======== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
大文字伝子・・・主人公。翻訳家。EITOアンバサダー。
大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。
愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。巡査部長。
愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。巡査部長。
依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。宅配便ドライバーをしている。
小田慶子・・・やすらぎほのかホテル東京副支配人。依田と交際している。
福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。
福本(鈴木)祥子・・・福本の妻。福本の劇団の看板女優。
物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。モールで喫茶店を経営している。
南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師
南原蘭・・・南原の妹。美容室に勤めている、美容師見習い。
山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。
服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。
久保田(渡辺)あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。警部から昇格。
橘なぎさ二佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。
久保田誠警部補・・・警視庁警部補。あつこの夫。元丸髷署生活安全課刑事。
久保田嘉三管理官・・・久保田警部補の叔父。EITO前司令官。
青山警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。
斉藤理事官・・・EITO理事官。
藤井康子・・・伝子のお隣さん。
大文字綾子・・・伝子の母。介護士。
白藤署長・・・丸髷署署長。みちるの叔父。
松下宗一郎・・・福本の元劇団仲間。
本田幸之助・・・福本の元劇団仲間。
草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
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愛宕邸。庭。トラックの前で依田と福本が話している。
「ヨーダ。下ろし終わったから。松下達にトラック返しに行かせていいかな?」
「いいよ。想像以上に早く終わりそうだな。」「大きな声じゃ言えないが、これが普通だろ?あつこ警視の荷物は桁違いだったから。」「うん。そうだな。」
愛宕邸。1階。
愛宕が祥子、蘭、栞に指示している。
「3階に寝室や衣装室があるので、衣装類は3階にお願いします。」
3人は声を揃えて言った。「衣装室?」「あ。クローゼットです。訂正します。」
「愛宕さん、階段はこっち?」と祥子が尋ねると、「はい。でも、反対側にエレベーターがあるので、それを使って下さい。」「エレベーター?」3人はまた声を揃えて言った。
依田と福本、山城、服部、物部が段ボール箱を持って縁側に次々と運んだ。
「その段ボール箱はほぼ2階なので、恐縮ですが2階まで階段でお願いします。」と愛宕が指示した。
青山警部補が顔を出した。
「こんにちは。愛宕君。何か手伝えることあったら言ってよ。」「すいません。上司を使うの、気が引けるんですが。」「いいから、いいから。」と、青山は言った。
「じゃ、靴箱担当お願いします。庭に靴箱が入った段ボールがあるんですけど、片っ端から放り込んで下さい。順不同で。」
今度は、伝子とあつこがやって来た。
「愛宕。仏壇屋さんが来られたみたいだけど、案内して大丈夫か?」
「あ、先輩。仏間は1階で、縁側から運んで貰って下さい。」
