕方がないよね。もう、敵の深層まで伝子さんの存在が知れ渡っている感じだからね。」
EITO用のPCが起動し、画面が現れた。理事官が苦虫を潰した顔をしている。
「大文字君。大変なことが分かった。高遠君の提案で、警察内部から情報が漏れていないか、徹底して調べた。草薙から報告させる。」
理事官の隣の草薙が画面に出た。
「実は、中津警部補のPCがハッキングされていたことが分かりました。プライベート通信は禁じられている筈なんですが、中津敬一警部補は、弟の中津健二と職務用PCで連絡を取り合っていた。中津健二は興信所を経営しており、その興信所のPCがコンピュータウイルスに冒され、中津警部補に侵入した、という訳です。中津警部補はEITOとも協力して事件に当たったこともあり、厳重注意、中津興信所も、警察庁指定のセキュリティ会社と契約させました。」
「詰まり、ハッキングされた結果、EITOに伝子さんが、伝子が絡んでいる、と漏れた訳ですね。ワンダーウーマン達は?」「幸い、中津警部補はワンダーウーマンやスーパーガールが誰なのかは知らなかった。だが、安心は出来ない。」と、理事官が割り込んで言った。
「コスプレはしても、アイマスクをしていますからね。本来のアメコミヒーローは、アイマスクしている場合とそうでない場合があるけど、EITOの場合は『コスプレしている協力者』ですものね。」と高遠は言った。
「高遠君の提案が効いているよ。」と、理事官は言った。伝子が、反社対半グレの抗争の時に、素顔だったことに高遠は危機感を覚えたのだ。
「先日の『死の商人』小山だが、拘置所で自殺した。大文字君に遺言を遺したよ。『3都市殲滅計画』を阻止すべきだと。文字通り解釈すれば、3都市に同時に攻撃する計画がある、ということだ。」
「他の『死の商人』の情報はない、と言っていましたが・・・。」と、伝子が言うと、「君の影響力のお陰だね。君の能力だけでなく、『覚悟』の大きさを知ると、感化されるのかもな。そこで、EITOとしても戦力の強化をすることにした。まず、こしょう弾は正式採用となり、新しいワンダーウーマン軍団の正式装備となった。誰もが三節棍やヌンチャクを使いこなせる訳ではないからな。」
「新しいワンダーウーマン軍団?」と高遠が言うと、「陸自から2名、空自から2名加わる。どの道渡辺警視、白藤巡査部長は出産の為の休暇が控えているからな。それと、副総監の計らいで、元白バイ隊隊長の早乙女愛警部補も参加することになった。調整が付きにくいので、挨拶は現場になるかも知れない。」と、理事官は応えた。
「理事官。3都市って特定出来るんですか?」「まだだ。」「同じ日時でイベントが重なり合う、という条件はどうでしょうか?」と高遠は言った。
草薙が、「いいですね。条件を絞り込んで探してみましょう。もう少しヒントが欲しい所ですが。」と、高遠の提案を歓迎した。
午後7時。
伝子と高遠が夕食をとっていると、EITO用のPCが起動し、草薙が画面に現れた。「高遠さん。予想通り、少なくないです。3都市同時に何らかのイベントっていうのは20パターンあります。」
「草薙さん、その中で、複数の場所で同時中継みたいなイベントないですかね。ライブとか。」「探してみます。」と、草薙は短く応えた。
午後8時。
「お風呂沸いたよー、学。」と裸で伝子が出てきた。「場所、気をつけてね。EITOが起動しちゃうから。」と言うと、PCが起動したので、伝子は慌てて引っ込んだ。
「忘れてましたよ、高遠さん。TVです。大日本TVのチャリティ番組「ララバイ募金」のメイン会場が東京、大阪、名古屋がサブ会場です。スタートは明後日午後9時。終了時間は翌日午後9時。」
「メイン会場だけでも、それぞれ広いですね。町中でないのは幸いだけど。」と高遠が言うと、「取りあえず、報告しましょう。」と草薙は通信を切った。
伝子と一緒に浴室に入った高遠だったが、いきなり伝子にきつく抱きしめられた。
「伝子。どうしたの?」「明日、死ぬかも知らない。お前の肌の感触を忘れたくない。」
「大丈夫だよ、伝子はスーパーヒロインだもの。愛しているよ、永遠に。」
長風呂をし、『子作り』をして、二人は深い眠りについた。
翌日。午前9時。
TVのニュースで、阿倍野元総理の暗殺事件の責任を取って、県警本部長と、警察庁長官の辞任が発表された。
「今頃?」「どうせ退職金で揉めたんだろう。あつこの話では、警察署長は以前から不祥事はあったらしい。マスコミが知らないだけで。『腰掛け』キャリアにはよくあることらしい。県警も誰の首に鈴を付けるか揉めたんだろう。」
「避難させないんだね、イベント中止させないんだね。」「犯行声明がある訳じゃ無いからな。そうか。当日発表する気だ。パニックを起こす前に。」
伝子は、久保田管理官用のPCを起動させ、自分の考えを言った。
「警備は厳重にする体勢だが、そうか。犯人は群衆の中にいて、パニックを起こさせる積もりか。じゃあ、入って来るのを阻止するんじゃなくて、観客を速やかに避難する手立てをした方がいいのか。よし。会議をしよう・・・。有能な夫婦だな。誠に言ったら僻むかな?」画面は消えた。
「青木君やひかる君にも、情報収集を手伝って貰ってくれ。」と伝子は言って出ていった。「伝子。何処行くの?」「ホームセンター。」「ホームセンター?」
翌日。午前10時。
伝子は台所からの出口から縄梯子でオスプレイに乗り、EITOに着いた。
4人の、新しい自衛隊員が伝子の前にいた。理事官が口を開いた。
「紹介しよう。大文字アンバサダー。陸自から派遣された、大町一曹、田坂一曹。空自から派遣された馬越二曹、右門一尉だ。皆、コスプレを楽しみにしている。今回から、レンタル衣装屋からのレンタルではなく、購入だ。あのレンタル屋には、いつも汚して迷惑をかけているからな。購入に大層喜んでいた。勿論、EITOに協力していることは堅く口止めしてある。まあ、いざと言うときは、恐ろしい女性警察官が報復することを承知しているから、文句は言えない。」
「理事官。一つ質問していいでしょうか?」と、大町一曹が尋ねた。
「何だね、大町一曹。」「何故、EITOの戦闘女性メンバーはわざわざコスプレをするのですか?」
「それは、事の始まりが、大文字君がEITOのアンバサダーに就任する前に関わった事件でコスプレをしたからだ。最初は、ただの『目くらまし』だった。乱闘の中の誤魔化しだった。大文字君の文武両道で知恵もあることでアンバサダーを依頼する際に、夫である高遠学氏に提案されたんだ。その頃はEITOも秘密の組織だったし、顔をさらさない方が、大文字君の身を守ることになるんじゃないか、と。それでアイマスク付きのスーパーヒロイン、まあ、大抵はアメリカのコミックヒーローの借用だが、戦闘時はスーパーヒロインということになった。」と、理事官は説明した。
「我々もコスプレするのは、素顔を晒すと、普段が危険になるから、ということなのですね。」と右門一尉が確認した。
「流石、空将が推薦するだけのことはあるね、右門一尉。ああ、因みに、マーベル社に著作権料、ロイヤリティーを今は払っている。防衛費が増額されたからね。」という理事官に「どういう名目ですか?」と伝子が尋ねると、「レクレーションの際の仮装。現場サイドでは真実を知ってはいる。」と、理事官は言った。
「理事官。あまり時間はないですが、2件、心当たりに助っ人を依頼していいですか?」「うむ。助っ人の当てがあるのなら、臨時に組み入れよう。」「実は、私の仲間、DDに交渉に行って貰っています。」
同じく午前10時。警視庁捜査一課。小会議室。
久保田警部補と物部夫妻が中津警備補に面会に来ていた。「取調室でなくて、良かった。」と物部が胸を撫で下ろしていた。
「一朗太。何かやましいことでもあるの?」「馬鹿言うなよ。」「仲がいいですね。」と中津警部補が割り込んだ。
久保田警部補は言った。「実は、管理官からの依頼と、大文字さんからの依頼がありましてね。謹慎中だそうだから、すぐお会い出来ると思ってまっすぐやって来ました。」
「久保田さん、嫌味ですか?」「いやいや。管理官からの依頼は大文字さんの提案でもあるんですが、いずれセキュリティは強化するとして、敵にハッキングさせたままにせよ、ってことなんです。」「詰まり、罠にかけると。」「流石、察しが早いですね。」
「で。もう一つとは?」「これは大文字さん自身の興味から確認して欲しい、とのことですが、先日メダルを回収しに大文字さんを訪れたのは、弟さんの中津興信所と関係があるのでは?と。」
「降参です。大文字さんは『千里眼』をお持ちのようだ。弟の依頼で回収に行きました。」「詰まり。辻斬り事件の際に、謎の少女が現場に落とした、というか乱闘時に投げていたメダルのことを弟さんは知っている。その少女のことも情報を持っている、ということになりますね。」
