手を合わせてお箸をまずはお浸しに向ける。
 しょっぱめの味付けは本当に久々で舌がびっくり。
 でも、少し後にはもうその味に馴染んでいて、やっぱり細胞レベルで親しんでいるんだな、なんて思う。

 卵焼きは少し甘め。
 でも、本当はお母さんはしょっぱめが好き。
 きっと私に合わせて作ってくれてて、それが嬉しくてたまらない。

 どれもみんな懐かしくて、私はお母さんのあたたかみを感じる。
 ああ、これだ。
 やっぱりこの味も、この家も、それに……。

「お母さん」
「なあに?」
「ありがとう」

 やっぱり、私はお母さんが大好きだ──




 現代での生活はいつの間にか一週間経っていた。
 お母さんの買い物に付き合って、でも、学校はなくてみんなに会えなくて。
 家でテレビをみて笑ったり、足を延ばしてくつろいだり。

 ふふ、こんな姿見られたら、はしたないって怒られちゃう。
 そんな風に思った時に、ふと彼の笑顔がよみがえる。

『大丈夫、私はいつでもユリエの心にいる。傍にいるから』

「ユリウス様……」

 思わず呟いたその言葉は、キッチンにいる母には聞こえていなかった。

「──っ!」