伝子と愛宕は、引き返して仏壇屋を呼びに言った。あつこは「変った家だなあ。」と呟いた。
「ひとのこと言える?俺、2階に男子いるみたいだから手伝いに行ってくるわ。」と、久保田警部補はあつこに言った。
「うん。梱包解くだけでいいと思うわ。」「オッケー。」
伝子と仏壇屋が縁側から仏間に入って行くと、署長がやって来た。
「捗っているかね?」「はい。」と愛宕が仏間から出てきた。
あつこと署長は仏間に入った。仏壇屋が故人の額、つまり、遺影を並べて長押の上に飾った。額の中の四人は、皆制服姿だった。
「4人とも殉職でね。」署長は額に向かって敬礼をした。愛宕とあつこは習って敬礼をした。
丁度降りて来た、久保田警部補、みちる、作業を終えた青山警部補も敬礼をした。
庭にやって来た、なぎさ、増田3尉、江島3尉も自衛隊式の敬礼をした。皆が敬礼を解いた後、伝子は署長に言った。
「殉職だったそうですね。以前、愛宕から少しだけ聞きましたが。」
「人命救助は成功したが、4人は犠牲になった。実は、愛宕と白藤は因縁浅からぬ出会いをした。新しい命は、きっとこの4人が見守ってくれる、と思う。仏壇の入魂式も私は出席する積もりだ。」と署長は言った・
「あのー。」と、表で声がした。愛宕が急いで出て行くと、高遠と慶子だった。
「駐車場、分からなかったけど、BBQだから、庭に駐車していいよね、愛宕さん。」と、高遠は言った。
「勿論。」引っ越しの慰労会は、夜まで続いた。平和なひとときだった。翌日事件が起きるまでは。
翌日。伝子のマンション。
ネットのニュースを見ながら、伝子と高遠は朝食を採っていた。
「昨日深夜。何者かによって、総化学の会本部に爆弾が仕掛けられ、十数人の死傷者が出ている模様です。」
「一律教会かな?」「まさか。総化学の会の方が人数多いんだぞ。」「みちるちゃん達、当分新居に帰れないね。応援で。」「そうだな。」
PCが勝手に起動して、EITOの通信が入った。「大文字君。ニュース見たかね?」理事官が顔を見せた。
「見ました。」「ネットでは、デマが飛び交っている。」「もし、テロだったら。」
「既に総理官邸に犯行声明が入っている。政府与党に入り込んでいる小梅党の支持団体の総化学の会は壊滅すべき運命にある、と。組織名は名乗っていないが、近く日本中の総化学の会会員が反省する時が来る、と。」
「また、爆破ですか?施設はどれぐらいあるんですか?」「各都道府県の3倍以上あるな。防ぎきれない。」「じゃあ、要人警護しかないですね。」
「取り敢えず、明日全国総会が開かれる。警察は中止を求めたが、聞きゃあしない。」
「場所は?」「旧舞踏館だ。」「オムレツ型のやつですか?」「大文字君。ジョークが冴えているね。」
翌日。正午。
伝子は、なぎさ、あつこ、みちると共に副総監が手配したSPチームと、陸将が手配したSPチームと合流、旧舞踏館各所で暴漢出現に備えて目を光らしていた。
午後2時25分。総化学の会の総会は閉会した。
伝子のスマホのバイブが振動した。
「大文字君。やられたよ。総理私邸の方で爆発した。そちらは陽動作戦だったんだ。」とLinenで久保田管理官が言っていた。
伝子の耳のイヤホンから、SPの総隊長が同じ内容を伝えていた。
午後3時半。総化学の会の幹部会員達は全員帰途に就いた。
午後4時半。伝子のマンション。「じゃ、爆破があったのは、総会を終了する、と議長が言った直後だった、ということですか?」と、伝子は画面の理事官に言った。
「録画された総会の画像と、爆破の音を聞いた警備員の報告を重ねると、ね。」と、草薙が言った。「時限爆弾じゃなかったんですね。」と高遠が言った。
「会場から遠隔操作というよりは、会場にいた人物が仲間に合図を送ったと考えるべきですね。」とため息をつく草薙に「連中は何がしたいんだ?」と伝子は呟いた。
「大胆な推理かもしれんが・・・。」と理事官が言った。
「政府転覆、とまではいかんが、政府の機能不全。この間の一律教会の関連組織も今回の総化学の会Bも『駒』かも知れん。お互いを潰し合おうとはしているがな。念のため国会議事堂と総理官邸を人海戦術で不審物発見に努めるように、と副総監から指示が出ている。君たちは、取り敢えず待機だ。」
PCの画面が自動的に消えると、伝子は言った。「お前達の意見を聞こう。」
高遠は、なぎさ、あつこ、みちるにお茶を配った。今夜はこの3人しか来ていない。
