＝＝＝＝＝＝＝＝ この物語はあくまでもフィクションです ＝＝＝＝＝＝＝＝＝
============== 主な登場人物 ================
大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
大文字（高遠）学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
一ノ瀬（橘）なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」と呼ばれている。
久保田（渡辺）あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。
金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。
増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。
馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。
結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からのEITO出向。
新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からのEITO出向。
越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。
小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。EITOに参加。
斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。
草薙あきら・・・警視庁からのEITO出向。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
渡伸也一曹・・・空自からのEITO出向。GPSほか自衛隊のシステム担当。
夏目警視正・・・EITO副司令官。表向きは、夏目リサーチ社長。
筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。伝子と一時付き合っていた。警視庁副総監直属の警部。EITOに出向。
依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。やすらぎほのかホテル東京支配人。
依田（小田）慶子・・・やすらぎほのかホテル東京副支配人。依田の妻。
大文字綾子・・・伝子の母。時々、伝子に「クソババア」と呼ばれている。
藤井康子・・・伝子達の隣人。料理教室を開いている。
小田祐二・・・やすらぎほのかホテル社長。
河野事務官・・・EITOの警視庁担当事務官。
灘知美議員・・・移民党参議院議員
鐘木椋雄（かねきむくお）議員・・・一心の会参議院議員。
志垣のりこ議員・・・違憲異種党の参議院議員。
愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。警部。普段は丸髷警察署に勤務している。
橋爪警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。愛宕と同様、EITOと協力体制を取っている。
==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO精鋭部隊である。==
午後８時５０分。やすらぎほのかホテル東京。フロント。
増田と結城が入って来た。
増田は、「灘議員は？」と開口一番に依田に尋ねた。「９時に帰って来られる予定なので、もうそろそろではないかと思います。両隣の部屋のお客様には移動願いましたが、斜め前の２部屋は了解頂けませんでした。」
灘知美議員は、先の『修正LBGT法案』が可決する前、阿倍野元総理が反対していた法案を無理矢理志田総理と通した『立役者』である。市橋総理が草案した修正案が可決するまでは、その妙な法案に便乗した犯罪が多数発生していた。
パウダースノウでなくとも、彼女の考えに反対する人は大多数いたので、恨みを買っていてもおかしくはない。
やって来た、灘に結城は警察手帳を出した。「灘議員ですね。殺人者リストをご存じですね？」「何のことかしら？」
慶子が横からリストの載っている新聞の灘議員の箇所を指して言った。
「議員は狙われています。」
「何で、私を？」という問いには、誰も答えなかった。
