ぶっちゃけた話、俺の身勝手で彼女の人生に首を突っ込もうとしている訳だが、当然解決策など考えていない。

 1番シンプルで真っ先に浮かんだのがピノゾディ家襲撃。

 だがこれは余りにリスクが高い。しかも世界一の暗殺一家など無意味に敵に回すもんじゃねぇ。ただでさえ満月龍討伐が目的なのに、そんな奴らまで相手していたら命が幾つあっても足らん。

 しかし僅かだが希望の光が見えた。
 根本的な解決にはならないが、満月龍までもが対象となるなら時間稼ぎには十分。これで少なからず対策を練る時間は出来た。

「――よし決めた! 狙う対象は満月龍だ」
「分かった。満月龍を殺す」
「無駄デス!」

 何やら納得いかない表情でリフェルが物申してきた。

「ピノキラーの実力デハ満月龍を絶対に倒せマセン。時間の無駄デス。あらゆる計算ノ結果、満月龍討伐に彼女ハ必要ありマセン。誰にもメリットがない非効率だらけデスよ」
「何この人」
「リフェル。計算や損得勘定が全てじゃない。生きるにはそれ以外の事が重要なんだ」
「理解不能デス」
「そう言うと思ったよ。まぁ何にせよ、これで取り敢えず話しもまとまった事だし、旅の再開と行こう」

 俺は半ば強引に話をまとめた。いちいち細かい話をするのは面倒くせぇ。

 横でリフェルがぶつぶつ小言を言っている様だがそんなものは無視。満月龍探しの再開だ。

「アナタ勝手過ぎデスよ」
「自覚してる。こんな所にいてもしょうがねぇから一旦ツインマウンテンに戻ろうぜ」

 そう言って俺はリフェルに移動魔法を頼んだ。

 俺、リフェル、アクルは勿論、ピノキラーと呼ばれる彼女も新たに加え、俺達4人はツインマウンテンへと帰っ……ろうとしたのだが、突如アクルに止められた。

「――ちょっと待て」
「どうした急に」
「オラも“連れていけ”」
「ん……? そりゃあ一緒に帰るつもりだけど……」
「そうじゃない。オラの山じゃなく、お前達の“旅”に同行させろって事だ」
「は?」

 アクルが何を言い出しているのか直ぐには理解が出来なかった。

 だがそんなアクルの表情は真剣そのもの。冗談や冷やかしではない。

「オラは人間が大嫌いだ。今回のふざけたオークションを目の当たりにして尚更な。しかしそれは人間だけではなかった。オラと同じモンスターや獣人族も同様。
お前達とは出会ったばかりだが、何故だか昔の様に信じようとしている自分がいる」
「アクル……」
「お前達には色々と世話になった。山が安全ならばオラも離れられる。満月龍の明確な居場所は分からんが、手掛かりぐらいや知識ぐらいならこの先の助けになれるかも知れん」

 目の前にいるアクルは、初めて出会った時とはまるで違う暖かい空気を纏っていた。

「アナタも必要ありマセン! 何故なら私1人で全て賄えるからデス!」

 全くコイツは……。

「マジで言ってんのか?」
「ああ。人間にこんな借りを作ったままでは癪だからな。お前達なら再び信じてみるのも悪くない」
「何だそれ」
「それに万が一森で何か起こっても、アンドロイドの魔法なら一瞬で帰れるだろう」
「都合のいい便利屋じゃねぇんだよ」
「全くデスよアクル。そもそもアナタが付いてクル必要は全くありマセン。満月龍の情報も聞けマシタからね」
「オラはまだまだお前が知らない事を知っているぞ」
「何デスと? ナラバ包み隠さず全てを私二教えなッ……「あ~、もうグダグダうるせぇぞお前ら。いちいち突っかかるんじゃねぇリフェル。それに、付いてきたいなら勝手にするんだなアクル。拒否はしねぇがまぁ特別歓迎もしないぞ」
「構わん。オラも好きな様にやらせてもらうさ」
「よく分かってるじゃねぇか。ただ、“1つだけ条件”がある」
「……?」
「俺の事を信じるな。勝手に信じるからそこに裏切りも生じる。だから俺なんかを信用しなくていい。その代わり、俺がお前を勝手に信じるからよ」
「――!」
「それなら一生裏切られる事ねぇだろ。お前が俺を裏切る事はあってもな。ハハハ」
「馬鹿ジンにしては名案デスね」
「だからうるせぇぞお前」

 そんなこんなで、思いがけない形でアクルという仲間が俺達の旅に加わった。

「――ちょっと。いい歳こいて何くさい事言い合ってるのよ」

 おっとそうだ、面倒なのがもう1人いたんだった。

「早く満月龍の所に連れてって。殺すから」
「そりゃ無理だ。俺達も何処にいるか分からねぇ」
「なら早く見つけて。殺すから」
「あんまり子供が殺す殺す言うもんじゃねぇぞ。もっと子供らしい言葉を使え。主人からの命令だ」
「今回の主人はどうも馬鹿みたいね。言ったでしょ? 殺し以外の命令は受けない」
「激シク同意。ジンフリーは馬鹿なのデス。ピノキラー、アナタよく分かっていマスね」

 人の事を馬鹿馬鹿言いやがってコイツら。まぁそれよりも、さっきから個人的に引っ掛かってるのが“呼び名”。

 きっと彼女はどうでもいいだろうが、ピノキラーやNo.444なんて名前はあんまりだろ。俺は絶対に呼びたくねぇし呼ばない。

「まずこの子の呼び名を決めよう」  
「ハ?」
「どこまで馬鹿なの? そんな事どうでもいいでしょ」
「言うと思った。けどな、名前は大事なんだぞ!」
「また非効率的な事ヲ。彼女はピノキラーで反応スルから問題ありマセン。アナタ名前つケルのが趣味なのデスか?」

 案の定な反応を見せた2人を無視して、俺は名前を考えた。

「う~ん……そうだなぁ」
「だからどうでもいいって言ってるでしょ。何勝手に考えてるの」

 彼女の言葉が聞こえたと同時、俺はまた何時ぞやの事を思い出した――。

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「決まった?」
「一応2つまではな……」
「え、教えてよ!」
「ミラーナかエマ」
「ミラーナとエマか……うん。どっちも可愛いわね」
「そうか?」
「ええ。どっちにしようか」
「それはまた悩むなぁ」

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 いつかの遠い記憶。
 だが不思議な事に、それがつい昨日の事の様にも思える。 

「――おい。大丈夫か?」

 俺はアクルの声で正気に戻った。どうやらいつの間にか思い出に浸っていたらしい。

「ああ、大丈夫大丈夫。それより……決めたぞ名前。 お前の名前は“エマ”!今日からエマだ。宜しくな 」

 そう言って彼女に手を差し出し握手を求めたが、当然エマの手が俺に届く事は無かった。

「付き合い切れない」
「激シク同意。早く満月龍を探し二いきマスよ」
 
 吐き捨てる様に言いながら、エマとリフェルはスタスタと歩いて行ってしまった。

「こんな調子で満月龍など辿り着けるのか……?」
「先の事を悩んでもしょうがねぇ。俺達も行くぞアクル」

 思いがけない事の連続であったが、こうして俺達の旅は再び再開されたのだった。

 新たな仲間(?)と共に――。