「旧舞踏館は事前に不審物を置ける場所をチェックしていた。入館時に念入りに入館チェックをした。この時にスマホを取り上げるべきだったかも。」「会長が断ったからよ。グルかな?」とあつことみちるが意見を言った。
「なぎさはどう思う?」と言う伝子に「暴漢が、てっきりどこかから侵入するものと思っていたわ。会員に紛れている可能性もあったけど。」
「私は、そっちの可能性の方が高いと思っていた。が、違った。」
「理事官の推理が正しい、とすると、やはり総理が狙われているのかも。以前、総理秘書が暗殺事件に関与してましたよね。」と高遠が言った。
「あつこ。総理官邸にはSPが常駐しているんだろ?次に総理とSPが動くのは?」と言う伝子に、「明日の記者会見ね。」
その時、チャイムが鳴った。本庄弁護士だった。池上葉子もいた。高遠は驚いた。「本庄弁護士。池上先生も。」
「斉藤理事官に頼まれてね。官邸に紛れ込むのはマスコミ記者か、弁護士か医者がいいだろう、と。」と池上葉子は楽しそうに言った。
「つまり、お二人にくっついて、ウチのワンダーウーマン達が潜り込むってことですね。」「正解よ、高遠さん。」と本庄弁護士が言った。
翌日。午前10時。総理官邸。
記者会見に応じる、志田総理。SP達が総理の背後に構えている。「えー。昨日私邸の方で、爆発物が爆破されました。私は幸い留守で、難を逃れましたが・・・。」
記者達の一団から少し離れて伝子達は様子を伺っている。突然、どこからか爆竹の音がした。
記者やカメラマン達は、我先に入り口に殺到した。すぐにSP達は総理を囲みながら、移動した。池上医師も随行した。
本庄弁護士は、記者会見場前に設置されたサボテンの鉢植えに向かった。「これだわ。」
あつこが手袋をし、テープレコーダーを取り出した。「時限装置がないな。」となぎさが言ったが、「いや、テープレコーダーのテープが時限装置だ。多分、今音がした前後は『無音』の録音だな。」と伝子が言った。
久保田管理官が現れた。「皆、無事か?」
「これですよ、管理官。」とあつこがテープレコーダーを管理官に渡した。「恐らく、指紋は出ないだろうな。」
そう言った管理官のスマホが鳴った。電話を切った管理官は悄然として言った。
「やられた。総化学の会の副会長が殺された。刺殺だ。目撃者は今のところ、いない。」
正午。警視庁で記者会見する久保田管理官。
「ですから、総理が狙われていると情報があり、全力で総理をお守りしたので。総化学の会副会長の事件との関連は今のところ、分かりません。昨日の総化学の会総会の犯行予告は実行されませんでした。寧ろ、こちらとの関連が強いと考えて鋭意操作中です。捜査に進展がありましたら、発表いたします。」
午後2時。伝子のマンション。
蕎麦を食べながら、5人はPCの画面を見ている。
「正直言って、総理側を守った方がいいのか、総化学の会側を守った方がいいのか、分からなくなった。総理側には、記者会見をリモートで行うように、総化学の会には幹部の単独行動は控えて欲しい、と副総監の名前で打診した。」
「まるで、真綿で首を絞めるような攻め方だ。リーダーはかなり知恵者だな。」と、なぎさは言った。
「総理側はともかく、総化学の会側は幹部が多すぎるわ。」とみちるが言った。
「人数が多いってことは、出ないルールを守らない人間が一人や二人いてもおかしくないよね。」と高遠が言った。
「そうだ。それだ。」伝子はEITO用のPCを起動した。草薙が出た。
「何です、アンバサダー。今日は蕎麦か。あれ?メンバーの割に多くないですか?」「草薙さんも食うかい?画面越しに。」「笑えないなあ。」「みんな、育ち盛りなんだよ。それより、草薙さん、頼みがある。総化学の会幹部で単独行動しそうな人物をピックアップして欲しい。副会長が刺殺されても平気な幹部だ。幹部全員は無理でも、それなら警護出来る。」「了解。」
午後4時。
伝子達は、煎餅を食べてくつろいでいた。EITO用のPCが起動した。画面には草彅が映っている。「あ。また食べてる。」「おやつよ。食べる?」とみちるが言った。
「意地悪だなあ。」「草彅さん、進展は?」と伝子が尋ねた。
「単独行動やりそうな、中幹部が6人いました。大幹部は自分でSP雇うだろうから、リスクが低いものと判断しました。尚、小幹部が総会に出ることはないそうですから、論外ですし。6人は、伊丹新之助、板橋区、真壁一郎、新宿区、越後英二、渋谷区、船越清、池袋区、新屋仁、目白区、赤坂恵子、大田区。以上です。」