「我々が交代で、お守りします。」「イヤよ、何でそんな大袈裟に・・・。」
「何かあってからでは遅すぎます。どうかご自分の安全をお考え下さい。それが、国民の為でもあると思いますよ。」小田社長は名刺を差し出しながら言った。
「いいわ。取り敢えず部屋に戻ります。」灘は、渋々言った。
増田と結城が伴って、灘の部屋の前に行くと、いきなりナイフを持った男が襲いかかった。増田が、ナイフを手刀で落とし、結城が一本背負いをした。増田がDDバッジを押した。
DDバッジとは、位置情報を発信するバッジだが、緊急簡易連絡通信にも用いられる。
程なく、愛宕と橋爪警部補が警察官２人を伴ってやって来た。
「ご苦労様です。では、橋爪警部補。事情聴取をお願いします。」
そう言って、愛宕は、警備員室に急いだ。警察官達には、先に逮捕連行するように命じた。
午後９時半。警備員室。
防犯カメラの映像が並んでいる。警備員の後ろに依田と慶子がいた。
「金森さんと新町さんが駐車場で不審な２人組を発見、追跡しました。」と依田が報告した。
数分後。灘の部屋の斜め向かいの２部屋から１人ずつ男が現れた。愛宕達は、フロントに急いだ。
２人の男がフロントロビーに伸びていた。そこに筒井が立っていた。
「プロじゃない。また、闇バイトかもな。」
午後１０時。EITO司令室。
深夜ということもあるが、新本部が出来てから、マトリや自衛隊関係部署毎の専従員はいなくなった。連絡システムが充実したからだ。その代わり、夏目の席と伝子の席が出来た。
伝子が愛宕からの報告を受けていると、なぎさとあつこがラーメンを作って持って来た。
そこに、夏目が警視庁から帰ってきた。「お。上手そうだな。夜食あるんなら、連絡しとけば良かった。」
「警視正、どうぞ。私はまた作りますから。」と、なぎさは自分の分を差し出し、給湯室に消えた。
ラーメンを食べながら、伝子を中心に会議が始まった。
「ホテルにやって来たのは５人組のようです。３人は、増田達が捕まえましたが、２人逃走。金森達が追ってます。必要な場合は白バイ隊を呼べと言ってあります。」
簡単に伝子は報告をした。「まずは、ご苦労。何か意見は？」
「警視正。私は、このリストの写真の並び方に違和感があるんですが・・・。」と河野事務官が言った。
「うん。実は久保田管理官にも同じ話を聞いてきた。新聞社は、ただ載せただけと最初は頑なだったが、犯人が送って来た書類は事件解決後の提出でいいという条件で、幾つか聞き出したそうだ。その１つが、河野事務官が疑問に思った謎だ。犯人の指摘らしい。」
「やっぱり。じゃ、この並びに意味があるのかも知れませんね。」と渡が言うと、「５列１０行の並びですからね。私だったら６列８行にして２個はみ出すようにするか、７列７行にして１個はみ出すようにする。どう見ても、段組が不自然だ。他の記事が狭い。」と、草薙が言った。
カップラーメンを運んで来た、なぎさが言った。「パズルみたいな感じがするわ。おにいさまの出番ね、おねえさま。」「おにいさまは仮眠中だよ、なぎさ。」
伝子は、「応答がないから、さっき藤井さんに様子を尋ねたら、モニターにうたた寝している姿が見えたから、毛布かけてきたってさ。」と言った。
「お疲れなのね。パズルは明日解いて貰いましょ。」と、あつこは言った。
「あ、そうだ。理事官は？」「須藤医官が点滴用意してくれたわ。今は医務室で寝てる。」と、なぎさはラーメンを啜りながら言った。
なぎさとあつこの会話に、「理事官も疲れているのさ。」と伝子は言った。
午後１１時。
金森から連絡が入った。
「隊長。車上荒らしでした。どうやら、今回の件とは関係がなさそうです。今、最寄りの警察署に収監しました。」
「よくやった。直帰してよし・・・あ、お前アパートか。あかりだけ本部に帰って来い。」
「おねえさま。金森はもう同棲してるの？」とあつこが声を潜めて言った。
「声潜めなくてもいいよ。仕事に差し障りがあったら・・・。」「お仕置き部屋ね。うふふ。」
「うふふ、って期待しているんですか、一佐。」と草薙が言った。
「うん。」なぎさとあつこが同時に言った。
「呆れたな。そろそろ解散だな。後はよろしく。」と言って、夏目は出て行った。
翌日。午前８時。伝子のマンション。
高遠は、洗濯をし、ベランダに洗濯物を干していた。隣の藤井が顔を出し、「大丈夫？あまり眠ってないんでしょ。」と、言った。
「あ。大ジョブみたいです。毛布かけて下さり、ありがとうございました。」
台所に引っ込むと、伝子が朝食の準備をしていた。フランクフルトを焼いている。
高遠は、干渉せず、風呂掃除にかかった。
「なあ、学。」「なあに、伝子。」「予約していいかしら？」「予約？」高遠はイヤな予感がした。