中津警部補は中津興信所の名刺を久保田警部補に渡し、弟にスマホで電話しようとした。久保田警部補は自分のスマホを差し出した。「あ。行くのはこの二人です。」と久保田警部補は言い、中津警部補は弟に電話をして、事情を説明した。
最後に、久保田警部補は、電話を切った中津警部補に、「弟さんとのチャット・・・ですか。その場合の情報は後で管理官からお知らせします。スマホもハッキングされている可能性があるので、注意して下さい。」
午前11時。中津興信所。物部夫妻が入って来る。
興信所所長の中津健二が応対した。
「ご覧の通り、小さな興信所でね。3人いる調査員は全て出払っていて、今はお茶くみの事務員と私しかいない。」ノックがして、眼鏡をかけた、その事務員はお茶を出して、下がった。
「実は、中津さん。警部補から電話して頂いたのですが、メダルの出所は?」「大文字さんの名代ということでしたが、お二人はどういうご関係で?」
「大文字伝子と私たちは大学の翻訳部の同級生です。」と物部が言った。
「正直に話しましょう。実は、ある事件がきっかけで本庄弁護士の紹介で当興信所と大阪の南部興信所が業務提携をしております。先ほど申し上げたように、3人しか調査員がいないので、助っ人を南部興信所に依頼したり、また、逆に南部興信所から情報提供を依頼されたり、というのが日常茶飯事です。その助っ人の女の子が、どこで買ったのか、そのメダルで遊んでいました。」
「詰まり、辻斬り事件の時に助っ人に現れた、全身ヒョウ柄ずくめの女の子を知っている訳ですね。」と、隣にいた栞が尋ねた。「メダルの回収は、その女の子の依頼ですね。現場にいたんですか、中津さん。」
ふう、とため息をついた中津は「現場にはいなかった。後で1枚足りないと言い出したので、大文字さん宅にあるに違いないと思って兄に頼んだんです。」と説明した。
中津は、名刺入れから、南部興信所の名刺を出して、物部に渡した。
二人が帰った後、事務員が顔を出した。
「アカンな。ばれてるわ。」「メダルなんかに拘るからだよ。」「そやかて、中津さんから貰ったメダル、10枚しかないから。」「じゃ、投げるなよ。」「緊急事態やったから。それに、ヒョウ柄仮面が殴るばっかりやったらかっこ悪いし。」
突然、ドアが開いた。「じゃ、手伝ってくれよ、大文字の従妹さん。」と物部が顔を出した。
「あんたらプロほどじゃないが、探偵ごっこならしたことがある。大文字は感謝している。これでも付き合いが長いんでね。あいつの考えていることは大体分かる。辻斬り事件で実力を見せつけられた、と言っていた。相手の手首に手刀を与えるだけでも、結構ダメージを与えられるらしいな。実は、あの事件より厄介な事件になりそうなんだ。あんたのホームグラウンドは大阪なんだろ?」
「東京、名古屋、大阪。どういう攻撃をしかけてくるか分からないけど、那珂国のマフィアの策略で3カ所同時に攻撃してくるらしい。それで、伝子はあなたを頼りにしたいのよ。お願い。助けてあげて。」
「私にどうしろと?」「『大阪を守れ』っ、てことだ。大阪担当だな。」と栞と総子の会話に中津が割り込んだ。
「連絡先教えて、すぐに新幹線で戻れ。南部さんには俺からも連絡しておく。物部さん、2つの興信所は可能な限り、DDとEITOに協力する。日本を守る為ならな。」
中津興信所の外。
物部達が物陰から見守っていると、総子が慌てて出てきて、暫くすると、バイクに跨がってスタートさせた。
「結構な連携だな。本庄先生の知り合いか。ちょっと聞いてみるか。あ。大文字に連絡した?」「したわよ。今、高遠君と作戦を練っているって。」と栞が言った。
「大文字コネクション、フル活動だな。」と物部は笑った。
遡って、午前10時。西東京留置場。面会室。
柴田管理官が、通称ジョー・タウと面会している。「兄弟に会いたくないか?」と管理官は言った。
同じく、午前10時。東東京留置場。面会室。
久保田管理官が、通称ジャック・タウと面会している。「兄弟に会いたくないか?」と管理官は言った。
同じく、午前10時。天童邸。
天童は、仲間の矢田と松本と共にいた。
久保田警部補とあつこが尋ねて来た。「おおよそは、電話でお伝えした通りです。」と久保田警部補が言うと、「答はイエスです。大文字さんの為なら、一肌でも二肌でも。彼らも同意見です。また、大文字さんと一緒に闘えるなんて、思ってもみませんでした。」
「実は、敵がどういう攻撃をするか分かりませんが、3カ所同時攻撃だということだけは分かっています。」「3カ所?」「東京、大阪、名古屋です。天童さんには大阪で守って貰いたい、と大文字さんは言っています。後のお二方は名古屋です。」
「分かりました。武士に二言は・・・いや、剣士に二言は要らない。お引き受けしましょう。」「私たちも何かのお役に立つのなら、喜んで。」「なんなりと。」
3人は3様に応えた。「では、お隣の小学校の運動場にオスプレイが止まっています。それに乗って下さい。詳細は追ってお知らせします。」と久保田警部補は言い、「それから、これはEITOで緊急に拵えた、チタン合金の刀です。天童さん、試して下さい。1本しかないので、松本さんや矢田さんの分が無くてごめんなさい。」と、あつこが言った。
天童邸からの帰り道。
車の中の久保田警部補とあつこ。「うまく行ったわね。皆、おねえさまの魅力の賜物ね、まこちゃん。」「大文字さんには、人をリードする素質がある。だから、皆集まってくる。ねえ、あっちゃん。僕たちの子供の名前さ。大文字さんに付けて貰おうか。」「いいとも!」二人は爆笑した。
同じく午前10時。利根川邸。
「ああ。あの時の。僕はもうテレビマンじゃない。しがないコラムニストだ。知ってるでしょ。」と、利根川は青山警部補に言った。
「元テレビマンを見込んでの話です。守秘義務を守って頂ければ、全てお話します。」青山警部補と愛宕は、いつかの非礼を詫びた上で、事情を話した。
「大変じゃないですか。そんなこと僕に話しても、お手伝いすること、あります?」
「実は、テレビマンにスパイがいると睨んでいるんです。利根川さんに『推理』して欲しいのは、どういう立場の人間なら、スパイになり得るかということと、観客避難をさせるとしたら、どういう手順がいいかということです。」「ううむ。」利根川は考え込んでしまった。
午後1時半。新幹線の車中。
「ここ、空いてますか?」と総子に声をかけてきた男性がいた。「ええ?帰りもウチにナンパ?」「ははは。お互い、とんぼ返りのようですね。デートは叶わなかったけど、せめて車中はおしゃべりしましょうよ。」
午後4時。南部興信所。
「浮気の調査員が浮気してたんか。」「アホ。ウチは、眼の前のジジイが好きなんや。イケメンでも浮気なんかするかい!」
「それで、従姉にばれてるんやな。人手がいる、ってメールに書いてたな。」
「うん。敵は何らかのパニックを起こそうとする筈やから、何とか避難誘導の段取り付けてくれへんかって、言うてたわ。」
「それで、東栄映画の社長に頼んで、エキストラ20人手配して貰っといた。時間聞いてへんけど、イベントの9時まででええんか?」「いや、8時までに行って、紛れて欲しい、って。」「それ先に、言わんかい。連絡しておく。お前は準備して、先に会場入りしい。」
「所長。中津さんから電話入ってますけど。」と、調査員の佐藤が勢いよく入って来た。
「はあ?電話回せ。」電話は中津健二からだった。
「ああ、いつもお世話になります。はい。天童さん。はい。言うときます。」
電話を切ると、南部は総子に「中津さんからな、天童さん言う人と現地で落ち合え、と。お前がメダル投げて助けた人やそうや。8時に待ってるって。」「了解。ほな。」
総子はバタバタと出て行った。
同じく午後4時。伝子のマンション。
「学。なぎさ達は?」「今出発しました。」
「新しいワンダーウーマン達は?」「EITOで準備中です。」「福本達は?」「道が混むかも知れないから、6時には現地入りするそうです。」
「ひかる君と青木君は?」「元々チケットを購入してあったそうです。青木君はLinenのオフ会を兼ねて集まることになっていたそうで、仲間共々協力する、と言っていました。8時には入場ですが、何かあったら連絡する、と言っていました。」「そうか。」
「渡さんから、連絡がありました。今回の前線部隊に参加するそうです。草薙さんはEITOベースで後方支援です。それと、理事官から、各地EITOのオスプレイは待機するが、アメリカ空軍の助っ人オスプレイも各地で待機するそうです。」
「ご苦労さん。」「まだ、あります。海自の仁礼海将から伝言です。増田は任せた。我々は、打ち合わせ通り、仙石諸島の警戒を強化する、と。それと、空自の前田空将から、金森を頼む、日本海沖で、ミサイルを警戒する、と。」
