泣くつもりはなかったのに、心配な気持ちと今まで抑えていた不安が混じって雫として流れ落ちる。
 まるで母に会いたくてたまらない子供のように泣いて、そうして私はそっと抱きしめられた。
 背中をポンポンとあやしてくれる彼は、なんだか母の手のように優しく、そして愛しさが込められている。

「ああ……ふえ……ユリウス、さ……ま……母に……母に……!」
「会いに行くといい。この世界に戻ることも全て忘れて、まずは帰ってお母上に会っておいで」
「でも、でも……」

 私を慰めながらそっと身体を離すと、私の頬に手を添える。
 そうしてその手は頭の上に移動して、壊れ物を扱うほどに優しく、優しくなでた。

「大丈夫、私はいつでもユリエの心にいる。傍にいるから」
「ユリウス様……」

 寂しい思いを感じていた私に安心させるように笑顔を見せてくれる。
 彼の傍から離れたくないほど、もう私は彼が好きでたまらない。
 だけど……。

「ユリウス様、私は……行きます」
「ああ」

 私は戻りたい。
 元の世界に、そして母の元に──

 手に持っていた小瓶の蓋を開けて、じっと見つめる。