「やすらぎほのかホテル東京に予約した３人の件が片付いたら、子作りの時間作ってくれないかしら？」
さらっと、朝っぱらから『おんな言葉』で誘惑してきた。
「そ。そうだね。その前に謎を解いていかないとね。」と、高遠は大声で誤魔化した。
「出来たよー。あ。出来たわよ、あなたー。一緒に食べましょう。」
高遠は、伝子と食事しながら、ブレーンストーミングすることにした。
「ヨーダの、やすらぎほのかホテル東京に予約した３人は狙われている。これは確かだ。」「うん。灘知美議員は、移民党でありながら、阿倍野元総理を裏切った者として有名だ。安倍野さんのシンパが狙ってもおかしくない。でも、ダークレインボーが関与している。あのリストに載っていたからな。本人は至って暢気だったから、折角守ったのに、食ってかったそうだ。久保田管理官は、口を閉ざしたままの３人は闇バイトではない証拠だと言っていた。『葉っぱ』ではなく、『枝』かもな。」
「残り２人も政治家だったね。親オトロシア派の鐘木椋雄（かねきむくお）、一心の会がいつも困っている。党のガンともポリープとも言われる。不適切発言の多い、違憲異種党の志垣のりこ。阿倍野元総理が病気退陣した時に揶揄したことで有名だ。先の灘議員との共通点は、現役議員で、国民から不評ということだね。」
「学が言った通り、５０人全員の共通点を探し出すより、共通点の多い者をグループ分けして考えた方がいいのかも知れない。なぎさが『パズル』みたいだ、と言っていたな。
「成程。パズルを解いて行ったら、何かメッセージが隠れているのかも知れないね。で、国会議員３人だけど、仮に『殺したい国会議員』とか『死んでもいい国会議員』というくくりでアンケートを採ったら、上位にランキングしそうな気がする。それで、朝イチで草薙さんにメールで送っておいた。」
午前９時。アラームが鳴り、EITO用のPCが起動した。
理事官と草薙が映っていた。「理事官。お体は？」と伝子が尋ねると、「もう大丈夫だ。点滴が効いたな。少し、分かったことがある。草薙。」
草薙が画面に出た。「アンバサダー。すぐに閉じられたようですが、『殺したい人ランキング』という闇サイトがあったようです。」「政治家に限らないんですか？」「いや、多分『政治家部門』とか『芸能部門』とかあったのでしょう。全員殺される、というのは『刷り込み』かも知れないし。まだ端緒に過ぎませんが、政治家３人が嫌われていたという事実だけでも進展ですかね。」
「大文字君。君から総理に提言してくれたお陰で、鐘木議員と志垣議員は宿泊予定を繰り上げてくれたよ。鐘木議員は今日、志垣議員は明日、宿泊して貰う。灘議員にも口止めしている。明後日までの時限付きで家に閉じこもり、マスコミの取材に応じないように言って貰った。大西議員のことを考えれば、迂闊に行動しない方がいいことぐらいは分かるだろう。」
「敵は、身近な人間に金を渡すとかして、スケジュールを把握していると思いますので、予定を変更したら、食いついてくると思います。無論、そうでない可能性もありますが。取り敢えず、今日明日は、昨日と同じ体制で行きましょう。午後から、そちらに参ります。」
通信が切れた後、伝子は定期健診の延期を池上医師に願い出た。
午後１時。EITO会議室。
「鐘木議員のチェックインは午後３時だ。午後２時には、準備を始める。」と、伝子は皆に言った。
「隊長。議員達の警護も大事ですが、リストの他の人物は？」と、越後が言った。
「よく言った、越後。だが、今の所、他の手掛かりがない。取り敢えず、議員３人を守ろう。」と、伝子は言った。
越後の杞憂が後に本物になるとは、この時点では誰も想像していなかった。
午後２時半。鐘木は予定より早く到着した。
ロビーで、依田は鐘木に、あつこと小坂を紹介した。
「お電話でお話させて頂きました、警察からのSPです。鐘木様を今から２４時間お守りして頂きます。」
「婦警さん、いや、今は女性警察官ですか。大ジョブかなあ。」
「こう見えても、有段者ですのよ。」と、あつこは警察手帳を見せ、名刺を鐘木に渡した。
「警視・・・上の方の階級ですな。」「流石、鐘木議員。分かっていらっっしゃる。」
「警視。私どもは・・・。」と２人の秘書は困惑していた。
「すぐ近くではありませんが、お部屋は用意しております。」と、依田は言った。
「私は、囮になるのかな？」「ある意味そうです。しかし、敵は何らかのルールがあるらしく、暗殺や誘拐に失敗した相手には２度と手を出しません。」
「詰まり、あなたがたに守って貰って無事に済んだら、もう心配は要らない、と？」