「気を引き締めないと、な。」と伝子が言うと、いつの間にか入って来た藤井が、おにぎりを差し出した。
「少し遅いおやつ。少し早い夕食。腹が減ってはイクサが出来ぬ、でしょ。」
高遠は、お茶を用意した。3人がおにぎりを頬張っていると、EITO用のPCが起動した。理事官が画面に出た。
「イクサの前の・・・かな。大文字君。天童さんを乗せたオスプレイは大阪に出発した。天童さんと橘一佐を降ろした後は、大阪会場の『立売堀ホール』の上空で米軍のオスプレイと共に待機する。名古屋会場の『みゃーみゃープラザ』には、今、渡辺警視と白藤巡査部長、増田三等海尉、金森一等空曹、そして、剣士の二人が到着した。すぐ隣にホテルがあり、そこで着替えるそうだ。」
「東京勢もおおよそ準備は進行しています。利根川氏の根回しで、葡萄館の一室を借りています。」
「ああ。もう一つ追加情報だ。守備チームの指揮は愛宕警部補が採るが、丸髷署署長がサポートするそうだ。心強いね。」と、理事官は笑った。画面は消えた。
「今日も、台所から出発するの?」と藤井が尋ねると、「いえ。今日はバイクで向かいます。白バイ隊の護衛付きで。」と伝子は笑った。
「僕が頼み込んだんです。総指揮官が事故っちゃいけないし・・・。」「学は会場に向かう途中で狙撃されるんじゃないかって心配しているんです。」二人の会話に割り込んで来た人物がいた。
いつの間にか来ていた、大文字綾子だった。「はい。お守り。神頼みはしたくなかったし、伝子が戦場に向かうのは初めてじゃないけどね。」綾子もおにぎりを頬張った。
午後6時。白バイ隊の『お迎え』が来た。
「お初にお目にかかります、大文字さん、高遠さん。早乙女隊長の後を継いで隊長をしています、工藤由香です。お迎えに上がりました。」
伝子が3人の白バイ隊員と出ようとした時、高遠が『火打ち石』を打った。「行ってらっしゃい。」
「行ってきます。」珍しく涙を浮かべて伝子は出ていった。
「学さん。1000点の婿殿ね。」と綾子が言い、藤井が頷いた。
午後7時。
高速道路上で、伝子のバイクを狙ってくるバイクが3台あった。後方から近づいて来た工藤達は、あおり運転で緊急逮捕し、手錠をガードレールに括り付け、後方支援に任せて、会場に向かった。
バイクを走らせながら、伝子は考えていた。東京会場では恐らく爆発物で脅して来るだろう。大阪会場ではどうだろう?また、名古屋会場では?大阪会場では、なぎさ、天童、そして、総子がいる。名古屋会場では、『妹たち』と矢田、松本がいる。東京会場では、伝子以外は新人だ。私が全ての指揮を執れればいいのだが、そうはいかない。運を天に任せるしかない。大阪と名古屋は彼らの判断に任せよう。
午後8時。
葡萄館近くの田んぼの陰で、伝子は女性用スーツに着替えた。白バイ隊が囲ってくれているので、誰にも見られない。伝子が着替え終わったら、工藤が「では、我々は守備チームに合流します。」と言い、白バイは闇に消えた。
裏口の警備員に「協同メイクの応援要員です。」と身分証を見せた。「ご苦労様です。メイクさんの控え室はA-66です。突き当たり左です。」
伝子はA-66に入る振りをして、実際は入らなかった。先に入っていた早乙女愛が伝子を待っていた。「私はワンダーウーマンにならなくていいんですか?」「ごめん。衣装が間に合わなくて。舞台袖で、EITOとの連絡係をして。」と言いながら、自分の着替えるメイク室に向かった。
同じく午後8時。立売堀ホールの前。
天童と総子は再会した。
「あの時はありがとう、お嬢さん。」「始まってから入る方がいいわね。」と挨拶を交わした二人の前に、ワンダーウーマン姿のなぎさがいた。「その通り。始まったら誰も気にも留めない。」
同じく午後8時。みゃーみゃープラザ前。
「いいですか。剣士にせよ、ワンダーウーマンにせよ、目立つので、始まってから何食わぬ顔で堂々と入りましょう。」とあつこが言うと、「入館チェックは?」と矢田が言った。「こういうイベントって、始まったら受付はないも同じ。フリーパスなんですよ。」と、みちるが言った。
午後9時。東京の会場。
世紀のチャリティー募金番組が始まった。MC以下、赤いチャリティTシャツを着ている。芸能人をMCの大北が次々紹介している。大北が大阪会場を呼び出した。
「では、ここで、大阪会場の様子を見せて下さい。大阪会場の吉永さーん。」
大阪会場には画像が繋がらず、大きなスクリーンには何も映っていなかった。
大阪会場。
チャリティスタッフの一人が、MCの吉永にナイフをあてがい、ステージに何十人もの黒い覆面を被った男達が登場した。
会場内はパニックになり、観客は逃げ出した。東栄映画のエキストラ達が、会場スタッフを押しのけて、避難誘導を始めた。会場スタッフは何が起ったか分からず、呆然としている。吉永にナイフをあてがっていた男が叫んだ。「おい。お前ら。こいつの命が惜しくないのか?」
会場袖で見ていた、なぎさが呟いた。「間抜けな犯人で良かった。天童さん、総子ちゃん。行くよ!」となぎさは声をかけた。
東京会場。
MCの大北が首を傾げている。「変ですねえ。繋がらないなんて。では、名古屋会場に繋いで貰いましょう。名古屋会場の竹下さーん。」スクリーンに名古屋会場は映らなかった。
名古屋会場。
MCの竹下が舞台中央に何故か白い布を被せたワゴンがあるのに気づき、白い布を取った。「きゃー。時限爆弾だわ。」と若い女の子が叫んだ。直ちに観客は我先にと逃げ出した。観客に紛れていた海自の自衛隊員は、速やかに避難誘導をした。
ワンダーウーマン姿のあつことみちるは直ちに、確認に走った。「あまり時間がないわ。」と、あつこは言い、DDバッジを押した。二人で時限爆弾を運ぼうとした時、黒い覆面を被った男達がステージに上がってきた。「我々が処理します。」とワンダーウーマン姿の増田と金森が受け取り、走った。降りてきたオスプレイに近寄る二人を妨害しようとする男達にあつことみちるは敢然と立ち向かった。
東京会場。
困惑しているMCの大北の前に、舞台に上がっていたボランティアスタッフの一人が現れ、マイクを奪った。「無理無理。今、大阪会場も名古屋会場も我々の仲間が押さえ込んでいるんでね。」「押さえ込んでいる、とはどういうことかな?」4人のワンダーウーマン姿の女性の一人が尋ねた。
「じゃあ、実力を見せてやるよ。」200人以上の黒い覆面の男達がステージに上がってきた。「お前ら、全員人質だ。一人でも逆らうや・・・。」リーダーの男が言い終わらない内に、「今の内に逃げて下さい。係員の誘導に従って下さい。」と、早乙女愛が無線を通じてスピーカーに流した。
逃げる観客の中で、「これ、イベントだから、みんな協力してください。」と青木と仲間達、ひかる、依田、福本、松下、本田、豊田、南原、服部、山城が言いながら誘導を始めた。
「くそう。やっちまえ。」とリーダーが言うと、地下室で着替え、別方向からやって来た、ワンダーウーマン姿の伝子が「やっつけられるのはお前らだよ。」と言った。
舞台袖の陰で、早乙女は連絡した。「照明、お願いします。」
ステージに向かって、田んぼ道の中から大きなスポットライトが幾つも点灯した。自動の機械を操縦していたのは、渡だった。
観客を追う重装備の男達に伝子達はこしょう弾を投げた。そして、乱闘になった。
「大文字。借りを返しに来たぜ。」「大文字。借りを返しに来たぜ。」二人とも、かつて伝子と死闘をして負けた、中国人の兄弟だった。
「助かる、タウ兄弟。」兄の方は三節棍を持ち、弟はヌンチャクを持った。伝子はトンファーだった。三人は改めて三方に分かれて闘い始めた。
会場のそばの田んぼ。双眼鏡で闘いを見守る人物がいた。その人物の肩をポンポンと叩いたのは青山警部補だった。
「やはり黒幕さんは、暗い所が好きなようですね。」
愛宕が手錠をかけた。「警官隊の準備を。」と、青山は愛宕に指示した。
「では、話を伺いましょうか。プロデューサーの新井さん。あなたが今回の『死の商人』ですね。情報を流していた人物も特定しましたよ。」
大阪会場。
闘いながら、なぎさは総子に尋ねた。「その技、何処で覚えた?」「俺が教えたんや。」といつの間にかやって来た、南部が言った。「師匠。」と、天童が近づいて来た。
「師匠。これを。」二刀流で闘っていた天童はチタン合金製の木刀を南部に渡した。
二人は、すぐに闘いに参戦した。最初に。なぎさと総子が投げた、こしょう弾のお陰で、敵の銃は発射不能となり、敵は棍棒で闘っていた。
名古屋会場。
こちらも、あつことみちるが投げた、こしょう弾の効力で、敵の銃は使用不能となり、敵は棍棒で闘っていた。
オスプレイ機内。「解除成功。会場に戻って下さい。」と増田がパイロットに言った。
