一人で抱え込む癖のあるユリエの心配をして、ユリウスは国王に隣国に兵を送る要請をしに執務室へ向かった。



「ならん」
「なぜですっ?!」
「ユリエが誘拐された可能性があるとしても証拠は現時点ではない。それで兵は動かせない」
「く……っ!」

 証拠がない以上不用意に隣国に兵を送ったり、交渉ができないことを告げられると、ユリウスは歯がゆい気持ちで拳を握り締める。

(すぐに助けにいけないなんて……)

 ユリウスはその足で裏庭にある『聖樹サクラ』の木のもとへと向かった──



 聖樹に手をあてて目をつぶり、ユリエとの言葉を思い出す。


『その、恥ずかしいのですが、ホームシックになっていたようでして』

『私は帰れるのだろうか、って』


(あなたはまた寂しい思いをしているのではありませんか?)

 ユリウスはユリエの悲しい顔、そして笑顔を思い出す。
 そして心の中で誓う。


(もう二度とあなたを悲しませない。もう二度と帰れないと寂しい思いをさせない)

 ユリウスは聖樹に誓ってそして背を向けて歩き出した。