「その通りです。」「ふむ。３時に友人が来るのだが、支配人さん、ロビーであった方がいいかな？」「はい。その方が安心かと。鐘木様もご友人も。」「じゃ、そうしよう。警視さん、あなた方は？」「それとなく監視致します。」「分かった。」
午後３時。鐘木の友人が現れ、３０分ほどで、友人は帰っていった。
鐘木を挟んで、あつこと小坂は、鐘木の部屋に向かった。
鐘木が入ろうとすると、部屋から女が飛び出し、鐘木に銃を突きつけた。
「そこまでだ！」隣の部屋の扉の陰から、シューターが飛んできた。シューターは、女の靴のつま先にめり込んだ。反対側からもシューターが飛んできた。女は動けなくなった。
シューターとは、EITOが開発したうろこ形の手裏剣である。先端に痺れ薬が塗ってある。
両側の部屋の陰から、エマージェンシーガールズ姿の、なぎさと馬越が現れた。
あつこは小坂に「逮捕！」と言った。小坂が女に手錠をかけた。あつこは拳銃を取り上げた。
その時、志垣議員が秘書を伴って、現れた。「こんなところにいたのね、はげオヤジ。」と罵りながら、志垣は鐘木の側に来て、異変に気が付いた。
「連絡が行ってませんでしたか？志垣議員。あなたは明日お見えになるはずだった。鐘木議員同様、囮になって頂き、我々が万全の体制でお守りする手はずだったのに。」
「聞いてないわ。」「そりゃあそうよね、言ってないんだもの。」一緒に来た女性秘書の１人が笑いながら言った。
２人の秘書は拳銃を出し、皆を鐘木の部屋に入れた。そして、自分たちも入ろうとした時、伊地知の投げたブーメランが拳銃を落した。
午後５時。伝子のマンション。
「で？」と高遠はスマホの依田に説明を求めた。
「鐘木を襲った女と、志垣の秘書に化けていた女２人は、警官隊が逮捕連行。警視の許可を取って、２人の議員は仲良く鐘木の部屋にいる。元々、それぞれが予約していた日は、デートの日だったらしい。２部屋より１部屋、さ。志垣議員って、何度も不倫で話題になったでしょ。まあ、プライベートだし。もう俺達は関係ないし。ところで、リストの３人は守れたんだから、良かったよ。」
「そうでもないな。今、テレビでやってるニュース、強盗殺人放火事件で映っているのは、リストに載ってた人物だ。明日から、また記者会見に追われるな、理事官は。」
高遠が、ため息をついていると、伝子が帰って来た。
TVのニュースに、伝子はフリーズした。
―完―
============== 主な登場人物 ================
大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
大文字（高遠）学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
一ノ瀬（橘）なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」と呼ばれている。
久保田（渡辺）あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。
金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。
増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。
馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。
結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からのEITO出向。
新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からのEITO出向。
越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。
小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。EITOに参加。
斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。
草薙あきら・・・警視庁からのEITO出向。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
渡伸也一曹・・・空自からのEITO出向。GPSほか自衛隊のシステム担当。
夏目警視正・・・EITO副司令官。表向きは、夏目リサーチ社長。
筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。伝子と一時付き合っていた。警視庁副総監直属の警部。EITOに出向。