東京会場。こちらの敵は何故か全員ナイフで闘っていた。後から来た敵の一人が、ステージに飛び込み、ある箱を開け、スイッチを押した。時限爆弾ではない。ミサイル誘導装置だ。その男は高笑いをした。
伝子は鏡を男に向けた。男が怯んだ好きに、伝子はDDバッジを押し、長波ホイッスルを吹いた。
東京会場から約100m離れた公園。長波ホイッスルをレシーバーで聞いた中津健二は、中津警部補に合図を送った。
その合図を受けて、中津警部補は、ドローン操縦大会のMCとして、参加者に呼びかけた。「さあ。チャリティー会場に向けて、ドローンを飛ばして下さい。今、会場では特別企画イベントが進行中です。一番長く飛行出来た操縦者には賞金、賞品が出ます。」
操縦者達は、こぞって、自慢の腕をみせるべくドローンを操縦した。
東京会場。、ドローンが多数飛来し、上空を旋回し始めた。
仙石諸島。護衛艦。仁礼海将が艦長に命じた。「挨拶をしてやれ。」
数分後。護衛艦から花火が上がった。島に実効支配をしようとしていた、那珂国の艦隊は引き上げて行った。
青森。青函トンネル付近。函館の南方を通り過ぎようとしているオトロシアの船に向かって、50機の零戦風戦闘機が並んだ。オトロシアの船はゆっくりと引き返して行った。
防衛省。政務官執務室。副総監が部下を連れて訪れた。
「奥村政務官。国家反逆罪で逮捕します。出光警視。」公安の出光は、ゆっくりと、奥村に手錠をかけた。
名古屋会場。
あつことみちるの元に増田と金森が帰ってきた。「お待たせしました、隊長。」4人のワンダーウーマンは、それぞれの武器で、コンビネーションで闘った。
大阪会場。「お嬢ちゃん。メダルなくても、腕がいいから闘えるじゃないか。」と天童が言った。「おおきに。旦那の仕込みがいいからな。」「誰のことや?」「知らん。」二人の会話に、「師匠の妻が師匠の弟子か。面白い。」とまた天童は感心した。
「いつの間にか、東栄映画のエキストラさんも大掃除に手伝ってくれているわ。」となぎさが言った。
東京会場。伝子の足元に、1個のカプセルが投げ込まれた。伝子は遠目に、筒井の顔を見た気がした。カプセルを開けると、紫の布が入っていた。伝子はミサイル誘導装置にその布をかけた。早乙女はEITOに連絡した。「遮蔽装置が間に合いました。」
ドローンは次々にどこかへと消えて行った。
時刻は午後11時になっていた。
大町達が伝子の元にやって来た。「隊長。終わりました。」
ステージに倒れている者達は、愛宕の指揮の下、警官隊が逮捕連行して行った。
久保田管理官がやって来た。「大阪会場も名古屋会場も『せん滅』した、と連絡が入ったよ。こいつらもお役御免だ。」と側にいるジョー・タウとジャック・タウを指した。
「大文字は『ぎきょうだい』が多いな。俺らも、『ぎきょうだい』にしてくれよ。」とジョーが言った。「断る。女子限定だ。ただ、お前らは友人だ。」
笑いながら、兄弟は久保田管理官と去って行った。
MCの大北と利根川がやって来た。「後は適当に誤魔化しておきます。任せて下さい。」
「無理を言って申し訳なかった。ありがとう、利根川さん。」伝子達ワンダーウーマンは、利根川がプロデューサーに無断で借りた、地下のメイク室に移動した。
「私だ。」と伝子がノックしながら言うと、慶子、祥子、蘭が出てきた。
「終わったの?先輩。」「ああ。終わった。」蘭が伝子に抱きついた。「良かった。」
自衛隊4人は、それぞれ手分けして、蘭達を送って帰った。伝子は早乙女にバイクの運転を任せ、帰宅した。到着して、「早乙女さんはどうするの?」と伝子が言うと、「あ。」と早乙女が口を押さえた。「今度返して。」と伝子は言った。
翌日。午後2時。伝子のマンション。南部と総子がやってきた。いつものメンバーは既に来ていた。
「紹介しよう、みんな。従妹の江角総子だ。ガラガラ仮面でもある。」「ちゃうちゃう、伝子ねえちゃん。ヒョウ柄仮面や。」「どうでもええやないか。南部興信所所長で、夫の南部寅次郎です。よろしくお願いします。お前も頭下げるんや。」
「江角総子、本名、南部総子です。籍入れてへんけど。」
「まだ18歳やから、こいつがハタチになったら、正式に結婚しようって決めて、待ってますねん。」
二人の会話を聞いていた伝子が首を傾げた。
「18歳?南部さん、結婚待たなくていいですよ。総子は24歳ですから。」と、伝子は南部に言った。
「調べなかったんですか?興信所所長なのに。」と依田が言った。
「準備!!」と伝子は言った。女子は奥の部屋に行った。伝子が総子の耳を掴んで、奥の部屋に向かった。高遠がなぎさを呼び止めた。「一佐。これを。よろしくお願いします。」「ありがとう、高遠さん。」高遠は「手当セット」を渡したのだった。
「恒例の、お仕置きです。南部さん。今日、総子ちゃんはここに泊まって貰いましょう。経験者によると、結構きついらしいですから。」
「了解した。高遠さん、これからもよろしくお願いします。病院に行って、中津所長に会ってから、新幹線で帰ります。大文字さんによろしくお伝え下さい。」
奥の部屋では、総子がわめいていた。南部は帰って行った。
「俺たちも帰るか。」男子達は、物部の提案通り、帰って行った。
高遠は、ヘッドホンを耳に着け、洗濯物の片付けを始めた。
騒動は長く続いた。
―完―
============== 主な登場人物 ================
大文字伝子・・・主人公。翻訳家。EITOアンバサダー。
大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。
愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。巡査部長。
物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。モールで喫茶店を経営している。
久保田(渡辺)あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。警部から昇格。
橘なぎさ二佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。
久保田嘉三管理官・・・久保田警部補の叔父。EITO前司令官。
斉藤理事官・・・EITO理事官。
金森和子一曹・・・空自からのEITO出向。
増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。
辰巳一郎・・・物部が経営する、喫茶店アテロゴの従業員。
天童晃(ひかる)・・・かつて、公民館で伝子と対決した剣士の一人。
矢田浩一郎・・・天童に同じ。
松本悦司・・・天童に同じ。
江角総子・・・伝子の従妹。大阪で探偵をやっている。時々、東京にも出没する。
南部寅次郎・・・南部興信所所長。江角総子と事実婚(同棲)をしている。
中津警部補・・・警視庁刑事。
青山警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。愛宕の相棒。
中山ひかる・・・愛宕のお隣の高校生。推理が得意。
青木新一・・・Linenを使いこなす高校生。
中津健二・・・中津警部補(中津刑事)の弟。興信所を経営している。
大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。
田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。
馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
右門一尉・・・空自からのEITO出向。
夏目房之助・・・市場リサーチの会社を経営。
柴田管理官・・・警視庁管理官。
ジョー・タウ・・・かつて1対1で伝子が倒した、敵側の用心棒。
ジャック・タウ・・・かつて1対1で伝子が倒した、敵側の用心棒。
利根川道明・・・元テレビ局コメンテーター。
依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。宅配便ドライバーをしている。
福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。
南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師
山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。
服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。
松下宗一郎・・・福本の元劇団仲間。