「あつこ、応援を呼んで、チーム編成をしてくれ。敵は今夜決行する可能性が高い。」
「了解、おねえさま。」
午後7時。板橋区。
伊丹が銭湯から出てくる。伊丹は身を交わしたが、着物の袖が切れた。更に襲いかかろうとする暴漢に突進して、暴漢が持っていたナイフを落として、暴漢の首を絞めて気絶させた女性がいた。江島きよみ3等空尉だった。
「危なかったな、伊丹さん。」「ああ、助かったよ。あんた、何者だ。」「正義の味方かな?」「本部から外出禁止って言われた筈だが。」
「ああ。あんまり上からの命令聞くの好きじゃ無いんだ。元々ヤクザだし。」「ヤクザは銭湯入れないんじゃないのか?」「ん?ああ、『くりからもんもん』かい?俺の入れ墨は小さかったからレーザーで焼き切って貰った。銭湯で変な目で見る奴がいたら、昔火事で火傷を負ったって作り話してやる。今夜もいたよ。だから、作り話に同情して「『大変でしたねえ』なんて言われた。」
「とにかく、当面は1人で出歩かないで欲しい。私がSPを依頼されたのは、この瞬間だけだしな。」「そうか。あ、そうだ。ねえちゃん。いや、首にロザリオみたいなのを下げていないか?」
きよみは調べてみた。「確かに。」「一律教会は、元々がキリスト教系だから、そんなのを身に着ける。どう見ても、百均で売っていそうなロザリオ、30万円するそうだ。」
「素朴な疑問だが、一律教会は何故、あんたら狙う?憎み合っているのか?」「総化学の会は小梅党にくっついてるだろ?小梅党が一律教会を選べば与党にくっつける。利権だよ。うまみって言うのかな?」「しかし、何故今なんだ?」「さあな。」
きよみは回収班にウォーキートーキーで連絡した。「確保した。どうぞ。」「了解しました。」
同じく午後7時。新宿区。
真壁はバーの梯子をしていた。真壁は区会議員で、事務所の者達と飲み歩いていたのだ。突然、事務所の者が若者に絡まれた。肩が触れあったとかどうとか因縁をつけられたのだ。真壁が傍観していると、路地から飛び出した男に襲いかかられたのだが、ある女性がハンドバッグを盾にして庇った。ナイフが転がった。それを見た若者は一目散に逃げ出した。
「ありがとう。助かったよ。」「本部の方から出歩かないようにと言ってきませんでしたか?」「一人じゃないから、いいかな?って思ってね。」「お供の方にSP経験者は?」「いない。」「当面は出歩かないで下さい。」「いくらだ?」「いりません。私の警護はもう終わりました。」増田3尉は蔑んだ目で見返した。
同じく午後7時。渋谷区。
越後は、新しくできた劇場の『こけら落とし』公演を見た帰りだった。越後を目指して走って来る若者がいた。ナイフを持っている。ある女性が違う方向から走って来て、そのナイフを叩き落とした。OL風の格好をしたみちるだった。みちろは若者を平手打ちしてから、背負い投げをした。
「確保!」とウォーキートーキーに向かって言った後、今度は越後に平手打ちをした。
「帰っておとなしくしていなさい。命が惜しくないのか?」と、みちるは凄んだ。
同じく午後7時。池袋区。
船越は、新しく出来た『晴れた池袋』の周辺を撮影していた。「カメラマンさんですか?沢山、撮るんですね。」と言いながら、ナイフをかざした男の手を捻って、お大外刈りをかけた女性がいた。そして、袈裟固めで男を落とした。
「船越さん。お仕事ご苦労様。でも、今日は中止よ。大人しく帰って。」そして、ウォーキートーキーで連絡をした。「確保!」とあつこは叫んだ。
同じく午後7時。目白区。
新屋はお不動さんにお参りしていた。「テレビ局の者ですが」とマイクを持った男が近づいて来た。背後から、その男を羽交い締めにした女性がいた。
「マイクの下側に持っている物は何だ?」橘なぎさは言った。「何だ、お前は?」
「通りすがりのSPだ。」なぎさは、男を大外刈りで倒し、ウォーキートーキーに向かって言った。「確保!」
「あなたは、私のSP?」「今だけ特別のね。素朴な愚問ですが、新興宗教の方でも、お不動産にお参りするんですか?」「母に頼まれましてね。代理です。取りあえず、ありがとう。」すぐに警官隊が駆けつけ、賊を連行して行った。なぎさは黙って見送った。
同じく午後7時。大田区。
赤坂恵子はホテルで同窓会に出席していた。