依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。やすらぎほのかホテル東京支配人。
依田（小田）慶子・・・やすらぎほのかホテル東京副支配人。依田の妻。
大文字綾子・・・伝子の母。時々、伝子に「クソババア」と呼ばれている。
藤井康子・・・伝子達の隣人。料理教室を開いている。
小田祐二・・・やすらぎほのかホテル社長。
河野事務官・・・EITOの警視庁担当事務官。
灘知美議員・・・移民党参議院議員
鐘木椋雄（かねきむくお）議員・・・一心の会参議院議員。
志垣のりこ議員・・・違憲異種党の参議院議員。
愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。警部。普段は丸髷警察署に勤務している。
橋爪警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。愛宕と同様、EITOと協力体制を取っている。
==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO精鋭部隊である。==
午後８時５０分。やすらぎほのかホテル東京。フロント。
増田と結城が入って来た。
増田は、「灘議員は？」と開口一番に依田に尋ねた。「９時に帰って来られる予定なので、もうそろそろではないかと思います。両隣の部屋のお客様には移動願いましたが、斜め前の２部屋は了解頂けませんでした。」
灘知美議員は、先の『修正LBGT法案』が可決する前、阿倍野元総理が反対していた法案を無理矢理志田総理と通した『立役者』である。市橋総理が草案した修正案が可決するまでは、その妙な法案に便乗した犯罪が多数発生していた。
パウダースノウでなくとも、彼女の考えに反対する人は大多数いたので、恨みを買っていてもおかしくはない。
やって来た、灘に結城は警察手帳を出した。「灘議員ですね。殺人者リストをご存じですね？」「何のことかしら？」
慶子が横からリストの載っている新聞の灘議員の箇所を指して言った。
「議員は狙われています。」
「何で、私を？」という問いには、誰も答えなかった。
「我々が交代で、お守りします。」「イヤよ、何でそんな大袈裟に・・・。」
「何かあってからでは遅すぎます。どうかご自分の安全をお考え下さい。それが、国民の為でもあると思いますよ。」小田社長は名刺を差し出しながら言った。
「いいわ。取り敢えず部屋に戻ります。」灘は、渋々言った。
増田と結城が伴って、灘の部屋の前に行くと、いきなりナイフを持った男が襲いかかった。増田が、ナイフを手刀で落とし、結城が一本背負いをした。増田がDDバッジを押した。
DDバッジとは、位置情報を発信するバッジだが、緊急簡易連絡通信にも用いられる。
程なく、愛宕と橋爪警部補が警察官２人を伴ってやって来た。
「ご苦労様です。では、橋爪警部補。事情聴取をお願いします。」
そう言って、愛宕は、警備員室に急いだ。警察官達には、先に逮捕連行するように命じた。
午後９時半。警備員室。
防犯カメラの映像が並んでいる。警備員の後ろに依田と慶子がいた。
「金森さんと新町さんが駐車場で不審な２人組を発見、追跡しました。」と依田が報告した。
数分後。灘の部屋の斜め向かいの２部屋から１人ずつ男が現れた。愛宕達は、フロントに急いだ。
２人の男がフロントロビーに伸びていた。そこに筒井が立っていた。
「プロじゃない。また、闇バイトかもな。」
午後１０時。EITO司令室。
深夜ということもあるが、新本部が出来てから、マトリや自衛隊関係部署毎の専従員はいなくなった。連絡システムが充実したからだ。その代わり、夏目の席と伝子の席が出来た。
伝子が愛宕からの報告を受けていると、なぎさとあつこがラーメンを作って持って来た。
そこに、夏目が警視庁から帰ってきた。「お。上手そうだな。夜食あるんなら、連絡しとけば良かった。」
「警視正、どうぞ。私はまた作りますから。」と、なぎさは自分の分を差し出し、給湯室に消えた。
ラーメンを食べながら、伝子を中心に会議が始まった。
「ホテルにやって来たのは５人組のようです。３人は、増田達が捕まえましたが、２人逃走。金森達が追ってます。必要な場合は白バイ隊を呼べと言ってあります。」
簡単に伝子は報告をした。「まずは、ご苦労。何か意見は？」
「警視正。私は、このリストの写真の並び方に違和感があるんですが・・・。」と河野事務官が言った。
