ハロウィーンの仮装でしか見ないような黒いフードを深くかぶった魔術師みたいな人がぼそぼそと何か呟いたら、ぱたりと現代の記憶がなくなった。
 代わりにあったのはここで18年間『リーディア』として過ごしたという『偽りの記憶』。
 侯爵家の生まれも、王妃とのお茶会も、エリク様との出会いも、そしてあの墓石に誓った婚約も嘘……。

 そうか、私は何者かに現代から異世界であるここに転移させられ、偽りの記憶を埋め込まれて「わたくし」になって一年を過ごしたんだ──


 すると、トントンと部屋のドアをノックする音が聞こえ、私はびくりと肩を揺らして驚く。

「リーディア様。 ディナーのお時間です」
「え、ええ。今からいきますわ」

 思っているよりも長い時間考え込んでいたようですでに外は夕方を過ぎて薄暗くなっていた。
 世話役のメイドが私にいつものようにディナーの時間を知らせると、私は部屋のドアを開けに向かう途中で足を止める。

(ディナーってことは王妃様とエリク様がいる。この二人が偽りの記憶を植え付けた犯人?)