「久しぶりねえ。」と近寄って来た女性に恵子は違和感を覚えた。よく見ると、名札を着けていない。女性はハンドバッグからナイフを取り出した。すかさず、近くにいた女給仕の一人がナイフを叩き落とし、ハンドバッグも叩き落とし、ヘッドロックで女性を落とした。警官隊を呼ぼうとしたが、急いで逃げ出した男を認めて、追った。
男は屋上で待ち構えていた。
「お前がワンダーウーマンこと大文字伝子か。何故って顔をしているな。」「お前が『死の商人』か。」「流石だな。いいことを教えてやる。だから、ここは見逃せ。阿倍野元総理の命を奪った、陸自空自と元自衛隊員のグループがいたな。あの指令を出したのは、俺だ。彼らは実践訓練が未熟で、俺がサポートをした。」
少し考えて伝子は尋ねた。「阿倍野元総理の暗殺はスナイパー説があったが、お前がそのスナイパーか。」「そうかも知れんな。」
「姿前総理や現在の志田総理の身内を狙わせた秘書達の黒幕もお前か。」「鋭いね。」
「で、今度は一律教会と総化学の会の潰し合いか。何かの陽動作戦か。」
死の商人は皮肉な笑い方をして、「ますます鋭いね。一つだけヒントをやろう。野党は何故外国人が土地を買うことを嫌う?」
伝子が考え込んでいると、「そろそろお目覚めじゃないかな?ヘッドロックも長くはもたないだろう。」「大事の前の小事か。いいだろう。しかし、何故敵に塩を送る?」
「再会した時に話すよ。」伝子は踵を返して、同窓会会場に戻った。
青山警部補が警官隊に賊を連行させていた。「大丈夫ですか。連絡が無かったので、動きましたが。」「助かりました。ここから逃げる男の方を追いました。黒幕でした。」
「黒幕?」「詳しいことは後で。」
午後9時。伝子のマンション。
2台のPCの画面が起動していた。なぎさ、あつこ、みちる、増田3尉、江島3尉、高遠、伝子が画面に向かっていた。
「死の商人、って名乗ったのだね、大文字君。」と久保田管理官が言った。「残念ながら逃がしてしまいましたが。」「やむを得んだろう。」
「実は、先日、筒井からメールが届いたんです、『全ての事件に死の商人が絡んでいる』と。」
「那珂国系マフィァか。何故外国人に土地を売らせない法律に野党が反対するか?奴らは既に秘密裏に色んな土地を買収している。一番困るのは自衛隊駐屯地近くの空き家の買収だった。それは陸自とEITOで手を打ってある。大文字君。君の推理を聞こうか。」、と理事官が伝子に尋ねた。
「2つの新興宗教の争いは、奴が資金提供をした上でけしかけたんでしょう。陽動作戦の一つであることは、奴も認めています。那珂国マフィアが、いや、バックには中央政府そのものが存在する大規模な作戦は、戦争、いや、日本への侵攻じゃないでしょうか?」
「なるほど。失敗に終わったら『一部の反乱分子が』という言い訳を用意した上、か。EITO自衛隊警察の共同作戦だ。早速、EITOと自衛隊の会議を行う。久保田君、そっちは頼む。」
「了解しました。」通信が終わってしまいそうなので、伝子は慌てて「先日の通信障害事件も考慮して下さい。」と言った。
「ヨーヨーモバイルの通信障害事件ですね。それは、解決済みです、アンバサダー。副総監が3社に協力要請をしていて、有事の際には30分以内に3社協同の通信システムイチゴJapanに切り替わります。」と草薙が応えた。
PCの画面が消えると、「大雑把に言っておく。明日午前9時下の内教会跡の一律教会の施設に行く。集会に総化学の会Bが殴り込みをかける、という情報が入っている。」と伝子が言った。
「まるで反社の闘争ですね。」「うん。双方共に操られているから、なるべく早く平定しよう。多分同時攻撃で那珂国が日本に攻めてくる。我々は平定までだ。勿論、警官隊がバックアップする。」
玄関のドアが開き、藤井の陽気な声が響いた。「お腹空いたでしょ。ラーメンよ。おにぎりも沢山あるから。お夜食欲しい人は食べて。」そう言って藤井はラーメンを運んで来たが、「よし、バケツリレーだ。」と伝子が号令をかけると、5人は即座にバケツリレーの体勢に入った。
後から運ぼうとした綾子と高遠は、近距離移動しただけだった。藤井と綾子は。おにぎりも沢山運んだ。
「いつも済みません、藤井さん。母さんも。」「今回は久保田管理官がお願いしたそうですよ、伝子さん。」
「腹が減っては戦ができぬ、ってね。」と藤井が言い、綾子は「今日、藤井さんの所で昔話でもしながら寝るわ、伝子。」「済まない。」