「うん。実は久保田管理官にも同じ話を聞いてきた。新聞社は、ただ載せただけと最初は頑なだったが、犯人が送って来た書類は事件解決後の提出でいいという条件で、幾つか聞き出したそうだ。その１つが、河野事務官が疑問に思った謎だ。犯人の指摘らしい。」
「やっぱり。じゃ、この並びに意味があるのかも知れませんね。」と渡が言うと、「５列１０行の並びですからね。私だったら６列８行にして２個はみ出すようにするか、７列７行にして１個はみ出すようにする。どう見ても、段組が不自然だ。他の記事が狭い。」と、草薙が言った。
カップラーメンを運んで来た、なぎさが言った。「パズルみたいな感じがするわ。おにいさまの出番ね、おねえさま。」「おにいさまは仮眠中だよ、なぎさ。」
伝子は、「応答がないから、さっき藤井さんに様子を尋ねたら、モニターにうたた寝している姿が見えたから、毛布かけてきたってさ。」と言った。
「お疲れなのね。パズルは明日解いて貰いましょ。」と、あつこは言った。
「あ、そうだ。理事官は？」「須藤医官が点滴用意してくれたわ。今は医務室で寝てる。」と、なぎさはラーメンを啜りながら言った。
なぎさとあつこの会話に、「理事官も疲れているのさ。」と伝子は言った。
午後１１時。
金森から連絡が入った。
「隊長。車上荒らしでした。どうやら、今回の件とは関係がなさそうです。今、最寄りの警察署に収監しました。」
「よくやった。直帰してよし・・・あ、お前アパートか。あかりだけ本部に帰って来い。」
「おねえさま。金森はもう同棲してるの？」とあつこが声を潜めて言った。
「声潜めなくてもいいよ。仕事に差し障りがあったら・・・。」「お仕置き部屋ね。うふふ。」
「うふふ、って期待しているんですか、一佐。」と草薙が言った。
「うん。」なぎさとあつこが同時に言った。
「呆れたな。そろそろ解散だな。後はよろしく。」と言って、夏目は出て行った。
翌日。午前８時。伝子のマンション。
高遠は、洗濯をし、ベランダに洗濯物を干していた。隣の藤井が顔を出し、「大丈夫？あまり眠ってないんでしょ。」と、言った。
「あ。大ジョブみたいです。毛布かけて下さり、ありがとうございました。」
台所に引っ込むと、伝子が朝食の準備をしていた。フランクフルトを焼いている。
高遠は、干渉せず、風呂掃除にかかった。
「なあ、学。」「なあに、伝子。」「予約していいかしら？」「予約？」高遠はイヤな予感がした。
「やすらぎほのかホテル東京に予約した３人の件が片付いたら、子作りの時間作ってくれないかしら？」
さらっと、朝っぱらから『おんな言葉』で誘惑してきた。
「そ。そうだね。その前に謎を解いていかないとね。」と、高遠は大声で誤魔化した。
「出来たよー。あ。出来たわよ、あなたー。一緒に食べましょう。」
高遠は、伝子と食事しながら、ブレーンストーミングすることにした。
「ヨーダの、やすらぎほのかホテル東京に予約した３人は狙われている。これは確かだ。」「うん。灘知美議員は、移民党でありながら、阿倍野元総理を裏切った者として有名だ。安倍野さんのシンパが狙ってもおかしくない。でも、ダークレインボーが関与している。あのリストに載っていたからな。本人は至って暢気だったから、折角守ったのに、食ってかったそうだ。久保田管理官は、口を閉ざしたままの３人は闇バイトではない証拠だと言っていた。『葉っぱ』ではなく、『枝』かもな。」
「残り２人も政治家だったね。親オトロシア派の鐘木椋雄（かねきむくお）、一心の会がいつも困っている。党のガンともポリープとも言われる。不適切発言の多い、違憲異種党の志垣のりこ。阿倍野元総理が病気退陣した時に揶揄したことで有名だ。先の灘議員との共通点は、現役議員で、国民から不評ということだね。」
「学が言った通り、５０人全員の共通点を探し出すより、共通点の多い者をグループ分けして考えた方がいいのかも知れない。なぎさが『パズル』みたいだ、と言っていたな。
「成程。パズルを解いて行ったら、何かメッセージが隠れているのかも知れないね。で、国会議員３人だけど、仮に『殺したい国会議員』とか『死んでもいい国会議員』というくくりでアンケートを採ったら、上位にランキングしそうな気がする。それで、朝イチで草薙さんにメールで送っておいた。」
午前９時。アラームが鳴り、EITO用のPCが起動した。
理事官と草薙が映っていた。「理事官。お体は？」と伝子が尋ねると、「もう大丈夫だ。点滴が効いたな。少し、分かったことがある。草薙。」
草薙が画面に出た。「アンバサダー。すぐに閉じられたようですが、『殺したい人ランキング』という闇サイトがあったようです。」「政治家に限らないんですか？」「いや、多分『政治家部門』とか『芸能部門』とかあったのでしょう。全員殺される、というのは『刷り込み』かも知れないし。まだ端緒に過ぎませんが、政治家３人が嫌われていたという事実だけでも進展ですかね。」
