【完結】王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~

 私はスープをそっと手前からすくうと、そのまま口元へと運んで飲み込んだ。

(この二人を怪しむ理由は最も私に近い存在だから。彼らが犯人だとしたら、現代から来た私と普通に接しているのも説明がつくし、彼らが犯人でない場合18年間の婚約生活の説明がつかない。ただ、私と同じように魔術師に記憶を改ざんされている被害者の可能性もまだ否定できない)

「そういえば、リーディアちゃん。エリクは優しくしてるかしら?」
「ええ、とても優しくしていただいております。先ほどもオルゴールという素敵なものをいただきまして」
「まあっ! あれいいわよね! わたくしもエリクに見せていただいたときはなんて美しい音色かしらと感心したわ」
「とても上品で王妃様の好みに合いそうでしたわ」
「エリク、今度わたくしにもいただけるかしら?」
「今度手に入ったらお渡ししますよ」
「待っているわ」

 私はそっとメインのお肉にナイフを入れると、口に運ぶ。
 なんて美味しいんだろうかと現代の生活を思い出したからこそ肉の質の違いがわかってしまうこの悲しさ……。

 しっかりとデザートまで堪能して口を布で拭うと、二人に続いてディナーの席を立った。
 相変わらずなんか落ち着かない廊下だな~と豪華絢爛に飾られた絵画の数々を眺めながら自室に戻って歩く。
 廊下だけで何メートル走できるんだろう、なんてことを思いながら自分の部屋のドアを開けた。


「あ~疲れたあ~」

 ようやく緊張から解放されたという安心感からリーディア人格ではありえないほどのだらしない言葉が部屋に響き渡った。
 ベッドに身体を預けると、そっと目を閉じながら考え始める。

(今の段階では王妃様とエリク様が怪しいのは確かだけれど、彼らだけで記憶を操作したのなら他の使用人や王宮で会う人々もわかるはず。まさか、全員グル? そんなことは……いやありえるか。私に会う人はいつも同じ世話役メイド、宰相、騎士団長。外の人にもあったことないし、せいぜい10人もいない)

 ベッド脇のテーブルにあったコップに水を注いでそれをごくりと飲み干すと、顎に手を当てて考えてみる。

(どこから確かめる?)

 そう考えて、頭の中に容疑者を思い浮かべるとその中で最もボロが出そうな性格をしている人物にたどり着いた。

(やはりここはいつも話しているメイドのリアか)

 メイドに最初の探りを入れることを決めた私は、そっとベッドの中で目を閉じて眠った──




【ちょっと一言コーナー】
今日のディナーのスープはコーンスープだったそうですよ。
お肉はもちろんビーフ!


【次回予告】
私の記憶がよみがえったユリエ。
誰が敵でだれが味方かわからない彼女はメイドから少しずつ切り崩していくことに。
そして新たな事実も判明して……!
次回、『第3話 調査』
 翌朝、朝の支度のために世話役メイドであるリアが部屋に入って来る。
 リアは椅子に座る私の髪を梳きながらいつものように「リーディア様の御髪はきれいですね~」と呟く。
 私が昨日から「ただのわたくし」ではなくなったことに彼女は気づいていない。
 私は早速探りをいれるために、リアに声をかける。

「王妃様ってどんな方なのかしら?」
「え?」
「いえ、いつも何をされていらっしゃるのかなと」
「え、えっと。その……」

(口ごもった)

 私はその瞬間を見逃さず、そのまま話を続ける。

「王妃様もおしとやかな方だから、きっとお花を愛でたり昔みたいにお茶を楽しんでいらっしゃるのよね」
「え、ええ! そうですわね、そうとお聞きしております」

 リアは確か王妃様のもとへも通っていたはずなのに、この落ち着きのなさ、慌て具合、そして「そうとお聞きしています」という他人事のような言葉。

(そうか、リアもグルなのか)

 私は少しがっかりしたように一瞬唇を噛みしめるが、すぐにいつもの笑顔で「ありがとう」とリアに伝えて部屋を後にした。



◇◆◇



 あれから周りに気を巡らせて観察していると、私は「なぜか」行ったことがない場所がいくつか存在していることに気づき、その一つである王宮書庫室へと向かった。

「おや、あなた様がいらっしゃるのは珍しい」
「少し調べたいものがありまして」
「元王妃様の代から仕えているこのような私のところにいらっしゃるなど王妃様に叱られますよ」