藤井と綾子が帰ると、高遠は、端や水、調味料などを配った。
食べながら、伝子は「寝場所だがな。」といいかけた。「私は、寝具は不要です。慣れていますので。」と増田3尉は言った。江島3尉も同調した。「私もです。」
「こら、先回りするな。自衛隊組は奥の部屋を使え。みちるとあつこは私の横に侍らせてやる。うっしっし。」皆、笑わなかった。
「高遠さんは?」となぎさが言うと、「ソファーだな。慣れているよな、学。」
「はい。色んな意味で。」皆、不思議そうな顔をした。
翌日。午前8時半。
迎えに来たオスプレイに6人は台所の出入り口から乗っていった。
「行ってらっしゃい。」と高遠は見送った。
午前9時。下の内教会。
闘争はもう始まっていた。6人のワンダーウーマンと警官隊は、総勢200人はいるかと思われる大きな部屋で、誰彼構わず倒して行った。机や椅子などは初めから無かったようだ。
突然、大きな地響きが届いた。伝子のPHSが鳴った。久保田管理官だった。
「やられた。Aparco渋谷店が。ミサイルを落とされた。予想通りの通信障害は始まったが、これは想定外だ。」
伝子は演壇に走り、ホイッスルを慣らした。「止めろ!あんたらは嵌められたんだ。スマホを持っている人は電話をしてみろ。通じない筈だ。」
皆は、あっけにとられていたが、スマホで電話をしようとしたが、通じない。皆、首を捻った。
「どういうことだ、ワンダーウーマン。説明してくれ。俺は総化学の会の伊丹だ。」と進み出た男が言った。
「俺も聞きたい。一律教会の亀山だ。何を知っている、ワンダーウーマン。今、嵌められた、と言ったな。」
「あんたらは、『死の商人』の使いのスパイにお互いを憎むように仕向けられた。お互いを潰し合うように仕組まれたんだ。今なら微罪で済む。投降してくれ。あの地響きはAparco渋谷店にミサイルが落ちた音だ。」
「適当なことを言うな。」と亀山が吠えた。「大体、何であんたは通信出来る?」
「これはPHS、ピッチだ。通信障害が予測されたから、我々は他の手段で対処している。」と伝子が応えた。
「ウォーキートーキーもか。」「そうだ。通信障害は30分で収まる。正確に言うと、3社協同システムに自動的に切り替わる。但し、本来のシステムが回復すると、元のキャリアのシステムに戻る。皆、3日ほど通信障害があったことを覚えているだろう。あれは、予行演習だった。今が本番だ。奴らは日本のシステムを舐めすぎている。」
「奴らって誰?」亀山が訪ねた。「那珂国だ。攻めたのは、Aparco渋谷店だけかどうかは分からないが、あんたらを闘わせたのは、後の為の布石だろう。」「後のって?」と今度は伊丹が伝子に尋ねた。
「日本侵略だ。あらゆる手段で同時攻撃をしたんだ。多分、仙石諸島も領海侵犯する筈だ。」
「ちっきしょう!」自棄になった一律教会のメンバーが銃を撃った。伊丹にむかったので、江島3尉が庇った。銃は江島の左肩に姦通した。すぐに機関隊が男を取り押さえ、連行していった。両団体の会員も順次逮捕連行して行った。「参ったな。」と救い起こした伊丹に言った。伊丹は止血の為、江島の頭巾を脱がせ、肩に巻いた。
「あんただったのか、SPさん。」「あんたを守るって言っただろ?」「ああ。ああ。ありがとよ。今度はあんたが助かる番だ。」「いや、助からない。」
「しっかりしろ!」という伝子の声に「おねえさま。って私も呼んでいいですか?」と、江島は弱々しい声で言った。」「勿論だ、私の妹よ。きよみ。」
「嬉しい。」江島きよみは息絶えた。伝子は伊丹に頷き、江島きよみを受け取り、お姫様抱っこをした。「オスプレイは?」と伝子がなぎさに尋ねると、なぎさは「外で待っています。」と短く応えた。
伊丹は久保田警部補に連行される途中、「旦那、頼みがあるんだが。」と言った。
「どれだけでシャバに出れるか分からないが、更生して宗教にも逃げない、って、あのワンダーウーマンに伝えてくれないか。」「了解した。任せておけ。」と、久保田警部補は優しく応えた。
翌々日。自衛隊とEITO合同葬が、芝公園の増上寺で行われた。
伝子と高遠は、身寄りの無い江島1尉の身内代わりにと請われて出席した。
途中、空に爆音がした。伝子と高遠が見上げると、ブルーインパルスだった。自衛隊員達は敬礼をした。空は雲一つ無い青空だった。
―完―