本田幸之助・・・福本の元劇団仲間。
豊田哲夫・・・福本の劇団仲間。
福本(鈴木)祥子・・・福本の妻。福本の劇団の看板女優。
小田慶子・・・やすらぎほのかホテル東京副支配人。依田と交際している。
南原蘭・・・南原の妹。美容室に勤めている。
草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
=======================================
午前9時。大阪。南部興信所近くのマンション。
「ダーリン。もう一回。」「もう堪忍してくれ。幾つ歳離れてると思うてんねん。」「ほんの、半世紀やん。」「体もたんがな。精力強いのは分かっているけどな、若いし。」
「部下を手込めにした責任取ってや。せやないと、裁判やで。本庄先生に弁護頼もう。」
「結婚するって言うてるやないか、お前がハタチになったら。」「今は18歳で成人やで。」「でも、タバコと酒はハタチからやで。」「もうええわ。はよ着替えて歯磨いて。」
総子は日常的な痴話喧嘩を終えると、先に着替えて朝食の準備にかかった。
南部興信所所長の南部寅次郎は、大文字伝子の従妹の江角総子と同棲、いや、事実婚をしていた。興信所の近くなので、所員は皆二人の関係を知っていたが、素知らぬ顔で二人と対応していた。
午前10時。南部興信所。所長室。
「所長。本庄先生です。」と言って、総子が本庄弁護士と入って来る。
「所長。浮気調査をお願いしたいの。浮気相手は東京の人らしいんだけど。」
「そんなら、彼女を行かせましょう。まだ駆け出しやが、東京ならある程度土地勘もあるし。」「じゃ、お願いね。」と本庄は資料を置いて行った。
「総子。これ、経費。新幹線で行きや。夜行はアカンで。急ぎやからな。」「はい。所長。」
午後2時。新幹線車中。
「こんなんと浮気するかなあ。取り敢えず、写真やな。」と呟いていると、隣の席の男性が声をかけてきた。
「お仕事ですか?」「ええ。ちょっと。ボヤキ聞こえました?すんません。ウチ、口から生まれて来たさかい、取りあえず思ったこと言葉にしてしまうんですわ。」「面白い。東京に行かれるんですよね。お時間あったら、よろしければ連絡して下さい。」
「あのー。ナンパですか?ウチ高く付きますよ。あ。違う違う、誤解せんといて。風俗はやってません。」男性は苦笑しながら、名刺を渡した。
「『市場リサーチ』の仕事をしてはるんですか、夏目さん。」「若い方の意見は、非常に参考になりますので。お仕事終えられてから大阪に戻る前にお時間がありましたら。」と男性は言った。
それから、約2時間。総子の独壇場だった。東京駅に着くと、総子は山手線に乗り換え、目白駅で降りた。駅に着くと、中津興信所の所長、中津健二が迎えに来ていた。
「いつもすんません。」と総子は中津に頭を下げた。
「ふうちゃん。この女がターゲット。」と一枚の写真を中津は総子に見せた。「依頼人によると、毎週金曜日に男に会いに行く。会うホテルは分からない。でも、泊まるホテルは目白ホテル。決まっている。」
「目白って言うと、高級住宅ばかりやと思っていたけど、そうでも無いんですね。」「まあね。」「じゃ、張り込みに行くよ。」
中津は発車した。ここでも、総子のおしゃべりは続いた。
午後5時。伝子のマンション。
「交通安全教室、今回も好評でしたよ、伝子さん。伝子。」と高遠が言うと、「ごめんな、学。みんなを巻き込みたくないからな。」と伝子は夫である高遠に神妙に謝った。
「仕方がないよね。もう、敵の深層まで伝子さんの存在が知れ渡っている感じだからね。」
EITO用のPCが起動し、画面が現れた。理事官が苦虫を潰した顔をしている。
「大文字君。大変なことが分かった。高遠君の提案で、警察内部から情報が漏れていないか、徹底して調べた。草薙から報告させる。」
理事官の隣の草薙が画面に出た。
「実は、中津警部補のPCがハッキングされていたことが分かりました。プライベート通信は禁じられている筈なんですが、中津敬一警部補は、弟の中津健二と職務用PCで連絡を取り合っていた。中津健二は興信所を経営しており、その興信所のPCがコンピュータウイルスに冒され、中津警部補に侵入した、という訳です。中津警部補はEITOとも協力して事件に当たったこともあり、厳重注意、中津興信所も、警察庁指定のセキュリティ会社と契約させました。」
「詰まり、ハッキングされた結果、EITOに伝子さんが、伝子が絡んでいる、と漏れた訳ですね。ワンダーウーマン達は?」「幸い、中津警部補はワンダーウーマンやスーパーガールが誰なのかは知らなかった。だが、安心は出来ない。」と、理事官が割り込んで言った。
「コスプレはしても、アイマスクをしていますからね。本来のアメコミヒーローは、アイマスクしている場合とそうでない場合があるけど、EITOの場合は『コスプレしている協力者』ですものね。」と高遠は言った。
「高遠君の提案が効いているよ。」と、理事官は言った。伝子が、反社対半グレの抗争の時に、素顔だったことに高遠は危機感を覚えたのだ。
「先日の『死の商人』小山だが、拘置所で自殺した。大文字君に遺言を遺したよ。『3都市殲滅計画』を阻止すべきだと。文字通り解釈すれば、3都市に同時に攻撃する計画がある、ということだ。」
「他の『死の商人』の情報はない、と言っていましたが・・・。」と、伝子が言うと、「君の影響力のお陰だね。君の能力だけでなく、『覚悟』の大きさを知ると、感化されるのかもな。そこで、EITOとしても戦力の強化をすることにした。まず、こしょう弾は正式採用となり、新しいワンダーウーマン軍団の正式装備となった。誰もが三節棍やヌンチャクを使いこなせる訳ではないからな。」
「新しいワンダーウーマン軍団?」と高遠が言うと、「陸自から2名、空自から2名加わる。どの道渡辺警視、白藤巡査部長は出産の為の休暇が控えているからな。それと、副総監の計らいで、元白バイ隊隊長の早乙女愛警部補も参加することになった。調整が付きにくいので、挨拶は現場になるかも知れない。」と、理事官は応えた。
「理事官。3都市って特定出来るんですか?」「まだだ。」「同じ日時でイベントが重なり合う、という条件はどうでしょうか?」と高遠は言った。
草薙が、「いいですね。条件を絞り込んで探してみましょう。もう少しヒントが欲しい所ですが。」と、高遠の提案を歓迎した。
午後7時。
伝子と高遠が夕食をとっていると、EITO用のPCが起動し、草薙が画面に現れた。「高遠さん。予想通り、少なくないです。3都市同時に何らかのイベントっていうのは20パターンあります。」
「草薙さん、その中で、複数の場所で同時中継みたいなイベントないですかね。ライブとか。」「探してみます。」と、草薙は短く応えた。
午後8時。
「お風呂沸いたよー、学。」と裸で伝子が出てきた。「場所、気をつけてね。EITOが起動しちゃうから。」と言うと、PCが起動したので、伝子は慌てて引っ込んだ。
「忘れてましたよ、高遠さん。TVです。大日本TVのチャリティ番組「ララバイ募金」のメイン会場が東京、大阪、名古屋がサブ会場です。スタートは明後日午後9時。終了時間は翌日午後9時。」
「メイン会場だけでも、それぞれ広いですね。町中でないのは幸いだけど。」と高遠が言うと、「取りあえず、報告しましょう。」と草薙は通信を切った。
伝子と一緒に浴室に入った高遠だったが、いきなり伝子にきつく抱きしめられた。
「伝子。どうしたの?」「明日、死ぬかも知らない。お前の肌の感触を忘れたくない。」
「大丈夫だよ、伝子はスーパーヒロインだもの。愛しているよ、永遠に。」
長風呂をし、『子作り』をして、二人は深い眠りについた。
翌日。午前9時。
TVのニュースで、阿倍野元総理の暗殺事件の責任を取って、県警本部長と、警察庁長官の辞任が発表された。
「今頃?」「どうせ退職金で揉めたんだろう。あつこの話では、警察署長は以前から不祥事はあったらしい。マスコミが知らないだけで。『腰掛け』キャリアにはよくあることらしい。県警も誰の首に鈴を付けるか揉めたんだろう。」
「避難させないんだね、イベント中止させないんだね。」「犯行声明がある訳じゃ無いからな。そうか。当日発表する気だ。パニックを起こす前に。」
伝子は、久保田管理官用のPCを起動させ、自分の考えを言った。
「警備は厳重にする体勢だが、そうか。犯人は群衆の中にいて、パニックを起こさせる積もりか。じゃあ、入って来るのを阻止するんじゃなくて、観客を速やかに避難する手立てをした方がいいのか。よし。会議をしよう・・・。有能な夫婦だな。誠に言ったら僻むかな?」画面は消えた。
「青木君やひかる君にも、情報収集を手伝って貰ってくれ。」と伝子は言って出ていった。「伝子。何処行くの?」「ホームセンター。」「ホームセンター?」