(元王妃様……? ──っ! なるほど、今の王妃様はいわゆる後妻か。つまり、このような口ぶりをすると、王妃様にあまりいい感情を持っていない。それにもう一つわかった。この王宮には派閥がある。王妃様側と元王妃様側の人間)

 私はしばらく考え込んでしまったようで、目の前にいる書庫室の管理人のような人物に心配された。

「大丈夫ですか? 具合でもよろしくないのでしょうか?」
「いえ、少しめまいがしただけです」
「それは大変だ、こちらにお座りくださいっ!」

 そう言って管理人は私に椅子に座るよう促す。
 少し落ち着いたふりをして目の前にいる管理人にいくつか質問をしてみることにした。

「あなた様はこちらの書庫室に来て長いのですか?」
「元王妃様の代からですから二十年ほどになりますでしょうか。書庫室長を任されたのは元王妃様が亡くなる一年ほど前です」

(元王妃様はすでに亡くなっている……。すると、もしやユリウス様は元王妃様の息子か? そしてエリク様が現王妃様の息子。だから二人はユリウス様を冷遇している?)

「いろいろ教えてくださりありがとうございます。いくつか本を見させていただいてもよろしいでしょうか」
「もちろんです。ごゆっくりご覧ください」

(王妃様とエリク様は今日外出の予定。風邪でしばらく部屋には入らないでほしいとリアには言ってあるから少し時間は稼げるはず)

 私は急ぎ足で王宮の歴史をまとめた本やこの国についての書物を片っ端から探し、ざっと目を通すことにした。



 ──書庫室の本を漁り、いくつかわかったことがいくつかあった。

 もともとこの国は聖女の力で繁栄した国であり、初代国王の妃がその聖女だった。
 そして聖女はこの国の生まれや育ちではなく、どこか異世界の人間であり召喚によってその聖女はやってきたのだという。
 つまり、この国では「聖女」は特別な存在でありその聖女は転移によって来ている可能性が高い。

 そしてもう一つ、記録書によれば現王妃はただの後妻ではなく、もともとは王の第二夫人の立場であった。
 亡くなってる元王妃は今から19年前にユリウス様を出産した後すぐに亡くなっている。

「要するに正当な後継ぎが誰であるか、王位継承権の順位をエリク様、ユリウス様で争っている可能性が高い」

 書庫室の分厚い本を抱えるのがしんどくなった私はそっと元あった場所に戻して階段を降りる。
 すると、窓から見える裏庭のほうで若い男性とユリウス様が剣の稽古をしているのが見えた。
 ユリウス様のその動きは素人目で見てもすごいことがわかる。

 そういえば、エリク様は「王子に剣は必要ない」って前に言ってたな。
 あまりにも対照的すぎて、思わずユリウス様のほうが次期国王に向いている、慕われるのかな?なんてふと思ってしまった。

 そしてこの数日後、事態は大きく動いていくことになる──



【ちょっと一言コーナー】
リーディアことゆりえちゃんの髪は腰まであるストレートヘア。
パーマをかけようとしてもすぐに戻っちゃうくらいサラサラなんだそう。
羨ましい・・・


【次回予告】
王宮書庫室での新たな出会いはユリエにとって大きな成果となった。
そして、新たな人物も登場して。
その人は敵なのか、味方なのか、果たして?
次回、『第4話 一杯の紅茶とメッセージ』
 ある日の午後、私はいつものように自室でアフタヌーンティーをして一息ついていた。
 手慣れた手つきでリアが給仕をしていると、執事の身なりをした見慣れないご年配の方がそっと部屋に入ってきた。

「執事長っ!」

 リアが驚いた声をあげてその執事の元へと向かう。

「本日はわたくしが王妃様の命で紅茶の準備をしにまいりました」
「……王妃様のご命令ですか」

 そんなことは聞いていないといった様子でリアは顔をしかめながら執事長とやり取りをする。

「はい、聖女様に極上の一杯を召し上がってほしいと」
「わかりました、お願いします」

 リアはしぶしぶ納得した様子で道を開けると、執事長という方が私のもとへと歩み寄ってくる。

(執事長? 初めて見る顔。それに聖女様? なんのことだ?)

 そう考えているうちに執事長はメイドに背を向けながらソーサーの下に何か手紙を挟んできた。

(──? 手紙? 『あなたは第一王子を愛していますか? YESならため息をひとつ。NOならあくびをひとつ』? 第一王子……? まさか……)

 この違和感には覚えがあった。