「――まぁ……アレだな。確かに悲しい出来事ではあるが、結局今の話がどう満月龍と繋がる?」
「せっかちデスネ。アナタの為に順を追って分かりヤスク説明しているのデスよ」

 どうして微妙に上からなんだコイツは。

「私ノ話はまだ途中デス。いいデスか? 今話したアクルというカムナ族。彼が満月龍ついて何カ知ってイル可能性がアルのデス」

 思わぬ所に話が着地した。
 歴史の戦争話から一気に核心に繋がってきたな。

「それはまたどういう事だ?」
「ダカラ私が今説明してあげているのデス。最後まで聞きなサイ。
カムナ族の寿命は人間デ言うと約500~700年と言われていマス。コノ戦争は200年も前デスが、当時の戦争から生き残ったカムナ族は今も存在シテいマス。戦争でその生き残りはゴク僅かとナッタそうデスがね。

そしてカムナ族は妖精ノ中でも最も古い一族。生命ガ初めて魔力ヲ宿した“始まりの一族”とも語られていマス。

コノ世界の全ての魔力は“世界樹エデン”から生まれているモノ。
エデンからの魔力を宿した生命の始まりであるカムナ族は、全種族の中で1番“魔感知《まかんち》”能力ガ長けていマス。悔しいですがソノ精度は私のレーダー以上なのデス」

 成程……。
 魔感知が全種族で1番とは凄ぇな。しかもそれがリフェルより上となれば、確かに満月龍を探し出せるかも知れねぇ。

「カムナ族の魔感知で満月龍を探すって事だな」

 俺がそう言うと、リフェルはまたも上から目線でこう言った。

「偉ソウに知ったかぶるなジンフリー!」

 この時初めて俺は、今までどこか無機質に聞こえていたリフェルの言葉に暖かみを感じた気がした――。

「話ハ途中だと言っていマスよ。カムナ族の魔感知で探せるのナラバ初めからソウ言っていマス。話がそこまで単純では無いカラこうしてアナタに説明しているのデス。何度私ノ話を遮れば気ガ済むのデスか」
「すいません……」
「分かったのナラ大人しく聞いていなサイ」
「はい……」
「話を戻しマス。確かにカムナ族の魔感知も大いに頼りとナル筈デスがそれ以上に、このアクルという者ガ満月龍について知ってイル確率が極めて高いのデス。

アクルはカムナ族の中でも非常に知識ガ多かったと言われていマス。多かったと言うヨリ、学ぶのが好きだったらしいのデス。あらゆる本や書物で歴史から魔法に至るまで“万物”を知ったとマデ語られてイル程デス。戦争が起こる前カラ既に、アクルのソノ知識はどの生命ヨリも多いと言われていマシタ。

不運な事に、ソレが最悪の形となってしまったのも事実デスが。
一族カラ追放されなければユクユクはアクルが長となってイタのは言うマデもありマセン。長老もソノつもりだった様デスからネ」

 リフェルはそこまで細かい情報を一体何処で手に入れたのだろうか……。リフェルというよりDr.カガクと言った方が正しいのか? 少し気になったが話を遮るとまたキレられるから止めておこう。

「私にプログラムされたデータ情報が正確ナラば、種族間戦争から200年経った今、生き残ったカムナ族の中で最長老となってイルのがこのアクル。彼が現代を生きる最も古いカムナ族でアリ、万物を知るウル者。彼ナラバ何か満月龍に繋がる情報ヲ持っているかも知れマセン」
「……」
「どうしたのデスか?」
「もう話してもいいのか?」
「いいデスよ。全て終わりましたカラ」
「そうか。じゃあまた聞くが、そのアクルという奴は何処にいるんだ? 」
「1度ツインマウンテンから去ったアクルですが、数十年前にまたココに戻っている様デス。恐らくツインマウンテンの何処かにいるでショウ」
「そうなのか。満月龍探す為に妖精探すってもう訳分からねぇが、どうやらソイツを探してみるしかない様だな」
「当り前デス。私は常に効率重視の最短最適プランをアナタに提案しているのデス。頭が弱いアナタの為二。他に選択肢なんてありマセンよ。そしてジンフリーでは絶対二思いつきマセン。ソウと分かれば直ぐにアクルを探しに行くのデス」

 リフェルはそう言い放つと、スタスタとツインマウンテンを目指して歩みを始めた。

 アイツ完全に自分が上の立場だと思ってやがるな……。
 
 軽く溜息を付きつつ、俺もアクルとやらを探す為リフェルの後を追った。


 ♢♦♢


~ツインマウンテン麓~

「――せっかくツインガーデンに来たって言うのに、まさか街にも寄らずこんなジャングルを彷徨うとはな」

 ツインマウンテンは名前の通り、大きな山が2つ聳え立っている事から付いた名。自然豊かな環境のせいか山の木々の生い茂り方も凄い。こりゃモンスターや他の生物にとっては住みやすいだろうな。

「無駄口を叩いてイル暇はありマセン。どんどん進みまショウ」
「進みましょうって……リフェルお前、アクルの居場所分かるのか?」
「当然デス。既に彼ノ魔力も感知して正確ナ位置情報まで出ていマス。まさかこの広大ナ土地で私ガ闇雲に探してイルとデモ思ったのデスか? 私はDr.カガクが生み出した世界最高のアンドロイドですよ」

 アンドロイドのくせにプライドが高ぇんだよな。Dr.カガクはどういつもりでこんな性格にしたんだろ。

「はいはい分かってますって。で、後どれぐらいなんだ?」
「ツインマウンテンの標高は3,776m。今のペースだとアクルの魔力ヲ感知している山頂マデ辿り着くのに11時間52分掛かる計算デス」
「却下」

 アホか。何で優雅に登山なんかしなくちゃならねぇんだよ。

「おいリフェル。お前確か魔法使えるんだよな?」
「勿論デス。一部特殊な魔法が数種類プログラムされておりませんが、ソノ他のコノ世界に存在する全魔法の約9割はプログラムされていマス」
「だったら“移動魔法”で山頂まで飛べばいいだろ」

 俺は当然の如く魔法が使えないが、リフェルがいるなら全く話は別。移動魔法どころかほぼ全部使えるなんてもうただのチートだ。何故それを初めから使わないんだコイツは。

「本当はソレが1番早いデスが、Dr.カガクによって魔法の起動に関してはジンフリーの指示ガ必要と設定されていマス」
「え、そうなの?」
「ハイ。私はアンドロイドです。誰かの指示なしで動く事はありマセン。勝手二動くアンドロイドなど最早殺人兵器と変わらないデスよ。シカモ満月龍の魔力を持ってイルとなれば尚更デス」

 確かにな……。でも、偉そうでプライドが高くて上から目線だけど、いざ自分からそこまで言い切られると何も言葉が出てこない。リフェルが人間に近い分、余計そことのギャップを痛感しちまう。

 って、意外とセンチメンタルな部分があるな俺にも。

「成程そう言う事か。じゃあ魔法を許可するからアクルの所まで頼むぜリフェル」
「了解。ソレでは移動魔法でアクルの元まで飛びマス」
 
 リフェルから発せられた魔法の光に包まれ、俺達は一瞬でツインマウンテンの山頂へと飛んだ――。