翌日。午前10時。
伝子は台所からの出口から縄梯子でオスプレイに乗り、EITOに着いた。
4人の、新しい自衛隊員が伝子の前にいた。理事官が口を開いた。
「紹介しよう。大文字アンバサダー。陸自から派遣された、大町一曹、田坂一曹。空自から派遣された馬越二曹、右門一尉だ。皆、コスプレを楽しみにしている。今回から、レンタル衣装屋からのレンタルではなく、購入だ。あのレンタル屋には、いつも汚して迷惑をかけているからな。購入に大層喜んでいた。勿論、EITOに協力していることは堅く口止めしてある。まあ、いざと言うときは、恐ろしい女性警察官が報復することを承知しているから、文句は言えない。」
「理事官。一つ質問していいでしょうか?」と、大町一曹が尋ねた。
「何だね、大町一曹。」「何故、EITOの戦闘女性メンバーはわざわざコスプレをするのですか?」
「それは、事の始まりが、大文字君がEITOのアンバサダーに就任する前に関わった事件でコスプレをしたからだ。最初は、ただの『目くらまし』だった。乱闘の中の誤魔化しだった。大文字君の文武両道で知恵もあることでアンバサダーを依頼する際に、夫である高遠学氏に提案されたんだ。その頃はEITOも秘密の組織だったし、顔をさらさない方が、大文字君の身を守ることになるんじゃないか、と。それでアイマスク付きのスーパーヒロイン、まあ、大抵はアメリカのコミックヒーローの借用だが、戦闘時はスーパーヒロインということになった。」と、理事官は説明した。
「我々もコスプレするのは、素顔を晒すと、普段が危険になるから、ということなのですね。」と右門一尉が確認した。
「流石、空将が推薦するだけのことはあるね、右門一尉。ああ、因みに、マーベル社に著作権料、ロイヤリティーを今は払っている。防衛費が増額されたからね。」という理事官に「どういう名目ですか?」と伝子が尋ねると、「レクレーションの際の仮装。現場サイドでは真実を知ってはいる。」と、理事官は言った。
「理事官。あまり時間はないですが、2件、心当たりに助っ人を依頼していいですか?」「うむ。助っ人の当てがあるのなら、臨時に組み入れよう。」「実は、私の仲間、DDに交渉に行って貰っています。」
同じく午前10時。警視庁捜査一課。小会議室。
久保田警部補と物部夫妻が中津警備補に面会に来ていた。「取調室でなくて、良かった。」と物部が胸を撫で下ろしていた。
「一朗太。何かやましいことでもあるの?」「馬鹿言うなよ。」「仲がいいですね。」と中津警部補が割り込んだ。
久保田警部補は言った。「実は、管理官からの依頼と、大文字さんからの依頼がありましてね。謹慎中だそうだから、すぐお会い出来ると思ってまっすぐやって来ました。」
「久保田さん、嫌味ですか?」「いやいや。管理官からの依頼は大文字さんの提案でもあるんですが、いずれセキュリティは強化するとして、敵にハッキングさせたままにせよ、ってことなんです。」「詰まり、罠にかけると。」「流石、察しが早いですね。」
「で。もう一つとは?」「これは大文字さん自身の興味から確認して欲しい、とのことですが、先日メダルを回収しに大文字さんを訪れたのは、弟さんの中津興信所と関係があるのでは?と。」
「降参です。大文字さんは『千里眼』をお持ちのようだ。弟の依頼で回収に行きました。」「詰まり。辻斬り事件の際に、謎の少女が現場に落とした、というか乱闘時に投げていたメダルのことを弟さんは知っている。その少女のことも情報を持っている、ということになりますね。」
中津警部補は中津興信所の名刺を久保田警部補に渡し、弟にスマホで電話しようとした。久保田警部補は自分のスマホを差し出した。「あ。行くのはこの二人です。」と久保田警部補は言い、中津警部補は弟に電話をして、事情を説明した。
最後に、久保田警部補は、電話を切った中津警部補に、「弟さんとのチャット・・・ですか。その場合の情報は後で管理官からお知らせします。スマホもハッキングされている可能性があるので、注意して下さい。」
午前11時。中津興信所。物部夫妻が入って来る。
興信所所長の中津健二が応対した。
「ご覧の通り、小さな興信所でね。3人いる調査員は全て出払っていて、今はお茶くみの事務員と私しかいない。」ノックがして、眼鏡をかけた、その事務員はお茶を出して、下がった。
「実は、中津さん。警部補から電話して頂いたのですが、メダルの出所は?」「大文字さんの名代ということでしたが、お二人はどういうご関係で?」
「大文字伝子と私たちは大学の翻訳部の同級生です。」と物部が言った。
「正直に話しましょう。実は、ある事件がきっかけで本庄弁護士の紹介で当興信所と大阪の南部興信所が業務提携をしております。先ほど申し上げたように、3人しか調査員がいないので、助っ人を南部興信所に依頼したり、また、逆に南部興信所から情報提供を依頼されたり、というのが日常茶飯事です。その助っ人の女の子が、どこで買ったのか、そのメダルで遊んでいました。」
「詰まり、辻斬り事件の時に助っ人に現れた、全身ヒョウ柄ずくめの女の子を知っている訳ですね。」と、隣にいた栞が尋ねた。「メダルの回収は、その女の子の依頼ですね。現場にいたんですか、中津さん。」
ふう、とため息をついた中津は「現場にはいなかった。後で1枚足りないと言い出したので、大文字さん宅にあるに違いないと思って兄に頼んだんです。」と説明した。
中津は、名刺入れから、南部興信所の名刺を出して、物部に渡した。
二人が帰った後、事務員が顔を出した。
「アカンな。ばれてるわ。」「メダルなんかに拘るからだよ。」「そやかて、中津さんから貰ったメダル、10枚しかないから。」「じゃ、投げるなよ。」「緊急事態やったから。それに、ヒョウ柄仮面が殴るばっかりやったらかっこ悪いし。」
突然、ドアが開いた。「じゃ、手伝ってくれよ、大文字の従妹さん。」と物部が顔を出した。
「あんたらプロほどじゃないが、探偵ごっこならしたことがある。大文字は感謝している。これでも付き合いが長いんでね。あいつの考えていることは大体分かる。辻斬り事件で実力を見せつけられた、と言っていた。相手の手首に手刀を与えるだけでも、結構ダメージを与えられるらしいな。実は、あの事件より厄介な事件になりそうなんだ。あんたのホームグラウンドは大阪なんだろ?」
「東京、名古屋、大阪。どういう攻撃をしかけてくるか分からないけど、那珂国のマフィアの策略で3カ所同時に攻撃してくるらしい。それで、伝子はあなたを頼りにしたいのよ。お願い。助けてあげて。」
「私にどうしろと?」「『大阪を守れ』っ、てことだ。大阪担当だな。」と栞と総子の会話に中津が割り込んだ。
「連絡先教えて、すぐに新幹線で戻れ。南部さんには俺からも連絡しておく。物部さん、2つの興信所は可能な限り、DDとEITOに協力する。日本を守る為ならな。」
中津興信所の外。
物部達が物陰から見守っていると、総子が慌てて出てきて、暫くすると、バイクに跨がってスタートさせた。
「結構な連携だな。本庄先生の知り合いか。ちょっと聞いてみるか。あ。大文字に連絡した?」「したわよ。今、高遠君と作戦を練っているって。」と栞が言った。
「大文字コネクション、フル活動だな。」と物部は笑った。
遡って、午前10時。西東京留置場。面会室。
柴田管理官が、通称ジョー・タウと面会している。「兄弟に会いたくないか?」と管理官は言った。
同じく、午前10時。東東京留置場。面会室。
久保田管理官が、通称ジャック・タウと面会している。「兄弟に会いたくないか?」と管理官は言った。
同じく、午前10時。天童邸。
天童は、仲間の矢田と松本と共にいた。
久保田警部補とあつこが尋ねて来た。「おおよそは、電話でお伝えした通りです。」と久保田警部補が言うと、「答はイエスです。大文字さんの為なら、一肌でも二肌でも。彼らも同意見です。また、大文字さんと一緒に闘えるなんて、思ってもみませんでした。」
「実は、敵がどういう攻撃をするか分かりませんが、3カ所同時攻撃だということだけは分かっています。」「3カ所?」「東京、大阪、名古屋です。天童さんには大阪で守って貰いたい、と大文字さんは言っています。後のお二方は名古屋です。」
「分かりました。武士に二言は・・・いや、剣士に二言は要らない。お引き受けしましょう。」「私たちも何かのお役に立つのなら、喜んで。」「なんなりと。」
3人は3様に応えた。「では、お隣の小学校の運動場にオスプレイが止まっています。それに乗って下さい。詳細は追ってお知らせします。」と久保田警部補は言い、「それから、これはEITOで緊急に拵えた、チタン合金の刀です。天童さん、試して下さい。1本しかないので、松本さんや矢田さんの分が無くてごめんなさい。」と、あつこが言った。
