ぼくらは『白峰温泉総湯』の駐車場で待った。40分経って、リサ先輩が下りてきた。
 「どうでした?」
 「あいつ、みごとにはまったよ。あさひ、あんたのシナリオ、めちゃくちゃよかったよ! あさひの作戦勝ちだよ!」
 「じゃ、わたしたち帰ろうかー」
 「待ってなくてだいじょうぶでしょうか? トシキさんの車にちゃんと乗って帰れるでしょうか。2人だけで」
 「だいじょうぶ。もう、これからはトシキの前で吐いてもいいんだよ、っていったら、ぎゃんぎゃん泣いてたから。まったく問題ないよー。もうフライトの前に勝負あり、だよ」
 「あーん。わたし、温泉入りたかったなー」…なぎさが全然関係ないことをいいはじめた
 白峰温泉総湯は、土日は10時に開く。いま、ちょうど10時だ。でも『雨と虹』も開店する時刻だ。
 「なぎさ。今日はガマンして! いまから帰れば、クルマを置きにいっても12時ごろに店に入れる。まっすぐ帰らなくちゃ。…なぎさ、今度一緒にこようね。ここは『絹肌の湯』だから、オンナのコみんなできてシルクみたいなツルスベの肌になろうね」
 「リンクス先輩! 必ず連れてきてくださいね!」
 「約束するよ!…さて、どうする? なぎさ、鶴来で落としてく?」
 「はい。…今日は、まじめに勉強しなくちゃなりません。先週の日曜日もすっかり遊んじゃったから」
 「じゃ、リンクス先輩、わたしは一足早く、直接お店に入ってオーナーを解放してあげることにします」
 「ま、スコール先輩も、なんだかんだいって、バイトするのうれしそうだったけどね。そうしてあげて!」
 リサ先輩がヘルメットとグローブをして、エンジンをかける。いつものように右手を軽く上げて合図して先に出発する。リンクス先輩もぼくらを乗せて出発する。

 途中、鶴来でなぎさを降ろし、ジムニーをリンクス先輩の家に置く。あこがれの美しい先輩の隣でしっぽパタパタ振りながらバス停でバスを待ってたら、先週、ゆかりが特設した『夏の女神作戦』っていうLINEグループにリサ先輩からのトークが入った。
 「お店に入った」
 「臨時バイト3名はうまくやってる」
 「問題なし」
 続いて弓美から「疲れた」ゆかりは「元気です!」スコール先輩は「いぬとヤマネコ早くこい!」…あいつら…と、スコール先輩、ちゃんと仕事してるのか? 3人そろってのんびりスマホいじってるヒマあるのか?
 リンクス先輩が「いぬとヤマネコ、いまバス待ちです!」って送る
 そこにすぐ続いてトシキさんから…「このグループに新しく一人入れていいですか?」
 と、返事をする間もなく…「『ひとみ』がグループに参加しました」
 続けてトーク…
 「ラスボス美しき魔王さまです!わたし見事に攻略されました!ゲームクリア!!」
 すぐにみんなから「おめでとー!!」っていうトークとスタンプが乱打される。
 トシキさんから写真が送られてきた。ディレクターズ・チェアに並んですわって、サンドイッチと紅茶を持って、笑顔で仲良くこちらを見上げている美男美女。かなり高めの位置から撮られた写真。まるで高原リゾートの結婚式場のポスターみたいな見事なアングルのベストショット!
 あー、これ、ドローン飛ばして自撮りしたな! トシキさん、あんた、大切な研究用のドローンをこんな個人的な遊びに使っちゃっていいんですかっ! 法令上の問題はないんですかっ!!