ありがたくもらったコーヒーを飲むと、私仕様にちょっとだけシロップが入っているのがわかる。
 お母さんはもっと甘いのが好きだから、私に合わせてくれたのね。

「綺麗ね」
「うん、静かだし。久々かも、お花見なんて。……3年ぶりくらいじゃない?」
「もっとよ。あんたいっつも高校の時はまきちゃんと遊んでばっかりだったもん」
「そっか……」

 確かに言われれば毎日学校で会っているのに、春休みも土日もいつもまきちゃんと遊んでた。
 一昨日も遊んだばかりだし、やっぱり気が合う友達と遊ぶのは楽しい。

「こんな町が見晴らせる丘で桜って、意外と名所になりそうなのに」
「そうね……」

 少しだけ曇った表情でお母さんはずーっと向こうの方を見ていた。
 そうしてじっと景色と心地よさに浸っていたら、お母さんが口を開く。

「思い出すわね」
「え?」
「昔のこと」
「なに? お母さんの学生の時とか!?」

 私はあんまり聞いたことがないお母さんの昔話に興味津々でつい身を乗り出してしまう。
 そうやって見たお母さんの表情はなんだか悲しそう。