「大文字君。君から総理に提言してくれたお陰で、鐘木議員と志垣議員は宿泊予定を繰り上げてくれたよ。鐘木議員は今日、志垣議員は明日、宿泊して貰う。灘議員にも口止めしている。明後日までの時限付きで家に閉じこもり、マスコミの取材に応じないように言って貰った。大西議員のことを考えれば、迂闊に行動しない方がいいことぐらいは分かるだろう。」
「敵は、身近な人間に金を渡すとかして、スケジュールを把握していると思いますので、予定を変更したら、食いついてくると思います。無論、そうでない可能性もありますが。取り敢えず、今日明日は、昨日と同じ体制で行きましょう。午後から、そちらに参ります。」
通信が切れた後、伝子は定期健診の延期を池上医師に願い出た。
午後１時。EITO会議室。
「鐘木議員のチェックインは午後３時だ。午後２時には、準備を始める。」と、伝子は皆に言った。
「隊長。議員達の警護も大事ですが、リストの他の人物は？」と、越後が言った。
「よく言った、越後。だが、今の所、他の手掛かりがない。取り敢えず、議員３人を守ろう。」と、伝子は言った。
越後の杞憂が後に本物になるとは、この時点では誰も想像していなかった。
午後２時半。鐘木は予定より早く到着した。
ロビーで、依田は鐘木に、あつこと小坂を紹介した。
「お電話でお話させて頂きました、警察からのSPです。鐘木様を今から２４時間お守りして頂きます。」
「婦警さん、いや、今は女性警察官ですか。大ジョブかなあ。」
「こう見えても、有段者ですのよ。」と、あつこは警察手帳を見せ、名刺を鐘木に渡した。
「警視・・・上の方の階級ですな。」「流石、鐘木議員。分かっていらっっしゃる。」
「警視。私どもは・・・。」と２人の秘書は困惑していた。
「すぐ近くではありませんが、お部屋は用意しております。」と、依田は言った。
「私は、囮になるのかな？」「ある意味そうです。しかし、敵は何らかのルールがあるらしく、暗殺や誘拐に失敗した相手には２度と手を出しません。」
「詰まり、あなたがたに守って貰って無事に済んだら、もう心配は要らない、と？」
「その通りです。」「ふむ。３時に友人が来るのだが、支配人さん、ロビーであった方がいいかな？」「はい。その方が安心かと。鐘木様もご友人も。」「じゃ、そうしよう。警視さん、あなた方は？」「それとなく監視致します。」「分かった。」
午後３時。鐘木の友人が現れ、３０分ほどで、友人は帰っていった。
鐘木を挟んで、あつこと小坂は、鐘木の部屋に向かった。
鐘木が入ろうとすると、部屋から女が飛び出し、鐘木に銃を突きつけた。
「そこまでだ！」隣の部屋の扉の陰から、シューターが飛んできた。シューターは、女の靴のつま先にめり込んだ。反対側からもシューターが飛んできた。女は動けなくなった。
シューターとは、EITOが開発したうろこ形の手裏剣である。先端に痺れ薬が塗ってある。
両側の部屋の陰から、エマージェンシーガールズ姿の、なぎさと馬越が現れた。
あつこは小坂に「逮捕！」と言った。小坂が女に手錠をかけた。あつこは拳銃を取り上げた。
その時、志垣議員が秘書を伴って、現れた。「こんなところにいたのね、はげオヤジ。」と罵りながら、志垣は鐘木の側に来て、異変に気が付いた。
「連絡が行ってませんでしたか？志垣議員。あなたは明日お見えになるはずだった。鐘木議員同様、囮になって頂き、我々が万全の体制でお守りする手はずだったのに。」
「聞いてないわ。」「そりゃあそうよね、言ってないんだもの。」一緒に来た女性秘書の１人が笑いながら言った。
２人の秘書は拳銃を出し、皆を鐘木の部屋に入れた。そして、自分たちも入ろうとした時、伊地知の投げたブーメランが拳銃を落した。
午後５時。伝子のマンション。
「で？」と高遠はスマホの依田に説明を求めた。
「鐘木を襲った女と、志垣の秘書に化けていた女２人は、警官隊が逮捕連行。警視の許可を取って、２人の議員は仲良く鐘木の部屋にいる。元々、それぞれが予約していた日は、デートの日だったらしい。２部屋より１部屋、さ。志垣議員って、何度も不倫で話題になったでしょ。まあ、プライベートだし。もう俺達は関係ないし。ところで、リストの３人は守れたんだから、良かったよ。」
「そうでもないな。今、テレビでやってるニュース、強盗殺人放火事件で映っているのは、リストに載ってた人物だ。明日から、また記者会見に追われるな、理事官は。」
高遠が、ため息をついていると、伝子が帰って来た。
TVのニュースに、伝子はフリーズした。
―完―
