チッ。
 マジでどういうつもりだあの馬鹿共。アクルの野郎は強い。お前達の実力じゃ到底奴に勝てないって事が分からねぇのか。

 アクルはゆっくりと男達の元へ近づいている様子だが、その図体のデカさのせいで普通よりも距離の縮まるスピードが速い。離れているつもりだろうがそこはもう奴の“間合い”だぞ。

 無意識の内に走り出していた俺はアクルの前で止まった。

「待て。確かにアイツらは馬鹿だが殺す程じゃねぇだろ」
「殺す程じゃない……? 何様のつもりだ貴様。アイツらはこの山のモンスター達を殺している。ならば自分達が殺されても文句は無い筈だ」

 割って入った俺を素通りし、アクルはまた男達の元へと近づいて行った。

「――父ちゃん!」

 この場に合っているとは思えない言葉が突如聞こえてきた。
 俺、リフェル、密猟男達、そしてアクルも。その場にいた誰もがその声の方へと振り向く。すると、そこにはかなり小柄ながらもアクルとよく似た姿をした者が立っていた。

「ナムギ!」

 ナムギ……誰だ? それに父ちゃんって……まさかあの子はアクルの……。

「おい、こっちにもう1体現れたぞ!」
「アレもカムナ族か?」
「こりゃラッキーだ。小型のカムナ族が出てきやがったぞ。アレなら確実に仕留められる! そのまま狙いをアイツに変えるんだ! 仕留めてそのまま逃げるぞ!」

 密猟男達はそう言いながら練り上げた魔力で魔法を繰り出し、あろう事か狙いをアクルからその小さな子に変えた。

「ナムギ危ない! 逃げろッ!」
「父ちゃん……?」

 やべぇ――。

「リフェル! 魔法であの子守れ!」
「了解」

 全員の動き出しがほぼ同時。

 ナムギと呼ばれた子は状況が理解出来ずただ立ち尽くしており、親としての本能か、アクルはナムギの方へ目一杯手を伸ばしたまま走り出した。

 3人組の密猟男達の内2人はナムギ目掛けて魔法攻撃を繰り出し、残る1人の足元には淡く光る魔法陣の様な物が浮かび上がっていた。

 こういう状況では良くも悪くも勘が働く。
 恐らくあの魔法陣は移動魔法と同じ類か、もしくはこの場を切り抜ける何らかの能力。2人が仕留めた直後に逃げるつもりだ。

 咄嗟にリフェルに指示を出した判断は正しい。この距離とタイミングじゃ他に選択肢がねぇ。どんな魔法を使うか分からねぇがリフェルなら大丈夫だろう。

 ……となれば、俺が狙うはこの密猟者共――。

 ――ボガァン……! ズバァン……!
 ナムギに向かって放たれた攻撃が、リフェルの発動した魔法によって防がれた。

「「……!」」

 魔法の種類には詳しくないが、ナムギの前に現れた光る壁は防御系の魔法だろう。無事攻撃を防いだ様だし。後はコイツら。

「動くんじゃねぇ」

 俺は奴らの背後を取り、剣の切っ先を向けた。

「誰だオッサン。邪魔すんじゃねぇよ」

 反省するどころか一切悪びれた様子なし。

 よし。この若者達は成敗だ。

 俺は満月龍と戦った時と同等の魂力を瞬時に練り上げ無言で威圧した。

「「――⁉⁉」」

 果てしない馬鹿行動を連続していた彼らもやっと状況を理解した様子。3人共慌てながら膝を付き謝罪してきたのだった。

「「……す、すいませんでした!!」」
「大人げないデスね」
「これが俺なりの教育だ。2度とこんな下らねぇ事するなよ」
「「はい、分かりました!!」」

 よしよし。物分かりのいい若者達だ。言えばちゃんと分かるじゃッ……「後ろ危ないデス」

「――!」

 振り向くと、そこにはアクルがいた。
 デカい体の背中に隠れる様に乗っかっていたナムギもこちらを見ている。アクルを間近で見た密猟男達は完全に言葉を失っていた。

「その密猟者達を渡せ」
「悪いがそれは出来ねぇ。殺しの手助けをしているのと同じだからな」

 アクルの言葉と態度から密猟男達への殺意がこれでもかと伝わってくる。だが不思議な事に、さっきまでの無差別な怒りの感情だけではなく何処か冷静さも感じられる。

「ジンフリーと私に対スル怒り指数ガ少し下がりマシタ。ですが密猟者達に対シテは更に上昇中デス」

 やっぱりこの子はアクルの子供……。人間を毛嫌いしている様だが、ナムギを助けた事で僅かに俺達への警戒を緩めてくれたか……。

「貴様の目的は知らんが、一先ず密猟が目的ではないらしいな。だが見逃すのは貴様だけ。後ろの奴らは殺す」

 俺達への怒りは収まってもやコイツらは別か。
 無理もねぇ。自分の子供を殺そうとした奴が目の前にいるんだからな。逆の立場なら俺もそうするだろう。同じ親だから気持ちは分かる。だが……。

「アクル止めてくれ。怒る気持ちは分かるが、子供も無事だったし、コイツらを殺したところで何の解決にもならねぇ」
「なるさ。山を汚す密猟者が確実に3人は減る。殺し続ければいくら馬鹿な人間共でも気付くだろう」
「確かにそうだな。だがそれじゃあ無意味に犠牲が増えるだけ。人間達も、このツインマウンテンに棲むモンスター達もお互いにな。根本の解決になってねぇんだよ。争いが増えてまた子供が危険な目に遭ってもいいのか」
「偉そうに綺麗事を……。人間共は悪知恵ばかり働く。根本から問題解決など絵空事もいいとこだ」
「だからって殺す事にはやはり賛成出来ない。俺とお前が十分恐怖を与えた。コイツらは2度と密猟なんかしない。
そうだろ? お前ら」

 俺の問いかけに密猟男達はブンブンと首を縦に振っていた。

「信用出来る訳ないだろう。貴様が何と言おうと密猟者共はこの場で殺す」

 ダメだ。これじゃ話が平行線のまま。何とか落としどころを見つけないとッ……「――では、コノ提案ならどうでショウ」

 一瞬嫌な空気が漂った中、唐突にリフェルがそう言った。

「ジンフリーは無駄な殺生を避けたい。アクルはツインマウンテンを荒らす密猟者を殺したい。両者の問題を1発で解決する選択肢は……“裏市無差別売買《リバース・オークション》”を潰す。この一択に限りマス――」
「「……!」」