~ツインガーデン~

「――いつ来ても壮大だな」

 リューテンブルグを出て約2時間。
 
 ツインガーデンは何度か訪れた事のある街だが、ここはいつ来ても自然が豊かで眺めも良くて最高だ。年を取れば取る程こういうのが身に染みる。

「ツインガーデン……リューテンブルグ王国からおよそ300㎞離れた場所二存在する“ツインマウンテン”の麓に栄えた街。広大で豊かな自然に囲まれたツインガーデンはこの世界デモ有数の観光スポットとしても知ラレ、年間の観光客数は5000万人を超えマス」

 リフェル、お前は観光ガイドに向いているな絶対。

「……で? ツインガーデンに来たのはいいけどよ、ここが満月龍と何か関係があるのか?」

 一瞬観光気分になっちまったが、兎にも角にも俺達の目的は満月龍だ。

「直接関係がアル訳ではありまセン。ジンフリーは“絶対”知らないでショウが、ココは満月龍の情報を得らレル可能性があるリューテンブルグ王国から1番近い場所ナノデス。
ツインガーデンの歴史では、200年以上前に1度大きな戦争ガ起きており、ソレはリューテンブルグ王国とユナダス王国との戦争よりも遥カニ規模の大きい“種族間戦争”デシた」

 確かに俺は歴史に詳しくない。その情報も一切知らなかった、だが、わざわざ“絶対”を付けて言う必要があっただろうか……?

「その戦争が満月龍とどう関係しているんだ?」
「ハイ。この種族間戦争で争いとナッタのは人間vs妖精デス。妖精族(フェアリー)と分類される種族の中でも、このツインマウンテンに生息していたのがカムナ族。

当時、人間達の魔力は今ホド高くなく、ツインマウンテンに生息するモンスターは今の中級クラスに指定されているモンスターばかりの為、一昔前は下級クラスのモンスターを討伐するのにも苦労シタと言われていマス。
そしてそんな人間達は魔力不足を補おうとより良い武器や装備品を作ろうと考え、毎日試行錯誤を重ねながらモンスター討伐をツインマウンテンで始めマシタ。

初めの頃は勿論上手くいっていなかった様デスが、次第に人間達がソノ経験を知恵に変え魔法を学ビ、効率良く確実にモンスターを仕留める為二複数人のパーティを組んだりと……。
何時の日からかツインマウンテンに生息するモンスター達を脅かす存在となり始めたのデス。

それとホボ同時期、カムナ族の“アクル”という者がまだ人間達の存在が脅威となる前から、ツインマウンテンの麓に住んでいた1人ノ人間と親しくなりマシタ。

そしてコノ出会いガ、後の種族間戦争のきっかけとナリ、世界中に知れ渡ル程の大きな戦争となった様デス」

 古今東西争いは絶えない。戦争の規模も理由も様々だ。たった1つのボタンの掛け違いで、起こらなくていい争いが今もそこら辺で起きているだろう。

「何故その人間と妖精が出会っただけで戦争にまで発展した?」
「原因はコノ人間の裏切りによるものデス。
アクルが仲良くなった人間はレータという15歳の少年。妖精年齢で言えばアクルも同じグライの歳デスね。仲良くった2人は毎日ノ様に遊んでいマシタ。しかしソウ思っていたのはアクルだけ。人間のレータはとても貧しい環境で育った為か、何ヨリたそうデス。

ツインガーデンの人間達が討伐の計画をし始めた頃、人間側は1人でも多くの戦力を集めようと人を募集し、そして集まった者達のモチベーションを維持しようと、モンスター達それぞれに討伐報酬を懸けマシタ。
偶然その情報を得たレータは、言葉の通じるアクルと仲良くなったフリをし、魔力の高いカムナ族のアクルから魔法のコツや他のモンスター達の弱点を探り、虎視眈眈とそのチャンスを待ち望んでいたのデス。

そしてアクルとレータが出会って1年後、遂にその討伐計画が動き出しマシタ。

元から身体能力が高かった事に加え、アクルから得た魔法と知識でレータは一気に頭角ヲ現し、瞬く間に人間側で地位と名声を手に入れマシタ。そこから半年、討伐計画を実行しながらもレータはアクルと会い、今までと同じ様に接していたデス。勿論計画の事ハ一切口に出サズに。

コノ時はまだカムナ族も他のモンスターも人間達ヲ脅威だと思っていませんデシタ。しかしソコから更に月日が経つに連レ、次第にカムナ族が人間達の存在ガ脅威になりつつアルと感じたのデス。

ダガ時すでに遅し。
ソレに気付いた時には。既に人間達はカナリの実力や知識を身に着けていマシタ。当時、ツインマウンテンの長で合ったカムナ族の長老は、人間達の著シイ急成長やモンスターに関する知識ノ正確さに疑問を抱いていマシタ。そして調べてイクうちに、アクルがレータという1人の人間と仲が良い事ヲ知ったのデス。
長老はレータがアクルを利用していると知リ、長老はソレを逆手に取って人間達の猛追を止めようと考えマシタ。

長老はアクルに真実を告ゲ、コレ以上人間達がツインマウンテンを襲わない様レータを欺けと指示を出しマシタが、純粋で争いを好まないアクルはその真実を受け入れられズ、レータに直接真意ヲ確かめたのデス。
話しを聞いたレータは一瞬驚いた表情を浮かべましたが、直ぐに顔付きが変わり、何の悪びれた様子モ見せないドコロか一切躊躇スルことなくアクルを殺ソウと攻撃しマシタ。

アクルは怪我を負いながら何とかソノ場から逃げたもノノ、2人の出来事ガ最後の引き金とナリ、人間vs妖精という大規模ナ種族間戦争が起こってしまったのデス。

結果ハ人間側の勝利――。

しかし戦力的にはそれほど大差ガ無かった為、人間側もかなりのダメージを負いマシタ。
そして負けたカムナ族はツインマウンテンから出て行く事ヲ余儀なくされ、図らずもコノ戦争の引き金となってしまったアクルは仲間のカムナ族や他のモンスター達から裏切り者のレッテルを張られてしまいマシタ。

アクルは必死に無実を訴えマシタ。長老や一部のカムナ族もアクルは悪くないと擁護したソウですガ、住処を失った多くの者達ノ怒りは決してアクルを許す事無ク、アクルは戦争を起こした主犯だとマデ言われ、ツインマウンテンは疎か仲間の一族カラも追放されてしまったのデス。

それも今となってはコノ戦争も大昔ノ話。
歴史が嘘かの如ク、現代を生キル人間達とツインマウンテンに生息するモンスター達ハ何の争いもなく平和二共存していマス」


 リフェルが淡々と語り終わった頃には、俺の胸はどうしようもないやるせなさで一杯だった。