天童邸からの帰り道。
車の中の久保田警部補とあつこ。「うまく行ったわね。皆、おねえさまの魅力の賜物ね、まこちゃん。」「大文字さんには、人をリードする素質がある。だから、皆集まってくる。ねえ、あっちゃん。僕たちの子供の名前さ。大文字さんに付けて貰おうか。」「いいとも!」二人は爆笑した。
同じく午前10時。利根川邸。
「ああ。あの時の。僕はもうテレビマンじゃない。しがないコラムニストだ。知ってるでしょ。」と、利根川は青山警部補に言った。
「元テレビマンを見込んでの話です。守秘義務を守って頂ければ、全てお話します。」青山警部補と愛宕は、いつかの非礼を詫びた上で、事情を話した。
「大変じゃないですか。そんなこと僕に話しても、お手伝いすること、あります?」
「実は、テレビマンにスパイがいると睨んでいるんです。利根川さんに『推理』して欲しいのは、どういう立場の人間なら、スパイになり得るかということと、観客避難をさせるとしたら、どういう手順がいいかということです。」「ううむ。」利根川は考え込んでしまった。
午後1時半。新幹線の車中。
「ここ、空いてますか?」と総子に声をかけてきた男性がいた。「ええ?帰りもウチにナンパ?」「ははは。お互い、とんぼ返りのようですね。デートは叶わなかったけど、せめて車中はおしゃべりしましょうよ。」
午後4時。南部興信所。
「浮気の調査員が浮気してたんか。」「アホ。ウチは、眼の前のジジイが好きなんや。イケメンでも浮気なんかするかい!」
「それで、従姉にばれてるんやな。人手がいる、ってメールに書いてたな。」
「うん。敵は何らかのパニックを起こそうとする筈やから、何とか避難誘導の段取り付けてくれへんかって、言うてたわ。」
「それで、東栄映画の社長に頼んで、エキストラ20人手配して貰っといた。時間聞いてへんけど、イベントの9時まででええんか?」「いや、8時までに行って、紛れて欲しい、って。」「それ先に、言わんかい。連絡しておく。お前は準備して、先に会場入りしい。」
「所長。中津さんから電話入ってますけど。」と、調査員の佐藤が勢いよく入って来た。
「はあ?電話回せ。」電話は中津健二からだった。
「ああ、いつもお世話になります。はい。天童さん。はい。言うときます。」
電話を切ると、南部は総子に「中津さんからな、天童さん言う人と現地で落ち合え、と。お前がメダル投げて助けた人やそうや。8時に待ってるって。」「了解。ほな。」
総子はバタバタと出て行った。
同じく午後4時。伝子のマンション。
「学。なぎさ達は?」「今出発しました。」
「新しいワンダーウーマン達は?」「EITOで準備中です。」「福本達は?」「道が混むかも知れないから、6時には現地入りするそうです。」
「ひかる君と青木君は?」「元々チケットを購入してあったそうです。青木君はLinenのオフ会を兼ねて集まることになっていたそうで、仲間共々協力する、と言っていました。8時には入場ですが、何かあったら連絡する、と言っていました。」「そうか。」
「渡さんから、連絡がありました。今回の前線部隊に参加するそうです。草薙さんはEITOベースで後方支援です。それと、理事官から、各地EITOのオスプレイは待機するが、アメリカ空軍の助っ人オスプレイも各地で待機するそうです。」
「ご苦労さん。」「まだ、あります。海自の仁礼海将から伝言です。増田は任せた。我々は、打ち合わせ通り、仙石諸島の警戒を強化する、と。それと、空自の前田空将から、金森を頼む、日本海沖で、ミサイルを警戒する、と。」
「気を引き締めないと、な。」と伝子が言うと、いつの間にか入って来た藤井が、おにぎりを差し出した。
「少し遅いおやつ。少し早い夕食。腹が減ってはイクサが出来ぬ、でしょ。」
高遠は、お茶を用意した。3人がおにぎりを頬張っていると、EITO用のPCが起動した。理事官が画面に出た。
「イクサの前の・・・かな。大文字君。天童さんを乗せたオスプレイは大阪に出発した。天童さんと橘一佐を降ろした後は、大阪会場の『立売堀ホール』の上空で米軍のオスプレイと共に待機する。名古屋会場の『みゃーみゃープラザ』には、今、渡辺警視と白藤巡査部長、増田三等海尉、金森一等空曹、そして、剣士の二人が到着した。すぐ隣にホテルがあり、そこで着替えるそうだ。」
「東京勢もおおよそ準備は進行しています。利根川氏の根回しで、葡萄館の一室を借りています。」
「ああ。もう一つ追加情報だ。守備チームの指揮は愛宕警部補が採るが、丸髷署署長がサポートするそうだ。心強いね。」と、理事官は笑った。画面は消えた。
「今日も、台所から出発するの?」と藤井が尋ねると、「いえ。今日はバイクで向かいます。白バイ隊の護衛付きで。」と伝子は笑った。
「僕が頼み込んだんです。総指揮官が事故っちゃいけないし・・・。」「学は会場に向かう途中で狙撃されるんじゃないかって心配しているんです。」二人の会話に割り込んで来た人物がいた。
いつの間にか来ていた、大文字綾子だった。「はい。お守り。神頼みはしたくなかったし、伝子が戦場に向かうのは初めてじゃないけどね。」綾子もおにぎりを頬張った。
午後6時。白バイ隊の『お迎え』が来た。
「お初にお目にかかります、大文字さん、高遠さん。早乙女隊長の後を継いで隊長をしています、工藤由香です。お迎えに上がりました。」
伝子が3人の白バイ隊員と出ようとした時、高遠が『火打ち石』を打った。「行ってらっしゃい。」
「行ってきます。」珍しく涙を浮かべて伝子は出ていった。
「学さん。1000点の婿殿ね。」と綾子が言い、藤井が頷いた。
午後7時。
高速道路上で、伝子のバイクを狙ってくるバイクが3台あった。後方から近づいて来た工藤達は、あおり運転で緊急逮捕し、手錠をガードレールに括り付け、後方支援に任せて、会場に向かった。
バイクを走らせながら、伝子は考えていた。東京会場では恐らく爆発物で脅して来るだろう。大阪会場ではどうだろう?また、名古屋会場では?大阪会場では、なぎさ、天童、そして、総子がいる。名古屋会場では、『妹たち』と矢田、松本がいる。東京会場では、伝子以外は新人だ。私が全ての指揮を執れればいいのだが、そうはいかない。運を天に任せるしかない。大阪と名古屋は彼らの判断に任せよう。
午後8時。
葡萄館近くの田んぼの陰で、伝子は女性用スーツに着替えた。白バイ隊が囲ってくれているので、誰にも見られない。伝子が着替え終わったら、工藤が「では、我々は守備チームに合流します。」と言い、白バイは闇に消えた。
裏口の警備員に「協同メイクの応援要員です。」と身分証を見せた。「ご苦労様です。メイクさんの控え室はA-66です。突き当たり左です。」
伝子はA-66に入る振りをして、実際は入らなかった。先に入っていた早乙女愛が伝子を待っていた。「私はワンダーウーマンにならなくていいんですか?」「ごめん。衣装が間に合わなくて。舞台袖で、EITOとの連絡係をして。」と言いながら、自分の着替えるメイク室に向かった。
同じく午後8時。立売堀ホールの前。
天童と総子は再会した。
「あの時はありがとう、お嬢さん。」「始まってから入る方がいいわね。」と挨拶を交わした二人の前に、ワンダーウーマン姿のなぎさがいた。「その通り。始まったら誰も気にも留めない。」
同じく午後8時。みゃーみゃープラザ前。
「いいですか。剣士にせよ、ワンダーウーマンにせよ、目立つので、始まってから何食わぬ顔で堂々と入りましょう。」とあつこが言うと、「入館チェックは?」と矢田が言った。「こういうイベントって、始まったら受付はないも同じ。フリーパスなんですよ。」と、みちるが言った。
午後9時。東京の会場。
世紀のチャリティー募金番組が始まった。MC以下、赤いチャリティTシャツを着ている。芸能人をMCの大北が次々紹介している。大北が大阪会場を呼び出した。
「では、ここで、大阪会場の様子を見せて下さい。大阪会場の吉永さーん。」
大阪会場には画像が繋がらず、大きなスクリーンには何も映っていなかった。
大阪会場。
チャリティスタッフの一人が、MCの吉永にナイフをあてがい、ステージに何十人もの黒い覆面を被った男達が登場した。
会場内はパニックになり、観客は逃げ出した。東栄映画のエキストラ達が、会場スタッフを押しのけて、避難誘導を始めた。会場スタッフは何が起ったか分からず、呆然としている。吉永にナイフをあてがっていた男が叫んだ。「おい。お前ら。こいつの命が惜しくないのか?」
会場袖で見ていた、なぎさが呟いた。「間抜けな犯人で良かった。天童さん、総子ちゃん。行くよ!」となぎさは声をかけた。
東京会場。
MCの大北が首を傾げている。「変ですねえ。繋がらないなんて。では、名古屋会場に繋いで貰いましょう。名古屋会場の竹下さーん。」スクリーンに名古屋会場は映らなかった。
