私は止めた足を再び動かしてドアを開けると、何事もなかったかのようにメイドに笑顔を振りまきいてダイニングへと向かい始める。

(要するに周りの人間は誰が敵か、誰が味方かわからない。ひとまず記憶が戻ったことは隠しながら見極めるしかない)

 いつもなんてことない廊下が今日はやけに短く感じた──


 ダイニングに到着してディナーの席に座ると、テーブルの奥には王妃様がいて私の隣にエリク様がいる。
 私はいつものように前菜のテリーヌにゆっくりとナイフを入れると、この一年で培ったテーブルマナーを使って上品に食べ始めた。

「今日は皆揃ってよかったわ」
「ああ、母上。こうして三人揃うのも久々だからね」
「それはあなたが公務公務と忙しいからでしょう?」
「実際に忙しいのだから仕方ありませんよ。王は床に伏せられていますし」

(そう、王は床に伏せっているということはずっと言われ続けていた。しかし、私は一度もその姿を拝見したことがない。床に伏せっている理由も知らない)

 メイドが私の飲み干したグラスに水を注いで、さっと後ろに下がる。

(それに私はこの”二人”のことを最も怪しんでいる)