~魔女の島・城~

 ――ブワァン……!
 光に包まれていた視界が一気に晴れ、そこには今しがた見ていた薄暗い密林と、一際目立つ不気味な城が聳え立っていた。

 リフェルの魔法はどうやら上手くいった様子。今度は全員揃っている。

「皆いるみたいだな」
「ヘクセンリーパーはこの中か……」

 城の外にいるにも関わらず、中から禍々しい空気がひしひしと伝わってきていた。

「城には更に強力な結界が張られていますネ。私の魔法でも此処までが限界でス」
「十分だ。良くやったぞリフェル。あのタヌキは何処ッ……『――ズドォォンッ!』

 突如城から地響きがする程の揺れと轟音が響いた。

 反射的に上を見上げると、城の中腹部辺りの壁が吹き飛び瓦礫と何やら“黒い物体”が俺達の元へと降り注いできた。

「避けろぉぉッ!!」

 ――ズガガガガァンッ……!
 凄まじい音と共に無数の瓦礫が辺りに散らばる。小石程度の大きさからアクルよりデカいサイズの瓦礫まで。こんなのに潰されたら一溜りもないだろう。

「大丈夫か?」
「当たり前でしょ。あんなので死ぬ訳ないじゃない」
「無事ならいい。リフェルとアクルも大丈夫そうだな」

 取り敢えず全員無事。何故瓦礫が落ちてきたのかも気になるが、俺はそれ以上に気になるのが2つ。
 
 まず瓦礫と共に落ちてきたこの黒い物体。人の様な身体から角と羽を生やしたモンスター、“ガーゴイル”だ。よく見ると数か所に怪我を負ってやがる。

「こいつはガーゴイル……何故瓦礫と一緒に落ちてきた?」
「ダメージを負ってるわね。誰かにやられたのよ」
「さっきコイツが吹っ飛んできた壁の穴から一瞬だけ人影を見た。多分ソイツだろう」

 これが気になったもう1つ事。俺はガーゴイルと瓦礫が落ちてくる刹那、間違いなく“人影”を見た。一瞬だから顔どころか性別も分からねぇが、Aランクモンスターに指定されているコイツを倒したと言う事は、それなりの実力者だろう。ルルカとか言う野郎と俺達以外にもまだ誰かいるって事か……? 

 何にせよ、あのタヌキが殺す前にヘクセンリーパーを見つけねぇと。

「俺達も中へ行くぞ」

 城に足に踏み入れると、城内は今までとは比にならない程悍ましい空気が流れていた。

 こりゃ思ってた以上にヤバい奴だな、ヘクセンリーパー。

 中は驚くぐらい殺風景。真正面に大きな階段があるぐらい。だが何だ……? まるであの階段が俺達を手招いている様なこの嫌な感覚は……。

 “来れるものなら来てみろ”――。

 そう威圧されているみたいだ。 

「スキャン完了。この城は9階建てで、各階にモンスターが1存ずつ在していまス。それも全てAランク以上に指定されているモンスターばかり。ヘクセンリーパーは城の最上階でしょウ。因みに吹っ飛んできたガーゴイルは7階にいたモンスターで、ルルカと思われる魔力が8階へと向かっています」
「何⁉ あのタヌキもうそんな上まで行ってやがるのか。じゃあさっき俺が見た人影はひょっとしてタヌキの仲間か?」
「それは知りませんが、私の魔力感知では“ルルカのみ”でス」
「そんな訳ねぇだろ。俺見たぞ人影」
「盗賊団なら他に仲間がいても可笑しくはないだろう。それよりオラ達も急いだ方がいい」

 少し引っ掛かるがアクルの言う通りだ。逆を言えばまだアイツはヘクセンリーパーと接触していない。十分間に合う。

「リフェル、魔法で一気に上まで行けるか?」
「無理ですネ。城に入ってから更に魔力が練り上げにくくなっていますかラ」

 こういう時に魔力0の俺にはその感覚が全く分からない。だがアクルとエマも同じ事を言っているからそうなのだろう。旅に出てからというもの何だかんだでリフェルには頼りっぱなしだからな……“丁度いい”――。

「そうか。まぁここまで来られたんだからお前には感謝しねぇとな」

 満月龍と対峙してからもう5年以上。歳も取って毎日酒浸り。ダラダラと生きていた俺は当然体のキレも無くなりゃ運動不足も相まって全く体が動かなかった。最初はちょっとの距離歩くだけでもしんどかったからなぁ。それに比べりゃ大分まともになってきたか。

 俺はそんな事を思いながら魂力を練り上げた。

「何をする気でス?」
「ああ、ちょっとな」

 魂力を練り上げても特に変化はねぇ。恐らく魔力にだけ制限が掛けられているのだろう。“ヘクセンリーパーも”魂力を甘く見てるって事か。

「“やる”のか?」
「いや、“そっち”はまだだ。その前にこの半年で何処まで調子が戻ったかを試す」

 先祖であるバン・ショウ・ドミナトルとかいう奴の実力は相当なもの。だから俺もその域に達しなければ到底満月龍を倒す事なんて出来ねぇ。全盛期の実力を取り戻すだけでは足りない。そこから更に強く……。

 この半年、甘ったれていた体には十分鞭を打った。言い訳は通じない。

 大地を裂き天を割るとまで言われたバン・ショウ・ドミナトルとの実力比べといこうか。

 魂力を最大限まで練り上げ、俺は剣を一振りした――。

 ――スンッ……。

「え、何かしましタ? 今のはただの素振りでッ……『――ズドンッッ!!』

 リフェルが何か言いかけたが様だが、それは轟音によってかき消された。

「「――⁉」」
「こんなもんか……」

 剣を振った2、3秒後、目の前の不愉快な階段と共に城と大地が真っ二つに割れた。

「凄い……」
「流石伝説のドミナトルの末裔だな」
「エラー、エラー。私の持つジンフリーのデータ数値よりも身体、威力、剣術、魂力、全ての数値が上回っていまス」
「Dr.カガクも初期設定が甘いな。データ更新しとけ。おっさんの本気はまだ強ぇぞ」

 以前は何も知らずにただ魂力を使っていただけだが、アクルと出会ったお陰で魂力の“その先の力”を知る事が出来た。それからというもの、魂力に対する意識も根本から変わり、自分でも驚く程の変化を遂げている。

「わぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 ――ズドォォンッ!!


 何が起こったのだろう……?

 俺の見間違いでなければ、何故か今空から“人間”が落下してきた――。