「おや、リーディア。よくご存じですね、聖女様だからでしょうか」

 彼女はやはり物知りなのでしょう。
 まさか聖樹のことまで知っているとは、聖女の力なのか、それとも……。

「どうしましたか、リーディア」
「いえ、ユリウス様。その、恥ずかしいのですが、ホームシックになっていたようでして」
「ほーむしっく?」
「家や母が恋しくなったのです。記憶を取り戻してもうすぐ一ヶ月。私は帰れるのだろうか、って」

 やはり、家が恋しいのですね。
 私も母を失った時とてつもない喪失感に襲われました。
 私は近くにいたじいじやアルベルトがいたから乗り越えられましたが、彼女には今頼る者が一人もいない。それなら……。


 私は優しく彼女を抱きしめました。

「あなたは一人でよく耐えています。よくここまで我慢しましたね」

 彼女の涙をそっと拭っても溢れ出るその雫を今の私には止めることができない。
 傍にいたいのにいられない。
 どうしてこんなに辛いのでしょうか。
 彼女が辛い時に支えてあげられない。
 今の私にできるのはそっと優しく抱きしめるだけ。

 もう少しの辛抱です。