名古屋会場。
MCの竹下が舞台中央に何故か白い布を被せたワゴンがあるのに気づき、白い布を取った。「きゃー。時限爆弾だわ。」と若い女の子が叫んだ。直ちに観客は我先にと逃げ出した。観客に紛れていた海自の自衛隊員は、速やかに避難誘導をした。
ワンダーウーマン姿のあつことみちるは直ちに、確認に走った。「あまり時間がないわ。」と、あつこは言い、DDバッジを押した。二人で時限爆弾を運ぼうとした時、黒い覆面を被った男達がステージに上がってきた。「我々が処理します。」とワンダーウーマン姿の増田と金森が受け取り、走った。降りてきたオスプレイに近寄る二人を妨害しようとする男達にあつことみちるは敢然と立ち向かった。
東京会場。
困惑しているMCの大北の前に、舞台に上がっていたボランティアスタッフの一人が現れ、マイクを奪った。「無理無理。今、大阪会場も名古屋会場も我々の仲間が押さえ込んでいるんでね。」「押さえ込んでいる、とはどういうことかな?」4人のワンダーウーマン姿の女性の一人が尋ねた。
「じゃあ、実力を見せてやるよ。」200人以上の黒い覆面の男達がステージに上がってきた。「お前ら、全員人質だ。一人でも逆らうや・・・。」リーダーの男が言い終わらない内に、「今の内に逃げて下さい。係員の誘導に従って下さい。」と、早乙女愛が無線を通じてスピーカーに流した。
逃げる観客の中で、「これ、イベントだから、みんな協力してください。」と青木と仲間達、ひかる、依田、福本、松下、本田、豊田、南原、服部、山城が言いながら誘導を始めた。
「くそう。やっちまえ。」とリーダーが言うと、地下室で着替え、別方向からやって来た、ワンダーウーマン姿の伝子が「やっつけられるのはお前らだよ。」と言った。
舞台袖の陰で、早乙女は連絡した。「照明、お願いします。」
ステージに向かって、田んぼ道の中から大きなスポットライトが幾つも点灯した。自動の機械を操縦していたのは、渡だった。
観客を追う重装備の男達に伝子達はこしょう弾を投げた。そして、乱闘になった。
「大文字。借りを返しに来たぜ。」「大文字。借りを返しに来たぜ。」二人とも、かつて伝子と死闘をして負けた、中国人の兄弟だった。
「助かる、タウ兄弟。」兄の方は三節棍を持ち、弟はヌンチャクを持った。伝子はトンファーだった。三人は改めて三方に分かれて闘い始めた。
会場のそばの田んぼ。双眼鏡で闘いを見守る人物がいた。その人物の肩をポンポンと叩いたのは青山警部補だった。
「やはり黒幕さんは、暗い所が好きなようですね。」
愛宕が手錠をかけた。「警官隊の準備を。」と、青山は愛宕に指示した。
「では、話を伺いましょうか。プロデューサーの新井さん。あなたが今回の『死の商人』ですね。情報を流していた人物も特定しましたよ。」
大阪会場。
闘いながら、なぎさは総子に尋ねた。「その技、何処で覚えた?」「俺が教えたんや。」といつの間にかやって来た、南部が言った。「師匠。」と、天童が近づいて来た。
「師匠。これを。」二刀流で闘っていた天童はチタン合金製の木刀を南部に渡した。
二人は、すぐに闘いに参戦した。最初に。なぎさと総子が投げた、こしょう弾のお陰で、敵の銃は発射不能となり、敵は棍棒で闘っていた。
名古屋会場。
こちらも、あつことみちるが投げた、こしょう弾の効力で、敵の銃は使用不能となり、敵は棍棒で闘っていた。
オスプレイ機内。「解除成功。会場に戻って下さい。」と増田がパイロットに言った。
東京会場。こちらの敵は何故か全員ナイフで闘っていた。後から来た敵の一人が、ステージに飛び込み、ある箱を開け、スイッチを押した。時限爆弾ではない。ミサイル誘導装置だ。その男は高笑いをした。
伝子は鏡を男に向けた。男が怯んだ好きに、伝子はDDバッジを押し、長波ホイッスルを吹いた。
東京会場から約100m離れた公園。長波ホイッスルをレシーバーで聞いた中津健二は、中津警部補に合図を送った。
その合図を受けて、中津警部補は、ドローン操縦大会のMCとして、参加者に呼びかけた。「さあ。チャリティー会場に向けて、ドローンを飛ばして下さい。今、会場では特別企画イベントが進行中です。一番長く飛行出来た操縦者には賞金、賞品が出ます。」
操縦者達は、こぞって、自慢の腕をみせるべくドローンを操縦した。
東京会場。、ドローンが多数飛来し、上空を旋回し始めた。
仙石諸島。護衛艦。仁礼海将が艦長に命じた。「挨拶をしてやれ。」
数分後。護衛艦から花火が上がった。島に実効支配をしようとしていた、那珂国の艦隊は引き上げて行った。
青森。青函トンネル付近。函館の南方を通り過ぎようとしているオトロシアの船に向かって、50機の零戦風戦闘機が並んだ。オトロシアの船はゆっくりと引き返して行った。
防衛省。政務官執務室。副総監が部下を連れて訪れた。
「奥村政務官。国家反逆罪で逮捕します。出光警視。」公安の出光は、ゆっくりと、奥村に手錠をかけた。
名古屋会場。
あつことみちるの元に増田と金森が帰ってきた。「お待たせしました、隊長。」4人のワンダーウーマンは、それぞれの武器で、コンビネーションで闘った。
大阪会場。「お嬢ちゃん。メダルなくても、腕がいいから闘えるじゃないか。」と天童が言った。「おおきに。旦那の仕込みがいいからな。」「誰のことや?」「知らん。」二人の会話に、「師匠の妻が師匠の弟子か。面白い。」とまた天童は感心した。
「いつの間にか、東栄映画のエキストラさんも大掃除に手伝ってくれているわ。」となぎさが言った。
東京会場。伝子の足元に、1個のカプセルが投げ込まれた。伝子は遠目に、筒井の顔を見た気がした。カプセルを開けると、紫の布が入っていた。伝子はミサイル誘導装置にその布をかけた。早乙女はEITOに連絡した。「遮蔽装置が間に合いました。」
ドローンは次々にどこかへと消えて行った。
時刻は午後11時になっていた。
大町達が伝子の元にやって来た。「隊長。終わりました。」
ステージに倒れている者達は、愛宕の指揮の下、警官隊が逮捕連行して行った。
久保田管理官がやって来た。「大阪会場も名古屋会場も『せん滅』した、と連絡が入ったよ。こいつらもお役御免だ。」と側にいるジョー・タウとジャック・タウを指した。
「大文字は『ぎきょうだい』が多いな。俺らも、『ぎきょうだい』にしてくれよ。」とジョーが言った。「断る。女子限定だ。ただ、お前らは友人だ。」
笑いながら、兄弟は久保田管理官と去って行った。
MCの大北と利根川がやって来た。「後は適当に誤魔化しておきます。任せて下さい。」
「無理を言って申し訳なかった。ありがとう、利根川さん。」伝子達ワンダーウーマンは、利根川がプロデューサーに無断で借りた、地下のメイク室に移動した。
「私だ。」と伝子がノックしながら言うと、慶子、祥子、蘭が出てきた。
「終わったの?先輩。」「ああ。終わった。」蘭が伝子に抱きついた。「良かった。」
自衛隊4人は、それぞれ手分けして、蘭達を送って帰った。伝子は早乙女にバイクの運転を任せ、帰宅した。到着して、「早乙女さんはどうするの?」と伝子が言うと、「あ。」と早乙女が口を押さえた。「今度返して。」と伝子は言った。
翌日。午後2時。伝子のマンション。南部と総子がやってきた。いつものメンバーは既に来ていた。
「紹介しよう、みんな。従妹の江角総子だ。ガラガラ仮面でもある。」「ちゃうちゃう、伝子ねえちゃん。ヒョウ柄仮面や。」「どうでもええやないか。南部興信所所長で、夫の南部寅次郎です。よろしくお願いします。お前も頭下げるんや。」
「江角総子、本名、南部総子です。籍入れてへんけど。」
「まだ18歳やから、こいつがハタチになったら、正式に結婚しようって決めて、待ってますねん。」
二人の会話を聞いていた伝子が首を傾げた。
「18歳?南部さん、結婚待たなくていいですよ。総子は24歳ですから。」と、伝子は南部に言った。
「調べなかったんですか?興信所所長なのに。」と依田が言った。
「準備!!」と伝子は言った。女子は奥の部屋に行った。伝子が総子の耳を掴んで、奥の部屋に向かった。高遠がなぎさを呼び止めた。「一佐。これを。よろしくお願いします。」「ありがとう、高遠さん。」高遠は「手当セット」を渡したのだった。
「恒例の、お仕置きです。南部さん。今日、総子ちゃんはここに泊まって貰いましょう。経験者によると、結構きついらしいですから。」
「了解した。高遠さん、これからもよろしくお願いします。病院に行って、中津所長に会ってから、新幹線で帰ります。大文字さんによろしくお伝え下さい。」
奥の部屋では、総子がわめいていた。南部は帰って行った。
「俺たちも帰るか。」男子達は、物部の提案通り、帰って行った。
高遠は、ヘッドホンを耳に着け、洗濯物の片付けを始めた。
騒動は長く続いた。
―完―