「その呼び方はやめてください。僕はその、もう坊ちゃんではなく一人の男だ」
「あっ! なんかその雰囲気いいですね」
「え?」
「なんというか、いつも敬語だったのでなんとなく距離があったんです」
「けいご?」
「あー、えっと。丁寧でその気を遣われているといいますか……」
「ふふ」

 ユリウス様はいつもよりなんだか砕けた表情で私を見つめて言う。

「わかった。君はもう婚約者だからね。どうだい? 僕をもっと意識してくれるかい?」
「──っ!」

 急に大人の男といった感じの雰囲気や色気が漂って、私の頬が熱くなるのを感じる。

「効果あったみたいだね」
「破壊力抜群です……」
「あはは」

 そうしてお皿に乗ったドーナツのような丸い穴が開いたケーキを食べる。

「これ、うちの母もよく作ってくれたんですけど、なんていう名前ですか?」
「これかい? バーボフカだよ」
「ばーぼふか?」
「この国でよく作られているお菓子なんだ」
「美味しいですね! うちの母のはもう少し甘さ控えめでした」
「そうか、私も母上も甘さ控えめのが好きでね、よくメイド長に作ってもらっていたんだ」